異世界編、第1章開幕。
可能な限り細かいことはいいの判断でサクサクと話を進めていきます。
世界が燃えている。
黒煙は高々と天高く立ち昇り、空一面を赤黒く染め上げている。
木々を焼き尽くしている炎は時を追うごとにその勢いを増し、次々と森全体へとその熱を波及させていく。
煌々と燃える炎は生命の生存を許さない。
逃げ惑う多くの命をその熱と煙が冥府の中へと誘っていく。
そんな赤黒い灼熱の世界で僕は1人、デュエルディスクを構えて対面する存在とデュエルをしていた。
対峙するのは僕の身長を優に超える3mはあろうかと思える巨人。
詳細はわからない。黒く塗りつぶされたその何者かは闇に包まれているかの如くその正体を明かさない。
『──!!』
巨人が腕を振り上げる。
それを合図に巨人の前に佇む巨大なナニカが閃光のような熱線を放ち大地と炎を滅却しながら突き進んでくる。
僕の命を奪い去ろうとするその熱線により赤く溶解した大地に倒れ伏した僕を無慈悲な黒い太陽が見下ろしていた──。
*
瞼を貫いてくる光を煩わしく感じながらそっと目を開く。
どうやら眠っていたらしい僕に燦々と照りつける太陽の明かりが突き刺さってくる。
その直視するには痛みすら感じる眩しさに手を翳して遮りながら僕は寝起き頭の薄ぼんやりとした意識のままに、周囲を見渡した。
「?」
最初に思ったのはここはどこだろうという純粋な疑問だった。
感じるのは鼻の奥からツンと来るような強く深い自然の香り。地面の上に仰向けに寝転んでいたようで手のひらには土の感触がある。
僕は一度瞼のカーテンを下ろしてここにいる経緯を思い出そうとした。
(僕は確か…………三沢くんに呼ばれた島でライナとデュエルをしていたはず。それで…………)
意識を失う直前の記憶の糸を辿るように、僕は一つ一つの出来事を掘り起こしていく。自分の記憶の中の一瞬一瞬の光景が次々と巡っていく中で、僕は最後に見た光景を思い出した。
地震と巨大な光の中で消えていく三沢くんと、そして愛理ちゃんの姿を──。
「そうだッ! 愛理ちゃんはッ!!」
がばっと飛び起きるように起き上がった僕は忙しなくもう一度周囲を見渡し、自分以外の誰もいないことを確認した。
周囲一帯の光景は片側は木々が乱立する森とそれを境目としてどこまでも続いてそうな草原。
涼やかな風が吹き抜ける。
草原に伸びた草花を揺らし、僕の頬を撫で、木々をざわつかせながら森の中へと吹き抜けていく。
「だれも………いない。ここはいったい…………どこなんだ?」
不明な地。
不明な空。
黄金色にも見える太陽が天上から大地を見下ろしている。
「…………?」
どこが、何が…とは言えないが違和感を感じる。
17年間生きてきた中で浴びてきた太陽とは何かが違うような…………。
「まあ…いっか。それよりもどうしようか」
僅かに滲み出ている違和感を頭の隅に追いやり、途方に暮れる。
右を見れば奥の見えない深き森。
左を見ればどこまでも続く青空の下に広がる草原。
道は二つに一つだけ、土地勘のない僕には、どちらに行けばより愛理ちゃんや三沢くんと出会える可能性があるのかさっぱりわからない。
ただまあ、森の中を彷徨うよりは見晴らしのよい草原の方がまだ安全かと身体を草原の方へ向けた時、後ろから肩を誰かに掴まれた。
「お前が行くのはそっちじゃねえよ」
「!?」
突然の声に振り向く。
そこには半眼に目を細め森へと目を向けたヒータの姿があった。
「ヒー……タ?」
「おう、ようやくお目覚めのようだなコナミ」
そこにいたのは間違いなく火の霊使いの1人であるヒータだった。彼女は赤い髪を風に靡かせ快活な笑みを見せながら僕の肩を掴んでいる。
僕は驚いていた。
彼女がここにいることではない。そんなことでは驚かないし、僕のデッキの中に基本的にはいる彼女が突然僕のそばに現れてもまったく不思議なことではない。
というか割と頻繁に好き勝手カードから出ていってるから知らぬ間に彼女が今僕の背後に立っていたとしても本当に驚くことではないのだ。
では僕が何にとても驚いているかといえば、それは彼女の手が明確な形として、その体温まで感じる状態で僕の肩をグッと掴んでいることだった。
それは僕の認識ではありえないことだった。
彼女はカードの精霊であり、その実体を保っていたのはもう随分と前のこと。僕に負けたことでクリスタルの恩恵を失った彼女は人の世界で活動するための実体を失い、純粋な精霊の戻ったはずだったのだ。
そして、僕に触れるような実体を持つ手段があるとは聞いてはいない。
故に僕は僕の肩に当たり前のように置かれた彼女の手に間抜けにも大口を開けて酷く驚愕していたのだ。
「おい、何をそんなに固まってやがる。あたしの顔になんかついてんのか?」
「えっ、いや……えっ?」
何度もヒータと彼女に掴まれている肩を見直す。
何度見ても、そこから感じ取れる事実は変わっていない。
その事実から導き出される結論はただ一つ。理由は不明だが、彼女は実体を持ってここに立っている。
それだけは厳然たる事実として、動揺の中でも認識することができることだった。
「ヒータ……その手……」
「あぁ? ……あー何にそんな驚いてんのかって思ったがそういうことか。おう、見ての通りだよ」
僕の表情から訝しげな目を向けていたヒータだったが、訳を悟ったからだろう。
得意げな顔を浮かべて口端を吊り上げた。
「ははは! そんな驚くなよ! ちぃっとばかしお前に触れただけだぜあたしは」
「いやいや、コナミの反応は自然だよヒータ。誰だって精霊であるボクたちが突然触れてきたら驚くに決まっている」
僕の反応を面白がるヒータの隣にアウスが光の粒子と共に現れた。
彼女もまたヒータと同じように実体を持っているようで、以前のように身体が透き通ってもいなければ、その向こう側の景色が見えていることもなかった。
目をぱちくり瞬かせながらヒータに続いて現れたアウスに思わず手を伸ばす。
この目で見えているものが真実か無意識に確かめようとしたものだったが、その手がアウスの頬に触れようとしたその瞬間──。
「いてっ!?」
それを咎めるように、ヒータに後頭部を叩かれた。
「ボケっとしてんなよ。触れられるかどうかなんて見りゃわかんだろ?」
「そうだけど、なにも叩かなくても…………」
「まあ、君の動揺はもっともだ。ここがどこで、ボクたちがなぜ君に触れられるのか。今君の頭の中にある疑問はそんなところだろう」
訳知り顔で僕の中に生まれている疑問を当てるアウス。
勝手なイメージだが、僕の中では霊使いの中で特に頭のいいというイメージが彼女にある。眼鏡をかけた知的系な女の子の印象があるからだろうか。
彼女なら、僕の中の疑問も、それ以上のことも教えてくれるかもしれない。
僕は強く頷いて彼女から僕の中にある疑問の答えを聞く心構えをした。
「ふむ、まず一番聞きたいことであろうことから説明をしようか。ここがどこかのか。その答えは簡単だ。ここは精霊界。ボクたち霊使いが生まれた世界であり、多くの精霊が生きる精霊たちのための世界だ」
「…………」
人差し指を立てて答えるアウス。
僕はそれに対して一度周囲を見渡し、なるほどと得心が言ったように頷いた。
今この場に立っている世界がアウスたちの生まれた精霊の世界であること。それは半ば、彼女たちを見たことで可能性として予想していたことであった。
だから、驚きはあっても驚愕するほどではない。ヒータやアウスが実体を持っていることや、光に呑まれる瞬間に愛理ちゃんが発していた言葉から多少落ち着いた今、それを受け止めることができていた。
付け加えるならば、僕が上空に天高く浮かぶ太陽に違和感を感じていたのも、それに起因することなのだと思う。
世界そのものが違うのだ。世界を照らす太陽も僕たち人間の世界のそれとはきっと別種のものに違いない。
何がどう違うかは説明できないが、きっと僕の中にある感覚が、本能的に違うものだと認識したのだろう。
「その顔、ここが精霊の世界だと言うのは察していたようだね」
「うん。まあ察してたっていうより、落ち着いて考えたらそうなのかなって思っただけだけどさ。この世界が精霊の世界なら触れ合えるのも納得できるしね」
「なら、今の状態については説明はいらないね」
「うん、でも愛理ちゃんたちがいないんだ。同じ光の中に包まれた以上、たぶん愛理ちゃんや三沢くんもこの世界に来てると思うんだけど………」
ライナのクリスタルを手に入れ、プラネットモンスターのカードがあと1枚というところまで来た瞬間に光の柱が現れてこの世界に来たのはきっと偶然ではない。
あの光の柱が何だったのかはわからないけれど、僕が光と共に精霊の世界に来た以上、きっと愛理ちゃんと三沢くんもいるはずだ。
だけど、見渡す限りの場所に人影はない。
この近くにいないと言うなら早く探しに行かないと。最悪愛理ちゃんは生まれ故郷だろうしこの世界についていろいろと知っているだろうから自分で何とかできる可能性はあるんだけど、三沢くんに関しては完全に未知の状況のはずだ。
僕のようにアウスやヒータたちはいない上、予め精霊の世界に呼ばれるときが来ると聞いていたわけでもない。
三沢くんの傍にはピケルがいるとは思うけど、僕はあまりあの娘については知らないし、この世界でどこまで頼れる存在なのかも…………。
それを考えたら、すぐにでも三沢くんを探しに行かないといけない。
「エリアについては多分大丈夫だろうよ。根拠はねえが、そう遠く離れたところにはいないと思うぜ。それにどうせ向かう先も予想できる」
「そうだね。特に森が荒れている様子も騒がしい様子もない。大賢者様が予言したような世界の危機的な事態にはまだ陥ってはいないはずさ」
2人が森の方角を見ながら話し合う。
やはりヒータもアウスも草原ではなく森の方を気にしている。あの森の奥に、彼女たちが知る何かがあると言うことだろう。
「あの奥にはね、私たちの里があるんだよ!」
「うぉっ!?」
僕が二人につられて森の奥を見つめていると僕の背中におぶさるようにウィンが笑顔で現れた。
彼女は真っ直ぐと森の奥へと指を差しながらブラブラと体を揺らしている。
「ウ、ウィン!? 突然乗っかられると驚くから! 降りてくれない?」
「うん! じゃあ行こうッ!!」
「いや、行こうって、君たちの里があるっていうならまあそうするけど……とりあえず降りようか」
「うん! 行こうッ!!」
僕の抗議に聞く耳を持たず、大変なテンションで森へ進もうと急かすウィン。
体重をかけられていることもあるけれど、ちょっと重い。そして故郷に帰ってきたからかやけにテンションが高い。高すぎる。
僕は心配もあってそこまで元気にはいられないんだけど、この元気さには少しだけ救われもする。ちょっと耳元で騒がれるのは煩いけれど。
僕は一向に背中から降りようとせずブラブラと体を揺らしながら早くー! と言う彼女に苦笑いを浮かべながらどうすべきかとヒータとアウスに目を移す。
「ウィン、はしたないよ」
「いいじゃねえか。最初に行く場所は決まってるんだ。ここで突っ立ってても仕方ねえだろ。エリアと三沢の奴を探すにしてもあたしたちの里に行くのが1番いい」
「……そうだね。それじゃあコナミ。ボクたちが先を歩くからそれについてきてくれ」
先導するように前を歩き出した2人に続くように僕はウィンを背負いながら森の方へと歩き出した。
*
そうして森を目指して草原を歩いて暫し、10分くらいだろうか。僕らがその森の木々の枝の一つまで認識できるほど近づいたとき、森の奥からスピーカーから流れているような声が響いた。
「──何者ダ! 止まレッ!!」
怒声にも似たその声に驚いた僕たちはピタッと足を止めた。
「許可なき者を森に入れるわけにはいかないイ! 何の用でこの森に侵入するつもりダ!」
「…………許可だあ? おいおい、いつからこの森は許可制になったんだよ?」
前を歩いていたヒータが眉根を上げて訝し気な声を上げる。その気配から少しだけな不穏な気配を感じる。今から懐かしい故郷に帰れるぞって気持ちに水を差されたからだろう。
そしてそれは僕の背におぶさっているウィンも同じ、う~と呻きながら苛立たしそうに歯ぎしりしている。
「許可なき者をいれることはできなイ、去レッ!!」
「ざけんな! あたしたちはこの先に用があるんだよッ!!」
「去らないと言うなラ、デュエルで排除すル!」
その言葉と共に木々の上から機械でできた人型のモンスターが降ってきた。
その腕にはデュエルディスクが、僕たちの前に立ちふさがるように構えている。
「マシンナーズ!?」
「どうしてこの森に機械族が………ここはボクたち魔法使いの里に続く森のはず…………!?」
僕たちの前に現れたモンスターはマシンナーズ・ギアフレームだった。
機械族のモンスターで、同じ名称のマシンナーズたちを複数呼ぶことで真価を発揮するモンスター群。
森に入るのに許可がいると言うのもそうだが、その機械族である彼の登場にも予想外であったのだろう反応をアウスたちはしている。
「くっ、どうしたらいい!?」
何も知らない僕はこのままデュエルを受けていいのかどうかもわからずアウスとヒータを見る。背中のウィンは怒りを滲ませているマシンナーズが怖いのか首を竦めて沈黙している。
「里を離れている間になにか変わったことでもあったのか。事情を知らない以上、一旦引くことが賢明だと思うけど」
「冗談じゃねえ。てめえの里に入るのに許可なんざ求めていられっか。おいコナミ、デュエルの準備だ。ウィンもいい加減降りろ!!」
チラリとアウスを目を合わせる。
ヒータの言葉に従ってデュエルを受けてもいいかと思い見たものだったが、彼女は僕の判断に任せるとその瞳に乗せて言っていた。
「僕は早く愛理ちゃんと三沢くんを見つけないといけなんだ。こんなところで足踏みなんてしてられないッ! デュエルだ!!」
ウィンを降ろして僕はディスクを構える。
賢いやり方をするならここは引くのが正しいのかもしれない。しかしそんな悠長なことをしている間に二人がどうなっているか…………。
僕は押し通ってでもこの森の先にあると言う里を目指すことに決めた。
そんな僕の意を受け取ったマシンナーズもまたより敵意を強くして構え、そしてデュエルが始まった。
「「デュエル!!」」
そんな僕の姿を黄金の太陽が見下ろしてた──。