初心者粉眠くんのデュエル日誌   作:XX

168 / 246

小説読んでたら蠕動だの陥穽だのと。日本語にはいろんな表現があるなあと感心するわ。




 

「ウガァアアアアッッッ!! 負けたドンッ!!!」

「い〜〜〜よっしゃァッ!!」

 

 イタズラの大精霊ハロのプレゼント攻撃により勝利を掴むことができた俺は喝采の声を上げ、悔しがる剣山と向き合っていた。

 

 まさか剣山が敗けるとは思っていなかったためか、周囲で観戦していた生徒たちの多くは驚きと賞賛の拍手を送ってくれいる。

 その拍手をしてくれている人の中にはコナミ先輩と堂本先輩もおり、俺はとても気分よくその拍手を受け止めることができていた。

 

「…………春香がいないな」

 

 キョロキョロと顔を左右に回して確認する。

 あの派手な金髪の長髪。人混みで混んでいても見つけられるはずの目立つ姿。しかし、周囲の木の影にも見当たらない辺り、もうどこかへ行ってしまったようだ。

 

 春香の性格上、こそこそと隠れるようなやつでもない。

 デュエルの結果だけ見た後に、どうでもよさそうに去ってしまったんだろう。あとで礼を言わないとな。

 

「俺の敗けだドン。約束通り、応募券はお前のものザウルス」

「おう剣山。遠慮なくもらっていく」

「当然だドン。それは勝者のものザウルス」

 

 差し出された1枚の応募券を受け取る。

 ヒラヒラとしたこのぺら紙1枚のために争っていたと思うと、少し自分が陳腐な存在のようにも思えてくるが、これで先輩に向けたカードが手に入るかもしれない。

 

 そう考えれば、馬鹿にしたものでもないだろう………たぶんな。

 

「はあ、ショックだドン」

「悪いな。2枚あれば2人とも応募で来たんだけどな」

「それを言っても仕方ないドン。それにショックなのは応募券が手に入らなかったのもだけど、デュエルに敗けた方がもっとショックだドン」

 

 肩を落として落ち込む剣山に苦笑しながら僅かばかりの気まずさを感じて明後日の方を見る。

 

「まあ、敗けた俺が悪い。恨み言は言わないドン。だから………」

「…………?」

「次は敗けないザウルス。その時は恐竜さんの力をもっと見せてやるドン!」

 

 肩を落としていた剣山は大きく息を吐き、気持ちを切り替えるように顔を上げ、目を鋭く尖らせて言った。

 

「あー、そうか。そうだな。俺お前に勝ったんだもんなあ」

「何を当たり前のことを言ってるザウルス」

「いやあ、あんまり実感がなくてな。勢いでデュエルを始めたけど、お前に勝てるとはあんまり思ってなかったからさ」

 

 頭を掻きながら答える。

 応募券目当てで剣山とデュエルすることになったものの、実力で勝ると知っていた剣山に本気で勝つのは難しいと思っていたのだ。

 

 そのため半眼で呆れたように見てくる剣山にハハハと誤魔化すように笑った。

 

「まあ、でもあれだ。謙遜じゃないが、今回勝てたのは春香がくれたカードのおかげだったからな。次もこう上手くいくかはわからん」

「春香ザウルスか。あまり話したことはないけど、ちょっとおっかなそうな性格だったドンね。以前少しだけ話したときはそうでもなかったザウルスが」

「他の奴にはそうでもないはずなんだがな。俺に対してはちょっと厳しいんだよあいつ」

 

 内心どう思っているかはともかく、普段はあそこまできつい奴じゃないし、外面を取り繕うことも全然できる………というか得意なくらいの奴なんだがなあ。

 

「信頼の裏返しってやつザウルスかね」

「えー、そうかなあ。それならもっと優しくしてほしいんだが…………」

 

 剣山の推察に顔を歪める。

 それはないだろうと思いながら、そうであるならば悪い気分でもないと、そうだといいなと思ういながら剣山と話を続けるのだった──。

 

 

 

 

「──」

「──!」

 

 視線の向こう側で後輩の道長くんと剣山くんが何事かを親し気に話している。

 元から仲は悪くない2人だったけど、今回のデュエルを通してより仲が深まったように見受けられた。

 

「よかったわね道長ちゃん。一時はどうなるかと心配になったけど、無事に応募券が手に入ったわ」

「うんうん。デュエルにも勝ったようだし、春香ちゃんとの仲も良好そうだし、言うこと無しだね」

 

 道長くんが最後に使ったカード、あれは春香ちゃんがわざわざ道長くんのために用意したカードだ。

 それをあの土壇場で呼び込み、そのカードで勝利するなんてあのカードを渡した春香ちゃんも大満足だろう。

 

 あの2人の関係がこの先どういう着地を遂げるのかはわからないけど、2人の繋がりがカードに影響を及ぼして導いた結果なのは間違いがない。

 

 僕は訳知り顔で頷いて今後2人の関係性がただの友人からさらに一歩踏み込んだ関係になれるといいなあとお祈りをした。

 

「しっかし、応募券かあ。そんなのあるなんて僕知らなかったよ」

「あまり広報されてなかったみたいだから仕方ないわ。応募期間も短いみたいだし、あたしも偶然知ったってだけだから」

「そうなんだ。当たるといいなあ」

「当たったらプレゼントしてもらえるものね」

「はは、まあね」

 

 と、気楽に堂本くんに答えているが、別に貰えなくてもいいのだ。

 そりゃ貰えるならそれはとても嬉しいけれど、そのカードが道長くんが惜しむくらいのカードだったなら彼に使ってもらえるのが1番だ。

 

 そうなればもっともっと強く道長くんがなれるわけだからね。

 

「ところで、当たり前のように僕は聞いてたけど、僕のプレゼントの内容を予め聞いてしまったけどいいのかな」

 

 普通、こう言うプレゼントの内容って隠しておいて当日に渡して驚かせるっていうものだと思うんだけど…………。

 

「…………ま、まあいいんじゃないかしら。サプライズとかをね、目指していたわけじゃないから…………」

 

 一瞬「はっ」て顔をした堂本くんが焦ったように視線を右往左往しながら戸惑い気味に答える。

 どうやら彼も気づいていなかったようだ。

 

 応募券を手に入れたことで喜んでいる様子を見せる道長くんを見ていると些細なことと切り捨てて気にしないのが一番ではあるが、知ってしまった以上は気にしないのは無理である。

 

 実に当日が楽しみだ。

 

「それじゃあ誕生日、楽しみにしているって道長くんに伝えておいて。デュエルおめでとうってことも、僕はもう行くからさ」

「あら、話していかないの?」

「愛理ちゃんを探していた途中だからね。気にしなくても大丈夫って思っていても、一度探し始めたことだから、気が済むまでは探すよ」

「そう、わかったわ。道長ちゃんに伝えておくわね」

「うん、それじゃっ!」

 

 道長くんに背を向けて歩き出す。

 小さく手を振る堂本くんに同じように振り返し、少しエントランスを歩いた後に振り返り堂本くんの隣を見つめた。

 

(やっぱり、なにか見えるんだけどなあ…………)

 

 振り返った先にいる堂本くんは僕の方をもう見ていない。彼の視線の先は既に道長くんの方へと向いている。

 そんな彼の側には腰辺りまでのサイズの黒い靄がうっすらと見え隠れしている。

 

 それは常時見えている物ではなく、今日彼と出会ってからちょくちょくと言ったタイミングで見えている物ではあったが、たしかに存在している物のようだった。

 

(うーん、あんまり嫌な感じはしないし、堂本くんも他の人も気づいている様子はないし、何なんだろう?)

 

 隠れて小声で霊使いの子たちに聞いても見えないと言っていた。

 

 恐らく僕の持つプラネットモンスターたちが増えた影響であろうとも。クリスタルとは別に、プラネットモンスターたちの力も僕に影響を与えていると言っていた。

 

 そのため、普通の人には見えない何かが写る時があるのだろうと。

 

「まあ、いっか。悪い感じはしないし、ほっといても大丈夫か」

 

 何かあればそのとき対処すればいい。そんな気楽な考えで興味が惹かれる気持ちを振り切り、再び愛理ちゃん探しを再開する。

 

 歩いていくごとに遠ざかっていく堂本くんとその黒い靄を僕の腰に下げたデッキのPLUTOが静かに見つめていることを、僕が知ることはなかった。

 

 

 

 

 アカデミアの森林が生い茂る森の奥深く、その僻地ともいえる場所にその施設はあった。

 

 正六面体の既に廃棄されたその研究室の入り口に私は立っている。

 薄ぼんやりとした意識の中で、不思議とここに来なければと確信していたのだ。

 

 木々の合間から差し込んでくる光は普段なら意識が完全に覚醒していてしかるべき時間であることを意識の隙間に教えてくれている。

 

 起きなさいと告げてくる心と体。しかしそれに反して私の意識は覚醒することはなく、目覚めと眠り狭間にあった。

 

「…………」

 

 じっと、意思の薄い瞳でその建物を見ていると入ってくるようにとでもいうように、すでに閉じたはずの施設の扉が開いていく。

 

 どうやら自動ドアのようで、中に誰かがいるようだった。

 

 廃棄された施設が動いている。そのことを不思議に思うことなく私は迷いのない足取りその中へと入っていく。中のナニカが私を呼んでいるのだと察しているために。

 

 施設の中は薄暗い通路が真っ直ぐと続いていた。

 照明はついているが、その明かりは十分と言えるほどの光量を発してはおらず足元が見えづらい程度だ。

 

 しかしそれでもやはり稼働はしているようで、通路先の突き当たりで開いたエレベーターを使い地下へと降りていく。

 

 降りた先にはこれまた何かの実験に必要だったのか、地下でありながらドーム状の広い空間の中に人工的に作られたとわかる緑豊かな自然が広がっていた。

 

『真っすぐと歩いてきたまえ。そこに私と主がいる』

 

 その自然の前に少し躊躇い足踏みをしていると、ドームの中に響くような野太い男の人の声が私の耳を打った。

 

 ごく最近に聞いたような気がするその声に従い、エレベーターから足を一歩踏む出す。

 

 地面は柔らかく、踏みつけるごとにそれがじゃりじゃりと小さく音を立てていた。

 周囲の森からは動物たちが放し飼いでもされているのか、時折鳥の鳴き声や大型の動物が視界の端で見えることがある。

 

 そんな危険だと思える森の中を声に従い真っすぐに突き進み、再び開いたエレベーターからさらに下へと降りる。

 そうしてしばらく降りたエレベーターが開いた先に彼はいた。

 

「ようこそ水無月愛理君。この地下研究施設に私以外のものが来たのは君が初めてだよ」

 

 扉が開いた先は、多くのモニターが施設内とその周辺を映し出している。

 そしてモニター前でどっしりと座り足を組み私を見ているのは特別講師として島に来ていたコブラ先生だった。

 

「君が降りてくるまでの間、なぜ、どうやってこの施設の存在を知ったのかを、私は知りたいと思っていたが、その解答を私は既に得ている。君は我が主が呼んだ。理由は教えてはもらえなかったがね」

 

 そう慇懃な姿勢で語るコブラ先生の視線の先には部屋の中心に立てられている巨大で透明な円筒が存在していた。

 その中にはオレンジ色の泡が浮かんでは消えている。

 

「さあ、君の目的の存在はそこにいらっしゃる。触れるといい。主もそれを望んでいる」

 

 その円筒の方へと差し出された手に導かれるように私はその液体の方へと歩いていく。

 近づくごとに、そのナニカの存在が大きく、いかに傷ついているかが伝わってくる。

 私は一瞬だけ、触れるのを躊躇い、しかしその思いに惹かれるように円筒に触れた。

 

「──!!」

 

 その瞬間だった。

 円筒の中から眩いばかりの発光が起こり始めた。

 背後ではコブラ先生のおおっ!! という驚きと歓喜の声が聞こえてくる。

 

「…………ッ!」

 

 私は無言でその円筒に触れ続ける。

 私の中の生命エネルギーとも言えるナニカが円筒の中へと吸われているような感覚が持続的に続いている。

 

 それが続けば続くほどに円筒の発光は強く、眩さを増しており、その力を回復させているようであった。

 そして、私の額に汗がにじみ始め、息が次第に切れてきた頃、その発光は鳴りを潜めた。

 

『アァ──ありがとう、愛理。キミのおかげで元気が戻ってきたよ』

「…………うん。それならよかったわ。でも…………」

 

 円筒の中から響く女性の声。

 その声に疲れ果てた視線を向ける。

 

 あなたが回復するにはまだ足りない。

 彼女の声に反応し、紡ごうとしたその言葉は発せられることなく、先に私の体力の方が尽きていた。私は膝から崩れ落ち、立ち上がれない程に消耗していた。

 

 極度の疲労からか気だるげながらも浮上した意識で彼女の様子を眺める。円筒の中心を見ると、そこには泡ではなく、少年の姿をかたどった液体が浮かんでいた。

 

『いや、これだけもらえれば十分だよ。これ以上はキミに害が及びかねないからね。この先は、ボクたちの方で何とかするよ』

 

 その少年が見つめる先にはコブラ先生がいる。

 

 どうやら先生はこの少年──声からして女性のように感じるが──に手助けをしているようで、傷を癒す術もあるのだろう。彼女の言葉には確信に満ちた響きがあった。

 

「愛理君、君の協力には感謝の意を表しよう。我が主がここまで急激に回復するほどのエネルギーを得られるとは思わなかった」

「………いえ、ただ、これ以上は何もできそうにないので、少し休んだら寮に帰りますね」

「うむ。ああそれと、ここのことは他言無用でお願いしたい。無駄な騒ぎは起こしたくないのでね」

「はい。大丈夫です」

 

 何があったのか、私にはわからないけれど、この精霊であろう少年は酷く傷つきその傷を癒すためにこの学園に来たことのだろう。

 

 そのために莫大なエネルギーが必要であることも、今ので察せれた。

 

 休みながら落ち着いた頭で何が起こったのかを考えると見えてくるものがあった。

 私から傷ついた彼女に与えられたもの。それは私の中にある、精霊の力と愛理を育てた光の力であった。

 

 しかし、それでも完治には遠い。

 まだしばらくの時間が必要だろう。

 それを妨げるようなことはしたくはない。

 

 触れた時に感じた。少年の心の中にある愛の喪失による苦しみと悲しみ。そして痛みが私に強い共感と同情を与えていた。

 

 円筒の中にいた少年も同様だろう。自らと同じ願いを強く私も抱いていることに彼女も気づいている。

 

『愛理、次は完全に回復した時に会おう。お互いの愛しい人の元、願いを叶えようじゃないか』

「ええ、その時は………だから、またね」

『ああ、また会おう』

 

 果たしてそれが私の本心から出た言葉であったのか、今の私にはわからなかった。エリアである私の願いと、私の内にいる愛理の願いは重なることはない。

 

 お互いに1人の男性の心を欲している。

 共に分かち合うという考えは──ない。

 

 私はどうしたいのだろう…………?

 

 胸の内で悩みながらもコブラ先生の手を借りて立ち上がった私は差し出されたコーヒーを飲みながら少しの間休み、寮に戻るように道を引き返していった。

 

 その部屋を出る瞬間、少年の口が開いた。

 

『──最後に伝えておくよ。ボクの名前はユベル、よろしくね』

 

 去り際のその名前が私の胸に響き続けていた──。

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。