世界のどこかで、レーザー衛星ソーラから照射されているレーザーによって攻撃されている。
遥か極東の島国である日本、その近海にポツンとある孤島に建てられたアカデミアの南端の崖際で僕は愛理ちゃんと最後になるかもしれないデュエルを行っていた。
「私のターン、ドロー! この瞬間、封印されていたカードが黄金櫃から解放される!!」
「来たかッ!」
重たい蓋が開かるように、黄金櫃から荘厳な音を立てながら1枚のカードがゆっくりと出てくる。
それは僕に致命の一撃を与えうる彼女の切り札であろうことは確実だった。
「私の墓地には今、3体の闇属性モンスターがいる。この条件下でのみ召喚できるカード。それが今、私の手札に来たわ。それを見せてあげる! 私は手札からダーク・アームド・ドラゴンを特殊召喚する!!」
「──ッ!!」
《ダーク・アームド・ドラゴン》 攻撃力2800 守備力1000
愛理ちゃんの前に巨大な闇の柱を上げながらそのドラゴンが召喚された。
白い吐息を吐きながら血のような鋭い瞳で僕を睨みつけ強大な威圧感を与えてくるドラゴンは今か今かとその内に秘めた破壊衝動を抑えているようにその体を震わせていた。
「ならばこの瞬間、速攻魔法 瞬間融合を発動! エアーマンとオーシャンを融合し、E・HERO アブソルートZeroを融合召喚する!!」
「これって──ッ!?」
《E・HERO アブソルートZero》 攻撃力2500 守備力2000
僕の場に勢いよく召喚されたすべてを凍てつかせる氷のHEROーアブソルートZero。ダーク・アームド・ドラゴンの前に召喚され、その暴虐の力に立ちはだかるその堂々たる姿は僕に安心感と最強のHEROへの強い信頼感を与えていた。
「この光景………以前戦った時と同じ………焼き直しだね」
「へへ。これも運命の導きってやつなのかな?」
「ふふ、なら………コナミ君はあの時の先を見れるといいね」
その言葉と共に一度目を伏せた彼女は一拍置いた後その目を開いて僕を見た。
青く澄んだ目は、目の前にある光景とは違うものが見えているのか、青白い光を輝かせながら遠くを見ているようだった。
「見えるわ。この先の未来が………私が勝利する運命が………!」
「…………MERCURYの力か…………!!」
輝きを放っていた瞳から光が消える。
見たい光景を見ることはできたのだろう。彼女は落ち着きを取り戻したように冷静に手札と場を見つめていた。
「コナミ君、運命を知れる私に勝てると思う?」
「勝つさ。勝って見せる。運命なんて超えて、この手に勝利を掴む!!」
Mercuryの力が何だ! 運命が何だ! 僕は星々を統べるデュエリスト!!
そしていつか、いつの日かキングオブデュエリストになる男だッ!!
僕の道の邪魔をすると言うのなら、必ずそれを乗り越えてやる!!
「ふふ、そういうところ好きよ。なら、デュエリストらしく、手加減はしないね! 私はダーク・アームド・ドラゴンの効果を発動! 墓地のコスモ・クイーンとダーク・グレファーを除外することでコナミ君の摩天楼ースカイスクレイパーーとアブソルートZeroを破壊! ダーク・ジェノサイド・カッター!!」
ダーク・アームド・ドラゴンが狂笑を上げながら全身の刃を振り回して衝撃波をフィールドに放つ。
衝撃波は夜闇を照らす摩天楼を切り刻み、次々と破壊していった。
しかしその破壊行動は長くは続かなかった。
崩れ行く摩天楼の中、衝撃波によって攻撃されたアブソルートが散り際の一撃をダーク・アームド・ドラゴンに放ち、狂笑を上げ攻撃していた姿勢のまま、その全身を凍り付かせぼろぼろと破壊していったからだ。
フィールドを明るい太陽が照らす。
摩天楼の月が消えたことで、元の崖際の世界に戻ってきたのだ。
「ふふ、フィールドがさっぱりしたわね。でもこれで私の道を阻むモンスターはいなくなった。私は手札から魔導戦士ブレイカーを召喚!」
《魔導戦士ブレイカー》 攻撃力1900 守備力1000
彼女の前に真紅の鎧を全身に纏った剣士が召喚される。
紅い楯の中心に埋め込まれた玉が輝いている。魔導戦士ブレイカーの効果によりカウンターが一つ乗って力が強化されている証だろう。
盾を前に出しながら愛理ちゃんの前に佇む姿は彼女の騎士そのものだ。ちょっとだけ、そのポジションが羨ましい。
「バトル、魔導戦士ブレイカーでダイレクトアタック!!」
「ぐぅううッ!?」
《コナミ》 残 LP 400
切り裂かれた肩を抑え呻く。思惑通りダーク・アームド・ドラゴンを破壊することには成功したが、その代償は大きく、魔導戦士ブレイカーの攻撃を防ぐ手段は何一つとして存在しなかった。
そのため、まともな攻撃を受けた僕のライフはもう風前の灯だ。
あと一撃、後一撃でもまともな攻撃が当たれば吹き飛んでしまう。
僕の額に一筋の汗が流れた。
「私はカードを一枚伏せてターンエンドよ。次のターンが山場、予め教えておいてあげるね♪」
「はは、そっか。次のターンが山場か……僕のターン、ドロー!!」
愛理ちゃんの言葉に乾いた笑いが出る。
勘おじょの言葉とは関係なしに、僕はこのターンを凌がないと負ける。それぐらいの気合いをこめてカードを引いた。
「僕はバブルマンを守備表示で召喚! このカードが召喚された時、場に他のカードがなければ2枚ドローする!」
《E・HERO バブルマン》 攻撃力800 守備力1200
攻撃表示で召喚された二つのポンプを背負ったHEROに祈りを込めながらカードを引く。いつだって危機的状況の時ほど頼りになるバブルマン。強欲な壺とほぼ同様の効果を持つこのHEROは十代君同じように、僕にとっても大変な信頼に足るHEROだった。
「よし、僕はカードを2枚伏せてターンエンドだ!」
危機的状況の中、僕がしたのはなんとも凡庸な守りの構え。
魔導戦士ブレイカーはカウンターを取り除くことで相手の魔法・罠を破壊する効果を持っている。
その矛先次第では取り返しのつかないことになる構えであった。
「私のターン、ドロー。魔導戦士ブレイカーの効果を発動! 君の伏せたカードを1枚破壊! マナ・ブレイク!!」
魔導戦士ブレイカーが剣に纏わせた魔力が光る。明光する魔力は振り抜かれた剣から刃となって飛び出し、僕の前に伏せられたカードに向かって飛び出した。
向かってくる魔法の刃の矛先に、僕はそっと安心した息を吐いてカードを発動させた。
「この瞬間、僕は速攻魔法 バブル・シャッフルを発動! バブルマンと魔導戦士ブレイカーを守備表示に、そして守備表示に変わったバブルマンをリリースすることで手札からフォレストマンを特殊召喚する!!」
《E・HERO フォレストマン》 攻撃力1000 守備力2000
バブルマンが泡のように消えた後、その場に膝を折り身を伏せ、腕を交差することで守りの姿勢をとったフォレストマンが召喚される。
眼前には同じように盾を前に身を伏せた魔導戦士ブレイカーがいた。
「ふふ、知っていたわ。そのカードがバブル・シャッフルであることも、召喚されるモンスターがフォレストマンであることもね」
「……知っていた上で、このカードを狙ったっていうのかい」
「ええ、私が勝つ未来は見えているもの。私はリバースカード 異次元からの帰還を発動! ライフを半分払うことで除外されているモンスターを可能な限り特殊召喚する!!」
上空に空いた歪んだ空間を見せる渦から次々とモンスターたちが降りてくる。
未来を見た彼女はその未来を変える行動はしない。
僕は運命に従う彼女に挑むような目を向けた。
《愛理》 残 LP 1600
《コスモクイーン》 攻撃力2900 守備力2450
《ダーク・グレファー》 攻撃力1700 守備力1600
《キラー・トマト》 攻撃力1400 守備力1100
愛理ちゃんの場に3体のモンスターが召喚された。
その中で最も危険なのは魔法使いであるコスモクイーンであろう。このターン限定であるとはいえ、極めて高い攻撃力はフォレストマンの守備力を軽く超える攻撃力を持つ。
だが、その心配はいらないか。
この3体の召喚の目的は彼女の瞳に未来を映した水星のカードだろうから──。
「私は──魔導戦士ブレイカー、ダーク・グレファー、キラー・トマトの3体をリリースすることで手札からThe tripping MERCURYをアドバンス召喚する!!」
「!?」
彼女の場から3体のモンスターが消えていく。僕が想定したコスモクイーンを除いて消えていく姿に僕は目を見開いて驚愕とどこか納得のいく心で見つめていた。
《The tripping MERCURY》 攻撃力2000 守備力2000
水星が生んだプラネットモンスターであるMERCURYがついに召喚された。細身の青い身体に2本の一筋の光が伸びた剣を両手に握った剣士。
膨大な力を秘めているためか召喚されるや否やそのマントを激しくたなびかせるほどの強風が吹き荒れる。
僕は強風に身体を持っていかれないように全身に力を込めながら守りの姿勢を解くフォレストマンを見た。
「MERCURYは召喚された時、相手のモンスター全てを攻撃表示に、そして君のモンスター全ての攻撃力を0にする!!」
「──ッ!」
MERCURYの剣がより強い光を放つとフォレストマンから鈍いくぐもった声と共に体から緑色の光が剣へと吸収されていく。
苦しそうに体を前に歪めるフォレストマンから力が完全になくなったのを僕は知った。
「バトル! The tripping MERCURYでフォレストマンを攻撃!
「くっ!!」
軽やかに踊るようにMERCURYが剣を振り回しながらフォレストマンに迫る。
振り抜かれた剣がフォレストマンが切り裂けば、僕のライフなど一瞬で消し飛ばされる。
そうしてフォレストマンの目前まで迫った時、フィールドを巨大な黒い鷹が暴風を伴ってMERCURYの動きを阻害した。
そうして動きを止めたMERCURYをまるで見ていたことのように微笑みを浮かべながら冷静に愛理ちゃんは飛び去って行った鷹を見守っていた。
「僕はリバースカード イタクァの暴風を発動した。君のモンスターは守備表示になる……知っていたみたいだから、説明の必要はないんだろうけどね」
そのあまりにも知ってましたという顔から僕は口を引き上げながら嘆息した。
「うん、見ていたわ。ここまではね。そして次のターン、君はMERCURYに負ける。それが私が見た未来。これが運命、これが決められた未来。私たちの終わり……」
静かに目を閉じた愛理ちゃんが無言でターンを終えた。異次元からの帰還の効果を終えたコスモクイーンが消えてゆく。
僕の残り手札は1枚。とてもMERCURYを倒せるカードではない。そして、これから引くカードもまたそのカードではないとのこと。
僕はカードを引く前に流れてくる潮風に身をゆだねた。
『運命を越えようとする強い意志。運命に縛られることのない自由な心』
VENUSの言葉を思い出す。
彼女が言った意志と心を僕は持っているのだろうか。
持っているとすれば、それはなんなのだろう。
少し考えて、すぐに答えは出た──。
(ああ、そうだ。運命に従う者のデュエルは、とても未熟だ。僕は全力で勝ちに行きたい)
愛理ちゃんは魔導戦士ブレイカーを生贄に捧げた。勝ちに行くならば、イタクァの暴風があることを知っていたならばコスモクイーンを捧げるべきだった。
だが彼女はそうはしなかった。それは、未来を知るものの傲慢な姿勢が生んだデュエルだ。
僕はそんなデュエルはしたくはない。たとえそれで勝てるのだとしても、僕のデュエルは自分の意思で望む道を選んで戦いたい。
「強い意志は理想を目指し続ける意思。自由な心は信じるカードたちと共にある!」
「──」
「運命に従う者に、真の勝利はないッ!! 僕は僕を信じるッ!! 僕のターン、ドロー!!!」
瞠目する彼女を置いて、僕はこれまで以上の力を込めてカードを引く。どんな結果がきても受け入れる。ただ自分と共に戦ってくれるカードを信じて引く。
その思いで引いたカードは希望の名が描かれたカードだった。
「僕はフォレストマンの効果を発動し、融合を手札に加える! そしてホープ・オブ・フィフスを発動! 墓地にある5体のE・HEROをデッキに戻し、カードを2枚ドローする!」
カードを引く僕を熱い視線で見つめる愛理ちゃん。その目の奥には男女の色恋だけではなく、純粋な憧れにも似た感情が見えた。
もしかしたら、彼女にとっての僕はHEROのような存在なのかもしれない。ならばこそ、運命を超え、このデュエルは勝たなければならない。
期待に溢れたその瞳に応えてこそ、僕は彼女の隣に立てる勇者たり得るのだ!
「僕は手札から融合を発動! 手札のオーシャンとフォレストマンを融合──E・HERO ジ・アースを融合召喚!!」
《E・HERO ジ・アース》 攻撃力0 守備力2000
地球の滅びが迫る中、この青い惑星を象徴するHEROが召喚された。しかし、その力はMERCURYによってその一切が消失していた。
ジ・アースの肉体からは白い湯気のような影が常に出ており、それはMERCURYの剣へと向かっている。強大な力を持つジ・アースもMERCURYの効果からは逃れられないのだ。
「MERCURYの剥奪の効果は永続効果。いくらジ・アースを召喚しても攻撃力は0よ!」
「そうだ。だが、星が繋がればその力さえ超えられる力となる! 僕はジ・アースをリリースすることでThe tyrant NEPTUNEをアドバンス召喚する!! 現れろッ! 暴虐なる海王よッ!!」
《The tyrant NEPTUNE》 攻撃力2500 守備力2000
ジ・アースを核として暴君の名を持った海王星の名を持つプラネットモンスターが召喚された。
大鎌を両手で握ったNEPTUNEは深海のような暗く青いオーラを全身から放ちながら力を奪い取ろうとするMERCURYに抗するように怒声を上げた。
「どうして攻撃力がッッッ!?」
「MERCURYが奪うのは元々の攻撃力。NEPTUNEの元々の攻撃力は0、その力が損なわれることはない!」
唸り声をあげて彼女を凶悪な視線で睨みつけるNEPTUNEに愛理ちゃんはたじろぐように後退りその額に汗を流していた。
そうしてNEPTUNEを前に攻撃を宣言しようと手を上げた瞬間、背後から僕に呼びかける大きな声がかかった。
『──先輩ーィ! 見て欲しいザウルス! 俺、スペースザウルスに進化したドンッ!!』
そこには剣山くんの声で話す、二足歩行の恐竜であるティラノサウルスがいた。
その隣には十代くんのネオスがいる。彼は僕と愛理ちゃんを順番に見て、そしてジ・アースの力を得たNEPTUNEを見た。
『コナミ、私たちは直接宇宙へと行き衛星兵器を破壊しに行く。君の星の力も貸してくれっ!』
「──わかった! NEPTUNEッ!!」
ネオスの言葉に一も二もなく答える。
その意思を反映するようにNEPTUNEが雄叫び上げる。すると、その肉体から薄く透き通った状態のジ・アースが抜け出てきて、ネオスと顔を合わせると天へと昇って行ったのだ。
地球を守るため、彼らは必ず衛星兵器を破壊してくれるだろう。僕は安心したように微笑みを浮かべながら前を向いた。
「未来は形を変えたわ。世界は依然、変わることなくあり続ける」
彼女の瞳が蒼く光っている。
MERCURYが未来を見せているのだ。宇宙へと昇った彼らの行動の結果を──。
「これで世界は救われる……君も、嬉しいの?」
その言葉にはどこか喜んでいるような響きがあった。斎王の計画に協力し、ソーラの発射スイッチを押したのは彼女であるというのに、僕はそれが少し不思議に感じた。
「どうだろ、よくわかんない。正直ね、どっちでもよかったから失敗しても残念って気持ちはないの。ただ……」
「ただ?」
少しだけ考え込むように黙る愛理ちゃん。僕は待ち続けた。彼女の心を聞きたかったから。
「うん、嬉しいって気持ちはあるかな。もっと長く君といれるってことだもんね!」
「うん、そうだね。僕も嬉しいよ、生きてこそ一緒にいられるからね」
そうしてデュエルを止めながら話していると、空に一瞬の光が瞬くと同時に無数の赤い光が空を煌めかせた。
空を見上げながら唸り声を上げたNEPTUNEを見て、僕はネオスたちが上手く衛星兵器を破壊してくれたことを知った。
「そろそろデュエルを再開しようか」
「ええ、モンスターたちも待ちくたびれてるわ」
「うん、僕はNEPTUNEでMERCURYを攻撃ー
怒声を上げながら振り上げられた大鎌が勢いよく振り下ろされる。風を切りながら振り下ろされた大鎌は寸分違わずMERCURYを縦に切り裂き大きな爆発音を立てながら破壊した。
「──ッ!?」
「そして僕は最後にカードを一枚伏せてターンエンドだ!」
MERCURYという眼前の敵を破壊したことに満足気な息を吐き出す。僕はその背後にカードを伏せながら、切り札を失い動揺する愛理ちゃんにターンを回した。
彼女はじっとデッキを見つめて動かない。まるでカードを引くことを恐れているようだった。
「これが私の最後のドロー。不思議ね、そう思うとなんだか引きたくなくなっちゃうの」
「……終わりが寂しいと感じる気持ち、わかるよ。でも、どんなに惜しくても続けよう。そうしないと、たぶん暗い影を残してしまう。だから、カードを信じて最後まで楽しもう、愛理ちゃん」
最後のドロー。そう表現した彼女の言葉の意味を僕はまだわからない。彼女が何者で、このデュエルの後、どうなるかを知らないから。
だから言えるのは単純な言葉だけ。
デュエルを楽しもう。ただ、それだけの言葉だった。
「楽しむ………ね。そうね、そうだねコナミ君! 最後の最後まで、諦めちゃダメよね!」
「うん、さあ来いっ!」
「私のターン、ドロー!!」
煌めく尾を引いたカードは眩い黒き波動となってその正体を表した。
それは全身が黒い羽に包まれた巨鳥であった。かつて神鳥と呼ばれ透き通るような美しい新緑色をした羽根は黒く染まり、荒々しい攻撃的な色をしている。
そしてそんな黒き神鳥を召喚した彼女の真っすぐと天高く伸ばされた指先に挟まれたカードにはダーク・シムルグと描かれていた。
「私は墓地のエア・サーキュレーターとダーク・アームド・ドラゴンを除外することでダーク・シムルグを特殊召喚!!」
《ダーク・シムルグ》 攻撃力2700 守備力1000
激しい風が吹き抜ける。
今のNEPTUNEを超える力を持つダーク・シムルグの威圧が風となって僕を吹き飛ばそうとしているみたいだった。
「バトル! ダーク・シムルグでNEPTUNEを攻撃! ダーク・ゴッドトルネード!!」
「ぐぅっ!!」
《コナミ》 残 LP 200
ダーク・シムルグが黒い羽を大きく羽ばたかせ風を起こす。それは黒羽が舞う竜巻となってNEPTUNEを錐揉みして破壊した。
破壊され風が止んだとき、僕の場には4体の小さな羊が召喚されていた。
「ダーク・シムルグの攻撃が終わった瞬間、僕はリバースカード スケープゴートを発動。僕の場に4体の羊トークンを召喚する!」
《羊トークン》 攻撃力0 守備力0 ×4
「スケープゴート…………引けると思ってる?」
「うん、僕は引く。引けると信じている」
僕がこのカードを発動した意図を察したのだ。愛理ちゃんが期待のこもった瞳で見つめてくる。
手札はなく、デッキトップにあるカードもわからない今、あのカードを引けるかはわからない。だというのに引くと断言した僕に彼女は懐疑の目を向けることなく僕がそうあることを望んでいるようであった。
「僕のターン…………ドロー!!」
僕のデュエルディスクにランプが灯る。
ダーク・シムルグの攻撃を終えた愛理ちゃんがターンを終えたためだ。
僕は確信にも似た気持ちでデッキの上からカードを引き抜き、そしてそのカードを見てフッと笑みを浮かべた。
「僕は墓地のジ・アース、NEPTUNE、そしてオーシャンを除外することでThe blazing MARSを特殊召喚する!!」
《The blazing MARS》 攻撃力2600 守備力2200
羊トークンたちに挟まれるように炎の柱の中からMARSが召喚される。
その熱気に陽炎が生まれ、周囲が歪んで見えた。
「MARS、このモンスターで決着がつく」
「すごいね。本当に引いてくるなんて…………」
感嘆するように彼女が呟く。
僕はMARSに目をやり、思いに応えて手札にきてくれたことに感謝した。
「さあこのデュエルのフィナーレと行こうッ! 僕はMARSの効果を発動! トークンたちを生贄として愛理ちゃんに2000ポイントのダメージを与える!!」
MARSの巨大な口に羊トークンたちが次々と吸い込まれていく。彼らを燃料とし、MARSの口内に膨大な熱量の炎が溜め込まれる。
その炎は発射されてしまえばたちまち愛理ちゃんのライフを削り取っていくだろう。
そんな炎を彼女は火に包まれる聖女のような面持ちで見つめていた。
「止めだッ!
溜め込まれた炎が勢いを増して発射される。
発された炎は直線状にいる愛理ちゃんを大きく超えた範囲を標的としてすべてを呑み込んだ。
炎に包まれ姿が見えなくなる瞬間、僕は彼女が自らを燃やし尽くす炎から一線も目を逸らすことなく、笑っているのを見た──それはとても美しく、崇高な笑みに感じた。
「──奇麗だわ…………」
赤く煌めいた炎の中に姿の見えなくなった彼女が陶然するように呟く。僕はそれをどこか悲しい眼で見つめ続けていた──。
《愛理》 残 LP 0
全体的にMARS召喚され過ぎでは?