初心者粉眠くんのデュエル日誌   作:XX

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頭が回らねえ。言葉が思い浮かばねえ。


大噴火

 

「俺の先行、ドロー!」

 

 お互いに尊敬する先輩に向けてプレゼントをするために最後の一枚である応募券を賭けたデュエル。

 剣山とのそれに先行を取ることができた俺は若干の喜色を混ぜた笑みを浮かべた。

 

 基本的にデュエルモンスターズは先行が有利だ。

 デッキや戦術にもよるが、相手が行動する前に先んじてエースを呼び出す準備ができる点を考えても間違いない。

 そして、それは格上と思える相手と戦う場合は極めて重要な要素となるのだ。

 

「俺はモンスターをセット。これでターンエンドだ」

「モンスターを伏せるだけドン? まあ、それなら楽でいいザウルスが、俺のターン、ドロー!」

「さて、剣山はどうくるか」

 

 恐竜族モンスターで固められたパワーで押すデッキだ。

 俺の予想なら高い攻撃力で圧制してくると思うんだが…………。

 

「俺は手札からフィールド魔法、ジュラシック・ワールドを発動! 太古の世界に招待するザウルス!!」

「いきなり使ってきたか!!」

 

 フィールドが塗り替えられる。

 エントランス前のコンクリートで固められた地面が土気色に、そして周囲は広大な原生林が生い茂る太古の自然世界へと変化を遂げた。

 

 その様相はまさしく太古の恐竜たちが生きた時代の姿そのもの。周囲のシダ植物のような巨大な木々に遠くではアカデミアの元のものか判別できない火山が熱を上げ、周囲からは虫か鳥か、奇妙な甲高い鳴き声が断続的に響いていた。

 

「ジュラシック・ワールドが場に存在する限り、恐竜さんの攻撃力・守備力は300ポイントアップするドン。俺は手札からセイバー・ザウルスを攻撃表示で召喚!!」

 

 

《セイバー・ザウルス》 攻撃力2200 守備力800

 

 

 剣山の場に赤い四足歩行に鼻先には一本角が生えた恐竜が召喚された。鼻から白く勢いのある呼吸をするその恐竜はトリケラトプスによく似ていた。

 

「バトルだドン。セイバー・ザウルスでお前の裏側守備表示モンスターを攻撃!」

「俺が伏せていたのは魔神童、守備力は2000だ!」

「ジュラシックワールドの効果を受けたセイバー・ザウルスの敵ではないドン! 破壊するザウルス!!」

 

 ドシドシと重苦しくもリズミカルな足音を立てながらセイバー・ザウルスが魔神童へと突撃してくる。

 その鼻先の角に貫かれる前に、表になった魔神童の効果を発動するべく俺は声を上げた。

 

「魔神童のリバース効果、このカードが表になった時、デッキから悪魔族モンスター1体を墓地へお送る!」

「関係ないドン! セイバー・ザウルスの攻撃は止められないッ!」

 

 身を固め守りの姿勢の大人ほどのサイズをした魔神童がセイバー・ザウルスの攻撃により破壊される。

 俺はその衝撃から腕で身を守りながらデッキから1枚のカードを選択した。

 

「俺は魔神童の効果でデッキから魔サイの戦士を墓地へ送る。さらに墓地へ送られた魔サイの戦士はもう一枚別の悪魔族モンスターを墓地へ送る!」

「魔神童と同じ効果? それに何の意味があるザウルス!!」

「無論無意味ではない。俺が選択するのは2枚目の魔神童! 魔神童はカード効果で手札・デッキから墓地へ送られることで、俺の場にセットされる!!」

「なに!?」

 

 俺の場にセイバー・ザウルスにより破壊された魔神童と同じ姿のモンスターが召喚された。その魔神童はまるで寝そべるように体を丸め、その上から布団でも被るようにカードが覆いかぶさることでその姿をカードで隠した。

 

「ちぃ、モンスターが残ってしまったドン。なら俺はカードを1枚伏せてエンドだドン」

「よし、俺のターン、ドロー!」

 

 今、剣山の場には攻撃力2000越えのモンスター1体に伏せカードが一枚。魔神童をリバースすることでさらに効果をと言うのはあまり意味はない。攻撃表示で晒すだけで無駄だろう。

 

 ならここは…………。

 

「俺は墓地の魔神童と魔サイの戦士を除外することで忍び寄る闇を発動! デッキから幻銃士を手札に加え、そして守備表示で召喚! その効果により、俺の場に2体の幻銃士トークンを召喚する!!」

「一度に3体のモンスターを揃えてきたドン!?」

 

 

《幻銃士》 攻撃力1100 守備力800

 

 

《幻銃士トークン》 攻撃力500 守備力500 ×2

 

 

 背中に二つの砲身と蝙蝠の羽根を生やした3体のモンスターが召喚される。

 それに驚く剣山に気をよくしながらも、俺はその幻銃士の召喚をトリガーとして召喚された剣山のモンスターにこちらが驚くことになった。

 

「ならば俺はその瞬間にリバースカード 狩猟本能を発動させるドン! 狩猟本能は相手が特殊召喚した時、俺の手札からも恐竜さんを特殊召喚できるんだドン!!」

「なにッ!?」

「俺は手札からダークティラノを攻撃表示で召喚!!」

 

 

《ダークティラノ》 攻撃力2900 守備力2100

 

 

 剣山の場に黒いティラノサウルスとも呼ぶべきモンスターが俺のモンスターたちに立ちはだかるように召喚された。

 その恐竜は大口を開け顔を前に伸ばしながら咆哮を上げ、俺を威圧している。

 

「ダークティラノはお前の場に守備表示モンスターしかいない場合直接攻撃ができるドン」

「俺の場にいるモンスターはすべて守備モンスター」

「そうザウルス。どうするドン? 既に召喚したお前には魔神童を攻撃表示に変えるしか、攻撃を避ける方法はないドン!」

「くぅっ!!」

 

 腕を組み調子よさ気に語る剣山に呻き声を上げる。

 

 既に召喚権を使った以上、これ以上のモンスターの召喚はできない。そしてダークティラノの攻撃を恐れて魔神童を攻撃表示に、なんてそれこそ敗北を受け入れるようなもの。

 次のターンにセイバー・ザウルスとダークティラノの攻撃を受けて敗北するだけ。

 

 その厳しい状況につい仮面に手が伸びるが、寸前でそれを押しとどめまだやれると気を整えた。

 

「調子に乗るなよ剣山。俺はまだ諦めるつもりはない! 俺は幻銃士の効果を発動! 俺の場の幻銃士の数だけ300ポイントのダメージを与える! 俺の場の幻銃士モンスターはトークンも合わせて3体、よってお前に900ポイントのダメージだ!!」

「う゛っ、これは避けれないドン!」

 

 

《剣山》 残 LP 3100

 

 

 3体の幻銃士の2つの砲身からそれぞれ2つずつ、計6つのエネルギー弾が発射された。その弾はそれぞれが剣山の元へと向かい、着弾による煙を上げながらライフダメージを与えていった。

 

「俺は最後にカードを伏せて、ターンを終了する」

「俺のターンだドン、ドロー!」

 

 このターン、確実に俺は大ダメージを食らうことが確定している。

 だが、ただでやられるつもりはない。

 剣山の行動次第ではあるが、相応のダメージは負ってもらうぞ。

 

「俺はセイバー・ザウルスをリリースすることで暗黒ドリケラトプスをアドバンス召喚するドン!!」

「暗黒ドリケラトプスだと!?」

 

 

《暗黒ドリケラトプス》 攻撃力2700 守備力1800

 

 

 ティラノサウルスにトリケラトプス。

 太古の時代を生きた誰もが知るメジャーな恐竜たちが上級モンスターとなって並んで立っている。

 その姿には敵である俺も少しばかり童心を思い出しそうになって、ワクワクしてきてしまう。

 

「暗黒ドリケラトプスは守備モンスターを攻撃した時、その攻撃力が守備力を上回っていた場合、その差分ダメージを与える貫通効果があるドン。ダークティラノの攻撃と合わせて、お前のライフは0ザウルス!」

「くっ、だが、俺の場にはリバースカードがある。その攻撃、そう簡単に通ると思うなよ!」

「…………」

 

 剣山の勝利宣言に怯むことなく答える俺に、剣山は目を細め暫し沈黙し考えたが、結論が変わらないことに気づいたように攻撃の宣言を始めた。

 

「お前が何を伏せていようが関係ないザウルス。俺はダークティラノでダイレクトアタック! そして、暗黒ドリケラトプスで幻銃士を攻撃だドン!!」

 

 2体の恐竜が地響きを鳴らしながら俺に迫ってくる。

 その攻撃を、まともにくらえばこのデュエルは終わる。そこに危機感を感じながら、俺は焦るようにリバースカードを発動させた。

 

「俺はこの瞬間、魔神童をリリースすることでカオスバーストを発動! その攻撃モンスター1体を破壊し、相手に1000ポイントのダメージを与える!」

「俺のモンスターを破壊!?」

「俺が選択するのは………暗黒ドリケラトプスだ!!」

「んあ!? そっちザウルスか!?」

 

 暗黒ドリケラトプスが向かう目前の地面がひび割れ地割れが起こる。その地割れに呑み込まれるように魔神童が、そして暗黒ドリケラトプスが落ちていき、地割れの奥底から飛んできた熱岩石が剣山を襲った。

 

「ぐぅううう!! こんなカードを伏せてたか、だが、ダークティラノの攻撃までは防げないドン!!」

「うおぁああああ!!」

 

 

《剣山》 残 LP 2100

 

 

《道長》 残 LP 1100

 

 

 ダークティラノに踏みつけられた俺がその衝撃に大声を上げて膝をつく。

 その攻防に周囲で観戦している人たちからの歓声とどよめきの声が聞こえていた。

 

「今の攻撃、明らかにダークティラノを破壊した方がよかったと思うんだけど…………」

「そうねえ。道長ちゃんのプレイミスでもなければ、攻撃力で劣る上に直接攻撃の効果を持たないドリケラトプスを選ぶ理由はないはず。ダークティラノの方がよっぽど優先度は高いはずよね」

 

 そのどよめきの中にはコナミ先輩と堂本先輩もいる。

 二人とも、不合理な俺の選択に疑問を投げかけている。

 そしてそれは破壊された剣山も同じ──。

 

「コナミ先輩方の言う通りだドン。何故今のカオスバーストでダークティラノを選ばなかったドン」

「心配はいらないさ。わかっていて俺はドリケラトプスを選んだ」

「なるほど、なら、その選択の意味を見せてもらうドン。俺はカード2枚伏せてターンエンドザウルス」

「俺のターン、ドロー!」

 

 訝し気な剣山を見据えながらデッキからカードを引く。

 そして見た手札には、およそ完璧ともいえる手札が揃っていた。

 

「──ふっ、勝ったな」

「ん?」

 

 小さく呟き勝利を確信した俺に剣山は眉をひそめて組んでいた腕を解く。

 

「見せてやるぞ剣山。俺の勝利への道筋を! 俺は手札からアンブラル・ゴーストの効果を発動。俺はこのターン、通常召喚を放棄する代わりに、手札のアンブラル・ゴーストとマスクド・チョッパーの2体を特殊召喚できる!!」

 

 

《アンブラル・ゴースト》 攻撃力200 守備力200

 

 

《マスクド・チョッパー》 攻撃力100 守備力2000

 

 

 俺の場に長い黄緑の髪を垂らした幽霊のようなモンスターと、小さな体躯に鉈を持った仮面で顔を隠した2体のモンスターが召喚される。

 それにより、俺の場のモンスターゾーンは全て埋められることになった。

 

「新しく2体のモンスターを召喚するはいいものの、守備表示ではダークティラノの効果は防げないドン。まして、召喚権を放棄したとあっては、それでどう俺に勝つつもりだドン?」

「無論、これはこの後に使うカードの布石さ。俺はまず、幻銃士の効果を発動! 剣山に900ポイントのダメージだ!」

「──ッ!!」

 

 

《剣山》 残 LP 1200

 

 

 再び、剣山に向かって幻銃士の6つの砲身からエネルギー弾が発射される。寸分たがわず前のターン同様の着弾ダメージに耐えながら顔を顰め、剣山は鬱陶しそうにしていた。

 

「よし、そしてこれで終わりだ! 俺は手札からサンダー・クラッシュを発動! 俺の場のモンスター全てを破壊することで、そのモンスター1体につき300ポイントのダメージを与える!!」

「なに!? 今のお前のモンスターの数は…………!!」

「そうだ。俺の場のモンスターの数は5体! よってお前には1500ポイントのダメージだ!!」

「ぐっ!」

 

 目を見開き、驚愕の視線を宙へと向ける剣山。その視線の先にはゴロゴロと鳴りを響かせる球体状の雷が滞空していた。

 宙に生まれた俺の場のモンスター全てにその雷が降り注ぐ、5つの柱のように降り注いだ雷はやがて一つにまとまり、残り少ないライフまで減った剣山へと殺到した。

 

「これで俺の勝ちだッ!」

「そうはさせないドン! 俺は生存本能を発動! 墓地のセイバー・ザウルスと暗黒ドリケラトプスを除外することで800ポイント、ライフを回復するドン!!」

「ライフ回復カード!? だが、ダメージを避けることはできない!!」

「うぁああああ!!?」

 

 

《剣山》 残 LP 1200 → 2000 → 500

 

 

 降り注いだ雷が剣山を打ち付ける。

 目を覆いたくなるほどの閃光が彼を貫き、そのダメージにより、剣山はぐったりと肩を落としその体から細い煙が幾本か立ち上っていた。

 

「ぐっ、何とか耐えきったドン。さあ、道長、俺のライフはまだ残っている。こっからどうするザウルス?」

 

 ダメージ故に苦しそうに息を荒げながらも、にやりと口端を上げて聞く剣山に俺もまた勝利の笑みを浮かべた。

 

「これじゃ倒せないか。だが、お前が耐えることは想定済みだ。俺にはまだ2枚の手札がある!」

「………お前はもう通常召喚は行えないドン。モンスターを召喚することは──」

「剣山、お前なら知っているはずだ。俺の切り札を!」

「!! たった2枚のカードで召喚するつもりかドン!?」

「その通り! 俺は手札から高等儀式術を発動! デッキからメルキド四面獣と仮面呪術師カースド・ギュラを墓地へ送ることで、俺の切り札──仮面魔獣マスクド・ヘルゲイザーを儀式召喚する!!!」

 

 

《仮面魔獣マスクド・ヘルレイザー》 攻撃力3200 守備力1800

 

 

 巨大な杖を持った顔のない俺のデッキの誇るエースの1体、マスクド・ヘルレイザー。俺のもう1体のエースである仮面魔獣デス・ガーディウスと双璧を為す自慢のカードだ。

 満を持して召喚された俺のエースの登場に、俺の心は浮足立つように弾んでいた。

 

「ぐぅ、バーンカードばかり使ってきていたくせに、ここにきてエースカードの登場とは、やるザウルスね。いつも以上の強さを感じるドン」

「先輩へのプレゼントが賭かっているからだろうさ。デッキが回る回る」

「アニキへの思いで敗けるつもりはないザウルスが…………」

 

 苦々し気に語る剣山に対して俺は極めて涼しい顔でヘルゲイザーに宣言した。

 

「俺はマスクド・ヘルレイザーでダークティラノに攻撃! エヴィル・デストラクション!!」

「がぁああああ!!」

 

 

《剣山》 残 LP 200

 

 

 マスクド・ヘルゲイザーがその杖をダークティラノへと突きつけ、空間が歪むようにひび割れた音をがなり立てさせながらダークティラノを破壊した。

 その破壊音と衝撃から周囲に爆煙を巻き散らし、剣山のライフを僅かまで減らすことに成功していた。

 

「このターンで倒すことは叶わなかったが、追い詰めたぜ。俺はこれでターンエンドだ!」

「くぅ、俺のターン、ドロー!!」

 

 剣山が険しい顔をしながらドローする。

 今のドローをしたことで剣山の手札は2枚。ジュラシック・ワールドによる補助があるとはいえ、マスクド・ヘルゲイザーに太刀打ちできる大型モンスターを出すことは難しいはず。

 

 だが、あの剣山だ。

 ワンチャン、俺のマスクド・ヘルゲイザーを倒す札を持っていても可笑しくはない。

 どう来るッ!!

 

「俺は手札からプチラノドンを守備表示で召喚!」

 

 

《プチラノドン》 攻撃力500 守備力500

 

 

 剣山の場に卵の殻を被った可愛らしい生まれたてのプテラノドンの赤ちゃんが召喚された。

 

 その低レベル、低ステータスのモンスターの召喚に一瞬剣山でもすぐにはヘルゲイザーに対処することはできないかと安心しかけたが、焦りというものを感じさせない剣山の顔に俺は嫌な予感がしていた。

 

「道長、俺はお前が弱いとは思っていなかったが、正直お前にここまで追い詰められるとは思っていなかったドン。それにこのカードを使うことになるとも」

「それは…………そのプチラノドンのことを言っているのか?」

「それもあるザウルスが、本命はこっちだドン! 俺はエンドフェイズに入ることでリバースカード 大噴火を発動!! ジュラシック・ワールドがある場合にのみ発動でき、フィールド上のカードすべてを破壊するザウルス!!!」

「なにぃッッッ!!?」

 

 剣山の大噴火が発動したことで、地鳴りが起こり始める。

 ジュラシック・ワールドにより原生林の奥で活動していた活火山が激しい胎動を始め、その内部でせき止められていたものが噴出するように爆音と共に火山からマグマが噴出した。

 

「噴火した火山から噴出した流動するマグマはフィールド全体に及び、ジュラシック・ワールドを含めたすべてのカードを破壊するドン!!」

「くっ、それでは俺のマスクド・ヘルゲイザーは!!」

「無論、俺のプチラノドンと共に破壊されるザウルス!!」

 

 マグマにより俺のエースであるヘルゲイザーが赤く燃えるマグマの中に沈み消えていく。

 

 何かしてくるかもと思っていたが、まさかのフィールド全体のリセットカードを伏せていたとは、やはり剣山はそう簡単に勝たせてはくれないな。

 

「だが、大噴火を使用したことでお前のフィールドはがら空き! エンドフェイズであるためカードを伏せることもできない。俺が下級モンスターを引ければ勝ちだ!!」

「ところがそうもいかないんザウルス。プチラノドンがカード効果で破壊されると、デッキからレベル4以上の恐竜族モンスターを特殊召喚することができるドン!!」

「なんだと!?」

 

 バカな!

 それでは状況が丸ごと入れ替わると言うことにッッ!!

 

「未来の力を得た恐竜さんの登場だドン! こいっ! 超伝導恐獣(スーパーコンダクターティラノ)!!!」

 

 

《超伝導恐獣》 攻撃力3300 守備力1400

 

 

 大噴火により焼き払われお互いの場ががら空きとなったフィールドに剣山の恐獣が召喚された。

 未来の力というだけあり、太古の生物のティラノサウルスの体には藤色の電子線が通った機械が全身に纏われていた。

 

「超伝導恐獣は俺のエースだドン。このターンはもう何もできないザウルスが、次のターンで決めるドン。俺はこれでターンエンドン!!」

 

 俺のエースを倒し、入れ替わるように召喚された剣山のエースの登場に勝利を確信した剣山は自信をもってターンを終えた。

 その状況は完全に先ほどの俺と同じ、勝利の目前まで辿り着き、敗北を恐れていない姿そのものだった。

 

「俺は……俺の…………」

 

 エースが破壊され、勝利が遠のいていく感覚にデッキに置いた指が震え、目が霞んでいるようだ。

 

 手札も場にもカードはなく、ドローした1枚のカードで剣山のエースに立ち向かわなければならない状況は敗北という言葉を連想させるには十分に余りあることだった。

 そしてそれゆえに、その結果を受け入れカードを引くことを恐れているのだろう。

 

 俺は中々、カードを引けずにいた。

 

「何を躊躇っているの! さっさと引きなさいッ!!」

「──ッ!? 春香ッ!!」

 

 そんな俺の姿に業を煮やしたのか、俺のデュエルを観戦していた春香が憤然とした表情を浮かべながら俺に厳しい声を投げかけてきた。

 

 俺はハッと顔を上げ、絶望から指ではなく掌を置いてついサレンダーという道を選ぼうとしていた自分に気づき春香を見る。

 

「引くなら引く、引かないなら引かないでさっさと決めなさい!」

「……だが春香、俺にはもう──」

 

 ──勝ち筋がない。そう言おうとする俺を遮るように春香が声を紡いだ。

 

「アンタにはアタシが上げたカードが残ってるでしょうが。それを引きなさい。引けないなら、大人しくサレンダーしなさい」

「………」

 

 春香のあまりにも単純明快な言葉に唖然として口が開いてしまう。

 そりゃ引かなければ負けなんだから引いてから考えろと言われたらそれはそうと言う他ないんだけどさあ。

 もうちょっとこう、手心というか、気遣いというものが欲しいというのは我儘だろうか。

 

「それに堂本先輩から聞いたけどアンタ負けたってプレゼントが手に入らなくなるだけなんでしょ? ならさっさと負けて他のものを探す方が建設的でしょうが!」

 

 一々正論を投げつけてくる。

 その厳しい言葉に俺だけではなく周囲で観戦している先輩方や剣山までもが目を丸くしているじゃないか。

 

「ハハ…………」

 

 ついその言葉に笑いがこみあげてくる。

 不思議と、春香の言葉に勇気でも与えられたのか、それとも諦観の気持ちが生まれたのか。

 指先の震えが消えて、力がこみあげていくのを感じた。

 

「そうだな。その通りだ。諦めは引いてから考えればいいよな!」

「続ける気になったザウルス?」

「ああ、悪いな剣山。俺のターン、ドロー!!」

 

 するりと奇妙なほどに煌めきを落としながら引けたカードを見る。

 そこには春香から受け取ったポップでファンシーな絵柄の女の子のカードが存在していた。

 

「感謝するぜ春香。お前がくれたカードのおかげで道が開けた! 俺は手札からイタズラの大精霊ハロを攻撃表示で召喚!!」

 

 

《イタズラの大精霊ハロ》 攻撃力0 守備力0

 

 

 俺の場にかぼちゃのランタンとオレンジの杖に跨った魔女っ娘が召喚される。

 その名前通りイタズラを考えているようにニヒヒとした笑みを見せた少女は宙を飛び回りながら俺の場にとどまった。

 

「攻撃力0? それがお前が受け取ったカードザウルス?」

「ああ、これが俺の勝利の道を開いてくれるカードだ! 俺はイタズラの大精霊ハロの効果発動! ハロは召喚された時、2つの効果のうちどちらを発動するかを相手に選択させる!」

「2つの効果を………俺が決めるドン!?」

「そうだ。1つは俺の墓地の悪魔族の数だけ攻撃力を上げる効果。もう1つ墓地の悪魔族の数だけバーンダメージを与える効果だ!」

 

 ハロの後ろに破壊され、墓地へ送られていたモンスターたちが透き通り眠りについた状態で浮かび上がってくる。

 ハロのカボチャ型ランタンにより照らされたその5体のモンスターを侍らせながらハロは剣山の選択を待ちわびるように笑いをこらえている。

 

「俺の残りライフは200。バーンダメージを選ぶわけにはいかないドン。俺は攻撃力の上昇を選ぶザウルス」

「ならばハロの攻撃力は決まった! その攻撃力は俺の墓地の悪魔族の数だけ800ポイント上昇する! 俺の墓地の悪魔族の数は5体! よって──」

 

 

《イタズラの大精霊ハロ》 攻撃力4000 守備力0

 

 

「こっ──攻撃力が4000だドン!?」

 

 剣山が選択した効果により、ハロの背後で眠っていた俺のモンスターたちが次々とハロの持つランタンへと吸収されていく。

 そのたびに輝きを増していくランタンの火は召喚時には小さな微光でしかなかったが、5つの火種を得たことで膨大な輝きへと変わっていた。

 

「これで俺の勝ちだ! 俺はイタズラの大精霊ハロで超伝導恐獣(スーパーコンダクターティラノ)を攻撃──Mischievous(ミスチバス) present!!」

 

 ハロが甲高い少女の声を高らかに上げながら杖に跨り超伝導恐獣へと向かっていく。

 その顔はこれ以上ないほどに楽しそうな笑顔で、ハロウィンを意識して作られていることを知らせるように、カボチャ型のランタンの火が様々な形の火の粉となって飛び散っていく。

 

 そして超伝導恐獣の真上まで辿り着いたハロは超伝導恐獣とその使い手である剣山を嗤うように梱包された巨大な箱で超伝導恐獣を押しつぶし、巨大なカボチャ模様の爆発をもって超伝導恐獣を破壊した。

 

「ぐぅううおおおお!!」

 

 

《剣山》 残 LP 0

 

 

 その爆発の後には、倒れ伏す剣山とその上で楽しそうに飛び回り笑うハロ。そしてその攻撃によって発生した多種多少な紋様を描く花火が空を鮮やかに彩っていた──。

 

 




アニメで明らかに暗黒恐獣の上位互換使ってると思ってダークティラノに登場してもらった。
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