初心者粉眠くんのデュエル日誌   作:XX

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天空のエスカフローネ、鼻が凄いな。でも丁寧な1話で続きが気になる。


暮れの砂漠

 

 砂漠にあるオアシスで堂本は1人、佇んで水面を見つめていた。

 その顔は顰められており、これでもかと眉間には皺が寄っている。

 

 堂本もまた、三沢たちと共にコナミたちを救出するために異世界へと渡航していた1人であった。

 彼らは最初、十代を筆頭に共に行動していたが途中で二つに分かれることにしたのだ。

 

 ヨハンを探すにせよ、コナミを探すにせよ、大勢で一塊で探すよりも二手に分かれた方が効率がいいという理由からだった。

 

 勿論反対する者たちはいた。

 明日香や翔と言った大勢で行動した方が安全であると主張する意見だ。

 

 しかし道中にかつて敵として戦ったらしいアマゾネスの戦士であるタニアと出会い、彼女が三沢たちと行動してコナミを探してくれるというために別れたのだ。

 

 だが、今堂本は1人だった。

 分かれた当初は三沢、道長、そしてタニアと同行していたのだが、この砂漠の途中大きな砂嵐にあい、気がついた時には堂本は1人、3人とはぐれていたのだ。

 

『迷っているのか?』

 

 オアシスの水面に映るアタシが口を開く。

 そこにいるアタシを見つめる目はきつく細められ、ここで立ち尽くしている自身を責め立てているかのよう。

 その声色は普段出している少し高い声色よりもずっと深く、落ち窪んだ男性らしい音色を奏でていた。ともすればこれが本来の彼の声のようであるように、自然な声であった。

 

「どうかしら。あの魔術師さんの言うことが真実である保証はないわ」

『だが嘘である事実もない。可能性があるなら、それをする価値はある』

「…………」

 

 もう一人の自分の言葉に閉口する。

 迷っていた。迷うだけの価値あることを堂本は彷徨っていた自分をオアシスへと導いた魔術師風の精霊から伝えられていた。

 

「戦えばどちらかは死んでしまう。アタシか、それともコナミちゃんが…………」

『怖いのか。お前の願いは恐怖心ですくんでしまう程度のものだったのか?』

「フフッ、まさか。死ぬことなんて怖くとも何ともないわ。ただ、そのために友達を殺すこと。それが怖いのよ」

 

 自分の身勝手な願いのために友人を殺す。

 きっと、皆あたしのことを許さない。そんな視線にさらされるのが怖しい。

 

「罪を重ねることになるわね」

『それがどうした、今更だろう。過去の罪は消えん。お前が犯した過ちは正さなければならない。それにもう二度とは巡っては来ないチャンスだ。逃す理由はないはずだ』

「…………そうね。その通りよ。だから、しょうがないわよね。ほんと、しょうがない」

 

 意を決した堂本が水面から顔を上げる。

 鏡のように映る自身との会話に夢中になっていたようで、気が付けばオアシスのそばに腰を下ろし水面の間近まで顔を近づけていたようだった。

 

「恨まないで、なんて女々しいことは言わないわ。コナミちゃん、あたしはあたしの願いのために、あなたを殺す」

 

 オアシスの水を一掬いして顔にかける。

 良心が咎める気持ちを拭い去るように、水が落ちてゆく。

 その水がすべて滴り落ちた時、その瞳から迷いは消えていた──。

 

 

 

 

 雲が散り散りに裂けながら流れていく。

 日が傾いてきたことで青かった空も紫色に変化していっているのは、この異世界特有のものなのだろうか。

 

 道長は砂漠に立ちその色彩の変化を見つめていた。

 

「ここにいたのか道長」

「三沢先輩、コナミ先輩は…………」

「一応は大丈夫だ。魘されてはいたが、よく眠っている」

 

 砂を踏みしめながら近づいてきた三沢に道長は振り返る。

 その視線の先には小さなテントが建てられており、その中では現在コナミが眠っていた。

 

 道長たちはコナミと合流後、すぐに十代たちと会うために道を戻ろうと提案したのだが、コナミの消耗が激しく、この場に留まっていたのだ。

 

「先輩が目覚めたら出発するんですか?」

「そのつもりだったが、もう日が遅い。出発するとしても明日だろうな。タニアもその方がいいと言っていた」

 

 チラとテントの方を見る。

 その前にはアマゾネスの戦士のタニアが剣を砂に突き立て立っており、テントに近づこうとするものを阻むように守っていた。

 

 これは先輩を守るためであり、直近でデュエルを介して殺そうとしていたカミューラを近づかせないための処置だった。

 

 そのカミューラは三沢たちが来たことでいくつかこれまでの経緯を軽く話した後、森の方へと去って行き、今はどこで何をしているかわからない。

 タニアが言うには近くから見てはいるとのことだが、彼女がどう言った理由で先輩と共にいたのかがわからないため、警戒を解くわけにはいかないとのことだった。

 

「十代先輩たちと合流ですか…………」

「そのつもりだが、どうした」

「いえ、愛理先輩が心配だなと。それにコナミ先輩があの状態で、しかも大賢者とかいう魔法使いから狙われているじゃないですか。上手く会えればいいんですが」

 

 一抹の不安がよぎる。

 先輩が大賢者なるものに狙われていること。そしてそのためにいくつもの敵が送れていることをカミューラから道長たちは聞いていたのだ。

 

 それを考えればこうして無事に会えたことは僥倖としか言いようがない。

 彼らがこちらの状況を知るすべがあったならば、あるいは自分たちにも敵が送られていたかもしれないのだから。

 

 この世界について自分たちよりもよほど詳しいタニアと出会えたこと、そしてその頭脳、実力ともに頼りになる三沢先輩がコナミ先輩を探すことに誰よりも意欲的であったのが幸いした。

 コナミ先輩の精神的な部分はともかく、肉体的には傷一つなく合流できたのだから。これは幸運以外の何物でもなかった。

 

「まあ、十中八九邪魔は入ると見て言い。俺もタニアも、敵が出てくることは想定している。その時は…………」

「戦うしかない。そうですね」

「ああ。可能な限り戦いは避けたいが、難しいだろう。コナミが立ち直るまでは俺たちで守ってやるしかない。ふっ、安心しろ道長。その時は俺とタニアが前にたつ。お前はコナミの傍にいてくれればいい」

 

 何とも頼りになる先輩の言葉だった。

 腕を組み前を見据えるその姿からは頼もしさしか感じない。

 中学の頃から三沢先輩については知っていたけれど、ここまでの人だとは思っていなかった。

 

(さすが、コナミ先輩があらゆる分野で大成できる天才と称していただけはあるなあ)

 

 いつ敵に襲われるともわからない中でも泰然としている三沢に感心の目を向け、道長もまた前を向く。

 その視線の先には何もない砂漠しか映ってはいないが、自分とは違い、この頼れる先輩の視界にはもっと多くのものが見えているのだろうと確信できた。

 

「コナミ先輩、立ち直れますかね」

「立ち直ってもらう。そうでなければ、愛理くんを助け出せたとしてもあいつの未来は闇の中にしかない」

「…………」

 

 テントで眠る先輩。

 先輩は今、まともにデュエルができない状態だとカミューラから聞いていた。

 方法はわからないが、一度デュエルで敗北し死を体感したことでデュエルそのものがトラウマになっているのだと。

 

「話を聞く限り、コナミと一度別れてからあいつがデェエルしたのは大賢者だろう。愛理くんを助けようとすれば確実に大賢者と戦うことになる」

「先輩を倒した相手、倒せるでしょうか」

「厳しいだろうな。コナミが1度敗北したことでプラネットカードも持っている。さらに力を増していると考えていい」

 

 先輩が1度敗北した相手。

 愛理先輩を助けようと考えたら、絶対に避けては通れない相手。

 そんな相手を倒さないといけないと考えたら足が竦みそうになってくる。

 

 だけど、愛理先輩を置いて帰るなんて選択はできない。

 倒せるとしたら今ここにいないコナミ先輩のライバルである十代先輩か、もしくは立ち直ったコナミ先輩自身。もしくは…………。

 

 チラと隣に立つ三沢を見る。

 その実力はコナミにも引けをとらないとコナミ先輩自身が言っており、幾度も追い詰めているのを見たことがある。

 

 そのため、2人が無理であるその時はこの人に戦ってもらうことになるだろうとなると、道長は考えていた。自分の実力で敵うはずがないともわかっているために。

 

 当然ながら、任せきりにするつもりはなく、自分もまた戦うつもりではある。それだけの思いはできているつもりだった。

 

「ところでこの砂漠、昼間もそうでしたけど大して熱くありませんよね。気候も安定してましたし」

「ああ、一般的に俺たちが想像する気候の変化が激しい砂漠とは違うのだろう。昼は暑く、夜は寒い。そんなことにはならないはずだ。どうした」

「いえ、特別どうということはないんですけど」

 

 やっぱりここは異世界なんだなと漠然に感じたからである。

 

「俺たちの第一目標だったコナミは見つけれたのだ。あとは愛理くんだが、彼女に関しては十代たちと合流してから考えよう。なに、すぐに春香くんと会えるさ」

「ちょっ、なんでそこで春香が出てくるんですか」

「好きなんじゃないのか? コナミからよくお前たちが仲がいいと聞いていたが」

「違いますよ! あいつとはなんて言うかこう、腐れ縁ってやつです」

「そうなのか」

「ええそうです」

 

 三沢の勘違いを正しつつ、今はここにいない春香のことを思う。

 

 彼女は今何をしているのだろうか。

 この世界に行く時、愛理先輩を助けるために自分も行くと聞かなかった彼女だが、危険だからと説得しなんとか残ってもらえた。

 

 腰に手を伸ばす。

 そこにあるはずの仮面が存在しない。

 

 俺のアイデンティティとも呼べる四つの仮面。

 それは春香に預けていた。

 

 何があるかわからない異世界。

 最悪戻ってこれない可能性さえある。とても大切なものだから身につけておきたいと言う気持ちはあったが、大切だからこそ預かっていて欲しかった。

 

『バカじゃないの。縁起でもない。アタシにこんな気味の悪いもの預けたまま帰ってこなかったら許さないから』

 

 出発する直前の春香の怒りながらも苦虫を噛み潰したように歪めた顔を思い出し、早く帰って引き取りに行かないとなと思う。

 

 今頃、あいつはどうしているだろうか。

 やっとの思いで元の世界に帰ってこれた学園で美味い飯でも食べているのか、それとも俺のことを心配してくれていたり……なんてな。

 

「はは、それはないな」

「どうした道長、急に笑って。何かあったか?」

「いえ、なんでも。ちょっとくだらないことを考えただけです」

 

 心配してるとしても、それは俺じゃなくて愛理先輩についてだろうな。

 我ながら馬鹿らしいことを考えたなと一瞬でも春香が自分を心配してる姿を空想したことに皮肉げに口元を歪め笑う。

 

 と、その時だった。

 沈みゆく太陽を背に前方から歩いてくる1人の影が見えたのだ。

 

「──誰かくる!」

 

 その影に、緩んでいた意識が一瞬で引き締まる。

 

 ──敵か?

 

 背後からタニアの声が響く。

 未だ完全には沈んでいない太陽を背にしているためか、逆光が眩しくその人影の全貌が把握できない。

 

 一歩一歩着実に近づいてくるその姿に警戒心を露わにする俺たち。

 テント前でコナミを警護していたタニアも側まで来て目を凝らし、その正体を見極めようとしていた。

 

「……いや、あれは」

「堂本だ。心配ないタニア。俺たちの味方だ!」

 

 その姿を確認できたことに喜色を浮かべ近づく俺と三沢先輩。

 その足をタニアの強い声が止めた。

 

「待て2人とも!」

「なんだタニア」

「?」

 

 砂嵐にあい逸れていた堂本先輩。

 彼が無事であることは電波のない世界でも連絡が取れるように伝書鳩によく似た精霊の力を借りたことでわかっていた。

 

 だからこそ後ろにいるタニアが近づいてくる堂本先輩に対して険しい視線を向けていることが不思議だった。

 

「あれが堂本工事であることに私も疑問は抱かない。しかしあの物々しい目。覚悟を決めた戦士と同じものをしている。不用意に近づくな」

 

 堂本の足が止まる。

 その距離は大凡そ5メートル。再会を喜ぶにしては些か離れた距離。そして、デュエルをするには十分な距離だった。

 

「堂本、無事でよかったよ」

「ええ、親切な魔法使いにオアシスまで案内してもらったの」

「……魔法使い?」

 

 誰だ……?

 堂本先輩から届いた手紙ではそんなことは書かれていなかったはず。

 

「ところで、コナミちゃんは今どこにいるのかしら。アタシも会いたいのだけど」

「……コナミは今眠っている。会うのは明日にしておけ」

 

 まるでお互いの秘密を探るような会話。

 三沢先輩と堂本先輩の2人の間には見えない壁あるように、近づけさせない雰囲気が漂っていた。

 

「悪いんだけど、道を開けてもらえないかしら。アタシは今コナミちゃんに用があるの」

「……明日にしろと、聞こえなかったか?」

 

 ぴきりと何かが割れる音がした。

 堂本先輩との間にひりつくような険しい空気が強くなっていく。

 2人の先輩の視線が睨み合う段階まできたことで俺は静かにデュエルディスクを広げた。

 

 ここまできたら俺にもわかっていた。

 理由はわからないが、堂本先輩はコナミ先輩に対し害意を持って近づいてきていると。

 

「邪魔をするなら……」

「!! 待て堂本、その魔法使いとやらに何を唆されたのか知らないが、コナミを倒そうとする理由を言うんだ。俺たちに力になれることかもしれない!」

「いいえ無理よ。アタシの願いを、貴方達が叶えることはできない」

 

 にべもなく吐き捨てられる。

 デュエルディスクを構えるその姿からはもう説得など応じないという意思しか感じなかった。

 

「でも、そうね。流石に3対1は分が悪いわね。だから……」

 

 流すように俺たちを順番に見た堂本先輩がポケットから石のようなものを取り出した。それは丁度俺と先輩の中心の位置になる場所へと放り投げられる。

 

「なにっ!?」

「くっ!」

 

 それが砂地についたその瞬間だった。

 

 石を中心に波のように広がった赤い波紋が僕の両隣にいた三沢先輩とタニアを弾き飛ばした。

 その波紋はまるで結界のように俺と堂本先輩を包み込み、一瞬にして出ることの叶わない状態になっていた。

 

「便利なものよね。その石は指定した相手とのデュエルを強制するものらしいわ。まず最初にやるのは道長ちゃん、貴方よ」

「──ッ!?」

 

 ドンドンと俺を逃さない結界を叩く音が背後からする。

 

 三沢先輩とタニアが結界叩き壊そうとしているが、ヒビひとつ入ることのない様子から出ることはできそうにない。

 俺はそれを見てやるしかないと覚悟を決めて仄暗い笑みを浮かべている堂本先輩にディスクを向けた。

 

「やる気になったようね。邪魔をすると言うのなら、アタシの願いのために死になさい道長ちゃん!!」

「先輩が戦えない今、俺が先輩を守ります。それがたとえあなたが相手でもッ!!」

 

 チラとコナミ先輩が眠るテントを見る。

 目覚めた時、俺と堂本先輩がデュエルしているところを見たらきっと驚いて止めようとするだろう。

 敗北した方が死ぬ以上、どちらが勝っても、いい結果にはならない。

 

 それでも、逃げられないなら戦うしかない!

 

 

「「デュエル!!」」

 

 

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