穏やかな風が吹き抜ける自室で横になりながら執筆するのは気持ちがいい。
「私の先行、ドロー!」
魔法都市エンディミオンの王様、神聖魔導王エンディミオン王とのデュエルが始まった。玉座の前に立ちカードを引いた王様は見るからに魔法使い族。
精霊は基本自らと同じ属性か種族、或いは自身をメインのカードに据えたデッキを使うと以前ヒータから聞いたことがある。そのため恐らくこの王様が使うデッキタイプは魔法使い。それも見るからに強力なカードだとわかる自身をエースに据えたデッキだろう。
まずは1ターン目、王様の戦術を見なければ…………。
「私は手札からフィールド魔法 魔法都市エンディミオンを発動する!」
王様が発動したフィールド魔法によって、王様を中心に石造りの謁見の間に二重の魔法陣が広がる。周囲一帯の風景そのものが変わることはなかったが、その魔法陣がフィールド魔法が発動している証拠となっていた。
「私が治めるこの都市を象徴するカード。それがこのフィールド魔法である。このカードが存在する限り、お互いに魔法カードを発動するたびにこのカードに魔力カウンターが1つ乗る。そしてそのカウンターは私がカウンターを必要とするカードを発動する際に代わりのカウンターとして扱えるのだ」
「つまり、カウンター増強カードってことですね」
王様の説明を聞きながらそのデッキの特色を読み取る。フィールド魔法の効果から魔力カウンターを多用するデッキに違いない。
カウンターを取り除くことで効果を発動するタイプのデッキとはこれまでにも幾度か戦ったことはあるけれど、どれも一筋縄ではいかないカードばかりだった。
一つの都市を治める王様程の精霊。その力はカウンターを使用するこれまで戦ってきたどのデュエリストよりも強い。その心構えで戦った方がいいだろう。
僕はまだフィールド魔法を発動されただけであるにも拘らずに王様の発する威圧感に息を呑み緊張していた。
立ち会っているだけで圧倒されそうになる王様のその存在感。それに気圧されないために強く心を保っていなければならなかった。
「そして手札から魔法カード 魔力掌握を発動! このカードにより魔法都市エンディミオンにカウンターが一つ乗り、さらに魔法カードが発動したことにより魔法都市自身の効果でもう一つカウンターが乗る!!」
「1枚で2つのカウンターが!」
「さらに魔力掌握はデッキから同名カードを手札に呼び込むことができる。私は手札に魔力掌握を手札に加える!!」
「なにっ、サーチ効果まで!? 発動して一気にカウンターを貯めるのか!!」
魔法都市エンディミオンにカウンターが2つ乗ったことで魔法陣の描かれた2文字が赤く光を放ち始める。それは1枚のカードにより2つカウンターが乗ったということであり、さらに手札に加わった魔力掌握により1ターンに4つ、或いは6つものカウンターを乗せてくるのかと驚愕したが、その心配は杞憂に終わった。
「いや、魔力掌握を発動できるのは1ターンに1度のみ。手札に加えたこのカードの発動には次のターンを待たなければならない。同ターンに二度の発動はできない」
「ターン1の制限付きのカードというわけですか」
先行1ターン目から大量のカウンターが乗せられることはない。その事実にほっと安堵の念を憶えるが、持続的に2つカウンターが乗せられる事実に変わりはない。
可能な限り、カウンターが多く乗る前に勝負を決めたいところだった。
「私は手札から魔導騎士ディフェンダーを守備表示で召喚! このモンスターが召喚された場合、このカードに魔力カウンターを1つ置く。そしてカードを2枚伏せて、ターンエンドだ」
《魔導騎士ディフェンダー》 攻撃力1600 守備力2000
「僕のターン、ドロー!!」
赤い水晶玉が中心に付けられた縦型の巨大な楯を持った重装甲の騎士。見るからに守りの固いモンスターに、今はカウンターが一つ乗っているためその楯の赤い水晶が光っている。
このタイプのモンスターの効果は予想できる。恐らくは破壊から身を守る系統の効果を有しているに違いない。
「僕は手札からE・HERO エアーマンを攻撃表示で召喚! 効果によりデッキからE・HERO ブレイズマンを手札に加える。そして魔法カード HERO’Sボンドを発動! 僕の場にE・HEROがいる時に発動ができ、手札から2体のHEROを特殊召喚できる。僕は手札からブレイズマンと──」
「その発動に対し、私は対抗魔術を発動! 魔法都市エンディミオンのカウンターを2つ取り除くことで魔法カードの発動を無効にする!!」
「カウンタートラップッ!?」
魔法都市の魔法陣から2文字光が失われる。それと同時に僕が発動したHERO’Sボンドが魔法陣の効力によりかき消されていく。
このターンで王様を守る魔法騎士ディフェンダーを倒し、場を開きたかったんだけどブレイズマンを出せなくなった以上、それはもうできない。
カウンターを稼ぐ時間を与えたくない自分としては、初ターンからデュエルのイニシアチブをとりたかったんだけど、失敗に終わったな。
「エアーマンじゃあ、ディフェンダーは超えられない。なら僕はカードを1枚伏せる。そしてターンエンドです!」
エアーマンでは守備力が2000の魔法騎士ディフェンダーに攻撃することはできない。いや、仮に破壊できる攻撃力にあげれたとしても恐らくは破壊はできなかっただろう。
魔力掌握でカウンターを増やせる体勢を整えている王様に安易にターンを回したくはないのだけれど、ブレイズマンを出せず、初手のプランを潰された今無理に動くことは敗北につながりかねない。ここはおとなしく様子を見ることにしよう。
「ならば私のターン、ドロー! 私は手札から魔力掌握を発動! 魔法都市エンディミオンにカウンターを乗せ、デッキから魔力掌握を手札に加える!!」
当然わかっていた流れとしてカウンターが2つ置かれる。
カウンターを消費するカードの量としては十分な数を溜められたと見るべきだろうか………。
「さらに私は手札から魔力統轄を発動! デッキからエンディミオンと書かれたカードを手札に加え、私の場と墓地の魔力掌握、魔力統轄の数だけ、魔法都市エンディミオンにカウンターを乗せる!!」
「場と墓地の枚数分!? まずい!」
魔力統轄──魔力掌握とは違う、恐らく王様自信の専用サポートであろう魔法カード!
場と墓地の魔力掌握と魔力統轄の数ということは、1枚で一気にカウンターが乗ってしまうと言うことだ。
その上専用カードをデッキからサーチする効果まであるなんて。これはかなり嫌な予感がプンプンするな。
「私が魔力統轄により手札にもってくるのは神聖魔導王 エンディミオン!!」
「王様自身か!」
「神聖魔導王 エンディミオンは魔法都市エンディミオンのカウンターを6つ取り除くことで特殊召喚することができる。私はカウンターをすべて取り除くことで私自身を特殊召喚する!!!」
「くっ、僅か2ターンで条件を揃えたってことか」
《神聖魔導王 エンディミオン》 攻撃力2700 守備力1700
王様の前に王様と全く同じ姿の漆黒の壮麗な鎧に長杖を手にした最上級魔法使いが召喚される。カウンターを6つも必要とすることで特殊召喚されるモンスター。そんなモンスターが弱いはずがない。
きっと、高いステータスのほかに強力な効果がある。専用カードにそのサポートを駆使することでこんなにも早く召喚してくるなんて、想定していたけれど王様だけあって強い。簡単に勝たせてもらえそうにないね。
「神聖魔導王 エンディミオンは魔法都市のカウンターを取り除くことで召喚された際、墓地から魔法カードを1枚回収できる。私は魔力統轄を回収する。さらに手札から魔力掌握を捨てることで相手の場のカード1枚を破壊できる。私は君のリバースカードを破壊!!」
「──くぅッ!?」
手札から捨てられた魔法カードが魔力に変換されるように、エンディミオンの杖の先端に繋がれた紫紺色の宝玉に煌々とした光が生まれ、やがてそれは眩い一条の稲妻となって僕の場に降り注がれた。
「さて、これで君のモンスターを守るカードはなくなった。私は私自身でエアーマンを攻撃──ストーム・オブ・エンディミオン!!」
「ぐぅううううッ!!」
《コナミ》 残 LP 3100
リバースカードを破壊した電とは違う。歯向かう敵を一掃するというような嵐がエンディミオンを中心に巻き起こる。それはエンディミオンの持つ黒い杖が引き起こしている事象のようで、嵐の合間から見え隠れする紫色の電は嵐に引き込まれたエアーマンを容易に打ち鳴らし、塵も残すことなく破壊せしめた。
「私は最後にカードを1枚伏せる。これでターンエンド。さあ、君のターンだ」
「くっ、先制ダメージは受けたけど、まだまだデュエルはこれからだ! 僕のターン、ドロー!!」
王様の場には恐らくはエースであろう最上級モンスターの王様自身に守備のまま守りを固めるディフェンダーが一体。それに伏せカードが2枚あり盤石な態勢。対する僕の場にはカードはすべて破壊された。
一見して明らかに僕の不利は見て取れる状況だけど、僕の手札にはブレイズマンがある。まだ挽回はできる。焦らず一つ一つ対処していくんだ。
「僕は手札からE・HERO ブレイズマンを守備表示で召喚! 効果によりデッキから融合を手札に加える!!」
一拍置いてブレイズマンの効果に対するカードの発動がないか確認する。王様からのアクションはなく内心で「よしっ」と感謝の念を抱きながら僕は融合を手札に加えた。
この効果まで無効にされては、困ったことになっていたからだ。しかし、融合が発動できるならまだ戦術を組み立てることができる。僕は息を吹き返したように勢いよく融合を発動させた。
「僕は手札から融合を発動! 場のE・HERO ブレイズマンと手札のザ・ヒートを融合し、ノヴァマスターを融合召喚する!!」
《E・HERO ノヴァマスター》 攻撃力2600 守備力2100
頭上に現れた赤と青の融合の渦が2体の炎のHEROを取り込んでゆく。煌々と2種類の異なる炎が混ざり合いより大きな熱を放つように2体の炎のHEROは融合し、赤く強大な炎の力をを持ったノヴァマスターが融合の渦から舞い降りた。
「融合モンスターを召喚したか。しかし、その攻撃力では私には届かない!」
「だから、このカードを使う! 僕は手札からフェニックス・ギア・ブレードをノヴァマスターに装備する。これによりノヴァマスターの攻撃力は300ポイントアップ!!」
《E・HERO ノヴァマスター》 攻撃力2900 守備力2100
翼のように細工された柄に曲線状に曲がった刀身を持つ剣ーフェニックス・ギア・ブレード。それがノヴァマスターに装備され、不死鳥の持つ炎が自身に宿ったようにその力を増大させた。
「バトルだ! ノヴァマスターで神聖魔導王 エンディミオンを攻撃!!」
「無駄だ! 私はこの瞬間、魔導騎士ディフェンダーの効果を発動! このモンスターのカウンターを一つ取り除くことで、魔法使いは破壊を防ぐことができる!!」
《エンディミオン》 残 LP 3800
大きく飛翔したノヴァマスターが炎が渦巻いたフェニックス・ギア・ブレードを手にエンディミオンに振り下ろす。
攻撃力で勝るノヴァマスターの攻撃はエンディミオンを振り抜かれた剣により破壊する寸前まで追い込んだが、その破壊は王を護る騎士のディフェンダーにより防がれていた。
「ふっ、惜しかったな。だが、その程度の攻撃では私を倒すことなどできない」
「いや、これでいいんだ。僕の狙いは最初っからエンディミオンではない。ディフェンダーだ!」
「なに!?」
「僕はノヴァマスターが攻撃を終えたこの瞬間、装備されたフェニックス・ギア・ブレードの効果を発動! このカードを墓地へ送ることでもう一度攻撃することができる!」
ノヴァマスターの手に握られていた剣が消えていく。それは不死鳥が死しても灰の中から蘇るように、大きな鳥の形をとった炎となってノヴァマスターに再度の攻撃をする力を与えたいた。
「僕は魔導騎士ディフェンダーを攻撃──爆炎送葬波!!」
ノヴァマスターが炎の波を流れるようにディフェンダーへと撃ち放つ。
ディフェンダーに迫る炎に王様は魔法都市のカウンター代用の効果を発動はしない。読み通り、ディフェンダーの魔法使いを守る効果は2度の発動はできないようだった。
炎の波にのまれたディフェンダーは呻き声一つ上げることなく、静かに燃えて消えていった。
「よし、僕はノヴァマスターがモンスターを破壊したことでカードを1枚ドロー。そして最後にカードを伏せてターンエンドです!」
これで邪魔だったディフェンダーは消えた。
だけどまだ王様のエースであろうエンディミオンは健在。ディフェンダーを倒すためとはいえ攻撃力も戻ってしまったノヴァマスターは次の僕のターンまで保つことは多分できない。状況は依然として不利なままだ。
僕は悠然と立ちこちらを見つめる王様の姿にこのデュエルの険しさを感じ額に流れた汗を拭いとるのだった──。
神聖魔導王って字面がもう格好いいよね。