地球へ、話が重い。ほとんどずっとシリアスや。
「私の先行ですね。ドロー!」
聖域とも呼べるような厳かな空気が満ちる世界樹の中で愛理ちゃんと霊使いのみんなが一つになった存在──ドリアードとのデュエルが始まった。
美というものを突き詰めればこのような美しい女性になるのだろうと、そんな感想を抱かせるような精霊、ドリアード。
デュエルの中で彼女を助けることがこのデュエルの目的。
なんの理由もなく挑んできたわけもないだろうし、デュエルをしながら彼女が僕を待っていた理由を聴かなくてはと僕は考えていた。
「私は手札からフィールド魔法 妖精の伝姫を発動。私の場に攻撃力が1850のモンスターが存在しないとき、同じ攻撃力のモンスターを召喚できます」
木洞に次々と書棚が現れていく。
フィールド魔法により切り替わった空間はもう世界樹の中の様相ではなく、一つの図書館のように変わっていた。
「妖精の伝姫の効果により、私は手札から妖精伝姫ーカグヤを通常召喚します! 彼女の効果によりデッキから妖精伝姫ーターリアを手札に!」
《妖精伝姫ーカグヤ》 攻撃力1850 守備力1000
妖精伝姫、見たことも聞いたこともないフィールド魔法とモンスターの名称である。
カグヤは狐である動物とその名前から御伽噺の竹取物語のかぐや姫を織り交ぜたモンスターであった。女の子なのであろう狐の容姿に十二単を着ている。
彼女は月の模様が描かれた扇子をフワリと撫でるように払い、ドリアードのデッキから自身と同様の妖精伝姫の名前のカードを彼女の手札に呼び込んでいた。
「そして今手札に加えた妖精伝姫ーターリアをセットし、私はターンを終えます。さあ、貴方のターンです、コナミ」
「僕のターン、ドロー!」
ドローと一緒に視線を図書館巡らす。図書館の中を青く、光で構成されたような蝶や小動物が僕の行動を見守っているのが見えた。
彼らはこの妖精伝姫というフィールドが生み出している存在なのだろう。どの子も御伽噺の中で登場する可愛らしい生き物たちだった。
(攻撃力が1850のモンスターをサポートするカードとそのモンスター。どんな効果を持っているか、試しに攻撃してみるのがいいか……)
こちらを見守る動物たちには危機感を感じはしないが、放っておくには不気味でもあると断じ、その効果を確かめることを優先に僕は戦術を決めた。
「僕は手札からE・HERO エアーマンを召喚! デッキから同じE・HEROてあるキャプテン・ゴールドを手札に加える!」
《E・HERO エアーマン》 攻撃力1800 守備力300
「キャプテン・ゴールドを手札に……私のカグヤを破壊するつもりですね」
僕の狙いを悟ったのだろう。ドリアードの視線が厳しくなる。
「君の場にリバースカードはない。この効果を防ぐことはできない。僕はキャプテン・ゴールドを墓地へ送ることでデッキから摩天楼ースカイスクレイパ──を手札に加え、発動! 僕の世界は御伽噺からHEROの舞台に移る!!」
図書館に地響きが鳴り響く。
地の底から突き立つように次々と摩天楼のビル群が聳え立ち始め、驚き逃げ惑う夢と空想の産物である妖精伝姫の動物たちを摩天楼という現実の産物が塗り潰していく。
全てのビルが突き出たとき、僕とドリアードの世界を別つように夜空には巨大な月が見下ろし、僕の背後には一際大きな屋根の先端が細く尖ったビルが顔を覗かせていた。
「そしてエアーマンで妖精伝姫ーカグヤを攻撃、と行きたいところだけど、その前に聞いておきたい。ドリアード、君はなぜ僕に勝負を挑んできたんだ。この戦いを大賢者は知っているのか」
ピクリと僕の攻撃という言葉に反応し何かを発動させるような動作をしたドリアードが止まる。
「何故と聞きますか。そうですね。正直に答えましょう。それは貴方が私を手にするに足る存在かを確かめるためであり、糾弾するためでもあります」
「糾弾?」
聞き慣れない非難の意味合いの言葉に疑問の声で返すが、それを無視しドリアードは続けた。
「大賢者については確かめてはいませんが恐らく承知でしょう。承知の上で放置している。理由は知りませんが」
「……君は大賢者の目的に賛同しているの? 彼は君を人柱に、新世界のための犠牲にしようとしているんだよ?」
「それが多くの同胞の安寧につながるというのならこの身を捧げることを厭う理由はありません。喜んで犠牲となりましょう」
スラスラと予め聞かれると思っていたことに答えるようにドリアードは僕の疑問に答える。
犠牲になるということの意味がわかっていないはずもない。彼女は本心から仲間のためにその身を捧げるつもりのようだった。
「デュエルを続けましょう。エアーマンで攻撃してくるのですか? 一応言っておきますが、カグヤには相手モンスターと自身を手札に戻す効果がありますよ。デッキから同じカードを落とせば防げますけどね」
「!?」
自分と相手モンスターを手札に戻す効果!
デッキから同名モンスターを墓地へ送れば無効にできるとはいえ、かなり厄介な効果だ。
いくら攻撃力で上回っても手札に戻され攻撃が無効になるのでは意味がない。ましてカグヤにはサーチ効果まである。何度も必要なカードをサーチされるのは……。
「いや、ここは攻める! 僕はエアーマンで妖精伝姫ーカグヤを攻撃! カグヤよりもエアーマンの攻撃力は低いためにスカイスクレイパーの効果発動! その攻撃力を1000アップさせる!!」
カグヤよりも50という僅かに低い攻撃力がエアーマンにそれを超えるための力を与える。
スカイスクレイパーの恩恵を得たエアーマンはその背中に装着されたプロペラを回し二つの竜巻を発生させる。縦ではなく横に伸びた竜巻は妖精伝姫ーカグヤを目指し直進し、彼女を吹き飛ばした。
「私の場に妖精の伝姫がある時、攻撃力1850のモンスターの戦闘で受けるダメージを一ターンに一度0にできます」
図書館を動き回る青い生き物たちがドリアードを守るように彼女の周りを固めていた。
それはカグヤを飛ばし、超過ダメージを与えんと突き進んでいた竜巻から彼女を守るためであった。その役目を果たすように竜巻を受けた生き物たちは青い光へと霧散し、再び図書館の彼方此方で形を取り戻していく。
エアーマンによる攻撃が終えた時、ドリアードの周囲の図書館は静寂と安寧を取り戻していた。
「僕はカードを1枚伏せてターンエンドだ」
「私のターン、ドロー」
カグヤの効果を発動はさせなかったかと、心の中で呟きながらターンを終える。カグヤと同じようにエアーマンにもHEROをサーチする効果がある。それをもう一度使われるのを嫌がったのかもしれない。
彼女がカグヤの効果が発動しなかったことに喜ぶべきか残念がるべきか、判断を迷わせる。そんな終わりであった。
「私は伏せてある妖精伝姫ーターリアを攻撃表示に変更! そのリバース効果により手札から光天のマハー・ヴァイロを特殊召喚!!」
《妖精伝姫ーターリア》 攻撃力1850 守備力1000
《光天のマハー・ヴァイロ》 攻撃力1550 守備力1400
赤い薔薇を胸元に付けたオレンジ色のドレスを着たペルシャネコ、ターリア。
瞳を閉ざし、寝息を立てているターリアは攻撃表示になってもその眠りから目を覚ますことはなく、胸元の薔薇が自動的に開かれることでその中から左右に開いた鎌のような形状をした金属を背負った紺の魔法使いであるマハー・ヴァイロが召喚された。
「最上級モンスターで、攻撃力が1550?」
下級モンスターで恐らくは攻撃力が1850で統一された妖精伝姫のターリアはともかく、その効果で召喚されたマハー・ヴァイロの攻撃力に眉を上げる。
召喚の難しい最上級モンスターでありながら下級モンスタークラスの攻撃力。その効果に何かあるとしか思えなかった。
「マハー・ヴァイロは装備されているカードの数でその効果と攻撃力を上げる。私はマハー・ヴァイロに折れ竹光と妖刀竹光の2枚を装備!」
「竹光カードか!」
マハー・ヴァイロに2振りの刀が装備される。
左手には折れた竹の刀。右手には妖刀の名前の通り禍々しい気を放つ刀が握られている。
2本の刀は能力の向上こそないものの、組み合わせることでその真価を発揮する。珍しい装備魔法である竹光という装備群のカードであった。
《光天のマハー・ヴァイロ》 攻撃力3550 守備力1400
マハー・ヴァイロの攻撃力が倍以上に膨れ上がっている。
両手に握られた2枚の竹光の刀にそんな効果はない。十中八九マハー・ヴァイロ自身の効果で上昇した攻撃力だった。
「マハー・ヴァイロは装備されているカード1枚につき1000ポイント攻撃力を上げる。そして私は手札から憑依装着ーエリアを攻撃表示で召喚!」
「エリア──……」
《憑依装着ーエリア》 攻撃力1850 守備力1500
その姿に惚けたように瞼が下がる。
目から光を失ったその少女はずっと会いたかった好きな女の子そのもの。しかし、心の入っていないそのモンスターにかける言葉は存在しなかった。
それでも、召喚されたエリアの姿に心が揺れ動くことを止めることはできない。僕はその動揺を隠すように視線を下げた。
「私は妖刀竹光の効果を発動。折れ竹光を手札に戻すことでマハー・ヴァイロに直接攻撃をする効果を与えます。バトル! マハー・ヴァイロで貴方にダイレクトアタック!!」
そんな僕を無視して、ドリアードから攻撃の宣言が下る。
エアーマンを飛び越え中腰になり、腰より後ろに下げた妖刀を振り抜き切り裂こうとするマハー・ヴァイロ。
あまりにも魔法使いがする攻撃からかけ離れた姿は妖刀に操られてのことか。僕はその攻撃に合わせるようにリバースカードを発動させた。
「僕はその攻撃に対し、ヒーローバリアを発動! その攻撃を無効にする!」
「でしたらそれに合わせてターリアの効果を発動! 憑依装着ーエリアをリリースすることで通常魔法、或いは通常罠の効果を相手モンスターを裏側表示にする効果に変更します!」
「なにっ!?」
バカな、何のためにそんな効果を──!!
「相手モンスター……一応確認しておくけど、裏側にする対象は僕が選ぶって認識でいいんだよね」
「はい。ターリアがするのはあくまで効果の書き換え。その対象とする選択権はあくまで貴方です」
「なら………僕はマハー・ヴァイロを裏側表示に変える」
僕の目の前まで来ていたマハー・ヴァイロが静かに消えていく。
マハー・ヴァイロは裏側のカードに伏せられることで装備魔法である妖刀竹光墓地へ送られていく。
その光景に、なぜ…という思いを抱かずにはいられなかった。
それは無理からぬこと。モンスターを破壊するカードならともかく、攻撃を止めるだけのヒーローバリアをエリアをリリースしてまで止める理由がわからない。
まして、この状況で裏側にする対象がマハー・ヴァイロではなくターリアにするなどあり得ないことだ。判然としないターリアの効果の発動に僕は軽く首を傾げていた。
「私の目的はマハー・ヴァイロの攻撃ではありません。妖刀竹光の墓地へ送られた際の効果にあります。このカードは墓地へ送られた時、デッキから竹光と書かれたカードを手札に加えることができる。私は黄金色の竹光を手札に加えます」
とうとうと語られるその説明を聞いても、僕の中に納得の2文字は生まれない。
黄金色の竹光がどのような効果なのか詳しくは覚えていないが、マハー・ヴァイロを伏せさせるリスクを負ってまですることなのかという疑問が払拭されるほどではない。それだけは確かであった。
「そして妖精伝姫ーターリアでエアーマンを攻撃!」
「うっ」
《コナミ》 残 LP 3950
攻撃の際も眠り姫がモチーフのターリアが目覚める様子はなく、代わりに開かれた薔薇から吹いた甘い風が花弁をひらめかせエアーマンを攻撃したことで破壊した。
「私はこれでターンを終えます」
「僕のターン、ドロー!」
先ほどのターリアの持つ効果の説明を聞く限り、今、魔法カードは使えない。というより使った場合ターリアが裏側守備表示になり効果を使われるだけ。
ならば!
「僕は手札からE・HERO フォレストマンを攻撃表示で召喚! フォレストマンで妖精伝姫ーターリアを攻撃!」
《E・HERO フォレストマン》 攻撃力1000 守備力2000
フォレストマンが摩天楼の間を駆けターリアにタックルする。
ドリアードは妖精の伝姫の青い光が守り、その身にダメージが通ることはない。澄ました顔でその攻撃を見届けている。
「スカイスクレイパーの効果でターリアを破壊しましたか。魔法を使えるようにするのが目的なのでしょうけれど、マハー・ヴァイロを破壊しなかったのはミスですね」
「いや、マハー・ヴァイロもこのターンで破壊するつもりさ。君のターンまで残すつもりはない」
「! どのようにして、貴方の攻撃はすでに終えているというのに」
無理であると、僕のデッキの構成を知り尽くしている彼女は告げていた。
プラネットモンスターたちのいない今、HEROたちがこのデッキのエースの立ち位置にいるが、戦闘を介さずに破壊できるモンスターは少なく、フォレストマンの攻撃を終えた今、マハー・ヴァイロを破壊する方法はない。
それ故にドリアードは無理だと断じていた。そんな彼女に僕もまた、彼女の知らない新しいカードを使用することで否定した。
「僕は手札から速攻魔法 マスク・チェンジを発動! E・HERO1体を新しいHEROに変身させる!!」
「マスク・チェンジッ!? 貴方のデッキにそんなカードはッ!!」
「大切な友達から受け取った新たなカードだ! 来いッ! 新たな僕の仲間──M・HERO ダイアン!!」
《M・HERO ダイアン》 攻撃力2800 守備力3000
全身を覆う銀の鎧に騎士のような青いマントを羽織った新たなHEROの姿が摩天楼の間に現れる。
それはフォレストマンが変身したHERO。
僕がこれまで使用してきた俗に属性HEROと呼ばれるHEROとは全く異なるHEROであった。
地属性のHEROであるために鎧の節々には大地が生み出す至宝の宝石の一種であるダイアモンドがはめ込まれており、右手の細い槍はどれほど頑強なモンスターであれ貫き通す鋭さを持っている。
そんな新たなHEROの登場にドリアードは驚愕の視線を向けていた。
「M・HERO……そのようなカード、エリアの記憶には存在しなかった。この異世界でいったいどのようにして手に入れたというのですか」
「このHEROは道長くんが僕のために用意してくれたカードだ。彼が僕の前途を祈ってプレゼントしてくれた。君が知らないのは当然だ」
悲しげに目を伏せて言う僕の姿に彼女は「そうですか」と一言呟き同じように目を伏せた。
何を言わずとも、彼女にもわかっているのだ。
もう、道長くんはこの世には存在しないのだと言うことを。
「彼の意思を背負って僕はここにいる。大賢者の行いでどれほどの精霊が救われるのだとしても、君がそれに賛同の意思を示していようと関係ない。僕は僕の意志を貫くために君を取り戻し、そして大賢者を倒す!」
僕の啖呵に応えるようにドリアードは伏せていた目を開けて僕を真っすぐに見据える。
その顔にはわずかだが微笑みが浮かべられていた。
「ならば、ますます敗けるわけにはいきませんね。あなたのその意思を挫かねば同胞たちの安寧の未来が築けないというならば、私は新世界の女王として、全ての精霊たちのためにあなたを撃ち滅ぼしましょう」
無数の夢物語が紡がれた書籍が収められ、妖精たちが舞う図書館と聳え立ち並ぶ摩天楼の中、僕とドリアードは互いの変わらない意思を貫くためにデュエルを押進めるのだった──。