1年ぶりくらいに回転寿司行ってきて6皿と茶碗蒸しでギブになってこんな食えなかったっけとちょっとだけ驚いた。
轟々と大地が焼けつく匂いがする。
太陽の名を冠するプラネットシリーズにおける最高位のモンスター、『The supremacy SUN』による攻撃が大地を穿ち赤々と煙をたてながら熱を帯びた状態になっているのだ。
その余波がただでさえ上がっていた周囲一帯の温度を上げ、ドリアードの誕生と共に一度は鎮火したはずの火事が勢いよく再発している。すぐにその再燃した炎は森を、そして里の全てを灰に化していくだろう。太陽の名を冠するモンスターゆえに、その攻撃には容易に木々を燃やし立ちはだかる全てを灰に帰す力を有していた。
「──ゔっ……熱っつッッ……!!?」
大賢者の召喚した『The supremacy SUN』の攻撃により倒れ伏した僕はその全身に焼け付くような痛みとダメージから起き上がれずにいた。
地面についた手が熱い。いや腕だけじゃない。地面に触れている体全体が焼けるように熱いのだ。体の表面だけではなく喉もまた焼けつくように痛い。焼けた空気を吸い込んだように、空気そのものが熱を帯び僕の呼吸器官にダメージを与えているのだ。
痛みに耐えながらどうなっているのか把握する間もなく、太陽の化身を中心に熱量が上がっていく。彼の真下は既に地獄の釜のように溶けて目に痛いほど赤々と光っている。
大地が溶けるほどの熱。あの熱気、本体はどれほどの熱量になっているのか。きっと名前に恥じない程のものになっているだろう。近づいただけで身体はおろか衣服が燃え始めるほどにその温度を上げているに違いない。
しかし、すぐ近くにいる大賢者はその熱を感じている様子はない。熱を遮断するような力を放っているのか、それとも太陽の意思によるものなのか。
少なくとも、大賢者だけはその熱の範囲外になっているのだけは確かだった。その証拠に、アレイスターさんは熱量を上げる太陽の化身から離れようとしているし、ドリアードになった愛理ちゃんもまた、範囲を広げていく溶けた大地から離れている。
倒れながら起き上がれずにいた僕を見下ろした大賢者がおもむろに、その手からデュエルディスクを消し、その左手を大きく天空に広げた。
「さあ、我がもとに来たれ。星のカードたちよ!!」
「──なっ、僕のカードがッ!?」
大賢者が天に翳した手に引き寄せられるように、僕の左腕が持ち上がり、デュエルディスクに差し込まれていたデッキから9枚のカードが飛び出した。
それは大賢者が翳した手元に集まり、淡い光を放ちながら10枚のカードが揃ったことを祝うように荘厳な音色を奏で始める。
その影響が周囲にも及ぼしているのだろう。焼け焦げた木々が再生されるようにその青さを取り戻し、一瞬で時が過ぎていくように枯れ木へとその姿を変えた。
そしてまたその枝に葉を実らせ、再び枯れる。高速で過ぎ去っていく時が繰り返されているように。なんどでも、なんどでも、僕の目の前でそれが繰り返されていく。
「今ここに、全ての星のカードが集まった──。そして勇者の命が潰えることで真の所有者も消え、我が意思に応え新世界の産声が上がる!」
その手に集まった10枚のカードに興奮した様子で叫ぶ大賢者に僕は呆然とそれを見つめることしかできない。敗北し、これから死ぬのだという事実と、デュエルによるダメージに思うように身体と意識が動いてくれないでいた。
「揺れている…………?」
視界が揺れている。
死への恐怖心から僕の身体が震えているのだろうか……と、最初は思ったが、すぐにそうではないとわかった。
いや、まったく僕の身体が震えていないというわけではなかったのだが、それ以上に大地の震えの方が大きかったのだ。
「ああ、どうやら動き出したようですね。なら、そろそろ私たちも……」
「そうだな。巻き込まれる前に我らも行かねばな。行くぞ、ドリアード」
「──はい」
おさまらぬ揺れの中、倒れ込んだまま起き上がれない僕に背を向けて何処かへと歩き出した大賢者たち。
ドリアードとなった愛理ちゃんたちもまた、それに従うように緩やかに背を向けて歩き始める。
その遠ざかり始めた背に、2度とは会えない怖気を感じ咄嗟に手を伸ばす。
「ま、待てッ!」
「ここまでご苦労だった少年。もはや会うことはない。ゆっくり休むといい」
「ばいば〜い」
無駄と知りながら伸ばした手は離れていく大賢者たちに届くことはなく、空を掴むばかり。
デュエルに敗北し、離れていくドリアードを見つめていた僕の目に入ってきたのは僕の体を包む淡い光。
それは魔法都市エンディミオンで見た命の終わりを告げる光だった。
「──う……うぁあああああ!!!」
恐怖からの絶叫が喉から溢れ出る。
遠く離れていくドリアードとなった愛理ちゃんに会えなくなること以上に死という絶対的な終わりが受け止められる心の容量を超えて漏れ出てきたように、僕は叫んだ。
大きくなっていく地震の揺れと背後から迫っていきていたらしい巨大な光に呑まれていく。去っていく彼女たちを目に映しながら、僕の体は叫びと共に光の粒子となって消えていくのだった──。
*
コナミが大賢者とのデュエルに敗北していた頃、三沢は疾走する音速ダックに跨り一心に森を目指していた。
魔法都市を目指した時のようなゆったりとした道中とは違い、疲労や体力の温存を考えない走行は容赦なく俺の体にも大きな負担を与えてくる。
しかし休むわけにはいかなかった。
今こうして走っているときにも、コナミや愛理くんの身に危険が迫っているかもしれない。そう思うと、どれだけ疲労していたとしても立ち止まる気にはなれなかったのだ。
(──コナミは無事に、愛理くんと会うことはできたのだろうか……)
内心でポツリと呟く。
コナミと別れてもうどれくらいか。太陽も落ちて空には星が満ちてきている。空を飛ぶサンダー・ドラゴンの速度はわからないが、先に行かせたコナミはもしかしたら会えているかもしれない。
会えたとして、上手く彼女をアレイスターの魔の手が届く前に助けれているかどうか。それは辿り着いてみなければわからないこと。
俺が一番恐れているのは愛理くんの身の安全以上にコナミが俺の忠告を無視して無茶なことをしないかということだった。
あいつは愛理くんを助けるためなら罠とわかっていてもアレイスターと大賢者の元へと単身で乗り込むだろう。それがどれだけ危険なことか、それを理解して尚その歩みは止めないはず。
無鉄砲とも言える行動の代償がどれほどのものになるか、果たして本当に理解できているのか。
(都市での反応から見て、コナミはまだ……。愛理くんはともかく、彼らがコナミに手心を加えるない。無事であればいいのだが)
愛理くんは無事でいる可能性はある。コナミが目的であるなら囮としての価値は無視できないはずだからだ。
だから急がなければならなかった。一人では無理でも、二人なら可能なこともあるのだ。
罠を張られていても、二人なら逃げることも乗り越えることも、ぐっとそれを可能とする可能性が高まるのだから…………。
「急がなければ……最悪はコナミを無理やり連れて逃げる選択も………──なにっ、地震!?」
それは突然始まった。
音速ダックに跨ったままに視線を前に向けて思考を続けていた俺を巨大な地震による揺れが襲ったのだ。
「くっ、転ぶわけにはッ!! ……──なんの光だッッッ!?」
異変は連続して続いた。
地震による揺れに驚き慌てる音速ダックから振り落とされないように手綱を強く握りその足を止めさせないようにと踏ん張っていると、背後から夜闇を切り裂くような明かりが俺の背中を叩いたのだ。
急いで顔を背後へ向ける。そして目に映ったのは天を突きさす光の柱であった。
それは夜の闇を打ち消すような明るさを周囲にもたらし予め夜と知っていなければ昼間になったのかと勘違いしかねないほどで、目を凝らさずとも遠くの景色まで認識できるほど巨大で高い光量だった。
「なんだあれは──…………まさか、大きくなっているのか!?」
額に掌で影を作りその光の柱を凝視する。
天空を裂いて現れた柱は一瞬その巨大さからその全貌を認識することができなかったが、よくよく見てみるとその光がじりじりと近づいてきていると視認することができた。
光は大きくなっていっている。
その速度は緩やかであると思えたが、そうではないとすぐに悟った。大きくなる光は徐々にその速度を上げているようで、その光の柱の範囲を驚くべき速さで広げているようだった。
(あの光………呑み込まれるとどうなる…………光に呑まれた先、無事でいられるのか!?)
考えている暇はなかった。
思考し考察している間も光の柱はその範囲を広げつつある。どこまで行けばその光が止まるのかはわからないが、俺がいるこの位置まで来ないなどという楽観的な考えは捨てた方がいいのだけは確かだった。
そして光に呑まれた先に俺が無事でいられる保証もない。
コナミや愛理くんを探さなければならないが、今はそれ以上にこの突然現れた光から逃げることの方が重要で、このようなことを考えている時間さえ惜しいと言うように今すぐに行動しなければならかった。
俺はそうと認識してすぐに音速ダックの向きを転換し少しでも光から離れようとする。しかし光の拡大する速度の方が早い。
逃げると言う選択をするのが遅かったのか。いや、どれだけ早くあの光から逃げる選択をしたとしても結果は変わらなかっただろう。
もはや逃げ切ることは不可能。そう理解できるほどに、俺の背後に迫る光の柱は奇声を上げながら懸命に足を動かし全力で走る音速ダックの真後ろまで迫りつつあった。
「だっ、駄目だッ! 逃げきれないっ!?」
そしてとうとう尻尾を掴まれた。
これでもかと前傾姿勢に上半身を落とし速度を上げていた音速ダックだったが、その走りも光の拡大速度には及ばず、尻尾の先からどんどんと光の中に吸い込まれていく。
「うっ──おっ……ォオオオオオオオ──!!?」
光の柱の拡大がそこで終わるはずがなく、容赦なくその範囲を広げ俺の身体にまで登ってくる。俺は喉が痛くなるほどの叫びを吐き出しながら恐怖心を退け光の先にあるものを見つめようと覚悟を決める。目を見開き光の中へと凝視するように視線を固定した。
浮遊感。
光に呑まれた俺に与えられたのは前後不覚になるほどの宙に浮かんでいるのか落ちているのかも判断のきかない浮遊感であった。そして浮遊感の後に、ミキサーにかけられているような回転もそこに加わったことで覚悟を決めた俺の視界は完全に封じられた。
何が起こり、俺がどうなっているか。それを認識する余裕などなく、理解しようとする努力もむなしく終わる。ハリケーンにでも巻き込まれたかと錯覚しそうになる光の暴威の中で俺は意識を失うのだった──。
異世界編、第1章ー結。