エイリアン、3以外は総じて楽しめたなあ。あまり評価されてないらしいプロメテウスやコヴェナントも面白かったわ。
講堂内をジ・アースの攻撃による衝撃が襲った。それは講堂の窓やステンドグラスを震えさせ、甲高い音鳴りを発生させていた。
「──グッ………!」
「はぁ…はぁ………勝てた…………」
流れていた汗を拭いながら、何とか言葉を絞り出す。薄氷を歩き抜いた先に手にしたような、ギリギリの勝利だったと思う。エンディミオンの王様、一つの都市の頂点に位置する人とだけあって、凄まじい強さを持ったデュエリストだった。
正直、次戦って勝てる自信はない。今回勝てたのも、偶然が味方した奇跡のようなものだったとさえ思えてしまう。
僕は荒げた息を胸を抑えながら整え、何とか倒れた王様を眺め見た。
「ヌー………見事だ、少年よ」
王様が右手に持った等身ほどもある長い杖を支えに起き上っていた。一度よろけそうになりながらもしっかりとした重心で身体を不安なく支えている。
デュエルに勝った僕以上に、王様はひどく疲労しているだろうに、他者に弱みでも見せないようにしているかのような佇まいには上に立つ者としての誇りにも似た何かを感じる。
「王様、デュエルは僕が勝ちました。だから…………」
「わかっている。私は敗けた。油断がなかったとは言わないが、よもや人の子に敗けることがあるとは思わなんだ。約束通り、我らは汝らと協力体制を整えることを誓おう」
「はぁっ! ありがとうございます!!」
講堂に明るい空気が満ちる。僕が勝利した瞬間も僅かに喜色の声を上げていた愛理ちゃんたちだったが、王様が協力を確約してくれた瞬間、はっきりと聞こえる声量で歓喜の声を上げていた。
僕もまた、皆の方を振り向きぐっと親指を立てて喜ぶ。すんなりというには厳しい過程だったけれど、勝てて本当によかったと安堵の笑顔を見せた。
「人の子よ。名を何という」
「あっ、そう言えば自己紹介してませんでしたね。僕はコナミと言います。二人は愛理ちゃんと三沢くん。勇者として呼ばれた僕と一緒にこの世界に召喚されたんです」
デュエルが終わったことで僕の傍まで来た二人を含めて紹介する。僕が勝利し、その力を示したからか、王様の視線は幾分か優しくなっている。
最初に目が合った時のような威圧感はどこかへ行ったように気が軽かった。
「そうか。ではコナミよ。お前に一つ問おう。お前は何故戦う」
「えっ、何故って…………」
「お前は本来この世界とは何の関係もないはずだ。そこのアレイスターに呼ばれたように、大賢者がお前を選んだように。彼奴等が呼ばねばこの世界の危機などに関わることはなかったはずだ。それ故に聞いておきたい。コナミよ、お前は何のために関係もないこの世界のために命を賭ける」
「それは…………」
穏やかな口調ながらも虚偽を許さない気持ちが乗った質問。
アレイスターさんに一瞬だけ厳しい目を向けながらも僕に向けて問われたその問いに、僕は虚を突かれたように言葉に窮し、そして僕が戦うと決めた時と同じ答えを伝えた。
「僕は愛理ちゃんに助けて欲しいと言われたから戦うと決めました。大賢者さんの予言とか、世界とか、そんな大きなものではなくて、大好きな彼女のために戦います」
「愛理…………そこの娘か」
紅い瞳を向けられた愛理ちゃんの身体に緊張が走る。
彼女を射抜く瞳にはどこか剣呑とした色を宿しており、僕にはなぜ王様が彼女にそんな視線を向けるのかわからなかった。
「娘、お前は何者だ。人間でありながら、何故コナミという少年をこの世界の問題に巻き込んだ」
「エンディミオン王、私は今世の名を水無月愛理と言います。しかし前世の名は水精霊エリア。大賢者様が治められる魔法使い族の里の出身の者です」
声をかけられた愛理ちゃんは緊張をはらんだ声で話し始めた。
それは彼女が人として生まれた経緯であり、その身体に宿った魂は人のそれではなく精霊エリアとしてのものであると説明するために。
「前世……?」
「はい。私は大賢者様より私たちの世界を救う勇者を探すと言う使命を与えられました。そのために、人として生まれ変わる必要があると」
「生まれ変わった……少年を探すために……?」
「はい。あの、エンディミオン王、私の説明になにかありましたか?」
「……いや、いい。しかしなるほど、そう言う経緯か……。大賢者め……精霊を人にするなど、何を考えているのだ……」
愛理ちゃんの説明を聞いた王様が、目を細め何事かを思案するように彼女を見つめている。
今の説明にそんな考え込むことがあったとは思えないんだけど……。
愛理ちゃんも同じことを思っているのか僕に変なこと言ってないよねと確認するように目を合わせ、不思議そうに顔を傾げた。
「少年、一つ忠告をしておこう。今のままその娘のために戦うのであれば、いずれお前はその娘と共にいることは叶わなくなるぞ」
「……? 王様、それはどう言う……」
「自身が命を賭ける理由。その意味をもっとよく考えることだ」
好きな女の子のために戦う。それが命を賭けて戦う理由であると返答した僕の答え。そのなにが引っかかったのか、王様に聞こうと思った矢先のことだった。
にわかに講堂の外からけたましい人々の喧騒が聞こえてきたのは……。
「……なんの騒ぎだ?」
講堂の外へ向かう王様に続くように、僕たちも顔を見合わせながら外へと足を向ける。講堂から外を覗き見るには塔の外壁部に僅かに作られたバルコニーに出るほかないようで、白く塗られた柵に手を置いて僕たちは最上階から見える都市の様子を見下ろした。
「あれは──煙!?」
「煙……まさか都市から火が上がっているのか!?」
「それだけじゃないわ! もっと向こう……私たちの森からも小さいけど、煙が上がってる!!」
三沢くんの言う通り、バルコニーから見た都市のあちらこちらで精霊である住民が火や煙から逃げまどっている姿が見える。
僕たちがやってきた森の方角からも、煙が…………煙が…………いや、僕には遠すぎてわからないけれど、愛理ちゃんが言うには煙が上がっているらしい。
ともかく、都市中で火が沸き起こり、危険な状態になっているのだけは確かであった。
「早く兵を消火と救援に……待て、あれは……マシンナーズが暴れているだと!?」
王様が階下の光景を見つめながら驚愕の声を上げた。
僕たちもつられてよく見てみると、たしかに都市の防衛を任されていたはずのマシンナーズたちが、都市にいる精霊たちを襲っている光景が見て取れた。
都市の住民は火と煙から逃げまどっていたのではなく、自分たちを守ってくれていたマシンナーズが突然襲ってきたことに驚き、そして彼らから逃げていたのだ。
「どうしてマシンナーズが!」
「マシンナーズはたしかアレイスターさんが召喚したモンスターのはず。それが何故……!」
「どう言うことだアレイスター!!!」
その光景を前に、驚き固まっていた僕たちが振り返り講堂内で僕たちの様子を見守っていたらしいアレイスターさんを見る。
彼は振り返った僕たちの前にただ佇み、底から漏れ出てくるような笑いを上げていた。
「フッフッフ。どう言うことだ言われましてもねえ、エンディミオン王。予めそうするよう契約していたとしか言いようがないのですが?」
「なんだと!?」
「ずっと以前、大賢者様と取り決めを交わしていたのですよ。勇者が呼ばれ、あなたとデュエルを成した直後、マシンナーズに都市を襲わせるとね」
都市のどこかで爆発音が鳴りひびく。
こうして話している間にもマシンナーズによる容赦のない破壊活動は行われているのだろう。
魔法都市にあるどこかの実験室を襲ったマシンナーズによって巨大な爆発が起こっていた。
そうとわかりながらも、僕たちは塔の上にまで吹いてきた爆風に体を飛ばされないよ支えながら悠然と微笑むアレイスターさんに階下の悲劇を起こす理由を聞かずにはいられなかった。
「どうしてそんなことをっ!?」
「単純に、王が私たちにとって邪魔な存在だからですよ勇者くん。王は尊敬に値する方ですが、滅びを前に座して死を待つ王など必要ないでしょう。だから排除すると決めたのです。それに、王がいては私たちの計画の障害にもなりかねません。その配下たちも……。故に、王と王が守る都市を破壊することに決めたのです」
「私たち………滅び………? そうかアレイスター、貴様らは……!」
王様が何かを察したように目を見開き彼を見つめる。その視線の先にはアレイスターさんだけではない。他の誰かを、或いはナニカを見ているようだった。
「そう睨まないでくださいよエンディミオン王。貴方に睨まれるのはゾッとしない。しかしやはりあなたにもご退場願わなくてはいけません。都市が落ちても、あなたが生きていては意味がない」
「できると思っているのか。この場には貴様しかいないと言うのにッ!」
「ええ、できますよ。何のために勇者くんとデュエルをしてもらったとおもっているのですか?」
「まさか、コナミと王をデュエルさせたのは王の力を削ぐためか!?」
「その通り! 流石三沢くんですね。いやーしかし、まさか勇者くんが勝つとは私も思ってませんでしたがね」
「──そんな!?」
それじゃああのデュエルは……僕は利用されていったってこと!?
アレイスターさんがこの都市と王様を倒すために!?
「問題はない! アレイスター1人なら今の私でも倒されることはない!」
「ふふふ、そうかもしれませんね。ですので……助けてください──エリア」
王様が黒杖をアレイスターさんに突きつけ、今にもその杖から魔法が放とうと力を込めていたその時だった。
味方のいない状況の中、僕たちを前にしたアレイスターさんが余裕を崩すことなく愛理ちゃんを真っすぐに見つめながら優しく助けを求めた。
「グァッッッ!!?」
「──えっ!?」
「──なにっ!?」
それが呼び水となったように愛理ちゃんの手が、背後から王様の胴体を貫いていた──。
「──お見事。よくやりましたねエリア」
「──」
貫いた手をそのままにし、愛理ちゃんは目に意思を宿さないまま、じっと王様の様子を見つめている。まるでまだ息があるようならば更なる攻撃を加えんと探っているように。
その目は獲物を見つめる狩り人のようでもあり、意思持たぬマシンナーズたちのような機械人形のようでさえあった。
「娘──お前はッッ!?」
「──ッ!!」
痛みに目を歪めた王様が背後から貫かれた腕を見つめ、その下手人へと顔を動かして睨みつけるように彼女へと視線を移す。横でそれを見ていた僕たちから見てもそれは紛れもなく愛理ちゃんの手によるもので、虚ろな目をした彼女は感情を映さない顔で、勢いをつけて貫いていた腕を王様から引き抜いた。
「な……なにを……なにをやっているんだ愛理ちゃん!!?」
「──エンディミオン王!!」
引き抜かれた腕の支えを失い力なく膝から倒れこむ王様。完全に倒れこむ前に急変した事態にすぐに意識を回復した三沢くんが王様の元へと駆け出し、体を支えた。
そして目をこれ以上ないほど見開き驚愕の視線を向け、突然の愛理ちゃんの行動に微動だにも動くことができずにいた僕に一瞥も視線を向けることなく、彼女は塔のバルコニーの策に手をかけそして──飛び降りた。
「愛理ちゃん!!」
「──エリアには、予め2つの命令機構が魂に組み込まれていたのですよ。1つは私の合図と共に大賢者様の元へと向かうこと。そしてもう一つは私の助けを求める声に応じて敵を討つこと。その2つが今起動したのです」
高層ビル、それも何百メートルとありそうな塔の最上階からの飛び降り。ありえない高さから飛び降りた彼女にたまらず僕は柵へと駆け寄り、真っ直ぐ落下していく彼女に目を向ける。
いくら精霊であっても、こんな高さから落ちて無事でいられるはずがない。まして今の彼女の体は人間のもの。
こんな高さで地面と直撃すれば、人の体など精霊の力で強化したとしてもペシャンコだ。
そう怒涛の変化についていかない脳みそと心配が勝つ感情の起伏に焦りながら見つめた小さくなっていく彼女の姿は──召喚されたサンダー・ドラゴンの背に乗って森の方へと飛び去って行く光景だった。
「グッ、そう言うことか。人の子一人探すのに精霊を人に生まれ変わらせるなどと、随分と理にかなわぬ迂遠なことをすると思ったが、このためか!!」
「いえいえ、それだけではありませんよ。勇者くんを籠絡するためというのもありますし、計画が頓挫した際の保険という意味もあります。が、それはどうでもいいことですね。今貴方が私の前に倒れ、死に瀕しようとしている。それが大事なのですから」
「大賢者も絡んでいるな……! 私を殺し、人の子を使いなにを企らむ。アレイスター!!」
「理想郷の実現。それだけ教えておきましょう。それでは勇者くん、君が来るのを里で待っていますよ」
森の方角を一身に目指し、僕たちに振り返ることなく姿を煙の中に消していく愛理ちゃんを見つめていた僕は背後から聞こえてきた声に振り向き、当惑した意識でその姿を見た。
アレイスターさんの背後から現れた黒い霧が彼を包み込むように全身に這いまわり、その姿が消えていっていた。
その姿が闇の中に消える直前まで彼の視線は僕へと向けられており、三沢くんに支えられ死に瀕している王様に対しては興味を失ったように視線を向けてはいなかった。
「まっ、待て!!」
「アーハッハッハッ!!!」
何とか絞り出した静止の言葉が闇に消えていく。
高笑いと共に消えたアレイスターさん。僕はバルコニーから動くことができず、ただ動き続けていく事態に呆然と立ち尽くしていた。
階下の都市では、四方の塔が壊れ、甚大な破壊音と共に崩れていく音が聞こえる。
それと同時に、どこから現れたのか、都市内にいたマシンナーズ以上の機械兵たちが雪崩れ込むように都市内へと攻め込み、更なる悲鳴が都市中から上がっていた。
「アレイスターさんが……消えた………!?」
「くっ、コナミ、お前は愛理くんを追え! 恐らく愛理くんは里を目指しているはず。アレイスターもそこに!!」
「で、でも、三沢くんは!!」
「俺は塔にまだいるはずの兵を呼んでエンディミオン王を助けるために動く。だからお前は──」
「その必要はない!!」
三沢くんの檄に促され、まとまらない気持ちと頭のままに、言われるがままに愛理ちゃんを追うために動き出そうとした。
しかし、そんな僕を引き留める激しい声が、王様からバルコニーに響いた。
「王様!?」
「ハァ、ハァ……。もう、私は助からん。コナミよ、星の力を持つ少年よ。奴らの狙いはお前だ。誘いに乗ってはならん!」
「うっ……で、でも愛理ちゃんがっ!!」
「……罠だと、そう言いたいのですねエンディミオン王」
この場にいる誰よりも早く冷静さを取り戻していた三沢くんが王様に顔を寄せて聞く。その命が尽きかけようとしているのか、王様の体から光が立ち上り始めていた。
「いや、でも三沢くん。罠だとしても愛理ちゃんを放っておくわけには!」
「わかっている! エンディミオン王、俺たちは例え罠だとしても彼女を放っておくことはできません。大切な友人なのです」
「……ハァ……ハァ……そうか。ならば、これを持って行け」
光に包まれ始めた王様が黒鎧装の内から一枚のカードを取り出した。僕の方へと差し出されたそのカードを受け取り、表を見る。
「真っ白の……カード?」
そこに描かれていたのは、名前もレベルも、カードの種類さえ描かれていない白紙のカード。全てのカードに共通の絵柄を書かれている裏表紙だけが、そのカードをデュエルモンスターズのカードであると認識することができる唯一のものだった。
「それはまだ、何者でもないカード。そして、何者にでもなれるカードだ」
「それは、どういう?」
「真の願いと力が一つになった時、そのカードは姿を変えるだろう。役に立つかはわからんが、もっておけ。この都市が、私が生み出した可能性のカードだ………──グゥッッッ!!」
「王様!!?」
「エンディミオン王!!」
差し出されたカードを受け取り、その意味を聞いた瞬間、徐々に王様の体から発せられていた光がひときわ大きな明かりとなり、そしてその姿を光の粒子となって天へと消えていった──。
「王様が……光に……」
「くそっ………助けられなかったか……」
消えていった光を目で追い、呆然と見つめる。それは僕が生まれて初めて見て、そして感じた等身大の命の終わりそのものだった。
「………コナミ。愛理くんを追うぞ」
散って行った光に向けて静かに黙とうを捧げていた三沢くんがスッと立ち上がり僕の肩に手を置いた。僕は肩に置かれた手にも気づかず、立ち尽くす。
「──コナミッ!!」
「えっ!? あっ……うん。そう…だね。うん、愛理ちゃんを追わないと……」
王様の死の衝撃に微動だにせず立ち尽くした僕の肩を激しく揺らして、三沢くんから雷のような厳しい声が届く。
その声ににビクリと体を揺らしながら意識を現実のもとに戻された僕は、たどたどしい声で返事をしながら塔から降りるための階段へと体を向けた。
そして三沢くんに急かされながら動揺を消せないままに講堂の扉から出る瞬間、王様が消えたバルコニーに振り返る。
王様の散り際に放った命が尽きる光。目の前で消えたその光景が瞼の裏に焼き付いて、森を目指し講堂から出てもなお、その光が映した光景は僕の脳裏から離れることはなかった──。
話はサクサク進めないとね。