「バトルだ! M・HERO ダイアンで光天のマハー・ヴァイロを攻撃──ディスバーション!!」
召喚された新たな仮面のHEROダイアン。
地属性のフォレストマンがマスク・チェンジのカードにより変身したその白銀の鎧を着たHEROは細い槍を片手に摩天楼ースカイスクレイパーのビル群の間を跳び上がりドリアードの場に伏せられたマハー・ヴァイロの元へと向かう。
青い光の妖精たちが飛び交う図書館である妖精の伝姫の中に飛び込んだダイアンはその槍を伏せられたカードに突き刺しマハー・ヴァイロを破壊した。
「そしてこの瞬間、ダイアンの効果が発動する! ダイアンがモンスターを破壊した時、デッキからレベル4以下のHEROを特殊召喚する!!」
「なっ、後続を呼ぶ効果!?」
「僕はデッキからE・HERO オーシャンを特殊召喚!」
《E・HERO オーシャン》 攻撃力1500 守備力1200
ひらりとダイアンが肩に羽織っている青いマントを大きく脱ぎ払い地面に覆いかぶせる。すると、たちまちそのマントは盛り上がり、その下からオーシャンが現れた。
「ターリアとマハー・ヴァイロを失った今、君の場にモンスターはいない。オーシャンでダイレクトアタックだ!」
「──っ!」
《ドリアード》 残 LP 2500
オーシャンは図書館のリノリウムの床を這うように腰をかがめたままドリアードに近づきその杖で彼女の肩にそっと叩いた。
その攻撃は普段のデュエルで相手に対してする攻撃とは大きく違っていた。あくまでも彼女を助けるために来ていると言うことをわかっているような柔らかい攻撃であった。
一瞬、ビクリと身体を硬直させたドリアードだったが、その優しい攻撃に驚きながら目を丸くし、僕の場に戻るオーシャンを目にしたことで身体から力を抜いた。
「僕はこれでターン終了だ」
「ふぅ、優しいと言うべきか甘いと言うべきか。まあいいです。それが貴方なのですから」
「いくらデュエルでも僕は好きな女の子に乱暴なことはしないよ。まして痛みがダイレクトにくるこの世界のデュエルで」
「ふふふ、それが本当に私に対してだけならきっとエリアも不満はないのでしょうけれどね。私のターン、ドロー!」
気になる言葉を残しながらドリアードがターンを開始する。
ダイアンとオーシャンのおかげでドリアードのモンスターたちをどかすことはできた。
これでこちらの優勢と言いたいところではあるが、ドリアードの手札には竹光カードが2枚ある。
わざわざマハー・ヴァイロを犠牲にするリスクを負ってまで手札に温存したカードだ。
そこには必ず、確固とした目的があるはず。その種が明かされるまでは、決して油断することはできなかった。
「私は手札から高等儀式術を発動! デッキから儀式召喚に必要なレベルと同じになるように通常モンスターを墓地へ送ることで儀式召喚を行う!」
「儀式召喚………いくつか種類のいるドリアードの一人である君が召喚するとしたら…………」
「ええ、想像通り。召喚するのは精霊術師 ドリアード。この私とは似て非なる存在であり、儀式召喚によって呼ばれるモンスターです。私はデッキから千眼の邪教神とヴォルカニック・ラット。そしてギゴバイトを墓地へ送ることで儀式召喚!!」
《精霊術師 ドリアード》 攻撃力1200 守備力1400
魔法陣に3体の小さな供物が捧げられていく。
雷が落ちるようにその魔法陣に一瞬の閃光が輝き、眩しい光に思わず逸らした視線を戻した時、その場にはさらりと揺れ動く金の長髪を垂らしたドリアードがそこに立っていた。
そのドリアードは僕が今戦っている神の名前がつき豪奢なドレスを纏ったドリアードとは違っていた。その顔には慈悲深い穏やかな微笑みが浮かんでおり、ゆったりとした白いローブに身を包み祈るように両手を握り込んでいる。修道女のような姿のドリアードであった。
彼女はその雰囲気と違わないふわりとした笑みで僕と僕のモンスターたちを見つめていた。
「ドリアード……たしか、光と闇属性以外の全ての属性を兼ね備えたモンスターだったかな」
「ええ。決してステータスは高くはありませんが他にはない効果を持っています」
一体で複数の属性を備えることで属性を利用するカードの役目を果たすことができるモンスター。
しかしダイアンもオーシャンも倒せないこの状況で儀式召喚するにはあまりに心許ないモンスターでもある。
ならば狙いは……。
「私は精霊術師 ドリアードに折れ竹光を装備。そして黄金色の竹光を発動! デッキからカードを2枚ドローします!」
ドリアードの手に彼女にはあまり似つかわしくない貧相な折れくたびれた刀が握られる。ステータスに影響を与えないそれは彼女の手の中で攻撃に使われることもなく寂しく握られている。
「私はカードを一枚伏せてターンエンドです」
「僕のターン、ドロー!」
一度だけドリアードの上で黄金に輝く竹光が現れ瞬く間に消える。
その黄金の輝きが残した微小の光が2枚のカードを残し、そのうちの一枚を伏せ彼女はターンを終えた。
僕は怪訝な目で精霊術師を攻撃表示で召喚しターンを終えた彼女を見つめる。伏せられた一枚のカードに誘われてるなと判断を下しながら目の前のオーシャンの効果を発動させた。
「この瞬間、オーシャンの効果が発動! 墓地からE・HEROを手札に戻す。僕はエアーマンを手札に戻し、そのまま召喚する!」
《E・HERO エアーマン》 攻撃力1800 守備力300
「そしてエアーマンの召喚時の効果を発動! 僕は……デッキからE・HERO ブレイズマンを手札に加える!」
「そちらの効果を使うのですか」
自分のリバースカードを破壊する効果を使う。そう考えていたのだろうドリアードが意外そうにしている。
その顔を見て、僕はやはりサーチ効果を選んで正解だったなと心の内で囁いた。
エアーマンが召喚された時に発動し選べる効果。HEROを手札に呼び込む効果かフィールドの魔法・罠を壊す効果。
どちらも強力だが、オーシャンでエアーマンを回収してくるはずとドリアードが想定していると考えた上でリバースカードを伏せてきたなら、それは破壊されても問題ない囮か、もしくは破壊される前に発動できるようなカードかのどちらかである。
ならば、確実に功をなすサーチ効果を使用した方がいい。そう考えた上の選択だった。
「バトル。エアーマンで精霊術師 ドリアードを攻撃」
半ば通らないと確信しているための静かな命令だった。そしてその攻撃は当然のように手痛い反撃をもって返された。
「私はその攻撃に対しリバースカード 風林火山を発動! 風林火山は私の場に「火」、「風」、「水」、「土」の属性のモンスターが存在する時に発動できるカード。貴方のモンスター全てを破壊します!!」
やはり、と目を細めて発動されたカードを見る。
強力だが発動条件の難しい風林火山。その条件を一枚で解決できるドリアードとのコンボは有名だ。
だからこそ、無防備に攻撃表示で召喚されたドリアードにそのカードの存在を重ねずにはいられなかった。
彼女は目論見がうまく行ったと笑みを浮かべ次々に破壊されていく僕のモンスターたちを見つめる。
そして立て続けに起こっていた爆発音が止んだとき、3体のモンスターの破壊よる煙がフィールドに立ち込めていた。
「その落ち着きから見て、私の伏せカードはわかっていたようですね。しかし、防げなければ意味がない。貴方の自慢のモンスターたちは皆消えました」
「──それはどうかな」
「……?」
立ち込めた煙と爆発音に気を良くしていたドリアードに疑念の表情が浮かび上がる。
いないはずのモンスターの影が、煙の中で揺らめいていたからだ。
「どうやって!? モンスターは全て破壊されたはず!!」
「僕は君の風林火山の発動の際、手札からマスク・チェンジ・セカンドを発動させていた。手札を一枚捨てることでどんなモンスターでもM・HEROに変身させるカードだ」
「マスク・チェンジと同様の新しいカード!」
「僕が変身させたのはE・HERO オーシャン。そして水属性のオーシャンが変身した姿。それがM・HERO ヴァイパーだ!」
《M・HERO ヴァイパー》 攻撃力2400 守備力2000
あめ色をした水中で戦うことを想定したようなスーツを着た水属性のM・HEROが煙が晴れた先に立っていた。手には両端が尖った銀色の槍のような武器が握られている。
ダイアンが地上で戦うHEROであるための騎士のような槍ならば、ヴェイパーのそれは水中で戦うための武器なのだろう。それぞれのフィールドに適した武器とスーツを身につけていた。
「しかし、風林火山の発動前に召喚していたとしても、その破壊から免れることはできないはず」
「ヴェイパーはカードによる破壊から身を守る効果を持っている。風林火山でもその固いスーツに守られたヴェイパーを破壊することはできない」
「そういうことですかっ!」
「いくよドリアード。バトルだ! 僕はM・HERO ヴェイパーで精霊術師 ドリアードを攻撃──フリアティクエクスプロージョン!!」
ヴェイパーが前に進みでる。
折れ竹光を握りしめたまま、ドリアードは抵抗するそぶりも見せず避けられない攻撃を受け入れるように目を閉じている。
そんな彼女に刺し貫くような攻撃をすることはHEROとして気が咎めるのか、ドリアードにヴェイパーは槍の尖った部分で攻撃することはなく、刃のない部分で叩くように攻撃した。
「──ッ!」
《ドリアード》 残 LP 1300
「僕のターンは終了。君のターンだ」
「くっ、私のターンドロー!」
ダイアンを含む3体のHEROを一掃することはできたものの。ヴェイパーという新たな上級HEROの登場に苦い顔を作っているドリアード。
そんな彼女の口元はドローしたカードに綻んでいた。
「なるほど、M・HERO。速攻魔法によって変身する貴方の新しいHEROたち。まだ2体しか見れていませんが、とても強力なモンスターですね。この世界でまさかそんなカードを手にするとは予想外としか、言うほかありません」
ドローした瞬間から彼女の苦しい表情は消えていた。
今は真逆の穏やかで余裕のある笑みさえ浮かべ冷静に僕のデッキを考察している。なにか、逆転のカードを引いたのだろう。
朗々と考察する彼女を見ながら僕の警戒が一段と上がる。
「破壊からの回避に奇襲にと、色々な場面で活躍しそうで相手をする立場からすると使われたくないモンスターです」
「彼らのことを褒められると僕自身も褒められているようで嬉しいけれど、その割には慌てないじゃないか」
「ええ。M・HEROは強力ですが、私の手にも貴方の相手をするのに相応しいカードが来ましたから」
やはりか、と呟く。
ターンの始めにドローした時からの表情と感情の変化。それは彼女にとってM・HEROたちをも寄せ付けないような重要なカードを引けたからだ。
そしてその想像に外れることもなく、彼女は高らかに呼ぶようにそのモンスターの召喚を宣言した。
「私は手札から私自身である精霊神后ドリアードを特殊召喚します!!」
「来たかッ!!」
《精霊神后ドリアード》 攻撃力3000 守備力3000
そのモンスターの登場に待っていたと言わんばかりに僕の心は弾む。
といってもそれは喜びとは少し違い、彼女の心に触れるには彼女自身の現身のカードに触れなければならないと思っていたからだ。
ドレスを着たドリアードが前後に並ぶ。
一人はプレイヤーとして、もう一人は戦うモンスターとして。
彼女のいる図書館の祝福と光を一身に浴びるように、彼女はドレスを煌めかせ、僕のことを見下ろしていた。
「精霊神后ドリアードは互いの墓地のモンスターの属性の数だけ攻守を500ポイント上げる。今、私とあなたの墓地には全ての属性のモンスターが揃っています」
ドリアードに6つの光が集っていく。
ぞれぞれの色が属性を表す様に配色されたその光は彼女にヴェイパーを上回る力を与えていた。
「ヴェイパーでは耐えられないか…………」
「私の怒りを喰らいなさいッ! 精霊神后ドリアードでM・HERO ヴェイパーを攻撃──エレメンタル・フォース!!!」
「ぐぅうううッッ!!」
《コナミ》 残 LP 3350
ドリアードの周囲を飛び回っている6つの光が円を作るように束になる。6つの光は混ざり合い虹色に変化し、それは放射線となってヴェイパーを、そして彼に守られた僕の全身を叩いた。
瞬間、戦闘によるダメージとは全く異なる痛みが僕の胸を貫く。
それは暗く冷たい、憎しみとも取れる怒りの感情がダイレクトに僕の心を打った痛みであった。
「ゔぅ……ッ」
その思わぬ痛みに呻き声が漏れる。
「その痛みは私の心の痛み。貴方がエリアにしてきた不誠実が生んだ痛みです」
「僕が……不誠実だって?」
「解せませんか。そうでしょうね。貴方はいつだって見たいことだけを見て、彼女の気持ちを顧みることなどなかったのですから!」
怒りによって吊り上げられた瞳は恐ろしく、その身から漂う高貴なオーラは激しく燃えている。
人というよりも神の如き美貌と評した方が適切に感じるその容姿も相まって彼女の怒りの発露がもたらす恐ろしさは助長されていた。
「ドリアード、僕の何が君をそこまで怒らせているんだ。不誠実とはなんのことを、僕は愛理ちゃんを!」
「愛していると? いつもふらふらと他の女に目を奪われる貴方がよくそんなことを言えたものですねッ!!」
「それはっ! ……くっ」
「エリアはいつも悲しんでいましたよ。自分だけを見てはくれないと、いつか他の人を好きになるのではないかと不安に思っていたのですよ。それに気づいていなかったと、貴方はそういうのですか!!」
次々と出てくる攻め立てる言葉にたじろいだように僕の口がつぐまれる。
これまでに何度も綺麗な女の子に惹かれていたことが事実であるだけに、その批判に何も反論することができなかった。
「何も言えませんか。エリアという愛する女性がいながら他の女と親しくなろうとする。これを不誠実ではいと、誰が言えるのです! 言ってみなさいっ! 自分は真摯にエリアに向き合っていると、言えるものならッ! さあっ!!」
それは絶叫にも似た彼女の、愛理ちゃんの魂の悲鳴だった。
その叫びを聞く僕の胸の内に後悔が積もる。
誠実であるとも、真摯であるとも言えない。そんな自分に恥いる気持ちでいっぱいだった。
無意識のうちに彼女への強い甘えの気持ちがあったのだろう。何をしても、彼女は僕のそばにいてくれる。僕を好いていてくれる。
そんな甘えた気持ちが、僕に安易な行動をとらせていたに違いない。
しかし、今更後悔や懺悔をしたところでドリアードも、そして彼女の一部となった愛理ちゃんにも届くことはない。
言葉ではなく心で伝えなければ、僕の思いも覚悟も、そして謝罪も彼女には伝わりはしないのだろうから。
「ドリアード……僕が今、何を言ったところで信じてはもらえないかもしれないけど、僕は愛理ちゃんと共にある未来を手にするために戦っている。そのためにどんな壁が立ちはだかっても、邪魔をするものがいても必ず超えていくと覚悟を決めて立っている………。君のいう通り、僕は不誠実なことをしていたし、きちんと彼女に向き合ってもいなかった。謝るよ。ごめん」
「謝罪などを求めてはいません。私が求めているのは誠意です。貴方がエリアを真に幸福にできる存在であるという証明を求めているのです!」
ばっさりと、僕の謝罪を切り捨て冷たい眼差しを向けるドリアード。彼女の冷え切った視線に射竦められ、彼女の糾弾の意味を悟る。
「などと言ってみても、貴方にできることはないのでしょうね。せいぜいがもうしないと口だけの約束をするくらいでしょう。私のターンは終わりです。さぁ、デュエルを続けましょう」
「僕は……僕のターン、ドロー!」
ただ勝つだけでは許されない。
愛理ちゃんと生きるための僕の覚悟。それを伝えるため、僕は諦めが混じった瞳のドリアードに改めて向き合う。
「僕は手札からE・HERO ブレイズマンを召喚! 効果によりデッキから融合を手札に、そして発動! ブレイズマンと手札の漆黒の闘龍を融合、E・HERO エスクリダオを融合召喚する!!」
見慣れた融合の渦が摩天楼の夜空に生まれる。
その渦に吸い込まれていく2体のモンスターたちが渦の中で煌めいた閃光と共に消え去り、新たなるHEROを摩天楼のアスファルトの上に呼び出した。
しかし、そのHEROは大地に着地するや否やたちまち透き通っていく。まるで、世界に溶かされているようであった。
「これは──!?」
「エスクリダオが召喚された瞬間、私の能力を発動しました。その能力とは墓地にあるモンスターを3種類除外することでモンスターの特殊召喚を無効にするというものです」
それは精霊神后ドリアードの効果によるものだったらしい。
空気のように溶けて消えてしまったエスクリダオの存在に遮るもののなくなったフィールドが広がっていた。
「僕は、カードを1枚伏せてターンエンドだ」
召喚権を使用し、融合召喚による一手も塞がれてしまった今、できることは少なかった。
「私のターン、ドロー!」
カードを引くドリアードを眺めながら彼女の墓地にあるモンスターの数を思い出す。これまでに使用してきたモンスターは7体だったはずと多少曖昧ながらも順繰りに思い起こしながら数える。
一度、効果を使用したと言うことはドリアードの効果により召喚を無効にできる回数はあと一回。
たとえそれをしたとしても僕の墓地にいる多くのモンスターがいることで、ドリアードが力を失うことはない。だが、あと一度使わせれば無効はないという考えが僕の勝利への道筋を照らそうとしていた。
「私は手札から真刀竹光を発動! ドリアードに装備させ、バトル! ドリアードで貴方にダイレクトアタック!!」
「くっ、僕はこの瞬間、リバースカード ピンポイント・ガードを発動! 墓地からエアーマンを守備表示で特殊召喚する!」
「無駄です! ドリアードの効果によりその召喚は無効となります!!」
大地を割って現れようとしたエアーマンが消える。
それにより、僕の守りは空となりドリアードが進む道が拓けていた。そこに、刀を手にしたドリアードが飛び込んできた。
「痛みなさいッ! エレメンタル・ジャッジメント!!」
「ぐぁあああっ!!」
《コナミ》 残 LP 350
ドリアードに握られた刀はそれぞれの属性を司る光に覆われていた。数ある竹光の刀の中でも本当の意味で刀をしているそれをドリアードが振るう。
虹のように輝いたその刀の攻撃には彼女の憤りがこめられており、その勢いは鋭く、僕の肩口から胸に至るまで一直線に切り裂いた。
これがデュエルでなければ、その一撃で即死していたであろう攻撃である。その攻撃からでも彼女の怒りと鬱憤がわからせられると言うものだった。
「まだですよ。まだ私の怒りはこんなものでは晴れることはありません。貴方を切り裂き、その命を終えることでその報いは果たされるのです」
「ぐっ、僕は死ぬつもりはない。君のことを諦めるつもりも………ないッ! 僕のターン、ドロー!」
ライフが少なくなり荒くなった息を整える。
僕もドリアードも残されたライフは多くはない。不利な立場にいるのは変わらず僕だが、それでも僅かな変化で変動する差でしかなかった。
そして手札を見ながら僕はこのデュエルにおける決定打を打つための覚悟を決めた。
その行動の結果、どうなるかわからない。
しかし、もうそれしかないと僕の心は訴えかけていた。
「僕は手札からマスク・チャージを発動! 墓地からHEROとチェンジ速攻魔法を手札に戻す!」
「回収のカード!?」
「僕はE・HERO キャプテン・ゴールドとマスク・チェンジを手札に加え、キャプテン・ゴールドを通常召喚だ!!」
《E・HERO キャプテン・ゴールド》 攻撃力2100 守備力800
巨大な月が見下ろす摩天楼のビルの上に一際輝く黄金の身体をしたHEROが立っていた。
赤いマントをたなびかせ、腕を組んだそのHEROは頼もしい顔を見せて僕たちを見下ろしている。
それに対するドリアードは図書館の中で刀を手に佇み黄金のHEROを睨みつけている。
彼女の周囲を回る属性の光は一つ減っていた。
「僕の墓地から光属性が消え、君の墓地にも存在しなくなったことでその攻撃力は下がる」
《精霊神后ドリアード》 攻撃力2500 守備力2500
「ドリアード、君の怒りはもっともだ。その主張も、誠意を見せろと言う希望にも反論はできない。だから、僕は勝って君の願いに応えるよ。バトルだ。キャプテン・ゴールドで精霊神后ドリアードに攻撃!!」
「──ッッッ!!」
《ドリアード》 残 LP 700
キャプテン・ゴールドがビルから飛び降りる。
真っ直ぐに体を伸ばしながら回転し、落下の勢いをつけながら叩きつける攻撃は勝つと決めた僕の覚悟を受け取ったように力強くドリアードを破壊した。
「そしてこの瞬間、マスク・チェンジを発動! キャプテン・ゴールドをM・HERO 光牙に変身させる!!」
《M・HERO 光牙》 攻撃力2500 守備力1800
黄金のHEROが眩いばかりの光に包まれる。
光が解けたあと、そこにいるのはギラギラとした黄金ではなく、柔らかな金色のスーツを着た光のHEROだった。
両腕には名前通りの牙のような長く鋭い武器が装着されている。
光牙はアスファルトの上に爪先で立ちながらその牙で対する敵を貫かんと僕の号令を待っていた。
「これで終わりですね。私は負けて、終わりを迎える。残念ですが、ここまでが私にできる限界だったのでしょう」
諦観が滲む声色でため息を吐き出すドリアード。
弱々しく肩が下がった姿にはもっとやりたかったという気持ちが見え隠れしている。
彼女を守るモンスターもリバースカードも存在しない。
光牙の攻撃を防ぐ手段を彼女は持ち得ていなかった。
僕は自分のやろうとしていることの結果を想像し、喉の奥から漏れようとする悲鳴を押し殺す。
失敗すればどうなるかは明らかであるが故の恐怖心だった。
それでも、デュエルの勝利の他にできる可能性はこれしかないと、確信をもって言えた。
あと必要なのは勇気。
恐怖に立ち向かい、結果を受け入れる強さだけ。
ふと視線を感じ前を見ると光牙がこちらを見ているのに気がついた。
その目には任せろと言っているように僕は感じた。
「バトルだ! 僕は光牙で君にダイレクトアタック──レイザー・ファング!!」
カッと開いた目に覚悟を乗せて声を吐き出す。
それはデュエルを終わらせるための最後の攻撃命令。光牙にドリアードを攻撃するように告げる宣言だった。
それを命ずると同時に、僕の足は駆け出していた。
「うぉおおおおおッッッ!!!」
「なにをっ!?」
光牙が動き出す前に彼の横を通り抜けドリアードへと全身全霊で向かう。その予想だにしない行動に驚きのけぞるドリアード。
彼女に飛び込むように抱きついた僕にドリアードは光牙の存在も忘れて凝視する。
「離れなさいっ! このまま貴方まで死ぬつもりですかッ!!」
「僕は死なない、君もだッ!! 僕たちは生きる!! やれぇっ! 光牙ァアアア!!!」
ドリアードに抱きつきながら背後に向かって叫んだ僕へと光牙の脚は迷うことなく進む。
僕の意思を受け取り、その意を汲むように彼は僕たちの方へと駆け出しその腕を前に突き出した。
光牙の腕の牙は僕の背中から胸を貫き、ドリアードの胸にも届く。
僕と彼女の胸を貫いた金色の牙により凄まじい激痛が奔り、僕の顔が歪む。熱を帯びるその痛みに負けないように僕は胸に突き刺さった牙に手を触れた。
「これは……光が……広がって──」
牙を中心に僕とドリアードを包むように眩い光が満ちていく。
その光はどんどん強く、大樹の中に広がっていく。
そして、図書館も摩天楼も光に呑まれ消えていくのだった──。
《ドリアード》 残 LP 0
やっぱM・HEROは強いぜ。ライフ4000だと尚更だ。