3期最終回。なんとか、書き切ることができました。ここまで読んでいただきありがとうございました!
青々とした美麗な海の中。透き通る海中世界を照らすのは天から差しこむ神々しい光の奔流と海流を漂う小さな星々。
そこは僕と愛理ちゃんの心の交わる干渉地帯。僕と愛理ちゃんは今、星と海の交わる心の幻想世界に並びたっていた。
超融合により深く繋がった2人の運命が元々繋がっていた心の隔たりを限りなく零と呼べる距離にまで縮こませていた。
目の前に聳え立つのは萎れ枯れ果てた大木。茫然とそれを見上げている愛理ちゃんの手を握り気付かせる。
彼女はゆっくりと僕の方へと顔を向けた。
「コナミくん……ごめんなさい。私は──」
「いいよ、わかってる。何も言わなくてもいいんだ。ちゃんとわかってるから」
苦しくて悲しくて辛くて、そして不安でいっぱいだった。恨むべきなのはそこまでさせてしまった僕自身の不得であり、憎むべきはそんな愛理ちゃんの心の隙間に入り込んだ破滅の光だ。彼女は悪くはない。
それに、仮に彼女が悪かったとしても僕だけは味方だ。味方であり続ける。そう決めているのだ。
「でも、愛理が……私は取り返しのつかないことをしてしまったわ。もう、愛理を目覚めさせることができない」
悲しげに後悔の涙を浮かべて彼女は目の前の枯れ木に触れる。
僕もまた海底に育ちながら枯れ果ててしまった大木に触れるが、やはりそこから感じるのは命の息吹を感じさせない冷たい反応。
愛理の魂と直結しているこの大木はもう、完全に死んでいた。
「愛理ちゃん、僕はずっとどうすれば愛理を救えるのか考えていたんだ。君の中に眠る人間として生まれてこれなかった愛理。彼女がどうすれば生きていけるのか。それをずっと……」
「コナミくん……それは?」
僕は懐から一枚のカードを取り出していた。それは白紙のカード。かつてエンディミオンの王様から預かった。何者にでもなれるカードだった。
それを手にしながら考えていたことをあった。そう、僕はずっと考えていた。愛理のことを知ってから十代くんや精霊たち、愛理ちゃんとも相談していたが見つからなかった彼女が生きていくためのその答え。
それが今の僕にはわかる。
この世界でたくさんの辛いことや願いと悲しみに触れたことで、その答えを出すことができた。
この一枚の白紙のカードを基盤としてプラネットモンスターたちの力で新しい世界を形作る。それが僕の考えついた方法──愛理のための世界を作る方法だ。
「世界は一枚のカードから生まれた。なら、このカードから生まれることだってできる。さあ、今こそ約束を果たす時だ! こいっ! プラネットたちよッッッ!!!」
愛理ちゃんと繋がっていない方の腕を振り上げ、その指先の白紙のカードを掲げる。
それが合図となり轟音を立てながら大木を中心として10体の惑星を司る僕のモンスターたちが召喚される。
彼らは遂に自分たちの使命を果たすときが来たのだとその力を漲らせ、膨大なエネルギーを放出していた。
そのエネルギーの奔流により、海流は激しく脈動し、周囲を巡る星々はその輝きを眩しいほどに明滅させている。
その力の中心となっているのは地球を意味する名の『ジ・アース』。ただ1人、プラネットモンスターの中でも融合により召喚される彼の持つ能力は『力の収束』。
プラネットモンスターはそれぞれが得意な力を持つモンスターたちだが、彼は有り余るプラネットモンスターたちのその力を一つ所に集める能力を持っていた。
「プラネットモンスターたち!? どうして、何をするつもりなの!?」
「愛理を助けるっ! 彼女が生きれられる未来を描き出す!! それが僕の出した答え────願いだっ!!」
大地が悲鳴をあげる。
僕の意思を受け取ったジ・アースが総ての惑星の力を自身へと収束させていく。それによる余波がこの世界全体に影響を及ぼしていた。
それにより海底に亀裂が生まれ、その下から真っ赤なマグマさえ吹き出させている。世界は僕たちの周囲を除き、全てが破壊されていっていた。
その破壊と力の収束の最中、荘厳な声が海底に響き出す。それは太陽の声でもあり、地球の声でもあり、そして総ての惑星の声でもあった。
『──新世界の創造をッッッ!!!』
『──我らの使命を果たすときッッッ!!!』
合唱するように幾度となく響き渡る新世界創造の唄。
その壮大な音楽に合わせるように僕と共に戦ってきた仲間たちが現れる。天使が、霊使いが、亀が、HEROが、黒鎧の戦士が、その総てがそれを祝福し見届けようと現出していた。
「頼む、愛理の未来を創ってやってくれ!!」
新しい世界に僕はいけない。行くわけにはいかない。だから、大賢者がドリアードをそうしようとしたように、新世界を支える柱が必要。それをするのが王様から与えられた白紙のカードの役目!!
星々は無数の光を煌めかせながら愛理の魂である大木を浮かび上がらせる。いつしか、ここは海中世界ではなくなっていた。
僕たちを取り囲んでいた海の膨大な水は消え去り、大地もまた僅かを残して宙に浮いている。青々としていた透き通るような空は無数の星が輝き見せる見果てぬ宇宙へと変貌していた。
僕はその宇宙を作り出している惑星たちをじっと見据える。
限りない力で行使されるただ一度だけ可能とする新世界の創造。その先にあるものを確信するために。
宇宙は次第にその様相を変えていく。
初めはゆったりとした回転をしていた星々だが、やがてそれは時を追うごとに激しくなり台風の目のように中心で黄金に光り輝き始めた白紙のカードを拵えながらあたりを明るく照らしていく。
そして、収束された膨大なエネルギーを吐き出すようにその中心へとジ・アースが力を解き放った──。
「──くっ!!」
「──キャァッ!?」
その瞬間だった。莫大なエネルギーが閃光となり衝撃に瞼を閉じた僕たちを襲う。吹き飛ばされそうになる身体をグッと堪え、隣に立つ愛理ちゃんの肩を抱いたまま、僕は瞼を開いた。
「えっと、終わったの……?」
「うん。これで、全部終わったみたいだ。大丈夫、愛理はちゃんと新しい世界で生まれ変わることができるよ」
開かれた先にある光景、そこにあったのは絶え間なく躍動していた星が、惑星が、宇宙がその動きを静止していた世界であった。
10の惑星たちはその存在感を少しも減衰させることなく、宇宙の中で佇んでいる。しかしどことなくやり遂げたと言う感慨を抱いているように見えるのは錯覚などではないだろう。
愛理はどうなったのか、その解答の詳細を知ることはできない。
宙にいる彼らでさえ、それを知ることはできないだろう。
わかっているのは、僕の願い──愛理が人としてきちんと幸せに生まれてくることのできる世界を作ってくれたことだけ。
そこがどんな世界で、愛理がどのような人生を歩んでいくかは、僕たちには知りようのない事柄であった。
だけど、大丈夫だと信じれた。
僕の信じる仲間たちが作ってくれた世界。それはきっと素晴らしい世界のはず。そこに疑いの気持ちが入り込む余地は微かにも存在しない。
命を終え、新しく生まれ変わる彼女にこの世界で経験した記憶が受け継がれることはない。しかしこの世界で紡がれた繋がりは消えない。
繋がりという運命。
それがきっと、彼女が求める最高の繋がりが彼女を幸せにしてくれる。
それ故に僕もまた、彼らと同様にやり遂げたと言う達成感と安堵に身を浸し、満足して静かさを取り戻した宇宙を愛理ちゃんの肩を抱きながら見守った。
どうか、愛理に幸多からんことをと祈りながら──。
「……………コナミ、やることは済んだのか?」
「十代くん!」
そうしてしばらく2人で漫然と宙を見上げまどろんでいたら、後ろから十代くんの声が聞こえた。
ずっと後ろの方で見守っていたのか、ユベルと一緒に僕たちのことを待ってくれていた。
「……愛理ちゃん、どうか、僕のお願いを聞いてほしい」
「お願い?」
十代くんたちにチラと一瞬だけ視線を向けながら僕は愛理ちゃんに向かい合いその両手を握る。
「これから僕は十代くんと旅に出る。破滅の光を倒すために、それがどれだけ険しく、厳しいものになるかわからない。だから……」
「だから、なに? 私に帰ってくるまで待っていてって言いたいの?」
お願いの内容を話し始めてから怪訝そうな視線を向けていた愛理ちゃんの目がだんだんと険しくなっていく。僕はそれに首を横に振りながら伝えづらいそのお願いを少しだけ躊躇いながら口にした。
「ううん。待って欲しいなんて言わない。君のことは必ず僕が守る。だから、僕と一緒にその旅に来てほしい。隣で僕のことを見守っていてほしい」
「──」
「僕は弱いから。弱い人間であることをこの戦いで嫌になる程知った。だから、僕が揺らがないように、迷わないように、僕のそばにいてほしいんだ」
異世界にきて、命の危険や友達が倒れる姿を見て僕は自分の弱さを知った。そして、守るべき愛する人がそばにいないことの寂しさと恐怖も知った。
例え超融合により運命が交わって本当の意味では決して離れることがなくなったとしてもやはりそばにいてほしい。それがどんなに危険な旅であっても、愛理ちゃんには僕の隣にいてほしいのだと、そう思った。
「コナミくん……ええ、ええ勿論よ。貴方が行くところなら、何処へだってついていくわ。それこそ死ぬまで、いえ、違うわね。死んだって離さないわ!」
涙ぐみながら嬉しそうな顔を見せる彼女に僕も同じように喜びの顔を見せる。繋いだ手を離すことのないようにギュッと握りながら僕たちは決して離れない選択をした。
そして振り返る。
「待たせたね十代くん、ユベル。さあ、行こうっ! 僕たちの本当の戦いにっ!!」
「ああっ! お前がいてくれるなら、心強いぜ!!」
「愛理、ボクたちは十代とコナミと運命で繋がった。異な縁ができたものだね」
「ええ、私たち長い付き合いになりそうね。お互いに愛する人を支えていきましょう」
星の光が強くなる。
光は束ねられ柱となり、僕たちを乗せた旅立ちの舟となり、破滅の光との戦いのための遥かな宇宙への旅立ちへと導いてゆく。
子供から大人へと成長するために。
選んだ道、定められた運命が齎した責任と結果。
それらから目を背けず、受け入れ進むための旅路。
僕たちの旅が今、始まった──。
*
真夏の暑い日差しが燦々と照らしアスファルトに幻影を与える季節。
煩いほどに鳴り響く蝉の鳴き声がそこら中から聞こえる中で、それを超える喧騒の場所があった。
「パパー! 早く来てよー!!」
「そんなに急がなくても大会は逃げはしないぞー!」
大小様々な親子が賑わいを示す一つの会場。そこでは未来のデュエリストのためにデュエリストの必需品であるデュエルディスクの体験ができる海馬コーポレーション主催のお祭りが開かれていた。
立ち並ぶ屋台にはカードショップだけではなく、お祭り定番のイカ焼きや焼きそばのソースの匂いが食べ盛りの子供達の舌と鼻腔を楽しませている。
しかしこの催しに来た幼い少年少女たちの目的は美味しい食事でも、屋台の輪投げや射的といった遊びでもない。その主目的たるデュエルディスクの体験のためにそれぞれに期待に胸躍らせながら沢山の子どもたちは会場の受付へと向かっていた。
そうして行き交う人混みの中を1人の少女が青白い長髪を靡かせながら走っている。その人間離れしているとすら言える将来の美しさが保証される容姿には道行く誰もが一瞬目を惹かれ立ち止まるほど。
彼女もまた、デュエリストとして大成するためにデュエルディスクをいち早く体験するためにお祭りに両親と一緒にやってきた1人であった。
「──それじゃあ私たちは休憩所で見ているから。楽しんできなさい」
「間違っても無理はしないことよ。疲れたらここにくること。ママとの約束ね」
「うん! パパ、ママ、行ってくるね!」
受付で子供用のデュエルディスクを受け取った少女は両親との約束も早々に会場を駆け出す。
待ちに待ったデュエルディスクがこの手にある。そしてそれで思う存分デュエルができる。その感動と喜びから1秒でも早く対戦相手を見つけたかった。
そうして駆け出して少し、こっちに向かうといいことがありそうと、心が惹かれる場所へと向かった。
それはこの体験会があると聞いた時から存在していた奇妙な予感。
この体験会ではナニカ素晴らしいことがある。
デュエルディスクを体験できることと同じ、いやそれ以上のことが!!
その予感が呼ぶ方へ逆らうことなく駆けて行き、そして1人の少年が目に留まった。
ウロウロと対戦相手を探しているのだろうと察せられる少年に少女は話しかける。なんとなく、この少年が予感の正体の気がしたから。
「ねえ君、対戦相手を探しているの? 私もなの。よかったらデュエルしない?」
「わぁ……綺麗な子。って、そうじゃなかった。デュエルだよね。うん、いいよ! 僕は粉眠! みんなからはコナミって呼ばれてるんだ。よろしくね!」
「ええ。私は愛理、水無月愛理よ。愛理って呼んで。楽しいデュエルをしましょっ!」
この会場に来ている目的がデュエルをするためであるとお互いに理解しているためか余計な説明も必要なく話が進む。
デュエルをするために距離をとり慣れない手つきでデュエルディスクを構える。そうしていざデュエルを始めようと声を張り上げようとした時、愛理はコナミの顔に奇妙な既視感を感じた。
「? ………ねえ、私たち何処かで会ったことある?」
「えっ? いや、そんなことないと思うけど……?」
「そうよね〜。まっ、いっか! コナミくんだったわね。デュエル、始めましょっ!」
「うん! 負けないよ!」
「私だって!!」
一瞬感じた既視感もすぐに忘れてしまうわずかなもの。
2人は気にすることもなく、周囲で行われている子どもたちのデュエルの様子に倣うようにその顔に笑みを浮かべながらデュエル開始の声を張り上げた。
「「デュエル!!」」
デュエルは続く。
喧々囂々とする会場で攻めと守りを繰り返しながら2人の交流は紡がれていく。
それは蒸し暑い夏の一瞬の出会い。
少年と少女の青春を告げる一幕。
星は惹かれあい、運命に導かれる。潮の満ち引きのように人の出会いもまた繰り返されていく。
遠い遠い星の彼方。
遥かな宙から、星々はいつまでも2人の始まりを見守っていた──。