③まで続きます。
緩やかな水の流れが髪を優しく揺り動かす。
ここは青い水の世界。天から降り注ぐ白い光が巨大と呼ぶのも憚られる大樹に力を与える。
そんな私の心の世界で白い髪をした私と同じ容姿をした少女、愛理とのデュエルが始まりを告げた──先行は……愛理だ。
「私のターン、ドロー! 私は手札からメメント・エンウィッチを攻撃表示で召喚! その効果によりデッキからメメント・シーホースを手札に加える!」
「……メメント……?」
《メメント・エンウィッチ》 攻撃力800 守備力1000
メメント、初めて見る名称のカード。
箒に跨り宙に浮かぶその魔女は優雅に笑っている。その姿はかつて見たことのあるモンスターによく似ていた。
「メメントって言葉はメメント・モリから来ているのでしょうね。メメント・モリ──死を想え。ふふ、私たちには中々皮肉の効いた言葉だと思わない?」
「……アナタが何を言っているのか、私にはわからないわ」
「あらそう? まあ、それならそれでもいいけどね。私は手札からメメント・シーホースを特殊召喚するわ」
《メメント・シーホース》 攻撃力1350 守備力1600
シーホース、馬の後ろ足の部分が魚の尾のようになっているモンスターであり、エンウィッチもそうだが、その身体に骸骨のような骨が所々についていた。
メメントというテーマのモンスターになっているからか、細部は違っているが、そのモンスターもまた、エンウィッチ同様古いモンスターによく似ていた。
「レベル5のモンスターを魔法カードも使用せずに特殊召喚……」
「ああ、言ってなかったわね。メメント・シーホースは私の場にメメント以外のモンスターがいないとき特殊召喚することができるのよ」
レベル5という上級モンスターでありながら、そのステータスは下級クラス。その中でもさらに低い方。
安易に召喚できる代わりにそのステータスを低く設定されているのかもしれない。もしくは、元になったモンスターの名残が影響しているのか。
戦力とするにはもの足りない2体のモンスターを攻撃表示で召喚している愛理。召喚権を使い果たし、生贄にするのも難しい彼女にそれでどうするつもりなのかと疑問を投げつける。
「メメント・シーホースは自軍のメメントモンスターを破壊することで破壊したモンスターのレベル以下になるよう、デッキのメメントモンスターを墓地へ送ることができるのよ」
「墓地へ送る……でも、最大でもレベル5じゃあ、そこまで強力なモンスターは送れないでしょう。蘇生するにしたって……」
「そうね。でも、意味は生み出すものよ。それが価値あるものになるようにね。私はメメント・シーホースを破壊して、デッキからレベル5以下になるようにメメントモンスターたちを墓地へ送る!」
愛理のデッキから次々とモンスターたちが墓地へ送られていく。
少しばかり離れているために、そのカードの詳細な姿を確認することはできなかったが、その枚数が3枚であることは確かであった。
「そして、今メメント・シーホースの効果で墓地へ送られたメメント・ウラモンの効果を発動。このカードを特殊召喚するわ」
《メメント・ウラモン》 攻撃力550 守備力400
エリアはそれを見た瞬間、茶色い毛玉の塊であるクリボーを連想した。
次の瞬間には、茶色ではなく黒い毛玉のため違うモンスターだったわと否定したが、色はともかく姿は似ていると感じていた。
「そしてメメント・エンウィッチのもう一つの効果を発動。私の場のメメントモンスターを破壊することで墓地のメメント・メイスを特殊召喚する」
「また同じような行動を……愛理、貴方いったい何がしたいの?」
《メメント・メイス》 攻撃力400 守備力300
小さな魔術師風の格好をした少女のようなモンスターを見ながらエリアは問いかける。
彼女の目には、場のモンスターが墓地とフィールドを行ったり来たりするばかりで、意味のある行動のようには見えなかったからだ。
愛理は、その問いに答えることなく、不適な笑みを浮かべるばかりだった。
「メメント・メイスはメメントモンスターを破壊することでデッキからメメントカードを手札に加えれる。私はメイスを破壊することでデッキから冥骸融合ーメメント・フュージョンを手札に加えるわ」
召喚されたばかりのメイスが光となって消えていく。
光は愛理のデッキへと吸収されて行き、彼女の手に求めるカードを引き寄せさせていた。
「フュージョン……それが欲しかったのね。そのためにウロウロと、随分と迂遠な手段をとるのね」
「私や貴方はコナミくんとは違うわ。欲しいカードを欲すれば手札に持ってこれる彼とはね。必要なカードが欲しいなら、多少の努力は必要よ」
その考えに同意はすれど、やはり迂遠だと感じずにはいられなかった。
いくら必要だと言ってもモンスターを召喚しては破壊してと、まるでおもちゃのように繰り返すその戦術にはあまり感心できないとも。
しかし、そのような長々とした過程を経てまで欲したカードであると言うことはそれだけ強力なカードでもある。
最低でも上級、そうでなくとも最上級モンスターの召喚は想定しなければならないとエリアは警戒を強くしていた。
「あとはそうね。手札を1枚捨てて死者転生を発動しようかしら。墓地のメメント・メイスを手札に加えるわ」
長いなと、少しだけ心の内で悪態をつく。
通常、ここまで1ターンを長く続けることは珍しい。彼女の行動がそれが必要なことであると言うことは理解できるが、それを加味しても少し長いと感じざるを得なかった。
「安心していいわよエリア。もうちょっとで終わるから。私は手札から冥骸融合ーメメント・フュージョンを発動。手札のメメント・ダークソードとメメント・メイスを融合し──メメント・ツイン・ドラゴンを融合召喚!!」
《メメント・ツイン・ドラゴン》 攻撃力2800 守備力2100
そんな私の気持ちを察したように愛理は柔らかな笑みを見せながら呼び込んだその融合カードを発動する。
そのカードによって召喚されたモンスターは私の持つ双頭の雷龍によく似ていた。
もはやここまでくると察せれると言うものだが、メメントというテーマのモンスターはデュエルモンスターズが人の世ではやり始めたその初期に存在したカードをリメイクしたようなモンスターのようだ。
ここまで使用されたどのカードもどこか見覚えがあるのはそのためだった。
「メメント・ツイン・ドラゴンが召喚された時、私の場のメメントモンスターを破壊することでメメントモンスターをデッキから2枚、手札に加えれる。私はメメント・ウラモンを破壊──メメント・ホーン・ドラゴンと冥骸合龍ーメメントラル・テクトリカを手札に加えるわ」
もはや反応することにも疲れてきたために、無反応にその破壊行動を見守る。
そういうテーマのカードなのだろうとここまで来たら理解せざるを得ないのだが、味方の破壊を繰り返すメメントというカードたちを私は好意的には見れないと思わずにはいられなかった。
しかし、そんなぼやきも次の愛理の召喚したカードによって一瞬で消えた。
「そしてメメント・ホーン・ドラゴンを特殊召喚! このモンスターは私の墓地にメメントモンスターが3種類以上いる時、特殊召喚できる!!」
「!?」
《メメント・ホーン・ドラゴン》 攻撃力2850 守備力2350
その召喚されたドラゴンを見た時、エリアはハッと顔を上げて驚いていた。ツイン・ドラゴンの隣に召喚されたそのドラゴンは白い身体に手足の赤い爪を研ぐように交わしている。
並んだ2体の最上級ドラゴンに、表情を険しくする。
なにを1ターン目からこんなにも動くのかと訝しむ気持ちがツイン・ドラゴンを見てもなお消えなかったが、2体も揃うとなるとその行動にも理解ができると疑問が解氷していた。
「うふふ。エリア、アナタ今、私がこの2体を召喚するためにメメントモンスターを動かしていたって思ったでしょう。その顔を見ればわかるわ」
「……違うの?」
「ええ、だって私の本当に召喚したかったモンスターは他にいるもの」
含みを持たせたその言葉に、驚きに目が見開かれる。
それは1ターン目に最上級モンスターを2体も召喚するだけでなく、さらなる召喚を狙っているということだからだ。
それは信じ難いことだった。初ターンに攻撃力が3000に迫るモンスターを並べるだけでも始めのターンと考えれば破格と言ってもいい。
にもかかわらず、それ以上のものを召喚しようというのだから、それはもう私の常識の外側にある戦術であることは疑いの余地のないことだった。
それを可能にするメメントというモンスターたちも、理解の外にあるカードなのだったと、今更になって気がついた。
「このモンスターは手札・墓地のメメントモンスターを5種類デッキに戻すことで召喚されるわ」
「5種類ものメメント……貴方の墓地には今──!?」
「そうよ。私の墓地には十分すぎるだけのメメントがいるわ。私は5体のメメントモンスターをデッキに戻すことで冥骸合龍ーメメントラル・テクトリカを特殊召喚ッッッ!!!」
《冥骸合龍ーメメントラル・テクトリカ》 攻撃力5000 守備力5000
そのモンスターが咆哮と共に召喚された瞬間、私の魂に底冷えするような悪寒が奔った。
まさにメメントというモンスターたちの集大成。そう呼ぶのに相応しい威容と力を持ったそのドラゴンは左右に立つ2体のドラゴンが霞むほどの峻厳な姿で私を見下ろしている。
巨大と呼ぶのも憚られる。
隣の2体のドラゴンも十分に大きいのだが、このメメントラル・テクトリカと比べれば大人と子供ほどの差だろう。
何がしかの、メメントモンスターたちすべての要素を兼ね備えた骸骨のドラゴンは途方もない威圧感でフィールドの空気を支配していた。
「攻撃力……5000!?」
「すごいでしょう? でも、せっかく頑張って召喚したのに攻撃できないのが残念でならないわ。カードを2枚伏せて、ターンを終了。うふふ、私に勝てるといいわね。エリア」
悠然と白い髪を後ろに流しながら愛理のターンが終わる。あれほど長く感じた1ターンも、終わってみれば一瞬のもの。
私は並びたった3体の大型モンスターの前に、気圧されていた。
愛理に身体を奪われないためにはこの3体のモンスターを超えて、このデュエルに勝たないといけない。
それはどれほどの困難に満ちた戦いなのか。まだ1ターン目も始まっていないというのに、私の中には勝利へのビジョンがまるで見えなかった。
「わ、私のターン、ドロー」
どうすれば、そんな気持ちを抱えたままカードを引き抜く。
この状況を打破できるカードはないかと手札を精査するが、そんなミラクルを起こせるカードは私の手札には存在しなかった。
「私は、手札を1枚捨てて幻惑の見習い魔術師を守備表示で特殊召喚。その効果でミレニアム・アブソリューターを手札に加えるわ」
《幻惑の見習い魔術師》 攻撃力2000 守備力1700
水色のリボンを腰に巻いた魔法使いの少女が召喚される。彼女は目の前に立ち並ぶ3体のドラゴンにギョッとした表情を見せながら、おずおずと身を伏せた。
「さらに私は手札に加えたミレニアム・アブソリューターの効果を発動。このカードを永続魔法扱いで置くことができる」
「ふーん、エリアも変わったカードを入れたのね。私の知るデッキとはちょっと変わったわね」
愛理の指摘は的を得ていた。
このモンスターは幻想魔族と呼ばれる極最近にカード化された珍しいカードたちだからだ。
その特徴は戦闘においてモンスターを倒すことはできないが、逆に倒されることもないという共通効果を備えたモンスターであるということ。
この圧倒的に不利な状況において、これほどまでに頼りになるモンスターもいなかった。
幻惑の見習い魔術師が場に残ってくれている限り、逆転の時がくるまで耐え凌げる可能性があるのだから。
そして、そんな都合の良いカードが手札にきてくれていたことに感謝せずにはいられなかった。
「私は最後にカードを2枚伏せて、ターンエンドよ」
「私のモンスターの前に手も足も出ない。そんな感じね。思ったよりも、簡単に倒せそうだわ。コナミくんも、こんな風に簡単に手に入っちゃうかもね」
その発言にキッと愛理を睨みつける。
激情が湧き上がってくるのを感じながらも、耐える以外のことができないことが悔しくて仕方がない。
それでも、今は何も言えずともこのデュエルに勝つことで彼を、愛を奪われないために待つしかない。
そう、奪われるくらいなら……愛理を倒す。その時を──。
エリアは、無意識に倒すと──奪われるくらいなら愛理を終わらせると確かにあった負い目さえ忘れ、その目の奥に昏い焔が燃えていることに気がつくことなく、ターンを終えるのだった──。
1ターンが長すぎるっピ!!正直メメント使ったことないからわかんないけど、ぶん回せばもっかいツインなりなんなり出せるよねってパターンでもやってられるかとなって止めました。