吸血鬼たちの栄華が形となったようなフィールド魔法、ヴァンパイア帝国により、砂漠は洋風の館と立ち並ぶ家々に変貌していた。
紅の月が大地を赤く染めながら僕とカミューラのデュエルは続いている。
安全地帯の永続罠とのコンボにより攻守において完成されたURANUSを操る僕と、ヴァンパイア・グレイスという貴婦人に守られたカミューラ。
デュエルは、僕の優勢に進んでいた──。
「僕は手札から太陽の魔術師エダを召喚! その効果によりデッキから守備力1500の魔法使いを裏側で特殊召喚する! 僕はデッキから──」
「そんなカードは許さないわよ。私はカウンタートラップ、ヴァンパイアの支配を発動! 私の場にヴァンパイアがいる時、モンスター効果を無効し、破壊。その攻撃力分のライフを回復する!!」
「エダがっ!?」
《カミューラ》 残 LP 4000
僕の場に召喚された魔術師エダ。
白いコートを着た彼がその杖を振り翳しモンスターを呼ぼうとしたその瞬間、それを妨害するようにヴァンパイア・グレイスの赤い瞳が光を放った。
赤い瞳に晒されたエダはその動きを鈍くし、やがては止めた。
その隙を逃さないように蝙蝠たちが立ち並ぶ家々から飛び出しエダに殺到、その血を全て啜り、破壊。
最後に蝙蝠たちはその血をカミューラに与えるように彼女に群がり、飛び去って行った。
「……だったら、手札から融合を発動! 手札のE・HERO レディ・オブ・ファイアと稲荷火を融合──E・HERO ノヴァマスターを融合召喚!!」
《E・HERO ノヴァマスター》 攻撃力2600 守備力2000
赤い夜空に生まれた融合の渦。
その中心から現れた炎のHEROに僕の場でURANUSの力によって護られた永続魔法、憑依覚醒が反応する。
「僕の場に光と火属性の2体のモンスターが並んだことで憑依覚醒の効果が発動。2体の攻撃力は600ポイントアップする!」
《The despair URANUS》 攻撃力4100 守備力2300
《E・HERO ノヴァマスター》 攻撃力3200 守備力2000
自軍の場の属性の数だけ攻撃力を上げる憑依覚醒とURANUSの発動状態の魔法・罠の数だけ攻撃力を上げる効果によってURANUSの攻撃力が4000の大台を超えた。
URANUSでカミューラを守るヴァンパイア・グレイスを攻撃すれば倒せずとも大ダメージを狙える。
安全地帯によって守られているためリバースカードを恐れる必要もない。
ない……が……。
「僕はノヴァマスターでヴァンパイア・グレイスを攻撃──爆炎葬送波!!」
僕はノヴァマスターで攻撃することに決めた。
それはモンスターを戦闘破壊することでドローできるノヴァマスターの効果で融合で多く失った手札を補充するためであり、彼女の場のリバースカードの存在がまだ、デュエルは終わらないと告げていたからだ。
ノヴァマスターの爆炎がヴァンパイア・グレイスに迫る。
迫る炎に対し、ヴァンパイアである彼女にヴァンパイア帝国が赤い光でその力を上昇させるが、それでも憑依覚醒の力により攻撃力が底上げされているノヴァマスターには届かない。
炎は彼女を容赦なくその熱で攻撃し、悲鳴を上げるヴァンパイア・グレイスを破壊した。
「ノヴァマスターがモンスターを破壊したことでカードを1枚ドロー。さらにその攻撃力の差だけダメージを与える!」
「──っ!!」
《カミューラ》 残 LP 3300
貴婦人を破壊した炎がカミューラにも及ぶ。
決して大きくはないが確かなそのダメージは彼女の顔を歪ませ上体を屈めさせていた。
「URANUSは安全地帯の効果で直接攻撃を行うことができない。だから、これで僕のターンは終了だ。カミューラ、貴方のターンだ」
「ハァ──、ハァ──。私のターン、ドロー!」
ライフが多く残っていながら息を荒げるほどに疲労しているのは劣勢に追い込まれているからか、それとも余裕のなさの現れなのか。
URANUSが持つ強大な力を彼女は強い眼差しで睨みながらカードを引いた。
「私はリバースカード もののけの巣くう祠を発動! 墓地のヴァンパイア・グレイスを特殊召喚!!」
《ヴァンパイア・グレイス》 攻撃力2000 守備力1200
再び、2度目にもなる貴婦人が召喚される。
2度目の召喚でありながら彼女の表情は崩れない。優雅にワインを揺らしながら僕たちを見据えている。
「さらに私は手札からアンデット・ネクロナイズを発動! 私の場にレベル5以上のアンデットがいる時、相手モンスター一体のコントロールを得る!」
「URANUSは安全地帯の効果でカード効果の対象には選べないよ」
「知っているわよ。だから、その隣の暑苦しいモンスターを頂いていくわっ!!」
ノヴァマスターの赤く鮮やかな炎とは違う。青く、寒々しい炎がヴァンパイア・グレイスの杖から溢れ出す。
それは取り憑くようにノヴァマスターにまとわりつき、その体の自由を奪うことでカミューラの場へと移動させるのだった。
「アンタの場からモンスターが減ったことでそのURANUSの攻撃力は下がる」
「……ノヴァマスターもだ。2体のモンスターを揃えて、生贄にするつもりか」
それは当然の予想として発した僕の質問だったが、その通りと返ってくると思っていた予想に反して、カミューラは肩をすくめるだけだった。
「残念だけど、今の私の手札にそいつを倒せるモンスターはいない。だから……」
「まさか──!」
言葉をためたカミューラに一瞬悩むように僕は思考する。そして、次いで出た答えに驚き目を見張った。
「そのまさかよ! 私はノヴァマスターでそこのURANUSとやらを攻撃!!」
「反射ダメージを覚悟の特攻!?」
ノヴァマスターがURANUSへとその矛先を決めて高く飛び上がる。
その手には炎が包まれており、彼を見上げるURANUSにそれを落としてくる。しかし、当然の結果として炎に包まれたURANUSに変化は起きない。
寧ろ攻撃されたことへの苛立ちをぶつけるようにURANUSが味方であったノヴァマスターへと容赦ない反撃の光を打ち放った。
「ぐぅうううううっ!!」
《カミューラ》 残 LP 2400
反撃され、破壊されたノヴァマスターによりカミューラにダメージが入る。
URANUSへの対策がないとはいえ、いささか無茶な攻撃だ。自棄にでもなったのかと敵ながらに心配になるぐらいには…………その姿は痛ましかった。
「どうして、グレイスの効果で破壊する道もあったはず……自傷してまで破壊する必要があったのか!?」
「ハハハ、さあ、知らないわねえ。そんなことッ! 私はヴァンパイア・グレイスの効果を発動! デッキからヴァンパイア・ロードを墓地へ送り、アンタの魔法カードを墓地へ送る! さらに、それに連動してヴァンパイア帝国の効果で、アンタの伏せられたカードを破壊!!」
血走り、狂気的な笑みを見せながら連続して効果を発動するカミューラ。
僕のデッキと場から1枚づつカードが減るが、それで状況が変わるわけでもない。僕は静かにその姿を見つめた。
「最後に私はヴァンパイア・グレイスをリリースすることでヴァンパイア・グリムゾンを守備表示で召喚!!」
《ヴァンパイア・グリムゾン》 攻撃力2000 守備力1400
貴婦人が赤い血霧になって消えていく。
そして霧が集い、形を成した時、その姿は大きく変わっていた。
ヴァンパイアモンスターによくあることなのか青白い肌に真紅のコート、そして身の丈以上の大鎌を持ったモンスターへと。
「無茶苦茶だ。上級モンスターもありながら特攻なんて……これじゃまるで……そうか、貴方はもう……。なら、僕のターン、ドロー!」
そのあり得ない戦術。いや、戦術などと表現するのも烏滸がましい行動に僕は彼女の内心を察した。
わかっていたことだが、彼女は怒りと憎しみをぶつける。ただそのために僕と戦っている。
それは勝敗を度外視した、彼女自身にも制御できない一種の衝動なのだ。彼女がどれほどの時を生き、その間にどれほど深い憎悪と絶望を溜め込んできたのか。
勝敗など関係なく、他者への憎しみを晴らすためだけに行うデュエル。
それは過去の自分なら到底理解に及ばないものだっただろう。だけど、今の僕には少しは理解できるところがあった。
望んだことではなかったが、堂本くんとのデュエルがその感情を教えてくれた。
失ったものに報いる気持ち。
それを奪ったものへの怒りは、そう易々と消化できるものではないと言うことを。
だから、死を渇望しながら内に燻るものを発散させずにはいられない彼女に、無駄だろうと思いながら、僕は彼女に声をかけた。
「カミューラ、今ならまだ間に合う。デュエルディスクを収め、そこを退くんだ。貴方では僕には勝てない」
「なに──?」
手札を静かに見つめながらかけた言葉に一瞬何を言われたかわからないと茫然とする彼女に僕はもう一度言った。デュエルをやめようと…………。
「──ッ…………お前ぇ、自分が何を言っているのかわかっているの? 私に勝てないからデュエルを諦めろですってぇ!!」
「…………2年前の僕ならまだ可能性はあっただろう。だけど、本当の意味でプラネットモンスターたちの担い手となった僕に、貴方は勝てない。まして勝とうともしていない貴方では……それは貴方自身ここまでのデュエルで悟っているはずだ」
救おうなどという考えはない。ただ、憐憫の情が僕の中に芽生えていた。
理由はどうあれ、僕を助けてくれたのは彼女だ。
その恩を返したいと言う気持ちもあるからだろう。自傷を厭わず、終わりを求めるかのように戦いを続ける彼女を止めたいと思ったのだ。
「過去を忘れろとまで言わない。憎しみを捨てろとも。そんなこと、貴方にはできないだろうから。でも、このまま敗れて死ねれば貴方は満足なのか。死んだ仲間には会えなくても、生きていれば、未来を見つめることだって──」
「ふざけるなあッッッ!!!」
返答は喉が張り裂けそうなほどの怒声であった。
「お前たちだッ! 私からすべてを奪ったのはお前たち人間でしょうが!! 悲しみに眠りについた私に希望を見せて起こしたのもッ!! そのお前が、私を見下すと言うのか……哀れむのかッ!!」
「違う。僕は生きてさえいれば、いつかは違う道も見つけられると──!」
「私は誇り高きヴァンパイア一族の女。人間風情がっ、私を見下すなあッッッ!!!」
その怒りに震わせる姿に説得はやはり無理かと独白し手札からカードを発動させる。
或いはさらに決定的な状況を作り出せば僅かな可能性も生まれる余地があるのではと、そんなことを思う自分に自嘲しながら。
「そうか………なら、僕は手札を1枚捨てることで精霊術の使い手を発動。憑依装着ーダルクを手札に加え、憑依連携をセットする。そして、手札に加えた憑依装着ーダルクを召喚。攻撃力が1850の魔法使いが召喚されたことにより憑依覚醒の効果でカードを1枚ドロー」
《憑依装着ーダルク》 攻撃力2450 守備力1500
黒髪の美少年であるダルクが召喚される。
闇属性である彼が召喚されたことで僕の場の霊使いの子たちをサポートするカードが反応し、効果を発動していた。
「バトルだ。URANUSでヴァンパイア・グリムゾンを、それに続いてダルクで攻撃!!」
「させるかぁ!! 私はヴァンパイア・グリムゾンの効果を発動! ライフを1000払うごとに、その破壊を免れる! 私はライフを2000払う──うぐぅぅっ!!」
《カミューラ》 残 LP 400
大鎌を持ったヴァンパイア・グリムゾンがその鎌でライフを削り取るようにカミューラの方へ鎌を振る。それにより削られたライフは確かにグリムゾンを延命させ、URANUSとダルクの攻撃によっても破壊されることはなく、その場に残り続けていた。
「これで、ターン終了だ」
「私のターン、ドロー!! ………ふふふ、アーハッハッハッ!!」
「!!」
ライフを大きく減らしながら、何とかターンを生き延びたカミューラが、昏い眼でカードを引いた。その途端、大きく口を開けて笑い出した。
それは、何か強力なカードを引いたと言うことでもあった。
「どうやら、このデュエルは私の勝ちのようねえ。私は幽合ーゴースト・フュージョンを発動! 場のヴァンパイア・グリムゾンとデッキのヴァンパイア・ジェネシスを除外──冥界龍ドラゴネクロを融合召喚する!!」
「これは──!!」
《冥界龍ドラゴネクロ》 攻撃力3000 守備力0
そのモンスターは地の底から轟くような咆哮を上げながら大地を割って現れた。
冥界の龍とあってその姿は骸骨に龍の肉体がついたような見るもの全てに恐怖心を与える見た目をしている。
ドラゴネクロは赤い月に照らされその威圧感を一層増しながら僕を見下ろし、白い息を吐いている。
次の瞬間にもその口から死へと誘う攻撃が吐かれていても可笑しくないといった様相だ。
そんな強力な彼女の切り札とも言えるであろうモンスターを召喚したカミューラは、額に汗を流しながら落ち着かない様子で勝利の予感に打ち震えていた。
「ドラゴネクロは戦闘で相手を破壊することはない。でも、戦闘後、その相手モンスターの攻撃力は0になり、私の場に同じ攻撃力をもったトークンを特殊召喚する」
「URANUSに攻撃をしたらライフがもたない。でもダルクに攻撃すれば、ダルクと同じ攻撃力のトークンが現れるということか」
「そう。そこの魔法使いの攻撃力を0にしてね! これで私の勝ちよ。バトル! 冥界龍ドラゴネクロで憑依装着ーダルクを攻撃──ソウル・クランチィ!!」
ドラゴネクロが大口を開けてその喉元に白い光を溜め込む。
その攻撃が完了すれば、僕の敗北が決まるのだろう。そう、カミューラは信じ、縋っている。
終わりを渇望しながらも憎悪の成就に喜んでいる。彼女の必死な顔がその複雑な感情を物語っていた。
「カミューラ、言ったはずだ。未来を見ないものに、勝利は訪れないと。僕はリバースカード 憑依連携を発動! 僕の手札から憑依装着ーライナを特殊召喚する!!」
《憑依装着ライナ》 攻撃力2450 守備力1500
ダルクの隣に白い髪の少女が召喚される。
彼女は光の属性を司る霊使い。闇を司るダルクとは対に属するモンスターである。
そんな彼女もまた、僕の抱いている感情同様、カミューラに憐れみの視線を向けていた。そして、僕に慈悲の心をもって終わらせましょうとその魂で訴えていた。
「そんな雑魚がいまさら出てきたところで──!」
「憑依連携はモンスターの召喚時、僕の場の属性が2種類以上だった場合、フィールドの表側のカードを破壊することができる」
「なっ──それじゃあ!!」
「そうだ。僕はドラゴネクロを破壊する!!」
ダルクとライナがその杖を交わす。
発動された憑依連携のカードが2人の杖を媒介に強大なエネルギー波をドラゴネクロへと撃ち放ち、その巨体を撃ち貫いた。
2体の攻撃によって破壊され砕かれていくドラゴネクロの姿に諦観と覚悟を決めた目で前を見据えるカミューラ。
起死回生の一手さえ届かなかったことで、彼女は自らの敗北を悟っていた。
「………私はヴァンパイア・レディを攻撃表示で召喚。ターンエンドよ」
「僕のターン、ドロー」
《ヴァンパイア・レディ》 攻撃力1550 守備力1550
パーティドレスに着飾った女性が召喚される。
緑色の髪をしたそのモンスターはどこかカミューラに似ている。
彼女もまた、使い手であるカミューラ同様、覚悟を決めたように真っ直ぐとした視線を僕に向けていた。
「カミューラ、これが最後になる。まだ──」
「いらないわね。私はヴァンパイアとして、その血族の1人として生まれ、人間への復讐のために生きた。その人間に生かされるなどという生き恥を晒してまで先を欲しようとは思わないわ」
「そうか………」
目を瞑り、この寂しい街並みを想う。
このフィールド魔法を初めて見た時も感じたが、蝙蝠しかいないこの街は、1人となった彼女の郷愁を願う気持ちが生んだカードのようにさえ感じる。
永遠に等しい時を生きる彼女の苦しみを、その想いに共感することは僕にはとてもできない。
理解など遠すぎて不可能だろう。
僕ができることは、1人の人間として、この哀れな吸血鬼の生涯に幕を引いてやることだけなのかもしれない。
それはとても悲しい結論だ。
しかし、それに迷い、躊躇う弱さを僕はもう持ち合わせていなかった。
「夜は明けて太陽は登る。夜の一族の生き残りであるヴァンパイア、カミューラ。貴方を終わらせるのは眩き朝焼けだ──僕はダルクとライナをリリースすることでThe supremacy SUNをアドバイス召喚ッ!!」
《The supremacy SUN》 攻撃力3600 守備力2000
夜を照らす赤い月が霞むような眩い太陽が僕の場に召喚される。
10枚あるプラネットモンスターたちの中で、至上の存在である太陽が永遠の夜を終わらせるために降臨したのだった。
「貴方の長い夜は、今日終わりを告げる。星に灼かれて、その命を終えるといい。The SUNでヴァンパイア・レディを攻撃──SOLAR FLARE!!!」
The SUNが後光を一際輝かせる。
それは太陽の光のように美しく、どれほど深い夜の闇も打ち払う燦然とした光であった。
「──眩しいわね。まったく、どこまでも忌々しい……光だわね……」
その光に照らされ、街もモンスターも、その奥に峻厳な姿で建てられた館も光の中に溶けて消えてゆく。
The SUNの燦然とした輝かしい光は吸血鬼最後の生き残りの命を燃やすように、膨大な光で終わりへと導くのだった──。
《カミューラ》 残 LP 0
ちょっとどうしようか悩んだんですが、1期後のカミューラって割と生きることに拘ってなさそうなイメージがありまして。生きたいか死にたいかなら死にたい寄りかなってイメージが、はい。