D.C.ⅢでⅠから続いてきた『さくら』の話に決着ついたけど、D.C.ってⅣとⅤも出てるんだよね。うーん、さくらの話にケリがついたなら買わんでもいいかなあって気持ちがある。
「僕の先行、ドロー!」
砂漠にポツンと置かれた物々しい雰囲気を感じさせる巨大な石造りの扉。僕をその奥へと行かせないためか、立ちはだかったカミューラとのデュエルが始まった。
お互いに気遣う相手でもないために僕たちの間に流れる空気は重く、冷たい。
一時的に共闘もしたし助けられもした相手だが、友人とも仲間とも違う。紛れもなく倒すべき敵とお互いに見做しているために、このデュエルに情が入り込むことはないだろう。
僕は急かす気持ちを押し込んでカードを発動させた。
「僕はイマイルカを守備表示で召喚。カードを1枚伏せてターンエンドだ」
《イマイルカ》 攻撃力1000 守備力1000
砂漠を海として、少しアニメーションチックな緑色した小さなイルカが召喚される。そのイルカはまるで対面するカミューラをおちょくるように舌を出して目元を手で下に広げていた。
「私のターン、ドロー!」
カミューラは吸血鬼……つまりヴァンパイアだ。
ヴァンパイアであることは彼女のアイデンティティであり誇りでもある。なのでそのデッキもヴァンパイアを中心としたデッキから変わってはいないはず。
その断定も混ざった予想に違わず、カミューラが1番最初に発動したカードはヴァンパイアをサポートするカードだった。
「人間! お前に見せてやるわ、私たち吸血鬼が生きた時代をっ!! 手札からフィールド魔法、ヴァンパイア帝国を発動!!」
「これは──!?」
宵闇の空が赤く染まる。
白く輝いていた月が真紅の光で地上を照らし、周囲を取り囲む砂漠の下から無数の家々が盛り上がり取り囲んでいく。
些か古めかしさを感じさせる西洋の家々が僕たちを取り囲む中、その奥に一際大きな屋敷が建っていた。
「このヴァンパイア帝国こそがかつて存在した私たちヴァンパイアの栄華を象徴するカード。この光景を再び世界に作り上げるのが望み。ここでお前を殺すことで、この光景を作り上げてやるわっ!」
そのカミューラの怒声を聞きながら周囲を流しみる。
薄暗くも血のような赤い月の光によって赤く照らされた立ち並ぶ家々は恐ろしくも何処かもの寂しい。
それは同族がこの世のどこにも存在しない彼女の心情故なのかもしれない。悲しみから一度眠り、目覚めてからもこれほどに仲間を求めている彼女だ。それも仕方ないことであった。
「カミューラ、貴方がどれほど過去に想いを寄せて焦がれようとも、未来を求めない者に勝利など訪れない。どこまで行こうとも、その胸に空いた孔が埋まることはないぞ!」
「黙りなさいっ! 高々十数年生きただけのガキが私に説教など、百年早いわァッ!! 私は手札からヴァンパイア・ソーサラーを攻撃表示で召喚。そのイルカ擬きを破壊しなさいっ!!」
《ヴァンパイア・ソーサラー》 攻撃力1500 守備力1500
青白い肌に黒いコートを着た魔術師風の怪物がその杖から稲妻をイマイルカへと撃ち放つ。
稲妻を撃ち落とされたイマイルカは小さな爆発音を立てながら破壊されるが、彼は一つの置き土産を僕に残してくれていた。
「イマイルカが破壊された時、デッキの上から一枚墓地へ送り、それが水属性だった時、カードを1枚ドローする! ──墓地へ送られたのはカトリン…水属性だ!」
「ハンッ! 好きにカードを引きなさいな。私はカードを1枚伏せてターンを終えるわ」
イマイルカの効果により手札を増やしながら上空の月を見上げる。
結果が変わらないためか言葉にしなかったが、ヴァンパイア・ソーサラーの攻撃時、このフィールドが反応していたように感じた。
なにか、ステータスの上昇のような効果があるのかもしれない。少し、注意したほうがいいだろう。
「僕のターン、ドロー!」
カードを引いた瞬間、ピリと微弱な静電気が指先を叩く。それが何であるかをカードを見るともなく悟った。
「僕は手札からシャッフル・リボーンを発動! 墓地のイマイルカを効果を無効にして特殊召喚! さらにイマイルカが召喚されたことで墓地のカトリンの効果も発動し、カトリンも特殊召喚する!!」
「一気に2体のモンスターを揃えてきた……上級モンスターを召喚するつもりか!!」
「僕は2体をリリースすることでThe despair URANUSをアドバンス召喚する!!」
《The despair URANUS》 攻撃力2900 守備力2300
小さなイマイルカと同じく小さなカメにも似たカトリンが粒子へと変換されていく。その粒子は集まり、上空に新たな姿を形成した。
それは絶望を齎らすモンスター。
球体型の体の中心に顔のついた青いオブジェのような姿をしている。天王星の名を冠したプラネットシリーズのモンスターの1体だった。
「URANUSは僕の場で表側になっている魔法・罠の数だけ攻撃力を300ポイントアップさせる。僕は永続魔法、憑依覚醒を発動! 僕のモンスターはその属性の数だけ300ポイントアップ──よってURANUSの攻撃力は3500まで上がる!」
発動された憑依覚醒のカードから線を繋ぐようにエネルギーがURANUSに流し込まれる。それは白い色をしており、URANUSの属性を表していた。また、URANUS自身も、彼の効果によりその力を高めていた。
「バトルだ! 僕はURANUSでヴァンパイア・ソーサラーを攻撃──Veil of despair!!」
「──ァアアアッ!!」
《カミューラ》 残 LP 2500
URANUSから放射状に斉射されたエネルギーが魔術師風のヴァンパイアを閃光の中に消してゆく。
その後に遺されたものはその魔術師が持っていた杖だけであった。
「ヴァンパイア・ソーサラーが墓地へ送られたことで効果発動! デッキからヴァンパイアモンスターかその名前のついた魔法・罠を手札に持ってこれる。私はヴァンパイア・グレイスを手札に加える!!」
「サーチ効果……それはいいとしてカミューラ、なぜ貴方のライフが1500しか削れていない」
魔術師が散り際に残した杖から蝙蝠が一羽飛び出しカミューラのデッキへと入り込んでいく。
そこから飛び出した一枚のカードを手札に加える彼女を見ながら、僕は不自然にライフが残っていることに疑問の目を向けていた。
「ヴァンパイア・ソーサラーの攻撃力は1500だったはず。URANUSの攻撃力と差し引きで2000のはずだ」
「ヴァンパイア帝国の効果よ。このフィールドにいる限り、私のヴァンパイアはその戦闘時攻撃力を500ポイントアップさせるのよ」
そういうことかと、内心で納得の声を上げる。
先の彼女のターンでイマイルカを攻撃した時に感じた違和感はやはり、想像した通り彼女のモンスターのステータスアップに起因したものだったようだ。
多くあるフィールド魔法によくある常にステータスを上げる効果とは違い、戦闘時のみ上げるというのは珍しい。
そんな感想を抱きながら僕はカードを伏せ、ターンを終了した。
「私のターン、ドロー!」
「この瞬間、URANUSに対して永続罠、安全地帯を発動! URANUSは直接攻撃ができなくなる代わりに、戦闘及び効果で破壊されず、効果の対象にもならない! さらに永続罠が発動したことによりURANUSの攻撃力は3800にアップする!!」
「安全地帯!? 小癪なカードをッッッ!!」
URANUSを囲むように真円の光が彼の外側を包み込む。
あらゆる攻撃から彼を守るその光は、この世からURANUSがまるで遮断されたようにその姿をうっすらと白けさせていた。
「安全地帯とは面倒なカードを使うじゃない。なら、まずそのカードを排除してくれるわっ! 私は墓地のヴァンパイア・ソーサラーを除外することでその効果を発動! このターン、私の上級レベルのヴァンパイアはリリースするモンスターが必要なくなる!」
「なにっ!!」
リリース素材をなくす効果!
先程デッキからサーチしたのはその効果があるからか!!
「その効果で私はヴァンパイア・グレイスを召喚!!」
《ヴァンパイア・グレイス》 攻撃力2000 守備力1200
化粧によるものか、それともそれが地肌なのか、病的なまでに白い肌と唇に塗られた紅色が強い印象を与えるヴァンパイアの貴婦人が召喚された。
その身はシックなドレスで飾られており、左手には血か、それとも赤いワインなのか、液体が注がれたグラスが。右手には先に小さいながらも美を感じさせる赤い宝石が嵌め込まれた杖が握られていた。
「ヴァンパイア・グレイスは1ターンに一度、指定したカードの種類のカードを1枚、貴方のデッキから捨てさせることができる。私は魔法カードを選択!」
ヴァンパイア・グレイスの杖の宝石から赤い光が僕のデッキに差し込まれる。
それにより赤い光を淡く放つカードたちの中から一枚を選び、僕は墓地へと捨てた。
「さらにこの瞬間、ヴァンパイア帝国の効果が発動! 相手のデッキからカードが墓地へ送られたことにより私のデッキからヴァンパイアモンスターを墓地へ送る。さらに、相手のカードを1枚破壊する!!」
「──!?」
「私は竜血公ヴァンパイアを墓地へ送り、安全地帯を破壊する!!」
立ち並ぶ家々の奥、その奥の一際大きな屋敷から無数の蝙蝠が黒い波となって僕の場へと向かってくる。
その目指す先は一つ、安全地帯のカードを目指していた。
「アヒャヒャヒャヒャ!! URANUSに安全地帯を使ったのはミスだったようねえ! URANUSを破壊するのは無理でも、安全地帯が破壊されればそのデメリット効果により共倒れで破壊される。残念だったわねえ!!」
頬が裂けるほどに口角を広げ大笑いをするカミューラ。
無数の蝙蝠に集られる僕の姿を楽しそうに見ている彼女はその目を赤く染めて攻撃のタイミングを計っていた。
それを、僕はほくそ笑んで否定した。
「──……フっ、それはどうかな」
「……これは……いったいどうして……何をした!!」
僕の場を覆うほどに集った蝙蝠が屋敷へと戻った時、その場の状況は何一つとして変化していなかった。
安全地帯に守られたURANUSはもちろん、無数の蝙蝠によって破壊されるはずであった安全地帯のカードもまた、破壊されることなく依然として発動していた。
いや、一つだけ変化は起こっていた。
それはURANUSの全身から迸るエネルギーが僕の場の安全地帯と憑依覚醒のカードの表面を覆っていたことだった。
「URANUSには自身の強化の他にもう一つ効果があるのさ。URANUSがいる限り僕の場の発動している魔法・罠が破壊されることはない」
「なぁんですってえ!!?」
URANUSから充填されるエネルギー。そのエネルギーにより、僕の場のカードは守られていた。
「アンタのカードを破壊することができなくなるですって、それはつまり、安全地帯に守られたURANUSがいる限り──」
「そうだ。安全地帯に守られたURANUSは実質、無敵だということだ。お互いに守り合う関係であるこの2枚のカードが揃った以上、貴方が勝つのは無理だ」
「くぅ!!」
安全地帯によりURANUSは効果で破壊されることはなく、ただでさえ高い攻撃力を超えてなんとか戦闘で破壊しようとしてもそれからも守られている以上倒すことはできない。
ならば、安全地帯の方をと狙おうにも無敵状態のURANUS自身が安全地帯を守り、それも不可能。
URANUSと安全地帯。その2枚のコンボが成立したことで、僕のフィールドに極めて強固な守りが完成していた。
「くそ面倒なカードをっ……でも、それならそれでやりようはあるのよ! 私はヴァンパイア・グレイスに対して威圧する魔眼を発動! 攻撃力2000のヴァンパイア・グレイスはこのターン直接攻撃することができる!!」
「攻撃力2000……そうか! ヴァンパイア帝国の効果はこのためのものか!?」
「受けなさいっ! ヴァンパイア・グレイスでダイレクトアタック!!」
赤き夜の闇が輝く。
ヴァンパイア・グレイスが高らかに嗤いながら闇を撒き散らすようにその背後から四方に分かれた蝙蝠の群れを僕に差し向けてきた。
ヴァンパイア帝国の補助も受けたその蝙蝠たちの攻撃は激しく、まるでカミューラの人間への憎しみが込められているかのようであり、地面に打ちつけられた僕は苦悶の叫びをあげて倒れた。
「ぐぁああああっ!!?」
《コナミ》 残 LP 1500
そのダメージはヴァンパイア・グレイスのステータスよりも500ポイント高かった。
それはヴァンパイア帝国の効果によるもの。攻撃時のみステータスを上げるその効果は威圧する魔眼との相性は抜群であり、カミューラはその効果を最大限に使いこなしていた。
「私はカードを1枚伏せて、ターンエンドよ。さぁ、カードを引いて、ターンを始めさないっ!!」
「ぐぅっ、僕のターン、ドロー!!」
打ちつけられた痛みにくぐもった声を漏らしながら立ち上がり、僕はカードを引く。
闇夜の月は、紅く輝いていた──。