「くっそー、敗けたー!!」
アモンくんとのデュエルに敗けた僕は頭を抱えてガックリと肩を落としていた。
流石はイースト校におけるチャンピオンと言うだけあってその実力は確かなもので、ぐうの音も出ない敗北にショックを隠すことはできなかったのだ。
「キミとのデュエル、悪くないものだった。機会があればまたやろう」
「はいっ! 次は勝ってみせますからね!」
「ふふ。ああ、楽しみにさせてもらうよ」
デュエルを開始する前に挨拶した時と同様に、僕たちは互いの健闘を讃えるように握手を交わしてデュエルの舞台から降りる。
次に行われる十代くんとヨハンくんに舞台を渡すためにだ。
「?」
階段を降りたその瞬間、なんだかぐらっと気が抜けたように足から一瞬だけ力が抜けてふらつきかけたがデュエルに熱中していた影響だろうと、すぐに気を持ち直してスムーズな足取りで観客席を目指した。
「惜しかったねコナミくん」
「うーん、もう少しだったんだけどなあ。イースト校のチャンピオンの名は伊達じゃなかったよ」
観客席から見ていた愛理ちゃんが残念そうに話しかけてくる。
「留学生たちって全員が各校のチャンピオンの人たちみたいだし、できれば全員とデュエルしたいなあ。アモンくんともまたデュエルしたいし」
「そうね、私は正直勝てる気がしないからあまりしたいとは思わないけど」
「ええ〜、強い人と闘いたいって思わない?」
「私は別に……そこまでかなあ」
十代くんとヨハンくんのデュエルを観戦しながら隣に座る愛理ちゃんと話す。階下では2人が序盤から激しいモンスター同士の叩き合いをしており、目を離させない。
宇宙から来たHEROであるネオスを扱う十代くんもそうだけど、なにより注目を集めているのはヨハンくんの方だ。
宝玉獣というなんとも幻想的な美しさを放つモンスターたちの登場には会場中の、特に女性陣からはため息が出るような声が発せられていた。
「綺麗ねえ。あれがコナミくんが言ってた宝玉獣ってモンスターなのね」
「うん、ヨハンくんとはアメリカでデュエルしたことがあってね。その時はなんとか勝てたんだけど……うん、話聞いてないね」
愛理ちゃんはどうやらヨハンくんの宝玉獣に夢中らしい。僕の話は右から左へ聞き流されている感じだ。
「いやー以前戦った時も思ったけど、綺麗なモンスターたちだなあ。しかし……ヨハンくんは宝玉の神様、見つけられたのかなあ」
会場の女性陣同様、宝玉獣に夢中になっている愛理ちゃんの様子に会話を諦めた僕はポツリと呟く。
階下のデュエルに夢中になっているため、誰1人としてその言葉には反応するものはいない。
僕とアメリカで戦っていた時、ヨハンくんはエースカードを持っていなかった。その代わりのような形でSATURNを扱っていたけど、それは彼の本来のエースとなるカードではない。
宝玉の神、レインボー・ドラゴン。それが彼の探し求めるエースの名前らしいが、はて、あれから見つけられたのだろうか。見つかってたらいいなあ。
激しいせめぎ合いが行われるデュエルを観戦しながら、僕はそんなことを考えていた。
*
「いやー負けた負けた。やるなあ十代、流石ネオスって感じだったぜ」
「ヨハンも凄かったぜ。宝玉獣もバンバン出てきてよ」
デュエル開始からしばらく、十代くんとヨハンくんのデュエルが終わりを遂げた。
それによりコブラ先生による在校生と留学生のエキシビションデュエルは終わり、明日からのデスデュエルに向けて誰もが解散していた。
ところ変わり僕たちが今いるのはオシリスレッド寮。僕と十代くんはヨハンくんを連れて僕たちの普段住んでいる寮に招待していた。
机の上には今日のデュエルの感想戦のためにカードが広げられている。
「結果はヨハンくんの負けだったけど、いいデュエルだったよ。あー僕も勝ちたかったなあ」
十代くんとヨハンくんのデュエルの結果は十代くんの勝利で終わった。
ヨハンくんは僕と戦った時のように、宝玉獣たちを流れるような勢いで何度も何度も召喚しながら十代君のネオスくんに対応し、追い詰めた。
が、最終的にはトリプルコンタクト融合を決めた十代くんが勝負を決め、そのデュエルの勝者となった。
3体ものモンスターを要求するトリプルコンタクト融合は彼の切り札であり、それを召喚された際のデュエル場の盛り上がりはすごかった。
僕も御多分に漏れずにおお! と驚きと称賛の声を上げたからね。
「そういえばコナミとヨハンって知り合いだったんだな」
「うん、アメリカでね。プラネットモンスターのSATURNを貰ったんだ」
「ああ。あのデュエルも楽しかったな! あとでまたやろうぜコナミ!」
「うん、やろうかヨハンくん。だけど……」
「ん?」
宙を見上げながらヨハンくんの試合を思い出す。
「ヨハンくんのエースモンスターが見れなかったのが残念だったなあと思ってさ。あれからまだ見つかってないの?」
「おぉー! それは俺も聞きたかったぜ。ヨハン、お前のデッキにエースはいないのか?」
十代くんとのデュエルでは結局最後までレインボー・ドラゴンを見ることは叶わなかった。
それは召喚できなかったためなのか、それとも純粋に手に入れることができていないのか。
ヨハンくんは後ろ手に頭を掻きながら参ったと言うようにほのかな笑いを浮かべながら言った。
「いや~実はまだ手に入れれてないんだ。コナミのSATURNのおかげでレインボー・ドラゴンの居場所は見つけれてるんだけど、その発掘に時間がかかってるみたいでさあ。ペガサス会長がカード化までにはまだ時間がかかるってことでさぁ。今待っているところなんだよ」
「へー! でもそれなら時間の問題なんだね。よかったよ見つかってて!」
「ああ、SATURNのおかげだ。感謝するぜコナミ」
ヨハンくんのデュエルでは見れなかったからひょっとしてまだ見つかっていないんじゃないかと心配だったのだけど、手に入ってないだけで時間の問題というのなら安心だった。
今回は残念ながら見ることも戦うことも叶わないようだけど、いずれというならプロの世界とかでも戦う機会はやってくるだろう。
僕はほっと胸をなでおろした。
「へへ、まだ手に入ってねえってなら仕方ねえな。しっかしヨハンもそうだけどアモンってやつもすげえ強かったなあ。留学生の他の2人も同じくらい強えのかな?」
「え? あーどうなんだろうね。全員が各校のチャンピオンだし、そうかもね。ヨハンくんは一緒に島に来たんだよね。デュエルとかしたの?」
十代くんと似た純粋さを持つ彼だ。十代くん同様にデュエル大好きって感じだし、きっと豪華客船でやってくる間にデュエルの1つや2つくらいやっている。
当然しているだろう。そんな気持ちで軽く聞いたんだけど、以外にもその返答には否が返ってきた。
「いや、俺も他の奴らがどんなデュエルするかは知らないな」
「あらら、そうなんだ。なんだか意外だね」
「ああ、なんてったって船に乗っているときはずっと部屋に引きこもってたからさあ。他の皆と交流ってのはしなかったんだ」
「えっ、意外すぎるんだけど」
「ああ、俺もヨハンはデェエル三昧だと思ってたぜ」
僕と十代くんは目を少し瞬かせて驚いた。
まだ少ししか話せていない僕たちだけど、ヨハンくんが他校のチャンピオンがいるというのにデュエルを申し込まないと言うのは、いや、それ以前に部屋に引きこもっていると言うのはあまりにも彼のイメージから乖離した行動だったからだ。
僕たちのその視線にこそばゆさを感じているのか、頬を指先で掻いて明後日の方向を見ながらヨハンくんはその時のことを思い出す様に答えた。
「あの時はさあ、コナミや宇宙から来たHEROのネオスを持っているっていう十代がいるって知ってたからデッキの調整をずっとしてたんだ。宝玉獣のみんなと相談しながらやってたからずっと時間がかかってよ。気が付いたら島についてたんだよ」
「へー! お茶目って言うか。らしさを感じるね」
「うーん、他の留学生たちとのデュエルをする機会も忘れるくらい俺たちとのデュエルを楽しみにしてくれていたのか。なら、もっともっとデェエルしようぜ! 帰っちまう前によ!!」
デッキを取り出す十代くん。脇にはデッキに入らない余りのカードやそれで作った遊び用のデッキも置かれている。
さてはこれは寝かせる気ないな十代くん。寝落ちするまでデュエルで楽しむつもりだ。
因みに、十代くんはHEROが大好きでそれをメインで扱っているが別にそれしか扱わないわけではない。
僕とのデュエルでは時折即興で作ったデッキやHERO以外のテーマをメインとして扱ったカードたちでデュエルしたりもする。
まあ、デュエリストとカードの相性のためか、HEROほどうまく回ってくれないらしく、ほどほどに遊んだらHEROに戻る。
そして手にしっくりと馴染む感覚に満足しながらこれが俺のフェイバリットだと実感するを繰り返したりしてるのだ。
一つのデッキやテーマを愛用するデュエリストにはよくあることだ。
さながら時折り外食を味わいたくなるが、結局家庭の味が一番と結論づくように。
人間、それぞれに合った味に帰ると言うことなのだろう。
余談だけど僕はプラネットモンスターたちを扱う時が一番手に馴染む。その意味ではHEROでも天使でも関係はない。極端な話プラネットモンスターを扱えればどんなテーマデッキでもいいのかもしれない。
まあ、だからと言ってデッキを変えるつもりはないけどね。
「今度は負けないぜ十代」
「おうヨハン! なら早速やろうぜ!」
「いやちょっと待ってよ十代くん。君はさっきヨハンくんとやったんだから僕に先にやらせてよ」
「えー、でもお前はアモンとやったんだから俺がもっかいやってもいいだろ?」
「まあまあ、それなら3人でバトルロワイヤルでやろうぜ。それなら全員でやれるだろ?」
軽く口を尖らせ不満気な十代くんと僕。その隣で少し困ったような笑みを浮かべたヨハンくんに僕たちを目を合わせていいアイデアだとすぐにその提案に乗った。
「よっしゃ! そうと決まったら3人でデュエルだ!」
「バトルロワイヤルかあ。あんまりしたことないデュエルだね」
「へへ、我ながらいい案だろコナミ。3人でやれば待つ必要もないしな」
そう言って僕たちは三角形の形になるように机の上にデッキを並べ、デュエルを開始した。
その夜は長く、僕たちは体力の限界が訪れるまでデュエルをしたのだが、長い船旅の影響かそれとも昼間のデュエルで予想より体力を消費していたのか、ヨハンくんが誰より早くに寝落ちし、次いで僕と十代くんもまた深い深い眠りにつくことになるのだった。
*
森の奥深くにいつ頃からか存在する無機質な研究施設。
深夜、その研究施設の地下深くの一室で巨大な円柱であるガラスケースの中で、形を失い飴色のエネルギー体となった存在は心の中で深い笑みを浮かべている。
近く感じる愛しい存在の気配と、そして自らと同じ波動を持つ存在に。
「──もうすぐ会えるね。ボクの愛しい……十代──」
その存在は溢れんばかりの歓喜の情をそっと抑え込み、ゆっくりと心の目を閉ざすのだった──。
ヨハンと十代戦はアニメでガッツリやってるしええやろって感じでスキップです。