毎度のことですが、タッグデュエルはルールがよくわからんところが多いので割と独自ルールを採用してます。まあ本当はデュエルで将棋の二歩的な初歩的なミスがあったのでそれっぽい理屈付け加えたんですけどね。
「僕の先行、ドロー!」
破滅の光に魅入られた愛理ちゃんとユベルとのデュエルが始まった。一緒に戦ってくれるのは十代くん。
ライフとフィールドを共有したタッグデュエルでは誰も1ターン目に攻撃は行えない。だからこのターン僕がすべきことは次の僕のターンが回ってきた時のための布石と十代くんの援護だ。
「僕は手札からトレード・インを発動。手札のThe grand JUPITERを墓地へ送り、カードを2枚ドロー! そしてE・HERO フォレストマンを守備表示で召喚!」
《E・HERO フォレストマン》 攻撃力1000 守備力2000
木人のHEROであるフォレストマン。
自らのターンが回るごとに融合の魔法カードを手札に加えられるこのモンスターはタッグデュエル、その最序盤では無類のサポート力を発揮してくれる。
特に、僕以上に融合を多用する十代くんだ。
彼にもきっと有用にその効果は発動するはず。
僕は十代くんに視線を向けることでその意図を伝えてターンを終えた。
「カードを2枚伏せて、僕のターンは終了だ」
「じゃあ、ボクのターンだね。ドロー」
僕の次にターンを開始したのはユベルだった。
体の半分が男であり、もう半分は女性である精霊の彼女は、精霊となる前はともかく今は十代くんの性別が男性であるためか女性面が全面に出た声色でターンを開始した。
ユベルという精霊がどういう効果を持っている存在なのか。それはこの天空にも似た雲の上に来る前に軽く十代くんから聞いている。
彼自身、幼い頃の記憶ゆえ、詳しいところまでは覚えていないみたいだったが、戦闘において無敵に近い効果を持っているとのことだった。
そんな彼女のモンスターとしてのレベルは10。
並大抵の手段では召喚は難しいはず。ましてこの序盤からというのは考えづらい。
あの丸藤さんでさえ返り討ちにしたと聞く強さ。
愛理ちゃんに特に注目していきたいけど、彼女のこともよく注意して観察しておかなくては……。
「ボクは永続魔法、マチュア・クロニクルを発動。このカードはこれからのボクたちの軌跡を綴る書物。ボクか、ボクの名前が記されたモンスターが特殊召喚されるたびにカウンターが一つ乗っていくのさ」
「カウンター……ユベルの名前が記されたカード……?」
ユベルの説明に十代くんが眉を顰めている。僕も同じように、疑問符を浮かべていた。
「十代くん、ユベルというのはそんなに沢山いるの?」
「いや、悪い。わからねえ。俺の小さい頃にはそんないなかったはずだが……」
ユベルの横に現れた巻物のような書物。
宙に浮かんだそれにはZの文字を辿るように5つの紋様が描かれており、それがカウンターの数を示すことになるのだろう。
「カウンターは全部で5つ乗せることができる。そしてカウンターを5つ取り除いた時、ボクは超融合を手にすることができるのさ」
「なにっ!?」
「超融合の──サポートカード!?」
なぜ……そんなカードが存在しているんだ。
超融合はごく最近、覇王となった十代くんが作り上げたカードのはず。
そんな専用のサポートカードが存在するはずが……まして、ユベルを名指しするようなカードで……!
「超融合はボクが十代に作らせたカードだ。十代の内に宿る覇王の力、それを目覚めさせれば必ず超融合を作ってくれる。そう睨んでいたボクが予め必要なカードを用意していても可笑しくはないだろう?」
「まさか、ユベル、お前カードを作ったのか!?」
「ボクの力があれば難しいことじゃなかったよ。多少時間は必要だったけどね。キミとの逢瀬の時のためを思えば苦ではなかったねえ」
カードを作った……!
なるほど、それができるというのなら超融合の専用サポートカードを持っていてもおかしい話ではない。
カードが生まれる仕組みはわからないが、彼女にはそれを可能とする方法があったのだろう。
このデュエルにおける僕たちの敗北条件は3つある。
1つ目は単純にデュエルに敗北すること。これは当たり前の話だ。論じるまでもない。
2つ目は彼女たちを助けれずに終わること。最悪の手段として選ばざるを得ない結末だが、最後の最後まで足掻いて、それでも無理なら倒すしかない……。
本当にどうしようもなくなった時の選択だが。その選択をした時点でデュエルに勝利したとしても、実質的にその結果は僕たちの敗北なのだ。
そして3つ目。それは彼女たちの手に超融合が渡ることである。12の次元を一つにする。それは超融合があれば可能なのだろう。それだけの力があのカードにはある。
だから、超融合を使用された時点で僕たちの敗北が決まるようなものなのだ。カウンターを許さないあのカードを使われれば止めることはできないのだから……。
「もう説明はいいかい。デュエルを続けるよ。ボクは手札からヘルグレイブ・スクワーマーを守備表示で召喚。カードを1枚伏せてターンエンドだよ」
《ヘルグレイブ・スクワーマー》 攻撃力0 守備力0
全身に包帯を巻いたボクサーのようなモンスターが身を伏せて召喚される。予想した通り、1ターン目からユベル自身が召喚されることはなかった。
ユベルの立ち上がりは静かなもの。
マチュア・クロニクルは厄介だが、攻守が0のモンスターにカードを1枚伏せたのみ。ユベル自身が出てくるにしても、おそらく次のターン以降だろう。
「俺のターン、ドロー! 俺はこの瞬間、コナミのフォレストマンの効果を発動。デッキから融合を手札に加える!」
僕、ユベルと来たターンの移行。次は十代くんのターンだった。
彼は僕の意図をうまく読んでくれたようで問題なくフォレストマンの効果を発動させていた。
「手札からコンバート・コンタクトを2枚発動! 手札とデッキからネオスペーシアンたちを2枚ずつ墓地へ送りカードを4枚ドロー!」
「コンバート・コンタクトは場にモンスターがいては発動できないはずじゃない?」
「いや、コンバート・コンタクトが参照するのはあくまで自分の場のモンスターだ。フォレストマンはコナミの場のモンスター。タッグデュエルだから効果は扱えるが、あくまでもそれはコナミのフィールドだ」
発動したコンバート・コンタクトにより大量ドローを狙う十代くんに訝しんだ視線を送る愛理ちゃんに彼が答えた。
そして、彼の気合いと覚悟にカードが反応しているのか、墓地と手札を一度に増やしていく姿にユベルと愛理ちゃんも無反応ではいられないようで感嘆していたり、警戒を強めたりと言った反応をしていた。
「俺は永続魔法、ENウェーブを発動。そして融合を発動──手札のE・HERO クレイマンとネオスを融合し、E・HERO グランドマンを融合召喚!!」
《E・HERO グランドマン》 攻撃力3300 守備力3300
十代くんの手札から2体のモンスターが融合の渦の中で一つになっていく。そしてその中から稲妻を周囲に響かせ一体のモンスターが召喚された。
「グランドマンの攻撃力、守備力は融合素材となった通常モンスターであるHEROのレベルの合計、その数だけ300ポイント上がった数値となる」
2丁の拳銃を持ち、白い翼を生やしたそのHEROはどこか光と電気のHEROであるスパークマンの姿を彷彿させる。
通常モンスター2体で融合されるとあって、E・HEROの通常モンスターであるスパークマンや白い翼を生やしたフェザーマンなど、それぞれの特徴を兼ね備えているみたいだった。
「まだだ、さらに融合召喚にE・HEROが墓地へ送られたことにより永続魔法、ENウェーブの効果が発動。デッキからネオスペーシアンであるエア・ハミングバードを守備表示で特殊召喚する!!」
《N・エア・ハミングバード》 攻撃力800 守備力600
十代くんのグランドマン、僕のフォレストマンの間に召喚された黄色い長い嘴に大きな羽を生やした鳥人型のネオスペーシアン。
彼は召喚されるやいなや、その羽を羽ばたかせ愛理ちゃんに向かってまっすぐ飛び立った。
「エア・ハミングバードは1ターンに一度、相手の手札の枚数だけ500ポイント、ライフを回復することができる。俺は愛理を選択する──ハニー・サック!!」
「!?」
《コナミ&十代》 残 LP 10500
愛理ちゃんの手札から次々と巨大な花が咲き乱れていく。
突然現れた花に驚きのけぞった彼女の前で、その花の中心に嘴を刺し込み、蜜を啄むようにエア・ハミングバードがその花々に頭を突っ込んでいく。
愛理ちゃんの手札は5枚。
まだターンが回っていない彼女の手札は消費されておらず、タッグデュエル故のライフの高さに相まって僕たちのライフは極めて高い数値になっていた。
「俺はターンエンドだ」
「いきなりライフを大きく回復させるなんてね。私のターン、ドロー!」
1ターン目の最後の順番である愛理ちゃんのターンが始まる。
白い波動に包まれた彼女からはこれまでに彼女から感じたことのない圧力を感じる。
破滅の光によるものと考えるのが自然なのだろうが、僕はそれに加えて一線を超えたことで迷いや躊躇いが消えたことが原因だと感じていた。
それは根拠があるわけではなく、証拠があるわけでもない。ただ、彼女と共に過ごし培った時間が直感としてそれを教えてくれていたのだ。
これまでの彼女は決して勝利というものに貪欲な姿勢ではなかった。
デュエルはすれど自然体で激しい闘志に溢れていたわけでもない。しかし今は違う。
その全身は覇気に満ち溢れ、覚悟が垣間見える。
そんな彼女の振り切った青い瞳は清水のように澄みきっており、美しくさえあった。
「私はフィールド魔法、失楽園を発動!」
「そのカードはっ!? 愛理、なんでお前が持っているんだ!!」
空が闇に覆われていく。
どんよりとした重苦しい空気で覆ってくる空の下で一本の巨大な枯れ木が彼女の背後に生えてきていた。
それを目にした十代くんが目を見張り問い詰める。
僕は見覚えはないが、このフィールド魔法が良いものでないことだけは感じ取ることができていた。
「失楽園は私の持つ3幻魔をサポートする専用のフィールド魔法。そうよね、十代くんは以前戦ったんだから知っててもおかしくないのよね」
「答えろ愛理。どうしてお前がそのカードを持っている。ユベル、お前が渡したのか!?」
「ボクは渡してなんかないさ。ただ、彼らが愛理を選んだんだよ。大したものだねえ、フフフ、彼女は悪魔さえ魅了したのさ!」
3幻魔……2年前に十代くんが戦った強大なモンスターたち。
十代くんとは違い、僕には意外なほどに驚きはなかった。彼から学園に封印されていた幻魔のカードをユベルが回収したという話を聞いていたこともあるが、もう一つ。
愛理が死ぬ間際に見せた海底の水中世界。その背後で嗤っていた3つの巨大な影の正体が幻魔であると納得したからだった。
「失楽園がある限り、3幻魔は効果で破壊されずその対象にとられることもないわ。そして私は混沌の召喚神を召喚。リリースすることで手札から幻魔皇ラビエルを召喚条件を無視して特殊召喚するわっ!!」
「いきなり幻魔をっ!?」
「くるのか……世界を滅ぼせるほどの力を持つ悪魔がっ!!」
《幻魔皇ラビエル》 攻撃力4000 守備力4000
十代くんと僕の全身が緊張に包まれる中、夥しい闇を噴き上げながらその悪魔が召喚された。
青い巌のような巨体をした3種類いる幻魔のうちの一体であるラビエル。彼の赤く血に染まったような目が僕たちを射抜き、とてつもない威圧感が襲ってきていた。
「攻撃力4000……! これほどのモンスターをいきなり出してくるとは、驚いたよ愛理ちゃん」
「ありがとう。驚いてくれて嬉しいわ。攻撃できないのが残念なくらい。それじゃあ、私は失楽園のもう一つの効果を発動させるわね。幻魔が私の場にいるとき、カードを2枚ドローできる……私はカードを2枚伏せてターンを終えるわ」
愛理ちゃんの背後の枯れ木から赤い林檎が一個彼女の元に落ちてくる。
聖書に描かれている知恵の果実をモチーフにしているのだろう。
悪魔を魅了し、魅入られた彼女がそれを一口齧ると、溢れた果汁がカードへと変わり彼女の手札へと加わる。
悪魔を従え、微笑みを浮かべる彼女がターンの終わりを告げた。
永遠を求め、悪魔を従え、楽園に辿り着こうとする。そんな彼女に立ち向かうため、僕はデッキからカードを引き抜くのだった──。
ユベルなら、カードを生み出すくらいやっても可笑しくないかなと。そうじゃないとマチュア・クロニクル出せねえしなあとも思いまして。