「やはり俺の先行か。くくく、俺のターン、ドロー!」
含み笑いをする三沢くんが先行のランプが光を放ったデュエルディスクからニヤリとカードを引くのを僕は鋭い目で見つめていた。
その視線の先には白に染まり高慢な様子を見せる三沢君がいた。先行がとれることが当然であると言うような姿は以前の彼にはなかった姿だ。
「俺は手札から悪夢の鉄檻を発動! このカードにより、2ターン後のお前のエンドフェイズまでこの檻は残り、お互いにバトルを行えない!」
「いきなりバトルの制限!?」
地面から生えてきたお互いを遮る鉄の檻を見ながら、僕は訝しむ。
このカードを使わないといけないほど手札が悪いのか?
それとも、これも何かの戦略なのか…………?
意図の読めない行動、余程手札が悪いか、攻撃を制限している間に強力な上級モンスターの召喚準備を進めるでもなければ先行から発動するようなカードではない。
少なくとも、僕の知る三沢君が行う戦術ではないことだけは確かであった。
「そして二重召喚を発動。俺はこのターン2度の召喚を行える。これにより手札からジェネティック・ワーウルフと骨犬マロンを召喚!!」
「………?」
《ジェネティック・ワーウルフ》 攻撃力2000 守備力100
《骨犬マロン》 攻撃力1350 守備力2000
鉄檻に囲まれたフィールドの中に召喚される二体のモンスター。高い攻撃力をもつ白い毛皮に4本の腕が特徴の人狼とそれとは対照的に守備力の高さが売りの長い年月の中で肉体を失い骨だけとなった犬。
僕はなんだ、手札にモンスターいるんじゃないか。それも高いステータスの……。そんな感想を抱き、彼から感じる違和感に眉を顰めていた。
「最後に俺は閃光の宝札を2枚発動! このカードは自分の魔法・罠ゾーンを1箇所ずつ使用不可にすることで発動できる。このカードが2枚存在する限り、俺のドローは2枚になる!」
「なっ……正気なのか三沢くん!? そんなことをしたら君はもう魔法も罠も発動できないというのにっ!!」
三沢くんが発動した2枚の閃光の宝札が鎖を地面に撃ち放ち、彼のフィールドを2箇所封じた。
それは悪夢の鉄檻と合わせれば、もう一枚たりともカードの発動ができないことを意味していた。
「なんて無茶な戦い方……いくらドローを増やすためとはいえ、手札を使い切る上に魔法も罠も使えなくするなんて……」
らしくない。こんな博打を打つような無茶苦茶な戦術を三沢くんが打ってくるなんて。そんな感想を抱く。
あの論理を極めたような計算し尽くされた戦術を好む彼がしてきたとは思えない戦術だ。
とても正気で行っているとは感じられない。今の僕は疑念ではなく確信を持って言える。
今の三沢くんはやはり、自分を見失っている。斎王の洗脳によるものか、以前の彼のデュエルから様変わりしていると。
「くくく、そんなに不思議かコナミ。だが、一見無茶としか思えないこの戦術、しかしそうではない。今の俺には以前にはなかった力がある! それがある限り、無茶にはならん!」
「なかった力……?」
「そうだ。今の俺には斎王様より賜りし運命力があるのさ! お前や十代が当たり前のように持っているドロー力、それが俺にはある。これがある限り、どんな無茶なデッキも、戦術も、思うがままだ!!」
「──」
腕を広げ高らかに語る三沢くんに、僕は唖然と口を開けて呆然とした。
異様なほどの三沢くんの自信。その源は斎王から与えられたとかいうドロー力に起因しているたのか。思えばずっと以前から三沢君は自分のドローにあまり自信を持っていないようであった。それ故に、斎王の力によるものとはいえドロー力が上がったことに喜んでいるのだろう。
それはいい……いやよくないけど、いいとして…だ。だからと言ってこんな無茶な戦術をしてくるとは。その戦術は過信ともいえる行動だけど、本当にそれはドロー力の向上によるものだけなのだろうかと、僕は訝しみ眉根を上げた。
「俺はこれでターンエンド。コナミ、お前のターンだ!」
「僕のターン、ドロー!」
カードを引いた僕はチラと取り囲む檻を見る。このターン僕は戦闘を行えない。
悪い部分だけをみるなら鬱陶しさを感じる檻だけど、逆に言えばそれは相手も同じ。
この鉄壁の守りがある限り、安全にモンスターを召喚しておけるということでもある。
「僕は手札からEーエマージェンシーコールを発動! デッキからE・HEROを一体手札に加える。僕はレディ・オブ・ファイアを手札に!」
デッキから白いスーツを着た女の子の絵柄が書かれた炎のHEROであるレディ・オブ・ファイアを手札に加える。
HEROのサーチ効果があるエアーマンか、融合を持ってこれるブレイズマンと悩んだが、檻を見て彼女に決めた。
お互いに攻撃のできない今、少量ではあるが一方的にダメージを与えれるのは彼女の利点だ。
「そして、E・HERO レディ・オブ・ファイアを守備表示で召喚。カードを2枚伏せて、ダーンエンド。この瞬間、レディ・オブ・ファイアの効果により、僕の場のE・HEROの数だけ200ポイントのダメージを与える!」
《E・HERO レディ・オブ・ファイア》 攻撃力1300 守備力100
《三沢》 残 LP 3800
レディ・オブ・ファイアが放つ火の粉が三沢君を撃つ。そのダメージをなにともせずにパッパッと服についた汚れを払うようにして笑った。
「ささやかな攻撃だなコナミ。まあ、鉄檻に囲まれてはこの程度が精一杯か」
「……む」
なんだかむかつくなあ、今の三沢くん。これでもかってくらい調子に乗って小馬鹿にしてくる態度、すごい凹ましたくなる。
「そういうなら三沢くんはこれ以上のことができるんだよね」
「くく、さてなあ。俺のターンドロー、俺はこれでターンエンドだ」
「あぁ!? 人のことバカにしておいて何もせずにターンエンドするっていうの!!」
閃光の宝札により2枚のカードをドローした三沢くん。一瞬だけカードを見たが、何をするでもなく腕を組んでターンを終えてきた。
その思わぬ行動に一瞬思考が止まり、すぐに激昂したように僕は叫んだ。
「お前と違い、俺はセカセカと僅かなダメージに執心する必要はないというだけだ。さあ、お前のターンだ、カードを引くがいい」
「……ちっ、僕のターンドロー!」
鷹揚な態度で僕にターンを促す三沢くんについ舌打ちをして応える。
今の彼を見ていると、なんだか無性に腹が立ってくる。これは小馬鹿にされているからだけではない。もっと根の深い、根本的なところに苛立ちの原因があるように感じているのだ。
三沢君から目を手札に移り替える。その中には彼を思う少女のカードがある。
この娘を出せば、その理由がわかるだろうか。その気持ちを知るために僕はこのターンの行動を決めた。
「僕は手札から白魔導士ピケルを攻撃表示で召喚!」
「なに……ピケル?」
《白魔導士ピケル》 攻撃力1200 守備力0
僕の場に召喚された桃色の髪に白いローブを着た少女。そのモンスターの召喚に意表をつかれたように三沢くんは疑念の声を上げた。
「なぜお前のデッキにピケルが入っている」
「……三沢くん、この娘を見て、何か感じることはないのかい」
「感じること? ないな、そんな回復しか脳がない弱小モンスター、使うやつの気がしれん」
「…………そっか」
僕が召喚したピケルに三沢くんはまるで反応しなかった。むしろ弱小と笑う態度にピケルはキュッと杖を握り、涙目で何かを訴えるように彼を見つめていた。
白魔導士ピケル、本来なら三沢くんの元で力を振るっていたであろう少女。
彼女が僕のデッキに入っているのはピケルが僕に助けを求めてきたからだ。正気を失い、自分のことを見てくれない彼の目を覚ましてほしいと。
「三沢くん、ピケルには悪いけど君のいう通り、ピケルは決して強力なモンスターじゃない。でも、そんなことは重要じゃないんだよ。デュエリストとそれを扱うカードとの絆の間では、カードそのものの力の強さなんて──」
「違うな、間違っているぞコナミ。カードとの絆なぞ、勝利には何の貢献もしない。必要なのはより強力なカードを引き寄せる運だ。運命力とより強力な力のあるカードこそが大事なのだ」
僕の言葉を遮るように三沢くんは強く言い切った。その言葉は心底から出た言葉だと、僕は感じた。
カードとの絆なんて、カード単体のパワーに比べれば路傍の石ほどの価値もないと──。
「そうか、なら、君が笑ったピケルで君の信じる強力なカードとやらを倒して見せるよ。そして、ピケルと共に勝って証明するよ。カードとの絆こそがデュエリストにとって1番尊ぶべきことなんだって!!」
「フンッ、できるわけがないだろうそんなこと。ピケルでどうやって勝つというのだ。まあいい、さっさとデュエルを続けろ、まだ何かすることがあるのか?」
嘲笑う三沢くんにむっとしそうになる顔を堪えて、改めて手札を見る。
すでにこのターンでできることはあまりない。無理に動くことはできるが、する意味もないだろう。
僕はターンを回すことを選択した。
「僕はターンエンド。再びレディ・オブ・ファイアの効果が発動、三沢くんに200ポイントのダメージだ」
「ふっ、そしてお前がターンを終えたことで悪夢の鉄檻は消える」
《三沢》 残 LP 3600
僕と三沢くんを覆っていた鉄檻が雲のように消えていく。お互いを遮るものがなくなり、本格的に戦いが始まる状況になったというわけだ。
このターン、三沢くんが何をしてくるかはわからないけど、ピケルで勝つと啖呵を切った以上、この娘だけは守る!!
「俺のターン、カードを2枚ドロー!! くっくっくっ、コナミ、ドロー力というのは素晴らしいものだな。何をせずとも、俺の手札に必要なカードが来てくれる」
「──何かいいカードを引いたね」
「ああ、お前や十代のような選ばれた存在しか持ち得ない強力なカード。それが俺の手に舞い込んだんだ! 俺は場の2体のモンスターをリリースすることで、The grand JUPITERを攻撃表示で召喚!!」
《The grand JUPITER》 攻撃力2500 守備力2000
「これは──プラネットモンスター!?」
「そうだ、木星を司る世界に一枚しか存在しない希少なカード。そんなカードが遂に俺も手に入れれたのだ!!」
その風体はどこかエイリアンのような、人を模した昆虫のような印象を受ける。胸の中心に小さな木星があるそのモンスターは緑色の手足を下げながら僕のことを威圧的に見下ろしていた。
「これが……三沢くんの自信の源……斎王の力と共に得たものか!!」
それを見た時、僕はようやく得心がいった。
三沢君の奇妙なまでの自信。自らが勝つといささかも疑っていない言葉の数々の裏には、こいつがいたからだと!
「JUPITERの効果、手札を2枚捨てることでお前のモンスターを吸収する!!」
「なにっ!?」
「俺は当然、お前のレディ・オブ・ファイアを選択するッ!!」
JUPITERの胸にある木星から放たれる強大な引力に引き寄せられるように、レディ・オブ・ファイアが浮かび上がり木星の中にするりと吸収されてしまう。
レディ・オブ・ファイアを吸収した木星はその炎の力を取り込むように赤い光を灯しながらJUPITERの攻撃力を引き上げた。
《The grand JUPITER》 攻撃力3800 守備力2000
「攻撃力が3800にッ!?」
「バトルだ。JUPITERで白魔導士ピケルを攻撃!
「くっ、ピケルッ!!」
JUPITERの胸から強風が吹き抜けてくる。それは暴風へと変わり一つどころに集まり竜巻へと姿を変えた。
ピケルを目指しフィールド全てを巻き込んだ竜巻の衝撃にフィールドは煙に包まれ消える。その中を見えるものは会場の誰にもできない状況だった。
「くくく、まずは撃破成功…………──なにッ!?」
「残念だったね三沢君。僕は君が攻撃してきた瞬間、リバースカード マジカル・シルクハットを発動させていた。JUPITERの攻撃は外れさ」
「くっ…………」
煙が晴れた先、僕の場に3つの大きく黒いシルクハットが存在していた。一番右端のシルクハットの隣からは竜巻による衝撃により発生した煙が立ち上がっており、そこには本来4つあるはずのシルクハットの一つが破壊されていることを示していた。
「ちっ、上手くかわされたか。ならばエンドフェイズ、JUPITERの効果発動、装備されたレディ・オブ・ファイアを俺の場に攻撃表示で特殊召喚! さらに、召喚されたレディ・オブ・ファイアの効果により、お前に200ポイントのダメージだ!」
「なにッ! レディ・オブ・ファイアを特殊召喚!?」
《コナミ》 残 LP 3800
JUPITERの胸にある小さな木星から吸収されたレディ・オブ・ファイアが吐き出される。レディ・オブ・ファイアは申し訳なさそうな雰囲気を感じさせながらも僕に火の粉を浴びせてきた。
その攻撃は意思に反する故か、僕に配慮しているのか、僕ではなく僕の足元へと落とされる。
僕は召喚されたレディ・オブ・ファイアに目を見開き、JUPITERの力の強大さに驚いていた。
「モンスター吸収に、エンドフェイズには自軍のモンスターへと戻す効果…………なるほど、君が威張るだけあるね。強力なモンスターだ」
「くく、当然だ。強力な、そして希少なカード。このようなカードは俺のようなデュエリストにこそふさわしいのだ」
自慢げに胸を張る三沢くん。そんな彼を僕は険しい顔で見ていた。
JUPITER、元から最上級クラスの攻撃力を持っていながらサクリファイスのような吸収効果を持っている。代償に手札2枚を要求されることは大きいけれど、相手のモンスターを吸収すればそれだけで必殺級の攻撃力を持つことになる。
ハイリスクハイリターンの効果と言ったところだろう。
しかもそれだけではなく、霊使いのようなコントロール奪取効果まで持っている。サクリファイスと霊使いが合わさったような効果だ。
だけど、だからこそ、この強力なモンスターをピケルで倒せれば、三沢くんに思い出させることができるかもしれない。
大切なのは、強力なカードでも、その希少性でもなく、カードを信じ、デュエリストを信じてくれる。そんなカードとデュエリストのお互いの信頼にあることを──!!!
僕は必ずピケルで勝って見せる。そう強い意志を込めてカードを引いた──。
サクリファイス+属性無視の霊使いと書けばわりと強そうと思えるJUPITER。やはりコストが問題かあ。