最近気力と文章が迷走してる気がする。
白い雲が暗い闇色に消え、星が夜空の中で瞬いている時間。話に聞いていた愛理ちゃんたち霊使いが生きる精霊界。
その世界に存在する森の中に張られた結界内の里、彼女たちが言うには魔法使いの里にある木造仕立ての一軒家で僕と三沢くんは睡眠の準備をしていた。
「まったく、今日は驚かされることばかりだったが、まさかお前が勇者だなどと呼ばれているのには特に驚かされたな」
「……三沢くん、それ何回言うつもりさ。言ってなかったのは悪いと思ってるけど、そんな当てつけみたいに言わなくてもいいでしょ」
僕たちのために用意をしてくれたらしい柔らかなマットの上に毛布を敷きながら文句を垂れる。
しかしそれにこそ不満だと言うように三沢くんも口を尖らせている。
「いや何度でも言わせてもらうぞ。愛理くんの魂が精霊エリアのものだったと言うこともそうだが、諸々含めてお前たちが抱えていることを明かすタイミングなぞいくらでもあっただろう。そこまで俺は信用されていなかったとはな。残念でならないな」
怒ったように大きく吐き捨て、首を振りながらため息をつく三沢くん。
そんな彼に僕としても隠すようなことはせず、あらかじめ明かしておくべきであったと言う気持ちがあるゆえに、強く反論することもできず誤魔化すように事情を説明する。
「信用してなかったわけじゃ。まさか巻き込むことになるとは思ってなかったからさあ」
「それでも相談の一つもして欲しかったものだ。これでも子供の時からの付き合いだったのだからな」
「……ごめん。悪かったとは思ってる」
ささくれ立っている彼にはどんな言い訳も意味をなさないだろう。素直に謝る以外できることはない。
目を伏せながら謝る。確かに1番付き合いが長い三沢くんだ。そんな彼に秘密を打ち明けていなかったことに不満を抱くのは当然。逆の立場でも似たような気持ちを僕も抱いただろう。
これに関しては全面的に僕の方が悪い。そう思い素直に謝る僕を見て反省している気持ちが伝わってくれたのか、三沢くんは落ち着けるように息を吐きながら流してくれた。
「ふう、まあいい。話してくれていたとして、簡単に信用できる内容でもなかったしな。それよりもだ、これからどうするかが肝心だ。方針は決めているのか?」
「方針と呼べるものじゃないけど、とりあえずは大賢者さんの指示に従って隣にあるって言う魔法都市を目指すつもりだよ」
愛理ちゃんたちとの出会いの後、大賢者さんと話し、世界の危機というのがもう間近まで迫っているらしいと聞いた。
そして、それに対抗するために森から少し離れた場所に作られているという魔法都市の協力を取り付けてきてほしいというのだ。
これまでは根拠が大賢者さんの予言だけということもあり、消極的な姿勢だったらしいが、実際に勇者として僕が呼ばれたことを知ればその重い腰を上げてくれるだろうとのことだった。
「大賢者か。信用していい相手なのか?」
「……どういうこと?」
僕の明日からの考えを聞いた三沢くんが周囲への若干の警戒を滲ませた声で聞いてきた。
「お前、あの大賢者と名乗るご老人を妙に探るような目で見ていただろう。お前が初対面である相手にそんな視線を向けるのは珍しいのでな」
「よくわかったね。そんなにわかりやすかった?」
「いや、なんとなくな。長い付き合いだからわかったようなものだ。相手には悟られていないと思う」
そうか、それならよかったと安堵し肩を落とす。大賢者さんが本当に敵なのかどうかわからない今、警戒していると思われたくはない。
長い付き合いの三沢くんだからわかるレベルだったというなら多分大丈夫だろう。
「どうにも、VENUSやヒータが何か企んでるんじゃないかって疑ってるんだ。僕を探した根拠が予言だけっていうことが気にかかるらしいよ」
「なるほど。敵である確証はないが、その行動に整合性が伴わない部分がある。そんなところか。ならば、多少の警戒心は持ってしかるべきだな。味方だと判断するのは早計か」
得心が言ったように頷き彼の中での大賢者さんへのスタンスを決めていく。僕はそう言えばこれもあるんだったと思い、付け加えるように言った。
「うん、それからプラネットモンスターをすべて集めた時に起こる何かが狙いなんじゃないかってことも疑いの一因みたい」
「何か?」
「うん、なにか」
プラネットモンスターは全部で10枚。あと1枚だが、それが集まった時に起こる何かはいまだにわからずにいる。
僕にプラネットカードを集めさせたことと言い、霊使いの皆の元に多くのプラネットカードが渡ったことと言い、まるでこうなるところまでが決まっていたかのような感じだ。
そこに大賢者さんの意思が入っていたかはわからないけれど、もしそうならば、やはり彼の狙いは世界の救済などではなくプラネットカードそのものだったと言うことだろう。
「プラネットカードか…………。まだ言っていないことはあるか。あと出しはごめんだぞ?」
「あとかあ。だいたいのことは言った気がするけど………あっと、そうだ。愛理ちゃんに僕たちが大賢者さんに対して警戒心を抱いてるってのは秘密でお願いね」
「ああ、それはわかっている。彼女にとってあのご老人は随分と好ましい存在だと見ていて分かった。あまり風聞しない方がいいだろう」
「そうだね。少なくとも愛理ちゃんがいる場所では大賢者さんの味方って感じで話すのがいいと思う」
「ああ。そうしよう。そうでなくとも、里の人たちから無意味に警戒されたくはない。根拠が見つかるまでは味方のスタンスでいくべきだ」
毛布にくるまりながら、これからのことを相談し合う話し合いは続いていく。
この世界のこと、人との世界との差異について三沢くんの見解を聞きながら僕は「あっ!」と思い出して三沢君に伝えていなかったことがあることを思い出した。
「………その様子。まだ言ってないことがあったな」
「忘れてたよ。このクリスタル、小学生の誕生日の時に愛理ちゃんから貰ったやつなんだけどさ、この中に霊使いの皆の力があるらしいんだよ。なんでも精霊を見たりする恩恵を与えるためらしいんだけどさ」
僕は胸元から取り出したクリスタルを三沢くんに見せる。
本来はクリアな透明であったであろうクリスタルの内部には6色の光が踊るように回転しながら動いている。
「これか………なるほど、光の色が属性を表しているのだな」
「うん。今はもう実体を失っているけれど、人として生まれ変わった愛理ちゃんは別として他の皆は同じようなクリスタルに宿った力のおかげで人間界でも実体をもって活動ができていたみたい」
「実体をもって………………俺にお前への手紙を渡すようお願いしてきた少女か!」
思い当たる節があるのか、三沢くんが何かに気づいたように顔を上げた。三沢くんが知ってるとなると………アカデミアに入学して間もない時のアウスのことだな。
「そっ、なんでもこの世界に僕を呼ぶときの発見器にもなってるんだってさ」
子供の頃に愛理ちゃんに説明されたことを思い出しながら三沢くんにも伝える。
たしかあのクリスマスデートの日に、僕が愛理ちゃんのお願いに応えて勇者になると決めたことで受け取ったんだったな。
いやはや、それを思うと随分と時間がかかったもんだなあとしみじみ思う。小学6年の頃からだから大体5年半くらいか。
当時はいつこの世界にくることになるかわからないってことで戦々恐々としていたけれど、老人になる前に呼ばれてよかった。個人的にはもう少し穏便に呼ばれたかったけどね。
「なぜわざわざ実体を持つ必要があったんだ?」
「そりゃあ僕が精霊を見る力がなかったからだと思うよ。それにデュエルを挟む必要があったとかで」
「ふむ、そうか。一応理由はあるのだな。なら、いいか」
三沢くんはどこか引っかかるところでもあるのか、首を傾げながらも僕の説明に納得をしたように頭を枕に落とした。
「とりあえずこれで僕の知ってることはだいだい全部だね。あとはもう明日以降に調べていくしかないよ」
「そうだな。なら、早いとこ眠るとしよ……ぅ」
「三沢くん?」
返事がない。隣を見ると毛布にくるまった三沢くんは寝息を立てている。もう眠ってしまったようだった。
疲労や突然のことへの心労もあったのだろうけれど、凄まじい速さの睡眠だ。
「……寝よっか」
素早く眠りについた三沢くんを追うように毛布にくるまり目を閉じる。
精霊界という未知の世界に来たことの興奮と好奇心が睡眠を阻害するかもと思っていたが、僕自身相応に疲れていたのだろう。
自分が思っている以上の早さで僕の意識は闇の中へと溶けていった。
*
翌朝、里の人たちが用意してくれた朝食を食べた僕たちは里の出入り口で立っていた。
「それじゃあ大賢者様、私たち行ってきます!」
「うむ、魔法都市の協力が得られれば心強い味方となる。勇者を探してきてもらった上にさらにこのようなことまで頼むのは心苦しいが、頼んだぞエリア」
「はい! 必ずコナミくんと一緒に成し遂げてきます!!」
里に戻ってきたからか、いや、それ以上に敬愛している大賢者さんと再会できたことが嬉しいのだろう。朝からすごいハイテンションの愛理ちゃんが大賢者さんと話している。
それを見ながら三沢くんと2人、目を合わせてやはり愛理ちゃんの前で大賢者さんへの隔意は表面に出さない方がいいなと心を合わせた。
「勇者よ。魔法都市との協定は君の尽力にかかっていると言っても過言ではない。あまり気負う必要はないが、頼んだぞ」
「はい、何をどこまでできるかわかりませんけど、僕にできることなら頑張ってきます」
「魔法都市への道案内はアレイスターが同行してくれることになっている。あやつの案内に従えば迷うことはない」
大賢者さんと話しながら周囲を見渡すが、案内をしてくれるというアレイスターさんが見当たらない。
周りにいるのは僕と一緒に来てくれるらしい愛理ちゃんと三沢くんだけであり、眼鏡に水色の髪が特徴のアレイスターさんはいなかった。
因みにアウスやヒータたちはカードの中に戻っている。
カードから現出していても無駄に大所帯になるだけだって言って僕のデッキに収まってくれているみたいだった。
「おーい! こっちだよー!」
と、どこからか声が響いてきたのでそちらに目を向けると、鞍のついた緑色の毛が生えた巨大なアヒルが4匹。手綱を引くアレイスターさんと一緒に歩いてきていた。
「あれは……音速ダックか!」
「私たちの里で飼っているの。移動手段として便利なのよ」
「へー! 僕こういうの初めて乗るよ!」
そばまでやってきた音速ダックに近づいてマジマジと見つめる。僕の身長より一回りは大きい身体はその背中に僕を乗せてもスイスイと走ってくれるであろう強壮さが見てとれる。
「魔法都市まで距離があるからねえ。歩いて向かっていたら10日以上かかってしまう。しかしこの音速ダックならのんびり走っても僅か数日もあれば到着できるのさ」
「なるほど、俺たちの世界でいう馬のような立ち位置にいるということか」
アレイスターさんの説明に三沢くんが頷きながら音速ダックを観察している。「へー」と、僕も音速ダックはすごいんだなあと思いながら、それでも数日もかかる距離にあるんだとその距離に冷や汗をかいた。
「この音速ダックって初めてでも安定して乗れるものなんですか?」
「大丈夫よコナミくん。手綱をしっかり握って慌てなければ暴走することはないわ。不安なら私が教えてあげる」
「わかった。要は焦らず慌てず、だね」
「うん、頑張って」
生き物に乗るという初体験。若干の緊張をはらみながら鞍に跨ろうと四苦八苦し、苦戦する僕を見かねた僕に愛理ちゃんが手本を見せることでなんとかなることに成功した。
そうして苦闘しながらも跨った音速ダックの羽毛は想像以上にフワッと僕の身体を受け止め、多くの魔法使いを乗せてきたのだろうそのどっしりとした筋肉は僕を乗せても微塵も重みを感じていないようだった。
「お、おお〜!」
「どうだい、ダックの乗り心地は」
「こう、生き物に乗るって初めてなんですけど、想像以上に安定しますね。もっとぐらぐらっとするかと」
勢いをつけて鞍に跨った際の衝撃も重みもものともせずにまるで微動だにしない音速ダック。僕はその安定感に驚きと感嘆が籠った声を上げる。
音速ダックは背中に乗られることは慣れているのだろう。どこ吹く風のように涼やかな顔をしている。
「その様子なら少し練習すればすぐに走ることもできそうだね。エリアは当然として、三沢くんも……大丈夫そうだね」
「ええ。俺も問題ありません。落ちる心配はないと思います」
十数年以来とはいえ、乗り慣れている愛理ちゃんは僕や三沢くん以上の安定感でダックに跨り、僕たちを待っている。
三沢くんも最初はあたふたとなれない乗り物に苦戦していたが姿勢を保つコツを掴んだのか、時折ふらつきそうになるも、安定して乗ることができていた。
「よーし、行こうッ! 目指すは魔法都市だ!!」
それを見て、手綱を森の方向へ動かし音速ダックの顔を外へと向ける。
向かう先は自然に回帰したようなこの里とは真逆であるらしい魔法により発展したらしい巨大都市。
「おいっ、先に行くなコナミ!!」
「一人じゃ危ないわ!!」
「おっと、勇者くんに置いていかれないよう私たちも急がないとね」
未知なる世界での冒険。それが齎す興奮と高揚に逸る気持ちに身を任せ、前のめりに走り出した音速ダック。背後から聞こえてくる静止の声も勢いを増して走り出した僕には聞こえない。
風を切り、黄金の森を進む僕たちの遥か先の空には、大きな入道雲が流れていた──。
必要か必要ないかで言えばなくても困らない話だった。書けた以上は出すけどね!