ダルクとのデュエルに勝利した僕たちはこれまでの皆んな同様、彼の持つ黒い光の灯ったクリスタルから力を貰うため近づいていた。
「いやー、一時は負けるかとヒヤヒヤしちゃったよ。ウイルスコンボ、凄いねダルク」
「ふん、いくら強力なコンボを決めても、勝てなければ意味はないさ。それより、ほれ、約束のものだ」
無造作に曲線を描きながら投げられた黒いクリスタルを受け取る。
その中に込められていた闇色の力は僕の首から下げられたクリスタルに合流するようにスッと入り込んで行った。
「ありがとうダルク。今日から一緒に戦おう」
「それが役目だからな。可能な限りは力を貸してやる」
デュエルに疲れたのかため息をつきながらダルクが元いた岩に座りこむ。そのそっけない態度を見ながら、うーんクールな性格の精霊だなと感じていた。
「ところでデュエルも終わったことだし、ここについて知りたいんだけど」
『そうだね。どうにもダルクは僕たちがここに来る前から居たようだし、知っていることを教えてはくれないかい?』
「わかっている。が、その前に……」
ダルクが自分の腕を見る。
クリスタルから力を抜けたことで純粋な精霊の状態に戻りつつあるのだろう。アウスやヒータの時と同じように体から光が生まれ、少しずつ透けていっている。
「ああ。いつものだね」
自分で言っておいてなんだけど、いつもってほど見慣れてはないんだけどね。
ダルクが興味深げに見ているからつい反射的に言っちゃった。
『なるほど、人間界で実体を持つというのも初めての体験だったが、それを失うというのも初めてだ。中々、得難い体験だったな』
『僕たち精霊にとっては人間界より精霊界の方が過ごしやすい環境ではあるけれど、悪くない体験だったようだね』
『ああ、こんな世界に閉じ込められるまでは、悪くはなかったとも』
なんだかいい雰囲気で穏やかに話すダルクとアウス。
顔見知りというのもあるのだろうけれど、性格的な相性がいいのかもしれない。
研究肌なアウスと物静かでクールな印象を受けるダルク。もしかしたらもしかしたりする可能性もあるのかもしれない。
精霊に人間のような夫婦やら番いといった概念があるのかはわからないけど、ガガギゴの話に失恋云々でグレたなんて内容があった気がするし、2人がいずれそういう関係に発展とかもあるのかもなあ。
2人の様子を見ながらうんうんと1人そんな未来の光景を夢想していると2人が胡乱な目をしながらこっちを見ているのに気がついた。
『こいつは1人で何を納得しているんだ?』
『さあ? 僕らのマスターは時折りよくわからない方向に思考を飛ばすからね。またなにか変なことでも考えていたんじゃないかな』
『やれやれ、これが俺たちの主とは難儀だな。まあいい、それよりここについて話すとしよう』
ダルクが長い杖を肩に立てかけながら言う。その先端には今までどこへ行っていたのか彼の使い魔であるD・ナポレオンが乗っている。
『端的に言おう。ここは冥界だ。死した者の魂が至る場所。俺たちはそこに招待されたのさ』
ダルクの短くも正確なその説明に僕たちは一瞬言葉を忘れて呆けてしまった。
そしてその説明が頭に染み入った直後、僕の口から驚きの声が上がった。
「えぇえええええッッッ!!? 冥界ィ!? 冥界なんで!? 僕死んだの!??」
『落ち着けコナミッ! 冥界にいるからって死んでるわけないだろうが!!』
『ヒータの言う通りだ。本当に全員が死んでいたなら精霊である俺たちと人間のお前が共にいるはずがない。あくまでも魂のみが招待されただけだ』
自分が立っている場所が冥界と知り慌てる僕に落ち着けと告げるヒータとダルク。
そんな2人になんとか落ち着こうとするが、いきなり死後の世界にいると言われて驚かない人はいないと思う。
『わざわざ説明しなくてもいいと思うが、これは俺が見つけた冥王星のカードであるThe suppression PLUTOの仕業だ』
「まあ、そうなんだろうとは思ってたけど、なんでわざわざ冥界に?」
『彼が魂に干渉する力を持っているからだろう。或いは死後の世界というものを擬似的に体験してもらおうとでも考えたのかもな』
「ええ〜〜。なに、その、なんとも言えない理由」
死後の世界とか正直あまり関わりたくない内容なんだけど。
というかあまり考えたくない。
『ふむ、これまでも何度かあったが、コナミ。君が僕たちの望む勇者として力を貸してくれる限り命の危機とは無縁ではいられない。恐らくPLUTOなりの親切なのかもしれないね』
『死んだらこんな世界に来るよーって事前に教えてあげてるってこと?』
「ありがた迷惑だよそれ」
死んだらどうなるかなんて教えてもらっても困るんだけど。それにこんな暗い世界にくるって言われて喜ぶ人はいないよ。
『死んだらお前の魂をPLUTOの奴が回収してくれるんじゃねえか? 少なくともこんな世界に置いてけぼりはしねえだろ』
『かもしれないね。僕も冥界については知らないからこの道の先に何があるのかはわからない。もしかしたら、明るい世界が待ってるかもしれないね。生まれ変わってなければ、君のご先祖が沢山いるかもよ』
「………」
ご先祖って、いくらご先祖様でも会ったこともない人に冥界であってもなあ。寧ろなに死んでんだって怒られそう。
「はあ、冥界についてはもういいや。死後の世界なんて考えても仕方ない気がするし。それより気になったんだけどダルク、君がさっき言った僕たちが死んでいたら精霊のみんながここにいるはずがないって言ってたけど、それってどういうこと?」
死者は皆冥界っていう死者のための世界に来るって認識なんだけど、ダルクの言葉から察するに精霊は違うというのだろうか。
だとするならば、精霊は死んだらどうなるというのだろうか。
僕の質問にダルクはじっと僕を見つめた後、視線をアウスたちに向けた。
『コナミ、人間と精霊はその生まれもあり方も全く違うものだ。翻って死に方もね。君たち人間は同じ種族同士で繁殖をすることで同族を増やすが、僕たちの場合は違う。基本的に僕たちは世界から生まれるんだ』
「世界から生まれる?」
『そう。世界とは言っても君たち人間の世界ではないよ。それぞれの精霊の世界でだ。僕たちは世界に内包するマナ、まあ端的に言えば魔力を糧に生まれてくるんだ』
「へえ〜。じゃあ親とかはいないんだ」
『やろうと思えば君たちのような増え方もできないわけではないけど、する必要はないから大体の精霊にはいないね』
世界から生まれるかあ…………すごい生まれ方してるんだなあ精霊って。
っていうか関係ないけどアウス性行為のこと繁殖って表現するんだ。正しいんだけど何だか学術的な表現でこう、情緒がないなあ。失礼ながらもうちょっとエッな言い方を──。
『くだらないことを考えているようだが、話を続けていいかな?』
「あっ、ごめん。うん、いいよいいよ」
黒縁眼鏡を光らせながらちょっと冷たい目で見てくるアウスに慌てて手を振って促す。
危ない危ない。
余計なことを考えてしまったせいで機嫌を損ねそうになった。
アウスともそれなりに長い付き合いになるし、あまりそういうことを考えていると読まれちゃうんだよなあ。自重しないと。
『ごほん、話を続けるが、僕たち精霊と人間の違いは僕たちは世界の一部として生まれるが、君たちはそうではないと言うこところなんだ』
「…………?」
アウスの説明に首を傾げる。
『つまり~私たちは世界そのものなんだよってことだよ』
「…………………うん?」
『おいウィン、その説明でこの馬鹿がわかるわけねえだろ。アウス、こいつにも理解できるレベルで説明してやれ』
『うん、つまりだ。僕たち精霊は君たちが人間が親から生まれるように世界から生まれる。そして死した時は、冥界に行くのではなく、そのすべては世界に還ることになるんだ。そうだね、雨を思い浮かべると言い。雨は地上の水が蒸発した結果として発生するだろう?』
「うん」
『僕たちもそれと同じだ。世界を構成する一部として意思を持つ形で誕生し、死んだら世界の一部として戻る。そしてまた、時を置いて同じように生まれる。これでわかるかな』
「………あーうん。なんとなく理解できた」
指を立てながら──彼女の魔法だと思うけど──アウスが映し出した雨の仕組みを模して造られたイメージに頷いて答える。
ウィンの言い方にあまりピンとは来ていなかったが、アウスの説明で漠然とだがイメージすることはできた。
つまるところ精霊は自然そのもの。そんな感じの存在なんだろう。
だから地上に生まれた生命体である僕のような人間とは生まれも死んだ後も違う。人間は死んだら冥界っていう死後の世界に行くみたいだけど、精霊は自然そのものとして元の………マナだっけか。精霊界にある魔力であるエネルギーに戻る。
そういうことなんだろう。
「だから、死んでいたらアウスたちがここにいるはずがないって言ったんだねダルクは」
『ああ。お前たちが死んでいるならそいつらがここにいる時点で可笑しいからな。人間が精霊になったとかでもなけりゃ、冥界にいるはずがねえ』
「そんな人がいるの?」
『昔はいたらしいぜ』
『昔は人間と精霊はもっと近しい存在だったらしいからね。人間の中でも力ある人は精霊として生まれ変わるなんてこともできたみたいだ。そういう人は世界に還るのではなく冥界にいるのかもしれないね』
「へー」
昔の人はすごかったんだなあと思いながらふと、愛理ちゃんのことを思い出す。
彼女の中には精霊と人間の二つの魂があるけど、生を全うしたらどうなるんだろうか。
僕と一緒に人間として冥界に行くのか。それとも精霊として世界の一部になってお別れなのか。
だとしたら寂しいんだけど…………。
「ねえ、その理屈だと愛理ちゃんって──」
どうなるのか、その疑問を問うとする直前、通路を地響きが襲った。
「うおぅっ!? 何ッ!!」
『どうやらお迎えが来たらしい。見ろ、後ろにいるぞ』
「うえッ!?」
ダルクに促され、僕は後ろに振り返る。そこには胸に四つ、肩には一つずつの赤い目が光る黒い悪魔のような姿をした巨大なモンスターが僕たちのことを見下ろしていた。
『長い時間、生者が死後の世界にいるのもよくねえってことだろう』
『ダルクにも会えたし、PLUTOの目的も終わったっていうこと?』
ウィンの少し震えたその声に反応したわけではないだろうけれど、僕たちを見下ろすPLUTOがその首を下げて、僕たちを包み込むように両手を伸ばしてくる。
「ちょっと怖いけど、敵意はないんだよね」
『信じよう。彼もまた、君のことを待っていた一体のはずだからね』
紫煙を纏った鋭い鉤爪が僕たちを優しく包み込む。
だんだんと増えていく紫煙に視界が消えていきながら、浮遊感と共に僕の意識は消えていった。
*
「──はぁッ!!」
ベットの上で息を吹き返したかのように腰を上げて目を覚ます。
目線を左右に彷徨わせると、そこはいつもの僕の部屋。
レッド寮のベットの上だった。
「……帰ってきたのか」
冥界という死者の世界から無事に帰って来れたことに安堵する。
本当に死んだわけじゃないとわかっていても、実際に戻って来れていたことが確認できると安心するものだ。
「これからよろしくね、PLUTO」
冥界に連れてかれる直前に手に持っていた冥王星のプラネットモンスターであるPLUTOに言葉をかける。
仄かな光で答えるカードに僕はそっと微笑んで、そして同じように光っているJUPITERのカードに目を向けた。
「そう言えばPLUTOはともかくなんでJUPITERまてベットに……なるほど、そういうことね」
疑問の答えはすぐに返ってきた。
僕が今日見た精霊界の夢はどうやらJUPITERの仕業だったらしい。
「心を過去に飛ばして知れる力か。冥界だったり過去の世界だったり、これまでに何度も思ったけど、君たちはすごいなあ」
僕の意思とは関係なく行われた力の行使に少しだけ苦笑いを浮かべる。
『なるほど、君の見た夢は実際に過去に飛んでいたわけだ。ならば当然向こうからも干渉できるというものだね』
『JUPITERすごーい!』
「ああ皆んな。みんなも無事に戻って来れたんだね」
僕が問題なく帰って来れたように、ベットの周りには宙に浮かんでいるアウスたちがいた。
よかったよかった。これで一安心して眠ることができる。
「さて、疲れたから眠るかあ」
もう一眠り、そう思った僕の枕の横で置き時計がジリリと鳴り始めた。
「………」
無言で時計を手に取り見ると時間はAM:7:00とある。
いつもの起床時間だった。
「さて……寝るか」
『ダメだよ、授業はでないと』
「いやだあ! 疲れたもーん!!」
中途半端な時間帯に起こされ冥界に連れて行かれてたからほとんど眠れておらず寝不足なのだ。
頼むから寝させてほしい。
『授業サボったらエリアに怒られるよ』
『なんなら呼んでこよっか。授業サボろうとしてるよーって』
「それは勘弁して欲しいなあ。はあ、わかったよ起きるよ」
ガックリと項垂れ心の中で涙を流す僕は重たい体を引きずるようにベットから降りるのだった──。
*
夢を見ている。
夢の中で彼/彼女はとても苦しそうにしていた。
彼でもあり、彼女でもある。そんな目の前でひどく苦しそうに愛おしい人の名前を呼ぶ彼女を私は悲しい瞳で見つめていた。
『──ああ、こっちに来て。ボクの所へ。ボクはここだよ』
私は彼女に向かって一歩踏み出す。
きっと以前は身体があったのであろう、肘から先しか残っておらず、わずかなエネルギーだけを頼りに存在を保っているその存在の腕を胸に抱える。
『──キミは……そうか。キミも僕と同じなんだね。同じ願いを……』
抱えた腕に頬を寄せて涙を流す。
その腕から伝わってくる報われない思いが、愛が、とても悲しかったから。
そして、私と同じ思いを抱いている故の共感を感じたから。
『──ボクのところに来て。ボクのところに……』
静かに消えていく声と共に、私の意識も薄く浮上していく。
もう直ぐ目覚めようとする私の口から一言だけその存在に向けて放たれた。
「──私の愛しい人……」
ゆっくりと目を覚ます。
眠っている間に目の端から涙が溢れたようで、目の端が少し滲んでいた。
ぼんやりと薄ぼけた頭で時計を見る。
そうして最近たて続きに奇妙な夢を見る私は夢に引きずられたように緩慢な動きで朝の支度に取り掛かるのだった──。
遊戯王における精霊がどう言う存在なのかって明言されてたか覚えてないので想像で補完。死後どうなるかとかわかんないですしね。