初心者粉眠くんのデュエル日誌   作:XX

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RD潜脳調査室はちょっと小難しいけど面白かった。主人公は可愛いし何十年経とうと変わらない友情はよかった。


大地の神、断罪の剣 ③

 

「──君だね、僕に語りかけてきていたのは」

 

 その暗い世界に対戦していた堂本くんも観戦していた三沢君たちもいない。

 一面が暗黒に満たされ、世界から隔絶されたその場所にいたのは僕と──もう一人。

 

『このデュエルにも終わりの時が近づいてきました。答えを出す時が来たのです』

 

 その天使は白い翼を広げ宙に浮きながら見定めるように僕を見下ろしていた。

 

「勇気の天使ヴィクトリカ。君だったんだね、怖がる僕を支えてくれていたのは」

『宿命の前に膝を屈し、魂が折れた少年コナミよ。あなたに審判を下すためにワタシはライナに頼み、デッキに眠り続けてきた。恐怖に打ち克つに足る、強さの答えは出ましたか?』

 

 見上げる天使は感情を排した冷たい瞳で僕を見つめる。

 嘘も誤魔化しも通じないであろう魂までをも見透かす視線だった。

 

 僕はその視線から目を逸らすことはしなかった。だけど、強さとは何たるかを聴かれても応えれるような適した言葉は見つからなかった。

 

「わからない。このデュエル中、ずっと考えていた。道長くんが求めた強さについて、僕のあるべき姿について。でも、どんなに考えてもわからないんだ。死ぬのが怖い。傷つくのが怖い。それに立ち向かえるだけの強さなんて、わからなかったんだ」

 

 問われる質問に首を振り答える。

 デュエル中に考えていたこの恐怖心に耐え、立ち向かう強さの答え。道長くんは僕のその強さを迷わない心だと言っていた。

 

 でも迷わない心ってなんだ?

 何も考えず、無我夢中で戦えばそれが強さだって言うのか…………?

 

 違う気がする。

 彼が求めていた強さはそんな手前勝手なものではない。

 もっと純粋で、何かを追い求めるような…………。

 

『恐れを知らぬものを、勇者とは呼びません。それはただの蛮勇であり、知性を捨てた獣です。コナミ、その恐れは正常であり、命あるものの性です。克服など不可能に近い』 

「それなら……それならどうしたらいいんだ! 怖くて怖くて、死ぬかもなんて考えただけで今にも震えてしまいそうなのに!」

『恐れと向き合いなさい。目を逸らさず、自身の胸の裡と戦うのです。人はそれを勇気と呼ぶのですから』

「勇気…………」

 

 それは困難に立ち向かう人に与えられる言葉。

 今の僕には眩しいほどに遠く、手を伸ばそうにも恐怖という影がそれを覆い隠してしまうものだ。

 

「ただ勇気を持てって言われても、そんなの無理だよ。勇気って、どうやって出すものなのさ」

『勇気は無から生まれるものではありません。その根本には必ずそれを可能とするだけの所以があるものです。守りたいもの、掴み取りたいもの、叶えたいこと。貴方の願いはどこにあるのです?』

「僕の…………願い…………」

 

 掌を見る。

 そこには何もない。そう、今の僕には何もなかった。

 

 願いはないのかと聞かれれば沢山ある。

 家に帰りたい。家族に会いたい。学園の皆に会いたい。命なんてかかっていない、楽しいデュエルがしたい。

 

 何よりも、愛理ちゃんに会いたかった…………。

 

「最後に一度でいい。愛理ちゃんに会いたい。会って話したいんだ。それができるなら僕は………」

『死んでもよいと?』

 

 その残酷な言葉に膝をつきながら無言で目を閉じる。

 

 死んでもいいなんて軽々しく答えることはできない。

 それができるなら、とっくに大賢者たちの元へと向かっているのだ。

 

 それでも死ぬ以外に道がないと言うなら、その前に叶えたいことが愛理ちゃんともう一度会うことだった。

 

「死にたくなんかない。もっとしたいことが沢山……そう、沢山あるんだ。それに………叶えたい夢も…………」

 

 僕の夢、子供の頃に憧れたTVの向こう側に立っていた最強のデュエリスト。

 

 あの人のようになりたくて、強いデュエリストになるために頑張ってきた。

 

「叶えたい夢……そうだ。ずっと…僕はそのために……ずっと頑張ってきたんだ…………!!」

 

 暗黒の世界に叫びが響く。膝に……力が入る。

 強く握りしめられた拳に連動するように、僕の全身に活力が漲り始めていた。

 

「死にたくなんかない。恐怖の向き合い方なんてわからない! でも、この夢からは逃げたくないッ!!」

 

 立ち上がり、誰にともなく叫んだ。

 

 それは僕の心からの望み。

 

 諦められない夢の形の発露だった。

 

『もう一度聞きましょう。貴方の強さはなんですか?』

「夢を追い続ける心だッ! 真っ直ぐに、迷うことなく、僕は夢を追い続けるッッッ!!」

 

 そのために宿命が邪魔をすると言うなら、そんなもの叩き潰してやる!!

 

『心は決まりましたね。では行きなさい。アナタの向き合うべき恐怖がそこで待っています』

 

 じっと宙に佇み僕の啖呵を聞き届けたヴィクトリカの頭にある光輪が輝きを増す。

 輝きはこの暗黒を打ち払うように広がっていく。

 

 もう間もなく、あの砂漠へと戻るだろう。

 その前に、最後に聞いておかなければならないことがあったと思い、僕は彼女に尋ねた。

 

「ヴィクトリカ、最後に一つだけ。僕の怒りを、憎しみを堰き止めていたのは君が………?」

『…………』

 

 返事はなかった。

 しかし、無言の肯定がその事実を伝えていた。

 

「ありがとう」

 

 光輪が世界を戻すその直前に彼女に感謝を告げた。

 憎しみが背を押すままに怒りに身を任せ戦っていれば、たとえ勝てたとしてもきっと僕は深い後悔に苛まれていたに違いない。

 

 それを押し止め、僕自身が答えを導くまでの時間をくれたそのことが、嬉しかった──。

 

 

 

 

 心が砂漠に帰ってきた。

 閉じていた瞳を開いた先には、2体の強力なモンスターを従え、過去の妄執に雁字搦めにされた友人の姿がそこにはある。

 

「…………」

 

 カードを握る手に視線を向ける。

 

 指の震えはない。

 ヴィクトリカの力ではなかった。恐怖心が消えたわけではない。

 ただ、僕自身の戦う意味を見出した。それだけで、僕の身体から震えは立ち消えていた。

 

「堂本くん、僕の夢はキング・オブ・デュエリストになることだ」

「………そう、知っているわ。でもそれは無理よ。アナタはここで死ぬんだもの」

「僕はあの人のように格好よくはなれないけど、あの人が僕の立場だったなら、きっと君を助けるために戦ったと思う」

「………さっきから、何を言っているの? コナミちゃん」

「僕は、君を助けるためにこの力を使う。デュエルに勝つよ。それで殺すことになるのだとしても、友達の心を救うために、僕はこのデュエルに勝つ!」

「!?」

 

 僕の全身から力が溢れだす。

 それは闘気となって気炎のように体から出ている。

 

 きっと、僕の目も変わっているのだろう。

 僕がそれを確かめることはできないけれど、堂本くんからは僕の目に星が瞬いているのが確認できているはずだ。

 

 それは僕に宿ったプラネットモンスターたちの力。

 人が持つには膨大に過ぎるこの力を、僕は友達を助けるために使う。

 

 そのために、このデュエルには必ず勝つ!!

 

「僕は手札から貪欲な壺を発動! 墓地のモンスター5体をデッキに戻し、カードを2枚ドローする!!」

 

 フェアリー・アーチャー、守護天霊ロガエス、踊る妖精、天空騎士パーシアス、そして天空勇士ネオパーシアスの5体がデッキに戻る。

 

 ここまでこのデュエルを支え、僕を守ってくれたモンスターたち。

 彼らの思いに応えるためにも、どんなに不利な状況でも敗けるわけにはいかなかった。

 

「カードを2枚ドロー!!」

 

 引き抜いたカードが光を放つ。

 それがどんなカードであるのか、今の僕には見なくても感じ取ることができていた。

 

「僕は手札から光神化を発動! 手札の天使族を攻撃力を半分にして特殊召喚する! 僕は勇気の天使ヴィクトリカを特殊召喚!!」

 

 

《勇気の天使ヴィクトリカ》 攻撃力700 守備力800

 

 

 夜空を引き裂くように1体の美しい少女の姿をした白い天使が舞い降りてくる。

 

 ヴィクトリカの放つ後光は眩いばかりに輝き、その光で夜空を明るく染めている。そして、その光が導くように彼女の背後から更なる光を纏ってもう1体の巨大な天使が召喚された。

 

「あれは──ネオパーシアス!?」

「勇気の天使ヴィクトリカは特殊召喚した時、手札の天使族の攻撃力分のライフを払う事で、その攻撃力を倍にして特殊召喚することができる! 僕は天空勇士ネオパーシアスを特殊召喚した!!」

 

 

《天空勇士ネオパーシアス》 攻撃力4600 守備力2000

 

 

《コナミ》 残 LP 2800

 

 

 召喚されたネオパーシアスが光り輝いている。

 金を基調とした青い鎧もまた、その白い羽と相まってより美しく夜空を彩っていた。

 

「攻撃力4600……!? ライフを大きく払ってまで上げてきた。勝負を決めに来たわねコナミちゃん!!」

「このターンでこのデュエルを終わりにする! バトルだ! 天空勇士ネオパーシアスで地霊神グランソイルを攻撃!!」

 

 ネオパーシアスの巨大な黄金の剣と盾に青白い光が流れる。

 鋼鉄の剣の上に纏うように流れる光はその剣の鋭利さを増大させ、障害となるあらゆるものを切り裂き破壊する。

 

 その光を纏う剣が仄暗い闇に包まれた大地の神へと向けられようとしていた。

 

「アハハハハッ! その攻撃を待っていたわッ! アタシはリバースカード ビーストライザーを発動! 獣神王バルバロスを墓地へ送り、その攻撃力を地霊神グランソイルに吸収させる!!」

「!?」

 

 

《地霊神グランソイル》 攻撃力5800 守備力2200

 

 

 ビーストライザーによりバルバロスが砂のように崩れながら大地に溶けていく。

 

 グランソイルが砂から生み出したように、その存在が消える時もまた、体を構成した砂に戻っていくのだろう。

 バルバロスを作り出すために使用したエネルギーを取り戻すように、大地に溶けたバルバロスであった砂がグランソイルの元へと流れていく。

 

 全ての砂がその巨体に流れ終わったとき、大地の底から悲鳴が響き渡ってくるような咆哮をグランソイルは夜空の星に叫んだ。

 

「グランソイルの攻撃力はネオパーシアスを超えたわっ! これで返り討ち! そして貴方の手札はもうない。ヴィクトリカも光神化の効果で破壊される。グランソイルの攻撃を防ぐ手段はもうない。アタシの勝ちよッ!!」

 

 虚空を震わせるそのグランソイルの姿に勝ち誇った笑みを浮かべ、天を仰ぎ見る堂本くん。

 遠くを見ているその視線の先にはきっと、贖罪を果たし終えた自分と今は亡き少年の姿が見えているに違いなかった。

 

「アハハハハ!! これでアタシの罪は清算される。あの子を、過去をやり直すことが──ッ!」

「それは無理だよ。残念だけど、君の願いが叶うことはない」

「何を言っているの。すでに攻撃を宣言したネオパーシアスの戦闘は止まらない! アタシの勝ちは揺らがないわ!!」

 

 ビーストライザーによりグランソイルの攻撃力が超えていることに勝ちを確信していた堂本くんに不安の根が覗かせる。

 彼の声に震えが混じっているのは僕がまだ、何かをしようとしているのだと予感しているから。静かに彼の勝利を否定する僕の余裕がそう予感させていた。

 

「いや、勝つのは僕だよ。リバースカードオープン メタバース!!」

「メタバース!? デッキからフィールド魔法を発動するカード………………まさか!!」

「そうだ。そして僕が発動するのは天空の聖域。天使たちの領域だ」

 

 メタバースが世界を塗り変えていく。

 

 広大なる砂漠の大地から天上の世界へと。

 一瞬の電子世界を経由し、一面の雲の上に建つ大きな神殿を作り出す。

 

 大地と繋がることのない雲の上の世界。

 そこが大地の神のフィールドである地上から遠く離れた場所であると全ての者に示していた。

 

「天空勇士ネオパーシアスは天空の聖域が張られている時、僕のライフが君のライフを上回っている分だけ攻撃力を上げる。だから、今のネオパーシアスの攻撃力は……」

 

 

《天空勇士ネオパーシアス》 攻撃力6300 守備力2000

 

 

 夜空の下の天空の聖域はネオパーシアスの領域。

 神殿から照射される荘厳な光はネオパーシアスの本来の力を開放し、光輪の輝きと一緒にその翼を大きく広げさせていた。

 

「6300!? これじゃあグランソイルはッ!!」

「そうだ。今、ネオパーシアスの攻撃力はグランソイルを超えた! ネオパーシアス、グランソイルを破壊しろっ!!」

 

 その黒い鋼鉄の腕でネオパーシアスを破壊しようと振り下ろされた拳が前に突き出された黄金の盾で防がれる。

 金属同士が叩きつけられぶつかった衝撃は激しく、ガキンと重厚な音が天空に響き渡る。そして、ネオパーシアスが盾を横に薙ぎ払うとグランソイルの態勢が崩れ後ろにつんのめった。

 

 その隙を逃すことなく懐に飛び込んだネオパーシアスは黄金の剣を振り上げ、グランソイルの腕を根元から切り飛ばす。そして、振り上げられた剣の勢いを逃すことなく流れるように振り下ろした剣がグランソイルを鎧の上から縦に切り裂いたとき、2体の勝敗は決した。

 

「キャァアアアア!!!」

 

 切り裂かれた鎧の破片が堂本くんに降り注ぐ。

 それは破片であるが、元のグランソイルが規格外のサイズであるために、一つ一つが大きく、危険な金属片であった。

 

 

《堂本》 残 LP 600

 

 

 グランソイルが消え、金属片のダメージも終えた時、両膝をつき立ち上がることすらままならないでいる彼の姿がそこにとり残されていた。

 

「終わりにしよう、堂本くん」

「う……あっ、アタシは……あの子を……」

 

 必死に伸ばされた腕は何を掴もうとして伸ばされているのか。

 ただ一つ、僕の目には盲目的に過去を求め続けている哀れな少年の姿が映っていた。

 

 一度だけ、躊躇いを振り切るように視線を切る。

 僕の視線の先にいるのは勇気の天使ヴィクトリカ。彼女は神秘的な剣を手に僕の号令を待っていた。

 

「僕は夢を目指すよ。だから………──バトルだ! 悲しき闇を切り裂け! 勇気の天使ヴィクトリカでダイレクトアタックッ!!」

 

 憎しみも怒りもない。

 

 ただ友達を救いたい。

 

 その思いだけを乗せて、僕の想いと力が宿ったヴィクトリカの剣が倒れ伏した堂本くんの罪を断罪する。彼を切り裂いた剣は聖なる光を放ち、星の下の聖域に黄金色の閃光を広げた──。

 

「アタシはァアアアアア──ッ!!!」

 

 

《堂本》 残 LP 0

 

 

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