「僕のターン、ドロー! この瞬間、ピケルの効果発動! 僕の場のモンスター1体につきライフを400ポイント回復する!!」
《コナミ》 残 LP 4200
ピケルが振り上げた杖から大きな光が降り注ぐ。キラキラと暖かな光が僕の下がったライフを引き上げてくれる。
回復されたライフを確認しながら僕は場の状況を確認した。
今、三沢くんの場には木星の名を持つプラネットモンスターの1体──The grand JUPITERと、JUPITERの効果で奪われたE・HERO レディ・オブ・ファイアがいる。
そして魔法・罠ゾーンを4つも使用不可にすることでドローを増やす閃光の宝札が発動している。
対する僕の場には攻撃力1200のピケル1体とリバースカードが1枚。三沢くんにピケルで勝つと啖呵を切った以上、このデュエルはピケルで勝たないといけない。
戦闘に向かないピケルで勝つ。そう決めたことを後悔しているわけでも迷っているわけでもないけれど、これは中々厳しい条件だ。
だけど、成し遂げなければならない。そうしなければ、三沢くんにデュエリストとして大切なことを思い出させることなどできないだろうから…………。
「僕はピケルに黒いペンダントを装備、攻撃力を500ポイントアップだ!」
《白魔導士ピケル》 攻撃力1700 守備力0
ピケルの首に黒いペンダントが装備される。白く可愛らしいローブの上から掛けられた大人向けのペンダント。紫のビーズに中心にはめられた黒色の宝石は幼いピケルが無理をして大人びたものをつけているようにすら見える。
まあつまるところ、その姿はとても可愛らしいものだった。
ふんすと攻撃力が上がったことで気合いを入れているピケルだが、三沢くんは特に何ら反応はしていない。以前の彼なら、その愛らしさに多少なりとも反応があったものだが、いまはやはりピケルに対して思うところはないのだろう。
その冷たい瞳はとても寂しいものだった。
「ピケルでレディ・オブ・ファイアに攻撃! そしてこのタイミングで同時にリバースカード マジシャンズ・サークルを発動! デッキからお互いに攻撃力2000以下の魔法使いを特殊召喚できる! 僕は憑依装着ーウィンを特殊召喚!!」
「フッ、ならば俺は創世の預言者を召喚!」
《憑依装着ーウィン》 攻撃力1850 守備力1500
《創世の預言者》 攻撃力1800 守備力600
僕の場に新緑の若葉のような薄い緑をした髪色のウィンが召喚される。純朴な目をした彼女だが、三沢くんに向ける目は少し厳しい。
カードを道具として見ている今の彼にいい印象を受けていないのだろう。
僕に対しては…………まあ、悪い感情は向けられてはいない。
少々強引な手段で引き込んだ彼女だが、アウスやヒータが上手く説得してくれたようだ。特別恨んでいると言った感情はないようで安心している。
「バトル続行、ピケルでレディ・オブ・ファイアを、ウィンで創世の預言者を攻撃!!」
「うッ………ぐぅ」
《三沢》 残 LP 3150
ピケルが小さな体で杖を振るってレディ・オブ・ファイアを攻撃し、ウィンが風を起こして創世の預言者を破壊した。
「カードを1枚伏せてターンエンドだ」
まだ、JUPITERを倒すことはできない。
次のターン、JUPITERの力に自尊心を満たしている三沢君は必ず再び手札を代償に僕のモンスターを奪いに来るだろう。
その時、きっと対象にされるのは攻撃力の勝るウィンだ。
ピケルはきっと選ばれない。なら、次のターンこの娘を守るために、攻撃の無力化でターンを稼ぐ。
それがベストだ…………!
「俺のターンだ! 閃光の宝札により、カードを2枚ドロー!!」
大きく体を動かしながらカードを勢いよく引く。手札を見た三沢君はにやりと笑みを浮かべた。
「すばらしい。コナミ、俺は今、心の底からカードに愛された者の力を感じているぞ!」
「カードに……愛される?」
「そうだ。引きたいカードが、引いてほしい時に引ける。それが運命力、それがカードに愛された存在! お前たちのような特別な存在にのみ与えられる力だ!!」
僕を睨むような目つきで見つめてくる三沢くんに、僕は口を一筋に結んで黙っていた。
彼が言うカードに愛された存在という言葉にはいくつもの意味が含まれていると感じていた。
彼の言う通り、引いてほしいカードが引けるという意味もあるだろう。JUPITERのような、ネオスのような、希少なカードがカードの方からデュエリストの元へとやってくると言う意味もあるのだろう。
そして僕は、彼が言うなら、その特別な存在とやららしい。
殊更、それを否定するつもりはない。
しかし、特別であることだけを重要視して、そうではない存在を、或いは自分すらも貶めるような言葉を吐く彼を僕は許せなかった。
「俺は斎王様のお力によりお前たちに並んだのだ。それを今見せてやる! 俺は手札から大嵐を発動! お前のカードを破壊する!!」
「──ッ!!?」
フィールドを嵐が吹き荒れる。僕の攻撃の無力化も、三沢くんの閃光の宝札も、全ての魔法・罠カードを無差別に破壊していく。
それは彼はもう手札を多く引き入れる必要性がなくなった。というより自らの勝利を疑わない彼が冷静に戦術を組み立てるつもりがないと言うように感じた。
「攻撃の無力化が…………でも、この瞬間、黒いペンダントの効果で君に500ポイントのダメージだ!」
「フン、黒いペンダントの効果で俺はダメージを受けるか、だが、そんな些細なことはどうでもいい。俺はJUPITERの効果を発動! 俺は手札を2枚捨てることで、お前の憑依装着ーウィンを吸収!!」
《三沢》 残 LP 2650
《The grand JUPITER》 攻撃力4350 守備力2000
高笑いを響かせながら、三沢くんのJUPITERは胸の木星にウィンを吸収していく。
それによって跳ね上がった攻撃力は早々お目にかかれない攻撃力を誇っている。僕の場に残されたピケルでは、とてもではないが耐えることはできないであろう強さまで…………。
救いがあるとすれば、三沢くんの手札はなくなったことで、JUPITER以外のモンスターは出てこないであろうことか。
「くらえッ! これが俺の力だァ!! JUPITERでお前の雑魚モンスターを攻撃!!
「──ぐぁああああああ!!!?」
《コナミ》 残 LP 1050
JUPITERが巻き起こした暴風は小さく縮こまって身を守るピケルを容易く破壊し、その巨大な爆風は僕に多大なダメージを与えた。
そのダメージに膝をついて崩れ落ちる。絶望的な状況に屈しそうになりながら、僕は胸から湧き上がってくる怒りに拳を震わせていた。
「これで俺のターンは終了。どうだ、もはや勝負は決したようなものだな! これでもまだ俺に勝てると、ピケルなんぞで勝てると思うのか!」
「…………くっ──くっははははは!!」
苛立ちがどこまでも湧き上がってくる。それが臨界点を超えもはや怒り以上にあまりに可笑しくて漏れ出るように笑い出した。
その笑いは大きく、デュエル場に僕の笑いが響き渡る。誰もが訝し気に、絶望から頭でも可笑しくなったのかと僕のことを見ていた。
「何が可笑しいッッッ!!」
苛立たし気に三沢くんが吠える。
その声に僕は一息つくように涙を拭いながら迷いのない声で彼をまっすぐと見据えた。
「ふふふ、いやあ? あまりにも君が滑稽に過ぎてさ。つい笑ってしまったよ。道化師ってこういう人のことを言うのかな。デュエリストから道化師に転職した方がいいんじゃない、今の君はさあ?」
「なにィッ!!」
「だってそうでしょ。特別な存在だの、希少なカードだの。御大層な力を手に入れたっていうけどさ。それは全部借り物の力じゃないか。君自身のものは何一つありやしない。それで1番だのなんだのと、まったく君には………笑わせてくれるよ!」
ドロー力、運命力は斎王から与えられて手に入れたもの。JUPITERは愛理ちゃんから、僕の手に渡るために彼に与えられたもの。
その上、その力で1番になるために作り上げたデッキは彼の強みである理知さのかけらも奮われていないセオリーも合理性も無視した粗雑なデッキ。
彼がもし運命力にもJUPITERにも過信せずにその知性を全力で回して作り上げた完成されたデッキなら、とてもピケルで勝つなんてことは不可能だろう。
そうでなくても、僕のベストを尽くしても無理かもしれない。
「まったく、なんて弱さだ。君は自分が強くなっていると勘違いしているようだけど、それは全くの誤解だ。君はちっとも強くなってなんかいやしない。むしろ逆だ、ここまで弱い君と戦うのは初めてだよ!」
「──」
「1番のデュエリストだって? 君がなれるわけないじゃないか。自分を愛してくれるカードさえ見ていない君がさッ!!」
三沢くんは歯を食いしばり、眉間に皺を寄せてこれでもかと怒りの表情を見せている。
僕はようやくわかった。僕がどうしてこんなにイラついていたのか。それは彼がカードを粗雑に扱っていることでも、ピケルの気持ちを見ないからでもない。
それは間違いなく、ライバルと見ている彼の不甲斐なさからくるものだった。
「僕はね、君のことを尊敬していたよ。愛理ちゃんのような高額なカードを持たなくても、僕のような希少なカードがなくても、手持ちの中から選び抜いたカードたちで一種の芸術にも似た合理性の極致みたいなデッキを作る。それも複数も、全部を使いこなす。とても僕にはできないことだ。
だが今の君はどうだ。ああそうさ。君の言う通りJUPITTERは強力だ、必要なカードを持ってくる運命力とやらもすごいさ。だけどそれを使うために雑に作り上げたデッキで、雑なデュエルをする。
今までの知恵をこれでもかと働かせる君の姿は見る影もない。まったく、これが僕のライバルだなんて、情けなくて笑いがこみあげてくるよ!!」
「ぐ…………がっ、お前ぇッ!!」
これでもかと力が込められた拳を震わせながら、血走った目で屹然と言い放った僕のことを睨んでいる。
僕はそんな彼に一歩も引くことはなく、彼を指さして言った。
「君は1番になんかなれない。他人の力に縋った君は光り輝くことなんかできやしないのさ!!」
「──ッ!! コナミィッ!!!」
「カードとの絆、思い合うデュエリストとカードの奇跡を君に見せてやる!! 僕のターン、ドロー!!!」
流麗に引いたカードが光り輝く。道を違えた友を救う、その意思に応えるようにカードは光の尾を引いた。
「僕はE・HERO バブルマンを召喚! 僕の場にバブルマン以外のカードは存在しないため、効果により2枚ドロー!!」
バブルマンの効果によりデュエルディスクから引き抜いた2枚のカードが光の線を引いた。運命になんか屈しない。その意思が、カードを引き寄せてくれる。
「さらに、強欲な壺を発動! カードを2枚ドロー!!」
「連続ドロー!?」
ピケルの想いを彼に届ける。その一心で引く僕にデッキが応えてくれているようだった。
3度目のドロー、──カードが煌めいた。
「バッ、バカなッ!! 3度もカードが光を──ッ!!?」
「僕はッ! 手札から死者蘇生を発動! 墓地から白魔導士ピケルを召喚ッ! 王女の試練を装備! 攻撃力を800ポイント上昇させる!!」
《白魔導士ピケル》 攻撃力2000 守備力0
ドローの全てが光を放ったことに驚きたじろいだ三沢くんを置いていくように僕の場にピケルが召喚される。王女の試練を装備した彼女は強い決意が籠った目でJUPITERを見据えている。
その姿はJUPITERという高い壁を乗り越えんとする小さくもその胸に強い心を宿した姫の姿をしていた。
「ぐっ、だが、たかだか2000程度では──」
「手札から融合を発動! バブルマンとエアーマンを融合! E・HERO
《E・HERO
「その効果により、君の場のモンスターの攻撃力を半分にするっ!!」
「なにィッ!?」
「タウン・バースト!!」
黒いマントを大きくたなびかせ、フィールド中を嵐が駆け巡る。JUPITERは雄たけびを上げながら嵐に呑まれた哀れな羊のように力なく項垂れていた。
《The grand JUPITER》 攻撃力2175 守備力1000
「約束だったね。ピケルでJUPITTERと君を倒すって。だから…………僕は受け継がれる力を発動! Great TORNADOをリリース、その力をピケルに与える!!」
《白魔導士ピケル》 攻撃力4800 守備力0
Great TORNADOが風となって消えてゆく。力強い風はピケルの杖へと集まり、白く発光し大きな光を放った。
「バカな………あのピケルの攻撃力が4800だとッ!?」
「勝ってほしいという願いが、カードとカードを引き寄せる。その祈りを受け取り叶えるのがデュエリストだ。ピケルは決して弱くなんかない、立派なエースになれるカードだ! バトル! ピケルでJUPITERを攻撃!! ホワイト・プリンセス・マジック!!!」
「ぐぉおおおおお!!?」
《三沢》 残 LP 25
ピケルが光り輝く杖を振り上げ眩い光を全面に放ちながらJUPITERに杖を叩きつける。叩きつけられたJUPITERはまるで浄化されるように、光の泡へと叩きつけられた頭の上から変化して消えていった。
「JUPITERを破壊したことでピケルは魔法の国の王女ーピケルへと進化する! 僕はこれでターンエンドだ!!」
《魔法の国の王女ーピケル》 攻撃力2000 守備力0
修行中の未熟なお姫様から立派な王女へと成長したピケルは可愛らしさを残しながらも豪奢なドレスに様相を変え、その手には先端に三日月を思わせる形の杖を持って三沢くんを真っ直ぐに見据えていた。
そんな彼女が見つめる三沢くんは激しく息を荒げながらも、ほんのわずかに残ったライフを確認して安堵するように笑った。
「くくく、あーはっはっはっ! まさかピケルにここまで追い詰められるとはな。ああ認めてやる。確かにピケルでも活躍できるとな。だが、俺のライフは残っている。このターンで逆転すれば──」
「──引いてみればいい」
「……なに?」
「引いてみればいいと言ったんだ。カードが君に勝って欲しいと願っているならば、きっとデッキは答えてくれる。君がデッキを信じ、カードが君を勝たせたいと願っているならばね!」
彼の額にたらりと一筋の汗が流れる。
強いまなざしで真っすぐと目を合わせた彼の瞳の奥には明確に焦りと敗北への恐怖が宿っていた。
僕の場にはピケルが1体。彼のデッキとの信頼が本物ならばこの状況を覆すカードを引かせてくれるだろう。
JUPITERと斎王の運命力とやらだけを頼りに作られたデッキにそんな信頼があるならば………。
「ぐっ、引いてやるとも。俺なら引ける! 引けるんだッ! 俺のターン、ドロー!!」
奥歯を食いしばり、自分に鼓舞を入れながら引いたカード。それを見た三沢くんは震える手を抑えることもできずにカードを落とした。
落ちたカードを遠くから見る。
死者転生。手札を犠牲に墓地のカードを手札に戻すカード。
他に手札などない今の彼にはどうやっても使いようのないカードだった。
「──僕のターン、ドロー」
引いたカードを信じられないと言った顔で呆然とする彼を置いて僕は自分のターンを始める。
今の彼に憐憫も同情もしない。
デュエリストとして、友人として彼の過ちに引導を渡す。
僕は前だけを見据えるピケルに最後の攻撃を命じた──。
「バトルだ。魔法の国の王女ーピケルでダイレクトアタックだ!! ホワイト・プリンセス・マジック!!!」
ピケルが気高い声を上げて煌々と光が収束する杖を振りかざしながら現実を受け入れられないように愕然としている彼に向かい──そして、優しい光が彼を包み込んだ。
《三沢》 残 LP 0
ピケル可愛いよね。あの世界ならラーバモスだってエースになれるはず!