初心者粉眠くんのデュエル日誌   作:XX

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メメント・モリ ③

 

 煌々と真っ白な光が鮮やかに海底を照らす。

 

 起死回生の一手として放ったサクリファイスという、幼い頃より使用してきたモンスターを破壊された私は、苦しい表情で立ち並ぶ3体のモンスターに相対している。

 

 

《冥骸合竜ーメメントラル・テクトリカ》 攻撃力4000 守備力4000

 

 

《メメント・ホーン・ドラゴン》 攻撃力2850 守備力2350

 

 

《メメント・ダークソード》 攻撃力1800 守備力1500

 

 

 白い長髪を海流に流し、私と同じ青い瞳で優雅な笑みを浮かべる愛理の目には、私を守る一体の小さな鳥が写っている。

 

 

《ミレニアム・アブソリューター》 攻撃力1300 守備力1400

 

 

 そのモンスターは私の生命線。

 幻想魔族という、珍しい種族の持つ戦闘破壊耐性により、かろうじて私の命脈は保たれている。

 

 そして、愛理のターンが始まる──。

 

「私のターン、ドロー! 私はメメント・ホーン・ドラゴンに装備魔法、レインボー・ヴェールを装備! このカードを装備したモンスターと戦闘を行う相手モンスターはその間効果を失うわ!」

「アブソリューターの破壊耐性を超えるつもりっ!?」

「バトルよ。メメント・ホーン・ドラゴンでミレニアム・アブソリューターを攻撃!!」

 

 メメント・ホーン・ドラゴンの身体を虹色のオーラが包み込む。

 咆哮を海中に響かせ動き出したメメント・ホーン・ドラゴンはその足を海底に沈めながら大きく跳躍する。

 

 そして落下の勢いのままにアブソリューターをその爪で切り裂き破壊する。その際、アブソリューターが自身を守るために広げた淡い光は虹色のオーラによって脆くも崩れ去っていた。

 

「これでようやく攻撃が通るわね。メメントラル・テクトリカでダイレクトアタック──メメント・クレニアム・バーストォ!!」

「──キャァァァァッッッ!!?」

 

 

《エリア》 残 LP 2500

 

 

 テクトリカから5色の輝きを宿した光が無数に大地を抉り取るように私を貫いてく。

 その攻撃はこれまで行われたどんな攻撃よりも激しく、アブソリューターによって回復していたライフの大半を一撃で削り取って行った。

 

 その衝撃に膝をつく。

 そのダメージは体と同時に心にも届いているように、私の魂が軋みを上げて叫び声を上げていた。

 

「メメントはね、忘れられた子たちなの。誰もが未来に進んでいく中、過去に忘れられた子たちが新しい力を得た姿。エリア、私はね、死が怖いわけじゃないのよ。生きることに執着しているわけでもない。ただ、一つくらい………手に入れたいじゃない。欲しいと願ったものをさ」

「それが、コナミくんだっていうの…………?」

「それ以外にあると思う? いいじゃない。あなた精霊なんだから、死んでもどうせ生まれ変わるわけだし。第一人間である彼とずっと一緒になんて………笑わせるわ」

 

 こちらを嘲るように鼻で笑う愛理にどうしようもないほどの激情が沸き上がる。

 制御のきかなくなりつつある感情の起伏にギュッと拳を握り締め、歯を食いしばりながら立ち上がる。

 

「ふざけないでッ! 人間がなによ。精霊だから何だっていうのよ。そんな種族の壁なんかで奪われるなんてごめんだわッ! 私はリバースカード 痛恨の訴えを発動! 直接攻撃をしたモンスターのコントロールを次の私のエンドフェイズまで奪い取るッ!!」

「わたしのテクトリカがッ!?」

「私のターン、ドロー!!!」

 

 攻撃を終えたテクトリカが私の場に移動する。

 驚く愛理を睨みつけながら、間髪を入れず私は張り裂けそうな怒声でターンを開始する。

 

「私は手札からモンスターゲートを発動! メメントラル・テクトリカをリリースすることでデッキの上から通常召喚可能なモンスターが出るまでカードを捲る。そして引いたモンスターを特殊召喚する!!」

 

 心の奥底から湧き上がる激情によるものか、不思議と漲ってくる力に身を任せるようにテクトリカを生贄に捧げる。

 不思議なことに、私が触れずとも次々と捲れ上がり海中にそのカードが浮かんでいくカードたち。そのカードが6枚にもなったとき、私の場にモンスターが召喚された。

 

「私は大陰陽師 タオを守備表示で特殊召喚!!」

 

 

《大陰陽師 タオ》 攻撃力1200 守備力900

 

 

 遠い大陸にある中国の伝承の死体を生命のように動かすキョンシー、それを作り出す道士のようなモンスターであるタオが召喚される。

 タオは不気味に小声で呪文を唱えながらその身をしゃがませている。

 

「私のターンは終わりよ!」

「気合いを入れた割には大したことはできなかったわね。テクトリカを墓地へ送ったことだけは評価してあげるけどっ! 私のターン、ドロー!」

 

 フーッ、フーッと、私の喉から抑えられない威嚇にも似た呼吸音が噴き出ている。噛み締めた歯はギリギリとその圧を強めている。眼前に立つ愛理を──女を許すなと魂が叫び声を上げていた。

 

「フフフ、もう一押しかしらね。バトルよ! メメント・ホーン・ドラゴンで大陰陽師 タオを攻撃ィ!!」

「ッ!!」

 

 再び虹色に輝くオーラを纏ったドラゴンの攻撃が振り下ろされる。

 幻想魔族の共通効果として戦闘破壊されない効果も、レインボーヴェールの放つ無効効果の前には無力。紙切れ同然のようにタオは破壊されてしまう。

 

 しかし、破壊されたタオはその散り際に、黄色い道士服の中から1枚の札を残していた。

 

「レインボーヴェールがある限り、幻想魔族の耐性は無意味よ」

「そうね。でも、そのカードは破壊された後に発動する効果までは止められないわ! タオは墓地へ送られた場合、墓地からタオ以外の幻想魔族を守備表示で特殊召喚できる。私は幻惑の見習い魔術師を特殊召喚!!」

「また──しつこい女は嫌われるわよエリア!!」

 

 

《幻惑の見習い魔術師》 攻撃力2000 守備力1700

 

 

 淡い色をしたリボンを腰に巻いているのが特徴の魔法使いが再び召喚される。

 彼女は杖を一振りし、私のデッキに光の粉を振りかけていた。

 

「見習い魔術師が召喚されたことで私はデッキから幻想魔族であるミレニアムーン・メイデンを手札に加える!」

「時間稼ぎは迷惑よ。私は手札から手札抹殺を発動! 互いに手札をすべて捨てて、同じ枚数ドローする。捨ててもらいましょうか、そのカード!!」

「──くっ」

 

 私と愛理は手札をそれぞれ墓地へ送る。

 私はサーチしたミレニアムーン・メイデン1枚を、愛理もまたカードを1枚。私は窮地を脱するためのカードを、愛理は確実に追い詰める更なる一手を、それぞれが求めて引いた。

 

「私は場のメメント・ダークソードの効果を発動! このカードを破壊することでデッキからレベル3以下のメメントモンスターを特殊召喚する。私はメメント・ゴブリンを特殊召喚!!」

 

 

《メメント・ゴブリン》 攻撃力400 守備力400

 

 

 愛理の場に青い水晶のような角が頭部から生えた小鬼のモンスターが召喚される。

 その攻撃力は見るからに低く、犠牲になったダークソードの足元にも及ばない。しかし、これまでの彼女の戦術を見るからに、それが戦力増強のために召喚したモンスターではないことは明白だった。

 

「そしてメメント・ゴブリンを自身の効果でさらに破壊。デッキからメメントモンスターを2枚墓地へ送る」

 

 愛理のデッキから2枚のカードが捨てられる。

 その動作を見送りながら、徐々に揺れ動き始めた海底の振動が、これから召喚される強大なモンスターの予感を私に与えていた。

 

「これで、また私の墓地に5体のメメントたちが揃ったわ」

「5体──まさかっ!?」

「そうよ。テクトリカはね、墓地からも召喚できるのよ!! 私は墓地のメメントたちを5体、デッキに戻すことで冥骸合龍ーメメントラル・テクトリカを特殊召喚するわッ!!」

 

 

《冥骸合龍ーメメントラル・テクトリカ》 攻撃力5000 守備力5000

 

 

 海底の地面を割るように、地の底から激しい咆哮を轟かせ、メメントモンスターの切り札たるドラゴンが召喚される。

 その傲然とした召喚に頬が引き攣りを始める。

 

 やっとの思いで消したはずの超大型モンスターがこうも容易く再度召喚されたために、もはや自分の勝ち目がないことを知らされているように感じた。

 気持ちだけでは超えられない、どうしようもない現実がそこに立っている。冥府の底から蘇ったそのドラゴンをそのように私の目には映っていた。

 

「テクトリカがいることで、永続罠 クレニアム・バーストの条件が揃ったわ。あなたはもうモンスター効果は使えない。もう一ついいことを教えてあげる。私がさっき捨てた1枚のカード、それはねメメント・ボーン・パーティっていうカードよ。効果は除外することでメメントモンスターに貫通効果を与えることができるの。素敵でしょ?」

「──!?」

 

 それは実質、このデュエルの終わりを告げる宣言のようにも聞こえた。

 貫通効果を与えると言うことは次のターン、上手く見習い魔術師を生き延びらせることができてもテクトリカの攻撃でその攻撃力が守備力を超えた分だけ私はダメージを受けると言うこと。

 

 私の残りのライフで受けきれるはずのないダメージが降りかかると言うことだ。

 

「敗けるの………私は…………ッ!」

 

 敗北の未来。そしてその後に暗い海の中から愛理とコナミくんが2人並んで生きていく光景を見守ることになる。その現実が間近まで迫ってきている。

 

 恐怖心が………不快感が襲ってくる。

 その怯える心に連動するように、私の膝から力が抜けていく。

 

「………エリア、この結果は最初っから決まっていたことよ。所詮、非情になれないあなたが私に勝つことなんてできないのよ」

「──なにをッ!」

「もう終わりにしましょうって言っているの。あなたのような紛いものが、人のふりして彼と恋をしようだなんて、彼を苦しめるだけだってわからないのかしら。貴方だってわかってるんでしょ。人は人同士、精霊は精霊同士で生きていくべきだってことを」

 

 それが自然の理だと告げるように、愛理は冷たく言い放つ。

 それに反論の二の句を告げようとしても反撃する力を持たない私の口から言葉が出てくることはなく、歯噛みして俯くことしかできない。

 

 私の心を折る、決定的な言葉だった──。

 

 海底に両手をつく。

 希望を失うように閉ざされ、暗くなっていく視界に抗うこともできず。体から力が抜ける。

 

 私の中に、愛理を倒そうと言う闘志はもう──残されてはいなかった。

 

『──よいのか………それで…………』

「──?」

 

 ふと、諦めた私の心に語り掛けてくる存在がいた。

 その声は鈍く大きい存在感を持つ声で私の心に直接話しかけているようであった。

 

『あの女に愛する男を奪われてもよいのか…………?』

「──誰?」

『キミにはわかるはずだ。私が何者であるのか…………』

「まさか………大賢者様!?」

 

 その声に反応するように顔を上げる。

 突然大声をだして俯いていた顔を上げた私を不思議そうに見つめる愛理が立っている。周囲を見渡しても、大賢者様はいない。

 

 コナミくんに敗れ、亡くなったはずの偉大な魔法使いはどうやってか私の心の中にいるようだった。

 

『エリア、可愛いエリアよ。何を諦めることがある。まだ、敗れてはいないのだぞ?』

「……無理です大賢者様。もう私には打てる手はありません。私のデッキにも、この状況を覆すことのできるカードは…………」

『否、否だエリア。私はお前に教えたはずだ。デッキを、カードを信じるのだと。そして、踏み出す勇気を持つのだと!!』

「……踏み出す、勇気…………」

『そうだ。感じるはずだ。デッキの脈動を、大いなる力の胎動をッ!!』

 

 デッキを見る。

 

 白く輝くデッキの一番上のカードには確かに感じるものがあった。

 それは力強く、私にそれを引く覚悟があるのなら引き抜くがいいと主張している。

 

 そしてそれは──邪悪な波動を宿していた。

 

「こ……れは…………」

『許せない。コナミくんを奪おうとすることも、そんな女に屈しようとしている自分にも』

「──わたし………?」

 

 気が付けば、大賢者様の声は消えていた。代わりに聞こえたのは私自身の声。姿なき、内から聞こえる魂の声だった。

 

『永遠が欲しいわ。永遠に、永遠に彼と生きていくために──力が欲しい』

「──永遠…………」

『そうよ。永遠の愛。永遠を──永遠を──永遠を──永遠の愛を!!』

 

 永遠をと何度も反響する声に惹かれるように、私はデッキの上に指を置く。

 

 これを引いてしまえば後戻りはできない。

 そう囁く私の理性を振り切るように、狂乱するもう一人の私の永遠を求める声が私の背を押した。

 

「私のターン、ドローッッッ!!!」

「──ッ!?」

 

 そのカードを引いた瞬間、私の中にあったナニカが千切れ飛ぶ音と一緒に、世界が歓喜するような波動が響いた。

 

 指先から流れ込む白い光が私の全身を犯し、魂に染み渡ってくる。

 尋常ではない様子の私の気配に目を見開き、慄いたように後ずさりする愛理に、私は感情を排した冷徹な視線を向けた。

 

「愛理、ここまで好き勝手してくれたわね。死にぞこないの亡霊風情が、生まれてくることもできない脆弱な命なら大人しく墓の中で眠っていればいいものを」

「酷い言いようね。その生まれてこれなかった私の身体を使っているのは貴方でしょうに」

「ええ。だからちゃんと墓に入れてあげるわ。2度と目が覚めることのないようにね」

 

 冷や汗を流す愛理が一歩、二歩と、後ろに下がる。

 冷徹に瞳を沈ませ、邪悪な気配に身を委ねたことで光を宿した私を恐れているようだった。

 

 愛理から視線を外し対峙する巨大なドラゴンを眺めみる。

 光を宿す前はあれほど驚異に感じていたはずのドラゴンが、今は小さく感じる。

 

 それはこの手に宿る一枚のカードのためである。

 この一枚のカードから召喚される存在の強大さが、ドラゴンを大きく上回る力を宿す存在であると私に教えているためだった。

 

「私は手札から次元融合殺を発動! モンスターゲートによって墓地に送られていた幻魔皇ラビエル、降雷皇ハモン、神炎皇ウリアを除外──混沌幻魔アーミタイルを特殊召喚する!!」

「やったわ──悪魔の手を取ったわねエリアっ!!」

 

 邪悪が──溢れ出した。

 海底から上空へと突き上げられるように膨大な闇色の柱が現れる。

 天の降り注ぐ尊い光すら覆い隠すような闇が天上に広がっていき、世界を暗く閉ざしていく。

 

 そしてその放出された闇が静かさを取り戻した時、エリアの前に一体の巨大な悪魔が降臨していた。

 

 

《混沌幻魔アーミタイル》 攻撃力10000 守備力0

 

 

「攻撃力──1万!?」

 

 愛理がその力で世界を滅ぼせると言われるほどの3体の悪魔が一つになったモンスターの攻撃力に驚愕の声を張り上げる。

 

 右腕には赤い龍の顎、胴体から下は龍の尾、後背には黄色い悪魔の両翼。そして頭部に当たる部分には青い悪魔の顔があった。

 悪魔は、喝采の咆哮を世界に響き渡らせ、邪悪な瞳で愛理を、そして彼女を守るモンスターたちを睥睨している。

 

 愛理はその視線に歓喜と高揚……そして微小の恐怖を感じていた。

 

「消えなさい愛理。世界は生者のもの。生まれてくることもできなかった出来損ないに居場所なんてないのよ。──バトルッ! 混沌幻魔アーミタイルでメメントラル・テクトリカを攻撃──全土滅殺 転生波ッ!!」

 

 時空が歪むほどの強烈な闇が円を作るようにアーミタイルの中心に生まれる。唸りをあげて形成されたその闇の球体は空間を歪ませ、すべてを破壊しながら突き進む。

 

 テクトリカがその闇を破壊せんと無数の光を撃ち放つが、その全てが意味を成さず闇の中心へと吸い込まれ消えてゆく。

 その光と同様、進行した闇はテクトリカを呑み込み始め骨を砕く音をがなり立てながらその巨体を粉々に砕いてゆく。

 

 アーミタイルの攻撃はテクトリカを破壊してもなお進む。背後に守られた愛理を巻き込むように彼女を闇の中へとその衝撃を与えるのだった──。

 

「キャァアアアアアッッッ!!!」

 

 

《愛理》 残 LP 0

 

 

 




言い過ぎではとも思いましたが、創作における暴言は行き過ぎてる方がいいかと思って、はい。
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