アオイホノオは本当に読んでて面白い。主人公がいい。
魔法都市エンディミオンが燃えている。
アレイスターさんの策略により僕とのデュエルで体力を消耗していた魔法都市エンディミオンの王様は愛理ちゃんの手によって僕の目の前で光となって亡くなった。
そして、僕と三沢くんは緑の雷龍であるサンダー・ドラゴンに乗って彼女の故郷がある森へ向かった愛理ちゃんを追うために都市の中心に建てられた王様が住まう巨大な塔から降りていた。
「三沢くんっ! これからどうしたら……!!」
「愛理くんを追う。だが、都市はマシンナーズに襲われている以上慎重に動かなければならない。見つかれば、俺たちもただでは済まない可能性がある!」
王様の死に未だ動揺から立ち直れずにいる僕と違い、三沢くんは驚くほどに非常に落ち着いた口調で答えている。
あれを見てよくそこまで冷静でいられるなとその冷静さに頼もしさを感じるくらいだ。
が、階段を駆け下りながら歯を食いしばっている姿を見てすぐにそうじゃないと、三沢くんも冷静になろうと踏ん張っているのだとわかった。
その姿に僕もまた、いつまでも動揺していてはいけないと、唾を飲んで心を落ち着けようと彼に並び駆け寄った。
「──………マシンナーズたちがいるね」
「ああ、正面から出るのは無理だな。多少遠回りになるが裏からでよう。見つからないよう、物陰に隠れながらな」
長い階段を駆け下りた先、塔の入り口付近から外を覗き込む。
陰から覗き見るだけでも外には数体のマシンナーズが固まって歩いており、各々の武器を振り翳して都市の建物を破壊していた。
正面から出ていけばまず見つかる。
かと言って見つからないように裏口から出ていくにしても、愛理ちゃんを追いかけたい僕たちからすれば遠回りするのは避けたいところ。
どうしたものかと、顔を俯かせて考え込む僕たち。そして行動指針を決めたのか三沢くんが顔を上げて何か口にしようとしたその時だった。
「──キャァー!!」
「やめてくれェー!!」
火で燃えた建物から出てきたのだろうか、都市の住民であったのだろう男女が悲鳴を上げながら入り口から見えるマシンナーズに追われ逃げ回っていた。
「あれは──!?」
「待てコナミ!! どうするつもりだ!!」
「どうって…助けないとッ!!」
「俺たちは丸腰なんだぞ! マシンナーズから彼らを助けるのは無理だッ!」
立ち上がり入り口から飛び出そうとした僕の手を三沢くんが掴んで離さない。その目にはやめろ、助けに行くなという強い静止の意思が籠められていた。
僕たちに武器はなく、全身が機械で、重火器まで持っているマシンナーズに生身で戦うなんてことはできない。
だから三沢くんの静止は当然で、当たり前のことだ。だけど………だからといってただ襲われている人たちを我が身可愛さに見捨てることが正しいなんて、間違っている!!
「だったら……だったらデュエルで倒せば!」
「マシンナーズを殺してか?」
「うっ……」
「機械とは言え、精霊である彼らにも命はあるぞ。当然、意思も心だってあるはずだ。それがわかっているのか!?」
まともに戦っても助けれない。だったらこの世界のルールであるデュエルなら、僕たちにも十分に勝ち目はある。
それで助ければいいと考え、三沢くんに返したが、すぐに返されたデュエルした結果起こる出来事に言葉に詰まってしまった。
そうだ、この世界のデュエルは命がけのデュエル。敗ければ死ぬ。勝ったとしても、相手の命を奪ってしまう。ある意味で、人殺しを行うようなもの。
彼らをデュエルで助けると言うことはそれを理解したうえで戦わないといけない。王様との時は違う──!
僕はその現実の前に今も助けを求めて逃げ惑っている人たちを助けないとと思いながらも、足を動かすことができずにいた。
ともすれば、脳裏に王様が光となって死んでしまった時の光景が浮かび上がってきて、身動きできない程の重たい足枷を付けられたように助けなければと言う願いとは裏腹に足が動きだしてはくれなかった。
「この世界におけるデュエルについては俺も聞いている。彼らとのデュエルはお前とエンディミオン王とのデュエルとは違うんだ。まず間違いなく、負けた方は死ぬぞ。それでもやるのか?」
「そっ、それは……でも!」
空しい駄々が口から出てくる。
動け動けと念じながら、口だけは何とか三沢くんを説得しようとしている自分がみっともなくて、情けなく感じる。
そんな僕の気持ちを知ってか知らずか、三沢くんのもっともな説得は続く。
「助けに行けない理由はそれだけじゃない。もしお前があのマシンナーズを倒し、助けれたとしよう。その後はどうする」
「その……あと……」
「そうだ。今この都市にどれだけのマシンナーズがいるのかはわからないが、少なくとも目に見えている範囲以上にいるのだけは確かだ。お前が彼らを助けている間に応援を呼ばれるのは目に見えている!」
塔の入り口から覗いて見える範囲以上のマシンナーズ…………。
三沢くんが注意深くこちらに意識が向かれていないかを確認しながら僕の手を決して放そうとせずに話す。
「応援を呼ばれたら、そのすべてから逃げないといけなくなるんだ。そうしたらもう、愛理くんを追うどころではなくなる。最悪は愛理くんを永遠に失うぞ!!」
「それは……わかるけど──!」
「コナミッ! 優先順位を間違えるな。俺たちが今すべきことは都市を救うことじゃない。愛理くんが森に辿り着く前に彼女を助けることだ! そうだろ!?」
「~~~~ッッッ!」
僕の前に王様が消えた光景が再び浮かぶ。それはこれまで戦ってきたアウスたち霊使いの皆が光となって消えていった光景と似ていて、サンダー・ドラゴンの背に乗って僕の前から去って行った愛理ちゃんが同じように、ただ実体を失うのではなく本当に命を失い光となって消えてしまう。
そんな絶望的な光景が目に浮かぶようにリアルなものとして脳裏に描かれ、王様が消えた光景と重なり、意識せずとも手が震え視界が左右にぶれていく。
目の前で助けを求めている人か、それとも彼らを見捨て大切な人を優先するか。どちらも選びたい。なのに選べるのは片方のみというジレンマの前に頭を抱えて蹲ってしまった。
「目的はわからないが彼女がこの騒動の中森へ向かったというのなら、理由があるはずだ。だから彼女が森にたどり着く前に俺たちは愛理くんを助けなければならない」
「──」
「冷静になれコナミ、俺たちがすべきことはなんだ!」
蹲った僕の上から諭すような言葉でありながら強い確信を持った三沢くんの声が降ってくる。三沢くんはもう選んでいる。自分たちが何を優先して行うべきことなのかを──。
だから僕も選ばないといけない。すぐにでも、間に合わなくなる前に…………。
「……愛理ちゃんに追いつくこと」
「そうだ。彼らのことはこの都市を守る騎士たちに任せる。だから今は目の前のことは無視するんだ。いいな?」
「……うん」
「よし……なら彼らが追われている間に行くぞ!」
重くるしく固く閉ざされていた口から、絞り出す様に、言葉を紡ぎだす。断腸の思いで選んだ道は助けを求めている人たちを見捨てる道。
どうあがいても、消えることはないと確信できる。後悔と悔いが残る道だった。
「──ごめん……!」
三沢くんに手を引かれて急いで外に出て行く。
後悔に追われて立ち止まりそうになる足を無理やりに立たせながら動かす。
マシンナーズに襲われている彼らを囮として扱うことに負い目を感じながら、自分の行いから目を背けるように出した謝罪の言葉がひどく薄っぺらいものとして空気に溶けていった──。
*
「はっ──はっ、三沢くん! これ、どこ向かってるの!?」
「都市の外縁付近に俺たちが乗ってきた音速ダックが預けられている厩舎がある。そこへ行き、愛理くんを追いかける!」
コナミが、俺の後ろから息を切らしながら話しかけてくる。その声は心の平衡を保つために洩れた叫びのようにも聞こえた。
俺たちは塔を脱した後、建物の影に隠れながらマシンナーズに見つからないように都市を走っていた。目指すは俺たちがこの都市に来るために使用した音速ダック。
空を飛んでいった愛理くんを追うためには人の足で追いつくことはできない。必ず速度に優れた乗り物が必要だった。
コナミと外を目指しながらマシンナーズから逃げていた精霊たちを思い出す。囮として見捨てた人たちのことを思うと胸が苦しくなる。だがその重みを振り切って前を向く。懺悔をするのは後でいい。
謝罪なら後でいくらでもできる。彼らは許さないだろうし、届くこともないとしても…………。
今考えるべきことは、友人である愛理くんをアレイスターや大賢者に利用される前に取り戻すこと。それ以外のことは後に回す。今の俺たちに余裕はないのだから。
だがそれでも正直なことを言えば、彼らにとって愛理くんは重要ではない可能性はあるのだ。
彼女を森へ向かわせたのは、恐らくは本命であるコナミに追わせるためだけで、それ以上の理由はない可能性が…………。
仮に里へ行かなかった場合、彼女がどうなるかわからないが、マシンナーズに襲われていた人々を助けてから里を目指したとしても、愛理くんに危害は加えられない可能性については否定できないことだった。
だから頭を抱えたコナミがそれに気づかずに愛理くんを追うと決めた時には内心でホッとした。無理をして危険を冒さずに済んだのだから。
優先順位を間違えるな。その言葉に嘘はない。コナミを説得するために言った言葉に間違いはないのだ。見知らぬ他人を助けて、大切な友人を失うわけにはいかないのだから………。
しかしそうとわかっていても胸にのしかかる後悔の念は避けがたく苦しい。
だからこそ、今は何も考えず突き進んでいかなければならない。
選んだ道は間違いではなかったと、胸を張って生きていくために!!
「僕たちが乗ってきた音速ダックって、この騒ぎだよ!? もう他の人が乗って行ってるんじゃ!?」
「大丈夫だ。俺の予測が正しければ、少なくとも1頭は必ず残っているはずだ!」
「なんでそんなことわかるのさ!!」
「アレイスターが塔から去る瞬間言っていただろう。お前が里に来るのを待っていると!」
「確かにそんなこと言ってたけど……!」
「待っているということは俺はともかく、お前には来てもらわないと困るということだ。そして、そのための足を無くすようなことは得策ではない。ならば必ず──!」
魔導都市に到着してからすぐに頭に入れておいた都市の構造を思い出しながら走る。そうして可能な限りの最短ルートでマシンナーズから見つからないように走った先に辿り着いた厩舎。
そこには2頭の音速ダックが、俺たちの帰りを待つように騒ぎの中でも大人しく待っていた。
「ほんとにあった……」
「ああ、それに俺が乗る分まであるのは僥倖だ。お前の分しか残されていないことも想定していたからな。これで──」
「おーっと!! そいつァ待ってもらおうか!!」
「なにっ!?」
幸運にも周りにマシンナーズがいなかったことに気を良くして急いで厩舎に近づいた俺たちの前に、突然剣が勢いよく降ってきた。
「そいつに乗っていいのはそこの赤い服着た
「……アレイスターの差し金か?」
厩舎の影から出てきた赤い鎧を着た戦士を見て、すぐに頭に浮かんだ男の名前を言った。
愛理くんやアレイスターが乗ってきた音速ダックはなく、都合よく俺たち2人分がだけが残っているのは理屈に合わない。
恐らく音速ダックが残っているのはこの男の仕業。そして、それを命じたのはアレイスターだ。
俺の推測は果たして当たっていたようだ。地面に刺さった剣を抜き取り男は粗野な笑い声を上げながら俺たちの前に立ち塞がった。
「わかってんなら説明はいらねえよなァ? 俺はエヴォルテクターシュバリエ。ちょいとした雇われって奴さ。お前さんを足止めしてくれってな」
「そんな、足止めって!?」
「………いくつかあり得る事態を想定していたが、当たって欲しくはないものが当たったな」
目を細め考える。このエヴォルテクターという男、話してどいてくれるような男ではないだろう。この都市の状況を知りながら助けに行かず、逃げることすらしていない。
あくまで俺の足止めに残っていた以上、説得に応じるとは思えない。
ならばとれる道は2つ。俺だけ残りコナミに先を行かせるか。それとも2人でこの男を排除してから向かうか…………。
「三沢くん1人置いていけるはずがない。ここは2人でなんとかして──」
「いやコナミ。お前は先に行くんだ」
「ええっ!?」
「今は一分一秒が惜しい。こいつとのデュエルをしていては愛理くんには間に合わない可能性がある。だが、お前だけ先に行くことで間に合うかもしれん。罠を考慮すると、1人で行かせたくはないがな」
「なっ、そんなことできるわけないだろ!? 三沢くんは僕に巻き込まれたようなものなのに!!」
コナミが目を見開いて俺を見てくる。揺れ動く瞳を見ながら俺は覚悟を決めていた。この先、この世界でどれほどの後悔をしようとも、その結果死ぬことになろうとも。こいつを責めることだけはしないと………!!
「……コナミ、俺がこの世界に来たことについてお前が責任を感じる必要はない。原因がなんであれ、俺は俺の意思で選択してここに立っている。その結果、どうなろうとも恨みはしない」
「どうなろうともって……」
「言葉通りの意味だ。この世界に来てお前が勇者であると知ったその時から戦う覚悟は決めていた。だからコナミ、早く愛理くんを追うんだ」
迷うコナミの背を軽く押す。
もたもたしていて機を逸してはいけない。それではなんのために都市の住民を見捨ててここまで来たのかわからない。愛理くんを助ける。今はただそれだけを考えてくれコナミ………!
「うぅ──ッ!」
「迷っている暇はない!! さっき言ったことをもう一度言うぞ。優先順位を考えろ! お前が1番しなければならないことはなんだッ!!」
「──……愛理ちゃんに追いつくこと」
「そうだ。お前にとって1番大切な人だ。アレイスターや大賢者といった者たちに何かされる前に、彼女を助けるんだ!!」
「──ッ! ………わかった」
俺はまだ迷ったように厩舎と俺を交互に見るコナミをさらに強く押した。
たたらを踏みながらも厩舎へと向かうコナミに俺は強く頷いてそれが正しいと強く伝えた。
「話はまとまったようだなァ。ほれっ、コイツだ」
エヴォルテクターという戦士が1頭の音速ダックの手綱を引いてコナミに渡す。それに乗ったコナミが俺の元によって来ようとしたが、手を前に出して制した。
まかり間違って目の前の男が音速ダックに俺も騎乗しようとしたと見られて握られた剣で切られたくはないからだ。
「三沢くん、必ず勝ってね」
「当たり前だ。こんなところで死ぬつもりはない。お前こそ、無理だけはするな。危険だと感じたら、俺が追いつくのを待つんだ」
「うん。じゃあ……」
「ああ、必ず後から追いかける」
音速ダックの尻を強くたたくことでコナミを乗せた音速ダックが駆け出す。最後まで心配そうに俺を見ていたコナミがあっという間に小さくなっていく。その背を見つめながら、俺は安堵の息を吐いた。
「ようやく行ったか……」
いつまでも迷った果てになにも選べずに終わる。それだけは避けなければならないことだった。1人で行かせることに不安はあるが、あとはあいつを信じるしかない。
里がある森の方角へ走り去ったコナミの背が見えなくなったあたりで男の方からパチパチと手を叩く音が聞こえてきた。
「いやァ、中々の見せ物だったぜ。麗しい友情ってやつだァ」
「ふん、お前と雑談を興じるつもりはない。あいつが行った以上、俺も早く後を追わなければならないんだ。さっさとデュエルをするぞ」
「ああ、構わないぜ人間。お前さんの方は可能なら始末してもいいって指示だからな。デュエルしようやァ」
俺のデッキよ。俺に戦う勇気と力を貸してくれ──!
俺の人生でそんなデュエルをするなど考えたこともなかった命がけのデュエル。俺は信じるデッキに祈りながらディスクを構えた。
「「デュエル!!」」
そして互いの命を賭けた初めてのデュエルが始まるのだった──。