白熱していく藤次郎さんとのデュエル。そんなデュエルの内容とは裏腹に山頂では穏やかな風が僕たちの影を薙いでいた。
「フフフ……」
「?」
「いやすまない。デミス一体を召喚した程度で君に勝てるとは思っていなかったが、まさかその対処方法に珍しい壊獣を使用されるとは思わなくてね。少し驚いていたんだ……やはり予測など当てにはならないなとね」
藤次郎さんが召喚していた最高レベルの悪魔、終焉の覇王デミス。それを壊獣を召喚するためのリリース素材として除去されたことが思いの外あの人には面白いやり方だったらしい。
予想が外れたというだけかもしれないが……。
「さて、デュエルを進めようか。デミスが消えたが、その代わり私の場には上級モンスターであるガメシエルが残っている。君の場のエアーマンでは破壊できないが、どうするつもりだい?」
藤次郎さんのいう通り、手札を3枚も消費することでなんとか除去することに成功した覇王デミス。
しかしそのために僕に残された手札は僅か2枚。未だ劣勢であることには変わりはない。
「当然、このターンでガメシエルも処理させてもらいますよ。僕は手札からエアーマンを対象にマスクチェンジを発動──M・HERO カミカゼへ変身させ、ガメシエルに攻撃!!」
風のHEROであるエアーマンを一迅の風が竜巻となって包み込む。
絡まった糸が解けるように竜巻が消えたとき、その中から現れたのは浅緑色のスーツを着た風操る力強いHEROの姿であった。
《M・HERO カミカゼ》 攻撃力2700 守備力1900
風が解けると同時にHEROは白いマントを靡かせながらガメシエルへと駆け出していた。
その右手の掌からは稲妻が迸っている。
右手に溜め込まれ、極限まで圧縮された暴風のエネルギーがプラズマへと形を変えて外へと漏れ出ていた。
「いけっ──サンシャイン・ストーム!!」
等身大なサイズのカミカゼよりも数段巨大なガメシエル。
その巨体へと飛び込み、カミカゼは右手に溜め込まれたエネルギーをガメシエルの頭部へと叩きつける。
プラズマが迸り、ガメシエルの巨躯の中でも柔らかなお腹に当てられたカミカゼの攻撃は激しい稲光を走らせた。
そして──ガメシエルから咆哮が響き渡る。それと同時に発生したのは破壊音と爆発音。
煙が晴れた先、フィールドにあるのは破壊され、姿が消えたガメシエルにより空白と化した藤次郎さんのフィールドと、白いマントを揺らしながら誇らし気に僕の場に返ってくるカミカゼの姿であった。
《藤次郎》 残 LP 1300
「よし! 僕はカミカゼの効果により、モンスターを戦闘で破壊したことでカードを一枚ドロー! カードを1枚伏せて、ターエンドです!」
「デミスもガメシエルも倒したか。そう来なくてはね。とてもとても……許しなど……ふふ、私のターン、ドロー!」
なんとか、状況を逆転できたことに安堵の息を吐く。
──と、その安堵の意識の間隙をつくように藤次郎さんの目の前に異次元に繋がっているかのような穴が空いた。
「私は緊急テレポートを発動!! ターン終了時に除外される代わりに、デッキからレベル3以下のサイキック族である魔神儀ーペンシルベルを特殊召喚する!!」
《魔神儀ーペンシルベル》 攻撃力0 守備力0
彼の目の前に空いた穴から出てきたのは目と口がついた羽ペンのようなモンスター。
攻守は0であり、明らかにサポートによった効果を持つであろう小さなモンスターであった。
「ペンシルベルはデッキからの特殊召喚時、墓地の儀式モンスターを手札に戻すことができる。私は墓地から破滅の美神ルインを手札に戻す。そして同時に死者蘇生を発動! 墓地の終焉の覇王デミスを特殊召喚する!!」
「デミスっ!? くっ、破壊効果が使われたら……!!」
死者蘇生により地の底から戻ってきた覇王デミス。
その姿を目に留めた僕は効果を使われたらと、警戒を強めるが藤次郎さんはそんな僕を見て否定の言葉を告げた
「いや、デミスの効果の使用には2000ポイントのライフが必要でね。それは覇王となっても変わらない。先のターンに必要としなかったのはこのカードの儀式召喚の素材にルインを使っていたからさ」
「つまり……死者蘇生で蘇ってきたデミスはもう、使えないということですね」
「ああ。私のライフは1300。コストの支払いができないのでね」
効果は使えない。ということは戦闘による破壊が目的だろうか……。
「なので、このまま攻撃して君のHEROを破壊という道もあるが、今回はもう一つ別の選択をとらせてもらおう。私は手札から儀式魔法エンドレス・オブ・ザ・ワールドを発動! 終焉の覇王デミスを生贄に、破滅の美神ルインを儀式召喚する!!」
「新たな儀式魔法!?」
それは暖かな光であった。
儀式魔法の発動と共に上空に発生した橙色の巨大な魔法陣。
その魔法陣から降り注ぐ光の粒は暖かでデミスの時のような破滅の光とは真逆の印象を受ける。
その魔法陣から降りてきたのは1人の女性。
輝くような眩しい白銀の長髪を靡かせ、黄金の杖を携えた魔術師であった。
「ルイン……デミスと対をなす世界に破滅を齎す女神!」
《破滅の美神ルイン》 攻撃力2900 守備力3000
魔法陣から召喚されたのは新たな儀式モンスター。
覇王デミスと同じように、破滅の女神ルインがより強力な存在へと昇華されたモンスターであった。
「デミスの時は破壊効果の発展系だった。なら、ルインも──」
「そうだ。ルインは一度のバトルフェイズに2度の攻撃をすることができる。さらに、破壊したモンスターの攻撃力分のダメージも与えることができるんだよ」
「バーン効果までもっているのか!?」
なんて強力な効果なんだ。
デミスの時もそうであったが、ルインもそれ一体でゲームエンドまで持っていけるパワーを持っている。
その効果でカミカゼを破壊されればゲームエンドだ。
だけど……。
「効果の発動に必要なのはあくまで戦闘破壊。残念でしたね。カミカゼは戦闘では破壊されない。ルインでは倒せませんよ」
「ほう、そうなのかい? それは残念。だが、まあ、無意味でもない。バトルといこう。喰らうといい!! 美神ルインでカミカゼを攻撃──エンドレス・オブ・ルイン!!」
「──っ!!」
ルインが黄金の杖を振りかざす。
放射されたのは破滅の力が宿る炎のエネルギー。二重の螺旋を描きながら迫る炎は2度の攻撃となってカミカゼを撃ちつける。
しかし世界を破滅に導くほどの炎であってもそれは決してカミカゼを破壊することはない。
炎に抗うように彼の周囲に纏われていた風のバリアがその炎から彼の身を守っていた。
──が、カミカゼを超えて与えられる僕へのダメージは激しかった。デミスの時とは違い、元々のライフの少なさからか想像以上の衝撃となって攻撃は僕の総身を駆け抜け背中から地面へと叩きつけていた。
或いは、それこそが愛娘を想う父親の力だったのかもしれない。
《コナミ》 残 LP 400
「私はカードを1枚伏せてターンエンド。……何をしているコナミくん。早く立ちたまえ。そんな体たらくではとても………とても! 我が愛娘を君に渡すことなどできないぞ!!」
打ちつけた背中へのダメージもあり、明滅していた意識を藤次郎さんの叱咤が叩き起こしてくれた。
このデュエルは彼女との結婚を許してもらうために通過しなければならない儀式であり、僕という存在を彼女の父親に認めてもらい安心してもらうために必要なもの。
そのために、絶対に勝たなければないない僕と藤次郎さんとの勝負なのだ!
「ぐっ……うっ! まだ……まだ!! 僕のターン、ドロー!!」
乱れた息を整え、立ち上がる。そして力強くドローしたカードを含めた手札を確認し、僕はフィールドの状況を改めて確認していく。
ルインの攻撃をなんとか耐え凌いだことで1ターンの猶予を得ることができた。が、カミカゼで破壊することはできない。攻撃力が僅かだが足りていない。
なんとしても勝つことで僕の気持ちを受け入れてもらう必要があるのだ。
破滅の権化のような力を持つモンスターたちが相手でも諦めることはできない!
「僕はカードを1枚伏せる。そしてカミカゼを守備表示に! ターンを終える!」
「私のターンドロー! 戦闘耐性で時間稼ぎなど私には通じないぞ! 私は手札から冥王結界波を発動! 君の場のモンスター全ての効果を無効にする!!」
「なにぃっ!?」
冥王結界波!?
このタイミングで引いたのか!!
「これで終わるのかい? それでは──認めてはやれんなァ! 私はルインでカミカゼを攻撃──エンドレス・オブ・ルイン!!」
冥王結界波により風のバリアを失ったカミカゼにルインの炎が向かう。
迫り来る必殺の攻撃を前に、僕はニヤリと笑った。
「……流石は藤次郎さん。容赦がない。だけど、その可能性は読んでいた! リバースカード 風霊術ー「雅」を発動! カミカゼをリリースすることでルインをデッキに戻す!!」
「!? そうきたか!!」
今、この状況で使用した風霊術ー「雅」は一種の賭けに近いカードである。
ルインがどのような効果を持っているか。その詳細を知らない僕はこれが失敗してしまった際のリカバリーを有していなかったのだから。
それでも成功する公算は高いと睨んでいた。
デミスが有していたのは戦闘破壊耐性であったから。彼と対をなす存在であるルインは、或いはその耐性のあり方も反転しているのではなかろうかと。
つまり、カード効果による破壊の耐性を持っている可能性。
風霊術ー「雅」のデッキに戻す効果までは対応できないはずだと!
「破壊はできないけど、これなら──」
「リバースカードオープン! エスケープ・ゴート!! ルインをリリースすることで逃羊トークンを召喚する!!」
「自分から生贄にっ!?」
「デッキに戻されるのは、とても面倒なのだよ」
《逃羊トークン》 攻撃力0 守備力0
カミカゼが疾風となってルインを襲ったあと、残されていたのは青い毛皮が特徴的な可愛らしい羊であった。
デッキに戻され、何も残らないくらいならと発動されたエスケープ・ゴートにより召喚された他のモンスターを守る効果を持つ小さなトークンである。
「デミスに続き、ルインも墓地へ送ることになったか。手札も使い切った今、私にできることはない。だが! 君もまた、カミカゼを失った。結果は五分と見るべきかな」
「………果たしてそうでしょうか」
「なに?」
「藤次郎さん。僕はこの状況をこそ待っていたんですよ。お互いに、最高レベルのモンスターが墓地へいく。この状況をっ!! 発動せよ! これが僕の奥の手! ファイナル・ギアス!!」
「──そのカードはっ!!」
「ファイナル・ギアスはお互いの墓地のカードを全てを除外し、レベルの最も高い魔法使い族を特殊召喚するカード!!」
空に異次元へと繋がる大渦が開かれる。
そこに吸い込まれていくのは僕と藤次郎さんが使用してきた全てのモンスター。
「蘇れっ! これが僕の最愛のカード──水霊媒師エリア!!!」
「──」
そしてその異次元の穴から一体の女性が降りてきた。
魔法使いであり、コナミとも藤次郎とも縁深い女性は煌めくような青い光を纏いながらゆっくりと降りてきた。
魔法使い──エリアは優しい眼差しで後ろで佇むコナミを見つめ、やがて敵対者となっている藤次郎へと強い視線を向けた。
愛する人を自身の伴侶とすることを認めようとしないことに立腹しているかのように──。
《水霊媒師エリア》 攻撃力1850 守備力1500
「ゔっ、そんな目で見ないでほしいんだが。親心、父心としては……わかってほしい……」
「あの藤次郎さんが、なんて弱々しい言葉を……」
「コナミくん。父親というものは年頃の娘には勝てないものなのだよ……………息子だったなら、幾らでも厳しくなれたのだがね……」
呟くような小さな悲しみを口にして、藤次郎はため息をついた。
稀に存在するらしい、カードの精霊を見ることができる存在がいる。そのことは知っていた。
男として、一人の大人にならんとするものとして私の眼前で戦うコナミくんもその1人であることも知っている。エリアが愛理であることもだ。
自分には精霊を見る力はない。
ない……が、目の前に召喚された彼女がどのような視線を向けてきているかは、たとえ見えずとも理解することができた。
ひとえに、父親であるが故に……嬉しいような、悲しいような感情の波であった。
「ごほんっ! デュエルを再開しようではないか。私のターンは終えた。君のターンだ」
「ええ、そうですね。僕のターン、ドロー!」
エリアの登場に弛緩した空気を引き締めるように、僕はカードを引いた。それがどんなカードであるのか、カードを見ずとも指先にそのカードが触れた時点でなんとなく理解することができていた。
それは決して強力なカードではない。
どこにでもあり、これ以上に強力なカードなと幾らでもあると言えるカードである。
しかし──。
この場、この局面、このデュエルにおいてはこれ以上ないほどに相応しいカードであった。
「藤次郎さん、これが僕と彼女の気持ちです! 僕はエリアにHーヒートハートを発動! 攻撃力を500ポイント上昇させ、貫通効果を与える!!」
《水霊媒師エリア》 攻撃力2350 守備力1500
エリアの全身から赤い炎が立ち昇る。彼女の想いが炎と化したかのように。それは僕と彼女の親離れの決心を込めた力の表出であった。
「これで終わりです! バトル! 水霊媒師エリアで逃羊トークンを攻撃!!」
赤い炎と化した気持ちが背中を押すように、エリアが足を踏み出す。
すでに自身の未来を決めた彼女が踏み出した足は止まることなく、躊躇いもなく、彼女はその杖をトークンへと叩きつける。
それは親離れの一撃。
愛するものの元へと嫁ぐことを決めた彼女の覚悟を、『さようなら、ありがとう』という離別と感謝の気持ちが込められた本気の一打であった。
「──やれやれ。中々どうして……重たいなあ……」
それを──藤次郎はこれ以上ないほどの苦い顔で、しかしほのかな歓びをもって──受け止めた。
《藤次郎》 残 LP 0
ライフ4000だとデミスとルインって中々に鬼の効果だと思う……強いモンスターは大概そうか。