「──追いついたよ、愛理ちゃん」
道長くんと剣山くんを振り切って一人、霊使いの皆の力を借りて愛理ちゃんを追いかけた先、彼女は島の南端にある見晴らしの良い崖際で僕のことを待っていた。
彼女の足元にはアタッシュケースが、レーザー衛星ソーラの起動装置が地面に置かれている。その機器はすでに鍵が差し込まれており、間に合わなかったことを僕に知らせていた。
「間に合わなかったか……」
「ふふ、少し遅かったね。でも私の足についてきたって考えると〜早いのかな?」
人差し指を下唇に当てながらのほほんと答える彼女に危機感を感じている様子はない。
これからレーザー照射により世界が終わるかもしれないというのに、人が大勢死んでしまうかもしれないというのに、彼女には罪悪感を感じている様子も、死への恐怖心も感じていないようだった。
「………愛理ちゃん、君は怖くないのかい。レーザーが発射されたなら、後は死しか待っていない。僕はその力がどれほどすごいのかを知らないけれど、話を聞く限り、僕たちを殺せる程度の力を持っているんだよ?」
話しながらチラリと機器を見て目を細める。
機器はどうにも力づくで破壊したのか、画面は作動しているのにボタンなど操作する部分のパーツは破壊され使いものにならないことが確認できる。
わずかにバチバチと電気を立てながら壊れている様子を見せる機器を見つめながら止めることはもう恐らくできないであろうことを悟った。
「うーん、私は生まれてきたときから死んでいたようなものだから、あんまり死ぬのが怖いって感覚はよくわからないの。でも、好きな人と一緒に逝けるって幸せなことだって思うわ。コナミ君は違うの?」
「──」
無邪気な笑みを浮かべ言い切る彼女に、僕は一瞬息がつまった。
生まれた時から死んでいると言う部分はよくわからなかったけど、今の愛理ちゃんは死を恐れていないと言うことだけは伝わってきた。
そして僕といっしょに死ねるなら世界が破滅したとしてもかまわないとも──。
「………僕は怖いよ。そりゃ君と一緒に逝けるなら死に方の一つとしてはアリなのかもしれないけど、生きれるなら生きていたい。わざわざ自分から死にたいとは思わないよ!」
「そう? そうなのかなあ、そういうものなのね。でも、ごめんねコナミ君。もう起動しちゃったし、私でも止められないわ」
あっさりとした語り口調で言う愛理ちゃん。
僕はきつく目を閉じて歯を食いしばった。
作動してしまった以上、止められなかった以上、破滅を防ぐ手段を僕は持たない。どうしようもないだろう。
今頃ブルー寮で斎王を止めるためにデュエルしている十代君になんと謝ればいいかわからない。もはや彼が斎王に勝ったとしても意味はない。
学園の、世界中の人々にも事態を知りながら止められなかった事実を謝りたい気分だ。
だが、すべては後の祭り、今ここにいる僕にできることはせめて、最後の時を洗脳されている状態の愛理ちゃんではなく、正気に戻った彼女と共に過ごせるように頑張ることだけだ。
「──愛理ちゃん、デュエルをしよう。これが最期の時だと言うなら、せめて君とデュエルして死んで逝きたい。そして、本当の君と笑って逝きたいんだ」
愛理ちゃんはその目に悲しそうな気持ちを乗せて足元を見た。死を恐れていない彼女がなぜそんな瞳を見せているのか、僕にはわからない。
しかし、すぐに何かを吹っ切るように次の瞬間には笑顔を見せて曇りも恐怖もない高らかな声で言った。
「いいわ! コナミくん、私と一緒に逝きましょ! 運命が導くままに、最期の時にデュエルの華を咲かせましょう!!」
「そうだね。運命が導くままに……星も人も、滅びるときは滅ぶ。なら最期まで楽しもう!!」
──それが好きな人となら最高だ!!
僕たちは全てを振り切るように笑顔を向け合いながらデュエルディスクを構えた。世界の滅びまであと少し。この世界が救われる方法があるとすれば……さて、考えてもわからないな。
目の前の愛理ちゃんは死を恐れていない。そんな彼女にこれ以上何を言っても意味はない。仮に説得できたとして、どうしようもないだろうけどさ。
僕はこの最期になるかもしれないデュエルに全身全霊で楽しむことを1人誓いながら愛理ちゃんの蒼い瞳を目に焼き付けようと心に熱を灯し、デュエル開始の宣言をした──。
「「デュエル!!」」
*
「私のターン、ドロー!!」
愛理ちゃんが慣れた様子でカードを引く。
これが最後になるかも……そんな気持ちがあると、彼女の一挙手一投足に注視して記憶しておきたくなる。僕が生涯で行うデュエルがこれで終わりかもと思うと、最後の相手が愛理ちゃんでよかったとも思えてくる。
僕は終わりが近づいている事実の恐怖心を奥底に押し込んで、口元に強気な微笑みを浮かべながら彼女の手を待った。
「私は手札からエア・サーキュレーターを守備表示で召喚! このモンスターが召喚された時、手札を2枚デッキに戻して2枚ドローする!」
「いきなり手札交換かあ」
《エア・サーキュレーター》 攻撃力0 守備力600
顔の位置に扇風機のようなファンが付いたモンスターにより、デッキにカードを戻して新たなカードを手札に持ってくる愛理ちゃんを見ながら呟く。
彼女の狙いは想像が付く。
強力なモンスターであるダーク・アームド・ドラゴンの召喚のための下準備ができる幾種類かのカードを手札に持ってこようとしているのだろう。
更なる手札交換か、デッキサーチか。はたまたモンスターを墓地に溜めるカードか。どれを手札に持ってこれても勝利に近づけるだろう。
デッキからカードを引く彼女はその顔に若干の落胆が籠った顔を浮かべ、更なるカードを引くためのカードを発動した。
「次に闇の誘惑を発動。デッキから2枚カードを引いて、手札から闇属性モンスターを除外する。私はキラー・トマトを除外…………そして封印の黄金櫃を発動! デッキからカードを1枚選んで黄金棺に封印、2ターン後に手札に加えるわ」
愛理ちゃんが意気揚々と発動した封印の黄金櫃により、選ばれたカードが黄金櫃に封じられていく。
あのカードは間違いなくダーク・アームド・ドラゴンだろう。つまり、これから2・3ターン後に召喚するために、彼女は墓地に3枚の闇属性モンスターを溜めようとするに違いない。
僕は自分がこれから起こることを頭に浮かべながらいかにそれを止めるかを考えていた。
「見慣れたっていう程、見てはいないけど愛理ちゃんのキーカードのようなものだね黄金櫃は」
「ふふ、来てほしい時に手札に来てくれるほど、私のドロー力は強くないもの。こういうカードは有難いわ。私は最後にカードを1枚伏せてターンエンドよ」
消えていった黄金櫃の横にカードが伏せられて、彼女の1ターンが終わった。
「僕のターン、ドロー!」
チラッと愛理ちゃんの場を見る。彼女の場に伏せられた1枚。
あれはいったい…………。いや、いい。あのカードがなんであろうと全力で行くのみ。全力で楽しんで、そして勝つ!
「僕は手札からE・HERO エアーマンを召喚! エアーマンが召喚された時、デッキからHEROを手札に加える! 僕はフォレストマンを手札に加える!」
「フォレストマンを手札に………ジ・アースを召喚するつもりね!」
「いや、ジ・アースはまだ無理だ。だけど、それ以外の道がある。僕は融合を発動! エアーマンとネクロ・ガードナーを融合──E・HERO エスクリダオを融合召喚!!」
《E・HERO エスクリダオ》 攻撃力2600 守備力2000
愛理ちゃんの読みに反して僕の場に闇のHEROが召喚された。
それを見つめる愛理ちゃんは余裕を持った顔で見ている。その前には、発動された激流葬のカードが開かれていた。
「──くっ、激流葬!?」
「ええ、私はエスクリダオが召喚された瞬間、激流葬を発動していたわ。場のモンスター全てを破壊、そして破壊されたエア・サーキュレーターの効果で私はカードを1枚ドローできるわ」
崖下から波飛沫が吹き上がると同時に僕たちの場に大波が吹き荒れてエスクリダオとエア・サーキュレーターを流していった。
僕は苦々し気にその光景を見ていた。
「コナミ君なら1ターン目から融合を使ってきても可笑しくないかなあと思ってエアーマンで使わなかったんだけど、ドンピシャね!」
「はは、読まれてたか。なら、しょうがないね。僕はカードを1枚伏せてターンエンドだ」
渇いた声を発しながら読まれていたことに肩を落としカードを伏せる。
エスクリダオで場を優位に立つって道は絶たれてしまったな。
残念だけど、まだ1ターン目だ。
デェエルはまだまだ序盤も序盤。次のターンを乗り切ろう。
「私のターン、ドロー!」
愛理ちゃんのターン、さて、ほぼ無防備の僕に対してどうしてくるか…………。
「私は手札からコスモクイーンを墓地へ送ることでダーク・グレファーを特殊召喚! さらに、ダブル・コストンを攻撃表示で召喚するわ!!」
《ダーク・グレファー》 攻撃力1700 守備力1600
《ダブルコストン》 攻撃力1700 守備力1650
愛理ちゃんの場に2体のモンスターが召喚された。
1体は黒く染まった戦士。赤く染まった狂気に満ちた目にその手には長剣が握られている。危険な香りがする戦士だ。もう一体は二つの黒いスライムのような人魂が繋がっているようなモンスター。闇属性の最上級モンスターを召喚するのに最適なサポート効果を持つモンスター。
どちらも優秀な効果を持っているが、下級モンスター。召喚権も使った以上はさらに生贄っていう可能性は低い。
首の皮一枚繋がりそうで僕はふうっと安堵するように息を吐いた。
「ダーク・グレファーの効果は使わないの?」
僕は顎に指を当てて悩んでいるような仕草をしている愛理ちゃんに聞く。
ダーク・グレファーには手札からレベル5以上の闇属性モンスターを捨てて自身を特殊召喚する効果のほかにデッキからモンスターを墓地へ送ると言った効果もあったはず。
それを使えばダーク・アームド・ドラゴンの召喚のための墓地を肥やすことができる。と、いうのに愛理ちゃんはそれを使うか悩んでいるようだった。
「う~ん、使った方がいい気もするんだけど、使わない方がいい気もするのよ。ね、コナミ君はどっちがいいと思う?」
「いやあ、対戦相手に聞くかなあそういうこと」
「ダメ?」
可愛らしく問いかけてくる愛理ちゃんに僕はやれやれと肩を竦めながら答えた。
「どっちも正しい気がする。そういう理屈で悩むときは、直感に頼るといいさ。ともかく考えてもわからないときは心に従うと言いよ。こっちの方が楽しそうっみたいなね」
「楽しそうかあ。そうね、ならこうしましょう! 私はダーク・グレファーでダイレクトアタック!!」
どうやら効果は使わない方を選んだようだ。
愛理ちゃんの宣言を聞いたダーク・グレファーが長剣を振り上げ僕の肩から袈裟切りに切り裂いた。実際に痛みがあるわけではないが、長剣で切り裂かれた方に痛みが奔ったような気がして手で押さえながら呻き声をあげた。
「ぐぅうッ!!」
《コナミ》 残 LP 2300
「続いて! ダブルコストンで──」
「その前にッ! 僕は攻撃を受けたことでリバースカード ダメージ・コンデンサーを発動! 手札を1枚捨てることでデッキから受けた戦闘ダメージより少ない攻撃力を持つモンスターを特殊召喚する。僕はE・HERO オーシャンを特殊召喚!!」
《E・HERO オーシャン》 攻撃力1500 守備力1200
真っ白な杖を手にしたオーシャンが僕の背後から勢いよく召喚された。
オーシャンは杖の先端を地面につけながら立ちはだかるように対面するモンスターたちを見つめていた。
「オーシャンなら、ダブルコストンで破壊できるわ。バトルを続行! ダブルコストンでオーシャンを攻撃!!」
「いや、破壊はさせない! 墓地のネクロ・ガードナーを除外することでダブルコストンの攻撃を無効にする!」
肉薄したダブルコストンからオーシャンを守るように薄く透き通ったネクロ・ガードナーが両腕を交差しながらその攻撃を遮った。
効果の発動により除外されていくネクロ・ガードナーに感謝の気持ちを抱きながらカードを内ポケットにしまった。
「ん-残念。コナミ君の手札にはフォレストマンがいる。次のターンにはジ・アースを召喚できるね」
「さあねえ。できるからと言ってしないといけない理由もないし、僕は勝つための戦術を組み立てるよ」
「そう? なら、私はこれでターンエンドよ。次のターンね」
「…………」
今はない黄金櫃のことを言っている愛理ちゃんを横目に手札を軽く見る。
確かに愛理ちゃんの言う通り、ジ・アースを召喚するための素材は揃った。が、融合は手札にない。次のターンに引けなければ召喚はできないだろう。
まして、次の彼女のターンに黄金櫃からカードが解放されることを考えると、安易に融合が正しいとは言えないだろう。
僕はゆっくりと思考を巡らせながらカードを引いた。
「僕のターン、ドロー!!」
引いたカードを見る。僕はそれを見て一瞬、動きを止めた。
「これは…………」
「…………?」
カードを見て動きが止まった僕を愛理ちゃんが不思議そうに見ている。カードを引いた僕の内心には運命の鼓動を感じずにはいられなかった。
ふと、空を見上げて起動しているであろうレーザー衛星を想い、そして斎王と戦っている十代君を想った。
「これが運命なら、僕も十代君も運命と戦うためにここにいるんだろうね」
破滅をもたらす破滅の光と共に運命を見つめる斎王に立ち向かい運命を変えるために戦う十代君。
そしてMERCURYの力で絶対の未来を知れる愛理ちゃんの前にいる僕。
どちらも運命に抗うためにデュエルをしている。
ならばこのカードもまた、そのために僕の手札に来たと言うことなんだろう。これは試練だ。この先に起こる未来を乗り越えて見せろと言う試練だと僕は受け取る。
ならば…………。
「僕はオーシャンの効果を発動! 墓地からエアーマンを手札に加え、そのまま召喚する! そしてエアーマンの召喚時の効果によりデッキからE・HERO キャプテン・ゴールドを手札に加える!!」
《E・HERO エアーマン》 攻撃力1800 守備力300
鉄の翼を広げたHEROが召喚される。その効果により手札に加えた黄金のHEROを僕はすぐに墓地へと送った。
「キャプテン・ゴールドは墓地へ送ることでデッキから摩天楼ースカイスクレイパーを手札に加え、そして発動! E・HEROが戦闘を行う時、攻撃力が劣る場合、1000ポイント攻撃力がアップする!!」
晴天が支配する世界が闇に包まれる。崖際にいる愛理ちゃんと僕とを挟み込むように摩天楼が犇めき建ち並んだ。
ソリッドビジョンが生んだ巨大な月が僕たちを見下ろしていた。
「これで、オーシャンとエアーマンで君のモンスターたちを破壊できる」
「いいの? それをすると私の墓地に3体のモンスターが揃っちゃうよ?」
「構わない。バトルだ! エアーマンとオーシャンでダーク・グレファーとダブルコストンを攻撃!!」
エアーマンが引き起こした竜巻がダーク・グレファーを貫いた。それに続くように摩天楼の力を受けたオーシャンがその杖でダブル・コストンを叩き落とした。
《愛理》 残 LP 3100
彼女は涼しい顔でそれを受ける。自分の場にカードがなくなっても余裕があるのは、この先に召喚されるであろうドラゴンがいるからだろう。
「僕はカードを1枚伏せる。これでターンエンドだ!」
この伏せたカードが僕の命綱。万が一にも失敗すれば僕は何もできず敗けてしまう。
僕の宣言を受けた愛理ちゃんがカードをデッキから引き抜く。
彼女の背後で吹き上げた荒々しい水飛沫が不吉を予兆しているようであった──。
封印の黄金櫃はいいよね。2ターンの猶予は今だと遅すぎるけどさ。