アカデミアを舞台に鮫島校長の手腕で行われることになったデュエル大会、ジェネックス。
その催しも終盤に差し掛かり、勝ち残っている多くのデュエリストが島内中で最後の追い込みと言わんばかりにデュエルに明け暮れていた。
そんな、優勝を目指して今すぐにでも一枚でも多くのバッジを集めるために奔走すべき中、僕は後輩でラーイエローの道長くんと剣山くんを連れながら森の中を逃げ走る愛理ちゃんを追っていた。
「ちょっとコナミ先輩! 愛理さん、早すぎやしませんか!!」
「まったくだドン!! 全然追いつかないザウルス!!」
「く〜〜〜ッ! そんな身体能力高くないはずなんだけどなあッ!!」
2人の疑問に呻きながら僕は答える。森の中を軽快に駆け去って行く姿はみるみるうちに離れていき、その姿に影も踏ませない勢いで島の奥へ奥へと消えて行く。
その速度はティラノ剣山くん──鍛えられた筋肉と高い身体能力を持つ、恐竜大好きなためか独特な口調で話す上に髪型がドレッドヘアとファンキーな印象を受ける後輩。だけど十代くんを兄貴と慕う可愛いところもある男子──であっても追いつかないと言わせる速度だった。
前へ前へと消えて行く愛理ちゃん。あれが彼女の本気なのだとしたら僕の認識する彼女の足の速さを大きく更新しなければならない。
僕が知る限りの彼女の身体能力は高く見積もっても中の上。50m走でも8秒を切らないと少なくとも男子ほど早くはないはずだった。
「ダメだ、このままじゃ引き離されるだけだ! とても捕まえられない!」
「でもどうしたらいいドン。今でも全力で走っているザウルス!」
「今以上に走るか、愛理先輩を前から止めてくれる人がいればいいんだけど──」
離れて行く背中。全力で走りながら相談するもとても背後から追いつけるわけもないスピードに良策など出るわけもなく、前方から誰かが止めてくれないかと祈ることしかできない状態だ。
そうしている間もどんどん離されていく背中。僕は全力を出しているゆえに息が切れ始め苦しくなってきた体を押して考える。
あの速度で愛理ちゃんが走れるわけがない。これまで全力を出していなかっただけ?
そんなわけがないッ!
僕の頭によぎった考えを即座に否定する。
僕が知る限り、彼女はいつだって真面目に授業を受けている。マラソンや身体測定で走る時も手を抜くような彼女ではない。
ならばそれを可能にしているのは、彼女の精霊としての力を行使している。そうに違いない!!
ならばそれに追いつくためには──。
「アウス、ヒータ、ウィン!! 僕に力を貸してくれ!!」
彼女にできるなら、僕にだってできるはずだッ!!
「うぇえええ!! 先輩、なんですかその光ィッ!?」
「ネックレスが光っているドンッ!?」
僕が強い祈りとともに声を上げた途端、クリスタルが眩い光を放ちながら僕の体からアウスたちの力を示す3色のオーラが立ち上り、尋常ではない力の高まりを感じた。
ーー行ける。これならやれるッ!!
僕は足に力を籠める。全身にみなぎる力がこれまでにない速度で走れることを教えてくれていた。
「命を燃やせぇえええええッ!!!」
「すごいッ!!」
「速いドンッ!!」
腰を下げ前傾姿勢となり、走りながらのスタートダッシュを始めた僕は通常の3倍の速度で走り始めた。地面を踏みつける足が土を後方へと弾き飛ばし猛烈に勢いを増した僕を振り返り見た愛理ちゃんは目を見開きながら驚き、そして楽しそうな笑みを浮かべてさらにスピードを上げた。
それに追いつくために、僕も体の限界値までを引き出すつもりで道長くんと剣山くんを置いて森の中を駆け抜けていった──。
*
「──行っちゃったドン。コナミ先輩、すごいザウルス」
「いやーあんな速く走れるなんて、先輩が人間か疑いたくなるね」
コナミ先輩が人間離れした速度で走り去って行ったことで、俺たちは思わず呆然として速度を落としていた。
「とても2人には追いつけそうにないにしても…………どうするザウルス。アニキのところに戻るかドン?」
「いや、このまま追いかけよう剣山。俺たちじゃあ2人の速さには追いつかないにしても、何かできることがあるかもしれない。世界の大事なんだから、できることをしないと」
「そうザウルスね。世界の危機ザウルス、斎王の野望を食い止めるのをアニキとコナミ先輩に任せ切る訳には行かないドン!」
斎王が画策していた計画、レーザー衛生ソーラによる世界の破滅。そのレーザーの発射キーを斎王から受け取った愛理先輩を止めるため、俺たちはコナミ先輩と共に彼女を追いかけていたのだった。
「それにしても斎王という男、愛理先輩や学園のみんなを洗脳して世界を破壊しようなんて、やることが汚すぎる!」
「まったくだドン! やるなら正々堂々やるドン!」
「その通り! ……うん? いやそれは違うような……」
「とにかく汚いドン!!」
世界の破滅云々が問題で正々堂々だったらいいという話でもないんだが……。
まあいいや。とにかく急いで愛理先輩を止めないといけない。それだけがわかっていればいいことだ!
「──斎王様に向かって、随分ないいようじゃない、道長!」
「──お前は…春香!? どうしてここに!!」
斎王がした皆んなへの仕打ちと計画に剣山と憤っていると、木々の間から春香が歩いてきた。
彼女は斎王の手駒である事を示す白い制服に身を包み、お気に入りの桜の形をしたピアスを耳につけている。
しばらく会っていなかったが、あいつも光の結社に入っていたのか。いや、愛理先輩がそうである以上、こいつも入っているのは当然の帰結だったな。
「誰だドン?」
「永本春香、俺と同中で俺と一緒にコナミ先輩と愛理先輩にデュエルを教わっていた仲だ。一緒に学園に入った…………まあ一言で表すなら友達だ」
「ふんっ、そんなことはどうだっていいのよ。さっき、そこで愛理先輩がすごい勢いで走っていくのが見えたわ。その後を追ってコナミ先輩が追っかけてるのもね。その後、アンタたちの会話を聞いてピンと来たんだけど、アンタらは斎王様の邪魔をしようとしてる。そうでしょ?」
どやと口角を上げる春香を余所に俺は剣山と視線を合わせる。誤魔化すか、否か。
(──話を聞かれていたなら誤魔化しても意味はなさそうだが、どうする剣山。正直に話せばどいてくれるかもしれないが……)
(そりゃ無理だと思うドン。話してわかる状態なら、こんなことにはなってないザウルス。ここは強引にでも突破するのが最善だドン)
剣山の意見は強行突破か。確かに彼女は一人、俺たち二人のどちらかを通せんぼすることはできても、片方は先輩たちを追うことができる。
剣山の言う通り、それが最善だと俺も思う。ならば…………。
(剣山、彼女は俺が引き受ける。その間にお前は先輩方を追ってくれ)
(いいドン? それだとお前はここに残ることになるザウルスが……)
(構わない。同中の友人として、彼女には思うところがある。これもいい機会と受け取るよ)
(わかったドン。ここは任せるザウルス!)
視線を交わしながら春香に知られないようにこっそりと意見交換していた俺たちは息を合わせたタイミングで一気に駆け出した。
「えっ!?」
春香を無視していた俺たちの突然の行動にぎょっと体を硬直させながらも、脇を通り抜けようとした剣山を身体全体で止めようとしていた彼女の前に、俺は立ち塞がることでその行動を遮った。
「サンキュードン!」
「先輩たちのこと、任せたよ!!」
「待ちなさいティラノ・剣山!!」
脇を通り抜け、森の奥へ走っていく剣山を焦ったように目で追いながら叫ぶ春香。そんな彼女は俺の行動が斎王の計画の邪魔をするためであることだと悟った故か、親の仇を見るような眼で睨みつけた。
「邪魔よ、そこをどきなさい道長」
「そういうわけにもいかないだろう。何のために俺がここに残ったと思っているんだ」
「ふんっ、自分の方が役立たずだからでしょ。剣山はアタシたちの世代で最強だものね。アタシでもあんたを残すわ」
「わかってるじゃないか。俺が足止め役だ。大人しく俺とここにいようじゃないか。それとも、俺とデュエルして押し通るか?」
剣山は1年の中で最強という評価を得ている。俺もそれなりな実力をもつ者として評価されているが、剣山と比べられると片手落ちしてしまう。
今は一分一秒を争う危機的状況だ。コナミ先輩が上手くやってくれている可能性があるとはいえ、万が一のために俺か剣山、どちらかは追いかけておきたい。
だったら当然、残るのは俺でなければならない。デュエルの実力的にも身体能力的にもな。
「…………いいわ。あんたとデュエルしてあげる。その方があんたとしてもありがたいでしょ。アタシとここにいるよりはさ」
「フッ、春香にしてはわかってじゃないか。デュエリストらしく、デュエルで決めよう」
ディスクを構えデュエルの準備をする。その中で、俺は以外にもすんなりと受け入れたなと彼女のことを考えていた。
春香は正直あまりデュエリストらしい感覚は持ち合わせてはいない。どちらかと言えば一般人よりの価値観を持っている。
そんな彼女だ。問題が発生したらデュエルで決着をつけると言う価値観に馴染めないところがあるため、膠着状態でじっと待つことになる可能性も視野に入れていたが、どうやらこの学園で生活することにより、少しぐらいはデュエリストらしく勝負師としての感性が育っているようだ。
こんな状況だが、友人の変化に嬉しくなってしまう。あの美容だ化粧だとうるさかった春香が、デュエリストとして勝負して決めようと言う提案に賛同するようになるほどに順応するなんてな。
この学園に来る前は想像だにしなかった。
「ねえ、デェエルはいいんだけど、その前に教えてもらえないかしら。愛理先輩はどうしてコナミ先輩に追われていたのかを。それから斎王様の計画についても。知ってるんでしょ、あんた」
「──」
そうだったな。そう言えばそうだった。春香の奴斎王がしようとしていることがどんなことかを知らないんだったな。
こいつが俺の前に立っているのはなんとなく俺と剣山の会話から、あとは愛理先輩の様子から斎王がナニカしようとして俺たちが邪魔しようとしている。
その程度の認識だったんだった。
なら、話してみる価値はあるだろうか。いや、正直言うとない気もするが、洗脳されているのが自分の意思でそうなっている可能性もあるからなあ。
こいつの場合デュエルとか通さずに愛理先輩が光の結社とやらに入ってるわ。私も入ろっ!
みたいな軽い動機の可能性がある。ならいかに斎王がまずいことをしているかを教えればこちらに寝返るか?
俺はカリカリと爪の先で軽く腰の仮面を掻きながら考えた。
「ある国が宇宙にレーザー放射をできる衛星を打ち上げって話は知っているか」
「知ってるわよ。結構な問題になってたものね。ニュースでも見たし、それがどうしたのよ」
「斎王は他人を自分の意のままに操る力を持っている。その力でレーザー衛生ソーラを起動するつもりなんだよ。それが行われれば、世界は終わる。俺たちは死んでしまうんだよ!」
「………」
どうだ……と思いながら見る春香の目には「こいつ何言ってんだ」とでも言いたげな胡散臭いものを見る目をしていた。
「……だめかあ。しゃーない。デュエルするぞ春香!」
「はあ、仮面が好きな陰気臭いやつだと思ってたけど、虚言癖まで言うようになったらアンタもいよいよね。アタシが勝ったら友人関係も切るわ」
「マジかよ。そこまで言う?」
「当たり前でしょ、デュエルに負けたら絶交よ。これは決定事項ね」
あまりにもあんまりな言い草にちょっと泣きたくなりそうになったが、説得が無理そうなのはわかった。
やはり、初志貫徹。デュエルで決着をつけるしかないか。
「まあそれでいいよ。バーっとデュエルして、すぐに終わらせてやるよ」
「以前までの私だとは思わないことね。油断してると痛い目見るってこと教えてあげる」
遠くから大勢の生徒がデュエルする音が響いてくる。これまでなんとか勝ち残ることができていたジェネックスの大会も大詰めまできているということなのだろう。
集中を始めた俺と春香の間に一瞬だけ静かな風が流れ、息のあった声をあげた。
「「デュエル!!」」
2人の話は最初はもっと書くつもりだったんだけどなあ。3期にでも書くかなあ。書く余裕あるかなあ?