「僕のターン、ドロー!!」
三沢くんに招待された小島で始まった最後の霊使いの一人、ライナさんとのデュエル。僕は彼女の勝利への道を最短直線で行こうとする。そのためなら使えるものは何でも使うとでも言うような躊躇いのないデュエルに追い詰められていた。
対面の場には攻撃力が2800の最上級モンスターであるフェルグラントドラゴン。その黄金の鱗は日光を反射して見つめていると意識を失いかねない程の煌びやかさだ。
対する僕の場にはカードは1枚として存在しない。寂しい状況だ。
何とか打開する術が欲しいところだが、今の手札ではそれも難しい。
ここは僕のドローフェイズが来たことでカウンターが2つ乗った強欲なカケラに望みを託すしかないだろう。
「僕はカウンターが2つ乗った強欲なカケラの効果を発動! このカードを墓地に送ることでデッキからカードを2枚ドローする。カードを2枚ドロー!!」
フェルグラントドラゴンに対応できるカードを、そう願って引いたカードは僕の願いに反して、状況を打破できるようなカードではなかった。
「ぬー」
早々都合のいいカードは来てくれない。わかってはいるとはいえ、その手札に思わず渋面になり呻き声が漏れる。
そんな表情を浮かべれば当然ではあるが、起死回生のカードが引けなかったことを察したライナさんが笑みを濃くしていた。
「仕方ない。ここは守りに徹するしかないな。僕は手札から小天使テルスを守備表示で召喚! カードを1枚伏せてターンエンドだ」
《小天使テルス》 攻撃力500 守備力500
小さな卵に羽根と手足が付いた名前通り小さい天使が腕を交差して召喚される。
フェルグラントドラゴンの攻撃から身を守ると言うには心もとないステータスだが、今はこの子に頼るしかない。
なんとか耐えられるといいんだけど…………。
「私のターン、ドロー。私は手札から創世の竜騎士を攻撃表示で召喚します」
「くぅっ!」
《創世の竜騎士》 攻撃力1800 守備力600
ライナさんの場に黄金の鎧を纏った騎士の出で立ちのモンスターが召喚された!
フェルグラントドラゴンだけなら小天使テルスでダメージを免れたが、2体目のモンスターがいては確実な保証がない。
僕はこれからしてくるであろう連続攻撃に身を固めて耐える姿勢を整えた。
「これで終わってしまったら残念ですから、どうか耐えてくださいね。あなたは私たちの勇者なんですから。私は創世の竜騎士で小天使テルスを攻撃!」
「──ッ!!」
ライナさんの宣言により創世の竜騎士が黄金の鎧をガチャガチャと鳴らしながら剣を振りかぶる。白銀の剣はするりと容易く小天使テルスを両断し、小さな爆発と共にその姿を消した。
「小天使テルスが破壊された時、僕の場にテルスの羽トークンを1体、特殊召喚する!!」
《テルスの羽トークン》 攻撃力0 守備力0
テルスが破壊された爆発跡に一枚の小さな羽根が残っていた。
それは小天使テルスの置き土産。
僕を守るために残してくれた影だ。
「でしたら、私は創世の竜騎士の効果を発動いたします。このモンスターが相手モンスターを戦闘で破壊した時、デッキから最上級のレベルであるドラゴン族を1体墓地へ送ります。私はデッキからタイラント・ドラゴンを墓地へ」
創世の竜騎士が長剣を天に翳して光らせる。
その光は一筋の道となってライナさんのデッキに眠るタイラント・ドラゴンを墓地へと送った。
「では次はそのトークンと行きましょう。私はフェルグラントドラゴンで攻撃です。ブリリアント・ファング!!」
フェルグラントドラゴンが激しい咆哮を上げながら翼を羽ばたかせ始めた。吹いてくる風圧は激しさ増していく。1度目の攻撃と同じく、その鋭い牙で僕の場のトークンを破壊しようと言うのだろう。
それに対し、僕はその攻撃こそ待っていたと言わんばかりにリバースカードを発動させた。
「僕はこの瞬間、リバースカード バトルブレイクを発動! 相手モンスターの攻撃宣言時、そのモンスターを破壊しバトルフェイズを終了させる! ただし、このカードは手札のモンスターカードを見せることで無効にできる!」
「私に手札はありませんわ」
「なら、フェルグラントドラゴンは破壊される!!」
その巨大な羽ばたきは中断され、巨大な爆発がライナさんの場に起こる。黄金の竜がいなくなったことでフィールドの煌びやかさは抑えられ、随分とフィールドが見やすくなった。ライナさんの様子も見ることができる。
「それでは私のターンは終わりです、ふふふ…………」
「…………僕のターン、ドロー」
何が嬉しいのやら、フェルグラントドラゴンが破壊されたというのにライナさんは不気味なほどに余裕の笑みを浮かべている。
まるで僕が危機に四苦八苦している姿を楽しんでいるみたいだ。
まあ、彼女が何を考えているかはいいとして、今は小天使テルスのトークンを無事に残せたことを最大限に活用しないとな。
ライナさんの強力なモンスターであるフェルグラントドラゴンもいなくなり、彼女の手札もない今がチャンス。
ここで創世の竜騎士も破壊できれば、一気に場を優位に持って行ける!
「僕の場にテルスの羽トークンがいる時、墓地の小天使テルスと手札の魔法カードを除外することで僕の場にテルスの羽トークンを2体、特殊召喚する!!」
《テルスの羽トークン》 攻撃力0 守備力0 ×2
僕の場に既に召喚されているテルスの羽トークンに並ぶように、新しく小さな羽根が2枚、召喚される。
魔法カードを必要とするとは言え、1体のモンスターが3体分のトークンへと変われる小天使テルスは優秀な天使モンスターだ。
召喚されたトークンは生贄としても壁役としても、十分な活躍をしてくれる。
あとは次のターン、このモンスターたちを維持することができれば…………。いや、その前に創世の竜騎士の対処だ。まずはこのターンにできることをする!!
「僕はさらにトークンを生贄に捧げることで、手札から天空騎士パーシアスを攻撃表示で召喚!!」
《天空騎士パーシアス》 攻撃力1900 守備力1400
天空騎士パーシアス。馬の体に馬の首が本来ある部分は人の上半身が生えたギリシャ神話における逸話のケンタウロスを模した騎士。
天使族故かその聖性を表すためかケンタウロスの馬の部分は真っ白な白馬をしており、上半身の人間部分には鮮やかな青を成した鎧を纏っている。
可能ならばパーシアスをネオパーシアスへと進化させたかったが、それができない今僅かでも攻撃力が勝るパーシアスで優位をとるしかない!
「僕は天空騎士パーシアスで創世の竜騎士を攻撃!」
パーシアスが蹄を立てながら創世の竜騎士へと迫る。ライナさんの場にはリバースカードはない。順当にいけば戦闘で破壊されダメージと共にパーシアスの効果でさらに僕はカードを1枚引けるだろう。
そういう目算を立てながら攻撃したパーシアスだが、その剣が届く前に真っ黒な子ブタが骨であろうか、それを投げつけることでパーシアスの攻撃を阻害した。
「いまのは………っ!?」
「私は墓地からタスケルトンを除外しました。タスケルトンは墓地から除外することで攻撃を無効にできます。これでパーシアスの攻撃は無効になったのです」
「…………なるほど」
いつのまに、そう口に出そうになったのを噤み、僕は納得した。
ライトニング・ボルテックスにブラック・コア。手札を犠牲にして発動するカードを使っていたことを思えばタスケルトンを墓地へ送るタイミングは十分にあった。
「だったら僕はカードを1枚伏せてターンエンドだ」
「私のターン、ドロー!」
残念だ。創世の竜騎士、できればパーシアスで破壊したかったのだが、まさかリバースカードもない状態で防がれるとは思ってなかったな。
あとはこのドローでライナさんが何をしてくるか。それでこのターンの明暗が分かれるが、どうなるか………。
「私は手札を1枚捨てて創世の竜騎士の効果を発動! このカードを墓地へ送ることで墓地に存在するレベル7か8のドラゴン族モンスターを1体特殊召喚します!!」
「墓地のドラゴン族………フェルグラントドラゴンがまた出てくるのか!?」
「そう、私は墓地からフェルグラントドラゴンを特殊召喚!!!」
《フェルグラントドラゴン》 攻撃力2800 守備力2800
再びその威光を巻き散らす様に強烈な光と共にフェルグラントドラゴンが召喚された。創世の竜騎士を中心にオレンジ色の光の柱がうまれ、竜騎士が消えるとともにその柱の中から現れたのだ。
それを見た僕はバッと慌てて顔の前に腕で影を作りながらその姿を流し見る。
変わることのない黄金の鱗と陽光を受けて輝き放つ金色の光は相変わらず目に痛い。
じっと見つめることは危険なぐらいだ。
とはいえ一回は受けた金色の洗礼。二度も同じ轍を踏むつもりはない。冷静に対処すれば問題はないだろう。
「フェルグラントドラゴンが光っている?」
召喚されたフェルグラントドラゴンの体の節々から光が漏れている。
元から強い光を放っている竜だが、この瞬間は輪をかけて眩しい。
「フェルグラントドラゴンが墓地からの特殊召喚に成功した時、墓地にいる他のモンスターを対象として、そのモンスターのレベル分、200ポイント攻撃力が上がるのです」
「なにっ!?」
「私は墓地にいるタイラント・ドラゴンを選択。それによって攻撃力が1600アップ!!」
《フェルグラントドラゴン》 攻撃力4400 守備力2800
選択したタイラント・ドラゴンが炎属性だからだろうか。フェルグラントドラゴンの体から漏れていた光が赤く染まっていく。
巨大な咆哮をフィールド全体に轟かせながらその攻撃力を上げたフェルグラントドラゴンは鋭い牙を見せながら僕とモンスターたちを睥睨していた。
「攻撃力が……4400に…………」
「この攻撃力を受け止められるモンスターはあなたの場にはいませんね。仮に上がっていなかったとしても受け止めることはできませんでしたけどね」
「くっ」
ライナさんの指摘に眉根を寄せて歯噛みする。
彼女の言う通り、攻撃力が4400ものにもなったフェルグラントドラゴンの攻撃を受け止めることのできるモンスターはいない。
だけど…………。
「それでもまだ、僕は敗けないッ! リバースカードオープンーイタクァの暴風を発動! 君の場のモンスター全ての表示形式を変更する!!」
フィールドを暴風が襲う。
イタクァが運ぶ嵐は光輝さの具現のようなフェルグラントドラゴンにも通じ、その猛々しい体を屈ませ下ろさせた。
「これでもまだ倒せませんか。流石に少ししつこさを感じますね」
「そう言わないで欲しいよ。それにもうすぐ終わると思うよ」
「あら、その自信、勝算がおありということですか?」
「そう受け取ってもらって構いません。何にせよ、すぐにお見せしますよ」
「それは楽しみですね。では、見せてもらいましょうか。あなたの奥の手を。私はこれでターンエンドです」
ライナさんがターンを終える。
残されているのは守備表示になったフェルグラントドラゴン1体。攻守ともに高いステータスを誇るドラゴンは真っ当に超えようとしたならば困難を極めてかもしれない。
だが、僕の場にモンスターたちが残った。ならば、僕の勝利への道は決まった!
「僕のターン、ドロー!!」
カードを引いたその瞬間、三つの青い光が僕のモンスターたちを包み込んだ。
光はたちどころに1体のモンスターを形作りその姿を僕たちの前に現した。
「3体のモンスターを生贄に、The tripping MERCURYをアドバンス召喚!!」
《The tripping MERCURY》 攻撃力2000 守備力2000
白いマントをたなびかせ、水星が生んだ惑星のカードが召喚された。
宙に浮かびフェルグラントドラゴンを見下ろすMERCURYは2本のビームが伸びた剣をライナさんへと向けて敵意を露わにしている。
「MERCURYはアドバンス召喚された時、相手フィールドのモンスター全てを攻撃表示にする!」
鎌首を下げ守りに徹していたフェルグラントドラゴンがMERCURYの引力に引きずられるようにその上体を屹立させる。
MERCURYを優に超えるその巨体の竜は自らに命ずるがごとき不遜さを示すMERCURYを許さないように睨みつけている。
「フェルグラントドラゴンが攻撃表示に。これが……星のカードの力なのですね。しかし、攻撃力がまるで足りておりませんよ」
「問題ないさ。3体のモンスターを贄としたMERCURYの力の真価は相手モンスターの力の剝奪にある。MERCURYがいる限り、君のモンスターの元々の攻撃力は0になる!」
「それではッ!?」
「そうだ。奪い取れッ!! MERCURY!!!」
ニヤリと勝ち誇った僕が声をMERCURYに向けてかけたと同時にMERCURYの2本の剣がその蒼い輝きを増す。
苦しげな声を上げながらフェルグラントドラゴンの体から次々と光の粒子が生まれては離れていきMERCURYの剣へと吸収されていく。その一粒一粒の光がフェルグラントドラゴンの力の根源であるために、光の粒子が生まれ消えていった後には、元の光輝さが薄れた弱弱しい姿となった竜が1体残されていた。
《フェルグラントドラゴン》 攻撃力1600 守備力2800
「くっ、それでもまだ私のライフは残ります! このターンでは負けませんわ!!」
「MERCURYは1ターンの間に2度の攻撃ができる。ライナさんのライフが残ることはない!!」
「ッ!!」
フェルグラントドラゴンの攻撃力が減ったことでようやくライナさんの表情にも焦りが生まれてくれた。デュエルが始まる前から余裕の笑みを崩さなかったが、自分の敗北が見えてきたことの証だろう。
ライナさんの残りライフは2200。MERCURYの攻撃を1度は受け止めれるが、2度目は不可能だ。
僕は勝負を決めるべくMERCURYに向けて命令を下した。
「これで止めだ! MERCURYでフェルグラントドラゴンとライナさんに攻撃、
僕の攻撃宣言が言い終わらないうちにMERCURYは動き出していた。
一足飛びにフェルグラントドラゴンの眼前まで辿り着いたMERCURYが両手に握られた剣をV字を描くように上から振り抜く。
一瞬の間に切り裂かれたフェルグラントドラゴンが破壊され爆発が起こる前に次の一瞬にはライナさんの前にまで飛んでいたMERCURYがその蒼い光線が突き出た剣で彼女が反応をする間もなく彼女の心臓を貫いていた。
「あっ…………」
小さく呟かれた声が、彼女に残されたライフと共に虚空へと消えていく。
瞬きの間に行われたMERCURYの連撃に呆然と立ち尽くした彼女は目線のみを自らの心臓へと向かわせ、そしてフッと敗北を悟ったようにデュエル前と変わらない柔らかな笑みを浮かべた。
《ライナ》 残 LP 0
フェルグラントドラゴンの見た目は好き。黄金色のドラゴンってだけで格好いいよね。