朝霧の巫女の5巻が違う漫画かなって疑問に思う程度には4巻までとは雰囲気が豹変して、面白さが跳ね上がりビックリしてる。
「う…オっ……、嘘だァアアアアア!!!」
エヴォルテクターが敗北の現実を受け入れられないと言うように絶望の悲鳴を轟かせながら光となって消えて行った。
それは紛れもなく俺の手で殺めたと言う事実が齎した結果であり、決して目を背けては行けない光景だった。
「ふぅー……」
緊張と不安からのストレスを吐き出すように大きく息を吐く。
相手をデュエルで殺したという事実よりもこの瞬間を生き残れたという事実の方に強く心の比重が置かれ安堵していたのだ。
次いでやはりと言うべきか、デュエルで高まっていた心が落ち着き始めたその頃に奪ったものへの関心が行き、心に重しをつける。
自分の選択から逃げないこと。
この世界に来て心に決めていた事実。
その結末に整理をつけるために急ぐべき状況であっても少しだけ、消えた命に黙祷を捧げる。
「──……さあ、急ごう。コナミを追わなければ──!」
黙祷を終えた俺は急かすように残されたもう1頭の音速ダックに跨り、勢いをつけてコナミの走って行った道を駆け出す。
或いはその姿は背後から聞こえてくる悲鳴と怒号から逃げるようでさえあった。
この世界でのデュエルの意味を、命の選択と言う残酷な行いに、俺もまだ完全には受けいられていないのかもしれない。
後ろ髪を引く気持ちを退けて、火と煙が立ち昇る都市に目を向けることもなく音速ダックを走らせ続けた。
*
都市の外縁部にある厩舎で三沢くんと別れた僕は今すぐ引き返したい気持ちを押し殺して三沢くんに言われた通り愛理ちゃんを追って森への道を直走っていた。
(──愛理ちゃんはどこに……三沢くんは大丈夫だろうか……)
エヴォルテクターを前に一人三沢くんを置いていったことが重い。三沢くんが言ったことは正しくて今は僕1人でも愛理ちゃんを追って走ることが最善。僕のやるべきことだ。だけど…………。
(………これでよかったんだろうか)
その思いが消えてくれない。頭ではわかっているんだ。僕たちにできることは限られている。都市の人たちを放ってきたことも、そして三沢くんを信じて今は愛理ちゃんを追わないといけないことも……。
叶うことならば都市の人たちも助けたかった。三沢くんを巻き込みたくはなかった。
それができていればこんな鉛のような重みを感じることなく愛理ちゃんを追えたのに……。
全速力で走る音速ダックに乗ってどれ程の時間が経ったのだろうか。時間を意識する気にもなれず走り続けていたから今何時なのかわからない。
ただ青が広がっていた空が藍色に染まり始めていたことから、もう夜が近いことだけはわかっていた。
まだ、愛理ちゃんは見えない。
森から里へは3日はかかったけれど、あれはゆっくりと進んだためである。音速ダックを全速力で走らせ早数時間。都市への道中に見た光景もそこそこにあるため、近く森が見えてきてもおかしくはないはずであった。
そうして重たい気持ちをぶら下げながらも空を見上げサンダー・ドラゴンに乗った愛理ちゃんがいないか探していたからだろう。その異常にすぐに気がついた。
「──空が……赤い……?」
夜闇に染まり始めていたはずの遠くの空が赤色に染められているのに気がついたのだ。赤色になっている場所は僕が目指している方向──里のある森がある方向だった。
「森が──燃えている……!?」
赤く染まった空に危機感を覚え音速ダックを走らせた先に見た光景。そこには森が燃え全体に火が広がっている光景だった。
(なんてことだ。こんなの、どうすれば……。でも恐らく愛理ちゃんはこの先に……。火の海とかしている森の中にいるはず………)
道中で愛理ちゃんを見つけられなかった以上、この先に進むしか方法がない。しかし燃えた森の中なんて、死にに行くようなもの。あまりにも危険な行為だ。
『──無理だけはするな。危険だと感じたら、俺が追いつくのを待つんだ』
都市を出る時に三沢くんに言われた言葉が蘇る。
この先に進むこと、三沢くんがいれば確実に止められるだろう。
それでもその危険な場所に愛理ちゃんがいるとするなら、探さないわけには行かない。例え危険でも、行かないわけには行かないんだ!!
「──だからごめん三沢くん。僕は行くよ。この先に愛理ちゃんがいるかもしれないんだ!!」
離れていても襲ってくる熱気に危険を感じ踏みとどまりかけた足を動かす。なんとしても愛理ちゃんを見つけ出す。その決意を胸に僕は森の中へと走り始めるのだった。
*
「くっ、こんな火の中どこに……。愛理ちゃん!! いるなら返事をしてくれッ!!」
覚悟を決めて森に飛び込んだ僕は音速ダックが真っ直ぐと里に向かって走る中忙しなく左右に目を向けて愛理ちゃんを探していた。
炎に包まれた森の中は灼熱地獄がごとく熱に包まれており、気を抜けばすぐにでも倒れてしまいそうになる。
それだけじゃなく、燃えた木々の煙によって空気が澱んでいるのか一呼吸をするたびに喉が焼けつくように熱くなる。
あまり長居をしていたら煙の吸い過ぎでそれだけで死んでしまうだろう。
僕は焦る気持ちのままに駆ける森の中、里へと続く道のりの中途まで着た頃だろうか、僕を呼ぶ声が脳裏に響いた。
『──!』
「!! こっちか!!」
その声に逆らわず、僕は声が聞こえた方向へと音速ダックの頭を向けて全速力で駆けた。
前かがみになりさらに速度を増した音速ダックが里へと急行する。
そして里の入り口に左右に屹立した巨木を通り抜けた先、里の入り口間近の広場に探していた愛理ちゃんがいた。
「見つけた……愛理ちゃん!!」
「──ようこそ勇者くん。待っていましたよ」
「来たか、星に選ばれし少年よ………」
「アレイスターさんに……大賢者さんか──!!」
広場に辿り着いたとき、愛理ちゃんを挟むように白いローブを着たアレイスターさんと、紫色をした魔法使いと言えばこんな感じをイメージした風貌の巨漢の老人である大賢者さんが立っていた。
周囲を見れば、やはり里のあちこちも燃えている。理由はわからないけれど、恐らくアレイスターさんと大賢者さんの仕業だろう。
里にいた住民はどうなったのか。人とは違って死んでもマナへと変換され世界へと還る精霊は遺体を残さないために一見しただけではどうなったのかを知ることはできない。
やはり魔法都市のように、ここにいた精霊の人たちも亡くなってしまったのだろうか…………。
魔法都市で感じたものと同じ、鉛のような苦しみが心にのしかかってくる。
それに…………。
(愛理ちゃんの反応がない。まるで眠っているように、目が虚ろだ……)
里の周囲へと振っていた視線を目の前に佇む愛理ちゃんへと固定する。
僕がやってきても目に光が戻っていない。周囲の里の様子にも心を動かしているようにも感じない。無表情で、感情と呼べるものが抜け落ちたように静かに大賢者さんとアレイスターさんの間に立っている。
魔法都市でアレイスターさんに助けを求められた時から、彼女は心を失ってしまったかのようだった。
「くっ、いったいどう言うことなんですか!? 都市を燃やして、王様を殺して、里までこんな風に。貴方たちは何がしたくてこんなことをしてるんですか!!」
「フフフ、君はここまで来てしまった。なら、教えてあげてもよいのでは大賢者様」
「そうだな、それもよかろう。知ったところで何が変わるわけもなし。お前にも教えよう、私の計画を……」
大仰な動作でローブから腕を出した大賢者さんがその手に12個の小さな地球のような丸く、様々な色をした透き通った球体を生み出した。
「世界とは一つではない。この世界やお前たちが地球と呼ぶ世界があるように、異なる世界。異なる宇宙は12個存在する」
「……12次元宇宙」
「そう、12の次元は時に近づき、時に離れ、互いの世界の秩序を保っている」
掌の上に浮かせた球体たちはそれぞれが円を描くように動き回り、大賢者さんのいうように近づいては離れてを繰り返している。
動き回る世界を模しているのであろう球体は、近づいた瞬間まるで火花を散らす様にチカチカと光を放ち、離れては光を失ってまた近づき火花を散らし続けている。
「その12の世界がなんだって言うんですか!?」
「世界とは永遠ではない。助け合うこともあれば、滅ぼしあうことさえある。私は他に干渉されることのない。完全に独立した世界が欲しいのだ」
「完全に独立した世界?」
大賢者さんが掌の上に生み出した12個の世界とは離れた場所にもう一つ、似たような球体を生み出した。12の世界とは壁を挟むように間に平面の壁を作りながら生まれたその世界はその場から動くことなく火花を散らすこともなくそこに平穏を作っていた。
「つまりだよ勇者くん。エリアが君に話した世界の危機というのは嘘ではないんだ。ユベルっていうとんでもない精霊がいてね。その精霊のせいで12の世界が滅ぶかもしれない。
でもそんなの嫌だろ? だから大賢者様はそういった他所の世界の危ない精霊や他の力ある存在に干渉されない。安全で理想的な世界を作ろうとしているのさ」
ユベル…………?
それが世界を壊そうとしているだって…………?
いや、それよりも、世界を作るってなんだ…………?
「世界を作るって……そんなのできるわけない!!」
「いいや成せる。お前の持つ9枚の惑星のカードと私の持つ最後の1枚があればな」
「惑星のカード……プラネットシリーズか!!」
掌の上の13の世界を消した大賢者さんは世界に変わるように、今度は10枚のカードを作り出した。それは僕の持つ9枚のプラネットカードであり、そして僕の知らない1枚のカードでもあった。
やがて10枚のカードは一つに束ねられ、一つの世界を生み出す。それは先ほど12の世界とは別に作られた世界と瓜二つであり、それこそが大賢者さんが求める世界であるようだった。
世界を作るなんて俄かにはとても信じられないことだ。
だが、彼が嘘を言っているようには感じられない。本気で、10枚のプラネットカードを集めれば世界を作ることができると信じているようだった。
「そう。10枚のプラネットシリーズが揃った時、世界が生まれるのだ。所有者の望む、理想の世界がな」
「理想の世界……」
「君はアウスから聞いていたはずだよ? プラネットシリーズが集まったら凄いことが起こるって」
アレイスターさんに言われて思い出す。そうだ、たしかに僕は聞いていた。プラネットカードはそれぞれが自分たちとはくらべものにもならないような力を持っていると。
その力を持つ10枚のカードが集まれば、すごいことが起こるとは確かに、アウスから昔聞いていた。だけど、まさか世界を作れるなんて…………。
「た、確かに聞いていたけど……………」
「いやはや、凄いよねー! さっすが星が生み出したカードだ。そこらのカードができることとはスケールが違う!!」
興奮したように話すアレイスターさんに僕は疑問と共に憤りを覚えていた。危険な存在がいるから世界を作る。そこまではいい。そのために僕にプラネットカードを集めさせたのも…………。
「それならどうして。どうして僕を勇者だなんて呼んだんだ! プラネットシリーズを集めさせることが目的なら、愛理ちゃんを人間にする必要も、勇者だなんて──」
「その方が都合がいいからだよ。エリアのような可愛い女の子に勇者だなんて呼ばれて頼りにされたら舞い上がってその気になってくれるだろう?」
「──ッ!」
言葉に詰まる。それは彼らの思惑通り、僕は愛理ちゃんに勇者と呼ばれてその未来を夢想していたのは事実だからだ。
愛理ちゃんに、そしてアウスたちに助けを求められて彼女たちを危機から救う。そんなHEROになれると思っていたのが僕だったからだ。
「事実君はエリアやアウスに言われるがまま、積極的にカードを集めれるほどに強くなった。まあ、エリアが君に恋しちゃったのだけは予想外だったけど、大筋は問題なく進む」
「エリア以外の霊使いを人間界に送り込んだことにも理由はある。世界中に散らばった惑星のカードはあるべき持ち主の元に赴こうとする。ならばその意思を持つ精霊を媒介として集まろうともするだろうとな」
そうか! それでそれぞれのプラネットカードを霊使いの皆が持っていたのか!!
ヒータが自分のことを乗り物だと言っていたけれど、それは間違ってはいなかったのか!
「ならこれまでの全部が貴方達にすべて仕組まれていたってことか。愛理ちゃんに恋したことも、プラネットカードを集めたことも、全部!!」
「その通り、そしてそのクリスタルの役目も、今終える」
「──なにっ、クリスタルがッ!?」
大賢者さんが僕の胸元へ人差し指を向ける。すると、僕の胸元にかけられていたクリスタルが光を放ち始めた。これまでにないほどの輝きを放ち、クリスタルは僕の首元から離れ宙へと浮かび上がっていく。
周囲に6色の輝きを見せるクリスタルは吸い寄せられるように大賢者さんの元へと渡り彼の前に停滞し内部に溜められた光を放出した。
「世界を構成する6つの属性。その力が宿ったクリスタル。そして星の力を宿した者の力。その総てが一つとなることで、新世界のための精霊が生まれる!!」
クリスタルから放出された光に吸い寄せられるように僕のデッキから霊使いの皆が次々と飛び出し、クリスタルを中心に輪を描いて集まる。
瞳を閉じた彼女たちに抗う様子はない。愛理ちゃん同様、意識を失っているように物静かにしている。そして立ち並んだ彼女たちに倣うように愛理ちゃんも宙に浮かびクリスタルの前に並んだ。
「愛理ちゃんが……皆んなが……いったいなにをッ!?」
「交わりて新世界の礎となれッ! 融合せよ──
燃え盛る炎によって赤く染められた空すらも霞んでしまうような、目を開けていられない程の閃光がクリスタルを中心として発生した。
厖大な輝きは吹き荒れる嵐のように森全体へと波及し、木々を燃やしていた炎さえも吹き飛ばしていく。
僕たちを呑み込み周囲一帯を包んでいた眩い光が閉じたとき、そこには愛理ちゃんの姿も、アウスたち霊使いの姿もなく、ただ一人の精霊の姿だけがあった。
「愛理ちゃんが……皆んなが………ドリアードに──!?」
「君に渡してたクリスタルにもちゃーんと意味があったんだよ。発信機以外にも君自身の守護と──」
「6属性を司る霊使いの力の収集。そして勇者がデュエルを経る度にその内に宿る星の力を収集すること。その全てが成されることで、今、エリアたちは新世界の柱となるドリアードとして生誕したのだ」
神々しいまでの輝きを全身に纏い、夜明けが見せる太陽の一瞬の輝きのような色をした豪奢なドレスを纏った金髪の女性──ドリアード。
全てを許してくれそうな優しく包容力のある瞳が、世界を見つめていた。
「ドリアードは新たに生まれる世界を安定させるための柱となる。星のカードの本来の所有者ではない私が世界を生み出す以上、万難を拝さねばならぬのでな」
「そんな、そんなことのために皆んなを……ふざけるなッ!! 僕も皆んなも、貴方たちの道具じゃないッ!!」
「ならばどうする。既にお前の求めるエリアは我らの手中にあるのだぞ?」
「僕とデュエルしろっ! そして僕が勝ったら愛理ちゃんたちを戻せ!!」
愛理ちゃんたちがドリアードに融合された時の衝撃波によるものか、周囲の炎は立ち消えて呼吸がしやすくなっている。
これなら問題なくデュエルができる。そして、融合して一つになった姿がドリアードだと言うのなら、それを元に戻すことだって、彼らならできるはずだッ!!
僕が彼らに対して唯一対抗できる武器であり、僕がこれまで培ってきた最強の武器でもあるデュエルでみんなを助けて見せる!!
「──よかろう。ただし、お前が敗北した時、お前の持つ9枚の星のカードを貰うぞ」
「僕のカードを……!?」
「それだけじゃないよ。大賢者様とのデュエルはエンディミオン王とした時とは違う。負ければ死ぬ。命を賭けたデュエルだ。君にそれをする勇気はあるかな。勇者くん?」
命を賭けたデュエル。敗ければ死ぬ。ずっとずっと前に愛理ちゃんから言われたこと。
それをする覚悟があるかと問われたら、正直わからない。今でも逃げ出したい気持ちでいっぱいだ。
でも、三沢くんは僕を先に行かせるために一人残ってそのデュエルをすることに決めた。
だから愛理ちゃんを助けるために、ここで僕が逃げるわけにはいかないッ!!
「デュエルだ大賢者!! 僕は貴方を倒して、みんなを助けてみせる!!」
「その申し出受けよう。生涯最後のデュエルだ。全力でくるがいい!!」
信じるデッキを手に、ディスクを構えて叫ぶ。生涯最後のデュエルになんてさせない。大賢者さん……いや、大賢者に勝利して、僕は愛理ちゃんたちを助けて見せる!!
「「デュエル!!」」
多くが焼け壊れた里の中心で始まったデュエルを精霊神后 ドリアードは静かに見つめていた──。