こう言うふうに書こうって決まったらワクワクしてくる
「俺の先行、ドロー!」
夕暮れの砂漠で堂本先輩とのデュエルが始まった。
先行は俺、道長だ。
手札を見、戦術を考えながらチラと堂本先輩を眺め見る。
先輩の薄暗くギラついた目からは罪悪感を感じながらも容赦はしないという覚悟が伺える。どちらかが死ぬこのデュエル、可能なら中断して話し合いで解決したいが、あまり期待できない。
つまり俺が生き残るには勝つしかない。
堂本先輩にどんな理由があるか知らないが、コナミ先輩を狙う以上は敵だということ。先輩を守るために、このデュエルには勝つ!!
「俺は手札からモンスターをセット。カードを1枚伏せてターンエンド!」
「アタシのターン、ドロー!! アタシは手札から神獣王バルバロスを攻撃表示で召喚! バルバロスはレベル8のモンスター。だけどその攻撃力を1900にすることで生贄なしで召喚できるわ!」
《神獣王バルバロス》 攻撃力1900 守備力1200
「バトル、神獣王バルバロスで貴方のセットされたモンスターを攻撃よ!! トルネード・シェイパー!!」
下半身が黒い獅子、上半身が屈強な男の体をしたバルバロスがその手に握った槍で俺の場に伏せられたモンスターを貫く。
貫かれたリバースモンスターはアローシルフ。しなやかな肢体の弓矢を持った女性である。
《占術姫アローシルフ》 攻撃力1000 守備力1400
「俺が伏せていたのは占術姫アローシルフ! 戦闘では負けるが、そのリバース効果によりデッキから儀式魔法を手札に持ってこれる! 俺はデッキから仮面魔獣の儀式を──」
「そうはさせないわ。私はその瞬間、速攻魔法 禁じられた聖杯を発動! 占術姫アローシルフの効果を無効にする!」
「禁じられた聖杯っ!?」
手持ちの弓矢を放とうとしたアローシルフの上から金色の杯に注がれたいた透明な水がかけられる。かけられた水により硬直したアローシルフは弓矢を放つことができず、バルバロスの槍に胸を貫かれ破壊された。
「貴方のエースであるマスクド・ヘルレイザーは召喚させないわ」
「チィ、サーチ効果を無効に……」
「ふふ、アタシはこれでターンエンドよ。貴方のターンよ道長ちゃん」
アローシルフの効果を無効にされたのは想定外。長い顔をする俺に、堂本先輩は口角を上げている。
だけど、逆に考えれば仮にマスクド・ヘルレイザーとバルバロスがバトルした際に今の禁じられた聖杯を使われなくて済んだとも言えた。
効果の無効がメインの禁じられた聖杯だが、そのついでのように攻撃力も400ポイントアップさせる効果もある。ヘルレイザーを下手に召喚しバトルしていれば返り討ちにあっていたことだろう。
なら、これはいい結果だったと見るべき。そう俺は考える!
考えることにする!!
「俺のターン、ドロー! 俺は手札の仮面魔獣マスクド・ヘルレイザーを捨ててトレード・インを発動! カードを2枚ドローする!!」
アローシルフからマスクド・ヘルゲイザーへと繋がる戦術はもう使えない。だったら予定を変更して上級モンスターの召喚に舵を切るべき。
堂本先輩お得意のスキル・ドレインとのコンボを成立される前にバルバロスを倒す!
「俺は手札から炎魔の触媒の効果を発動! このカードともう一枚の悪魔族──闇の侯爵ベリアルを見せることで炎魔の触媒を墓地へ。そして闇の侯爵ベリアルを特殊召喚する!!」
「……実質手札一枚で最上級モンスターを召喚したのね。やるじゃない」
「それだけじゃない。さらに俺は魔サイの戦士を攻撃表示で召喚!」
《闇の侯爵ベリアル》 攻撃力2800 守備力2400
《魔サイの戦士》 攻撃力1400 守備力900
黒い翼の堕天使であるベリアルと後ろ足で立ち上がり二足歩行となったサイである魔サイの戦士が召喚される。
2体は互いに共鳴するように黒い波長を放ち合いオーラを纏っている。
「闇の侯爵ベリアルがいる限り他のモンスターを攻撃対象にすることはできず、魔法・罠の対象にもできない」
「たしか、魔サイの戦士も似たような効果を持っていたわよね」
「そうだ。そして魔サイの戦士がいる限り他の悪魔族モンスターは戦闘・効果では破壊されない」
「……つまり、実質的に闇の侯爵ベリアルは無敵になったということ。かと言って魔サイの戦士を倒そうにもベリアルが守っているために攻撃も破壊もできない。厄介ね」
立ち並びその効果により結び合う2体に険しくヒリついた空気を滲ませる堂本先輩。それに対して、強固な守りと攻め手を両立したモンスターの並びに対する俺の気は自信に満ちていた。
「闇の侯爵ベリアルで神獣王バルバロスを攻撃! さらに魔サイの戦士でダイレクトアタックだ!!」
「──ッ! キャアッ!!」
《堂本》 残 LP 1700
ベリアルが黒い大剣を振り抜き巨大なバルバロスを一太刀で両断する。そして破壊されたことによる爆発をすり抜けるように魔サイの戦士が堂本先輩に近づき、紅く歪んだ形の槍の刃先で彼の胸を切り裂いた。
先輩が呻き声を上げ切り裂かれた胸を押さえているのは、話で聞いている通り、この世界のデュエルのダメージは多少なりとも体にもフィードバックされるからなのだろう。
その事実に若干の恐れを抱きながら俺は勢いに止めないように伏せていたカードを発動させた。
「俺は最後に魔サイの戦士を対象に永続トラップ ディメンション・ガーディアンを発動! このカードがある限り魔サイの戦士は戦闘及び効果によって破壊されることはない! ターンエンドだ!」
「これがこの世界のデュエルの痛み……アタシのターン、ドロー!」
痛みに堪えるように呻いていた先輩がボソリと呟き、痛みが引いたのか顔を上げカードを引く。
ベリアルと魔サイの戦士、さらにダメ押しで発動したディメンション・ガーディアンにより反撃に出ようものにも難しいはずのこの盤面。先輩はどう出てくるか。
「アタシは手札から死者蘇生を発動! 神獣王バルバロスを墓地から特殊召喚するわ!」
「バルバロスを、だけどベリアルを倒すことはできない!」
「そうね、だからこうするわ。アタシは神獣王バルバロスをリリースすることで獣神王バルバロスを特殊召喚する!!」
「バルバロスを生贄に、新しいバルバロスをっ!?」
《獣神王バルバロス》 攻撃力3000 守備力1200
「これは……バルバロスとは違う?」
「ただのバルバロスじゃないわ。このバルバロスは神獣王バルバロスがリメイクされたモンスター。だから、相応の強力な効果を持っているわよ」
先輩が話す説明を耳にしながらその現れたそのバルバロスを見る。
そのバルバロスは神獣王バルバロスとほとんど姿は変わらず、強いてあげるならその細部が、詳しく説明するなら武器のデザインが少しばかり変わっていたぐらいであった。
元の赤一色であった槍にはより丈夫にするためか槍全体を巻き取るように銀色の金属が装飾されている。青い盾もまた同じように金属の面積が増え強力な武器へと変化していた。
「どんな効果を持っていても、戦闘でも効果でも破壊されない俺のモンスターを倒すことはできない!」
「うふふ、確かに随分と強固な盤面だけど、抜け道がないわけではないわ。何事も完璧なんてものはない。一度には無理でも、一つずつ切り崩していけばねっ!!」
「なにっ!?」
「アタシは墓地の神獣王バルバロスを除外することで獣神王バルバロスの効果を発動! 貴方の場のカードを2枚破壊する!」
「カードを2枚も!? だが、魔サイの戦士も闇の侯爵ベリアルも破壊はされない!」
「わかっているわ。だからまずはそこの邪魔な罠から排除するのよ! アタシはディメンション・ガーディアンと魔サイの戦士を選択する!」
獣神王バルバロスが咆哮を上げ砂を巻き上げながら衝撃波を放つ。
巻き上げられた砂から腕で目を守りながらその衝撃の結果を見る。
バルバロスが放つ衝撃波はディメンション・ガーディアンの加護により守られた魔サイの戦士を破壊することはできずその体を守る緑色をした守りのオーラを剥がすことしかできなかったようだった。
しかし、その代わりのように魔サイの戦士にも闇の侯爵ベリアルにも守られていないディメンション・ガーディアンはその衝撃から免れることはできず破壊されてしまっていた。
「貴方のモンスターたちは魔法・罠からは対象さえ取れない効果を与えるけれど、モンスター効果は別。破壊はできなくても対象に選ぶことはできるわ」
「くっ、ディメンション・ガーディアンが……」
「とはいえ、これでもまだ貴方の守りを壊せたとは言えない。攻撃できるのはベリアルのみだものね。まあ、今はいいわ。アタシは獣神王バルバロスで闇の侯爵ベリアルを攻撃! トルネード・シェイパー・2nd!!」
「ぐぅ……っ!」
《道長》 残 LP 3800
四足の脚を響かせ迫ってきたバルバロスが槍でベリアルを貫こうとする。その槍に合わせるように大剣で槍を叩くが逸らしきれなかった槍の先がベリアルの頬を裂き、その痛みが俺の頬にも与えられた。
「アタシはカードを2枚伏せて、ターンエンドよ!」
攻撃力で劣るベリアルだが、バルバロスの攻撃を受けてもなお無事に場に残っている。魔サイが放つオーラがベリアルを破壊から守っていた。
チリチリと痛みを訴える頬に触れる。
血は流れていないようだが、その痛みは現実のもの。
このデュエルの先にあるものをありありと伝えてきていた。
デッキの上に指を置く。
僅かに震えを教えている指に、納得をしながら今は恐れている時ではないと、元の世界においてきた仮面を被るように顔に手のひらを当てた。
(このデュエルで、俺は負けるかもしれない。だが、それで死ぬのだとしても俺は……)
かつての弱い自分が嫌で仮面を被り誤魔化した。それから強くなり憧れに近づき弱かった己から脱却するために仮面を外すようになった。
もう仮面には頼らない。
そう決めた己のあり方に殉じるために、一度だけ震える手でギュッと拳を握りデッキに指をかけるのだった──。
*
『──起きて』
赤い結界に囚われた道長が堂本とデュエルをしている最中、1人テントで眠りについていたコナミは夢の中で自身を呼ぶ声に魘されていた。
「……うっ……うぅ。君は、だ……だれ、なんだ……」
『早く起きないと、大切な時が過ぎてしまうわ』
その声は少女のようでもありながら、少年のようでもあった。
暗い暗い夢の中で、その姿を見せない声は囁いてくる。起きなさいと……。
声はだんだんと大きくなっていく。
『辛いことから逃げていても、真実からは遠ざかるだけ。勇気を持ってその眼を開き、向き合わなければ』
「うぅッ!」
眠りの中で蹲るように縮こまり、その声を遠ざけようと両手で払う仕草をする。しかし、声は消えない。
遠のくことはなく、依然厳しい現実と向き合うことを要求していた。
『どこへ逃げようとも、貴方の宿命からは逃げられないわ。逃げても逃げても、その先にあるのは底なしの谷底。宿命は決して、あなたを離しはしない』
「うぅ〜〜〜ッ!!」
聞き分けのない子供に苛立ちを募らせるように、その声が厳しく、激しくなる。
その声に赤子が嫌がるような、言葉にならない声で悲鳴をあげる。
僅かに開かれた目が、底のない闇を映し出していた。
『勇気なきものよ、真実と向き合いなさい。その眼を閉ざすことはあなたの未来を閉ざすのと同義であると知りなさい』
声が遠のいていく、それに安心するように再び闇の深淵で目を閉ざそうとした僕を激しい衝撃音が襲った。
「──うぁっ!?」
息を呑むような叫びをテントの中で上げながら目を覚ます。
周囲を見渡すと、そこはやはり灯りのない暗いテントの中。忙しなく目を左右にやり状況を確認しながら遠くから聞こえてくる音に耳を傾ける。
「誰か……なんの音なんだ……?」
かけられていた薄い麻の毛布から抜け出しテントの外へと向かう。
夕暮れが深くなった空の下、遠くで見える赤い灯火に惹かれるように、僕は激しくなるその音に近づいていくのだった──。