山頂で突如として現れた謎の男──ミスターTとのデュエル。
人間離れした闇をその内に抱えた男とのデュエルは僕の優勢で進んでいた。
「トリシューラを一蹴されるとは。コナミ、どうやら君には生半可なモンスターで相手をすることはできないようだな」
「……褒めてくれているようでなにより。このまま敗北を受け入れて洗いざらい教えて欲しいところなんですが?」
「それは無理な相談だ。そこな天使気取りの惑星と共に、君のことも倒させてもらおう。──私は手札から龍の鏡を発動! 手札及び墓地のドラゴン族を使い、モンスターを融合させる!!」
「そのカードはっ!?」
龍の鏡、金色の縁で囲われた丸鏡がミスターTの前に現れる。
鏡に映し出されているのは5体のドラゴン。これまで黒いライダースーツを纏ったミスターTが使用してきた多くのドラゴンたち。
そう、5体のドラゴン。
それほどの龍を素材に必要とする融合モンスターなどそうはいない。
トリシューラを倒された彼が更なる強大なモンスターを呼ぶとなれば連想できるものは一体だ。
数多あるモンスターの中でも、神の名を持つカードさえ超えた最強の攻撃力をもつドラゴン。
それは──。
「
「ご明察の通り! まあ、流石にこの融合素材では察しもつきやすいかな。私はF・G・Dを融合召喚する!!」
《F・G・D》 攻撃力5000 守備力5000
それはトリシューラの三つ首をさらに超えた5つの首をもつ巨大なドラゴンであった。
その5つの首はデュエルモンスターズにおける属性をしめしているのか、光属性以外の闇・地・水・炎・風の特徴を持っていた。
召喚条件こそ厳しいが、一度召喚できれは無類の攻撃力で容赦なく相手を滅ぼしてくる。
これまでのデュエリスト人生で幾度か戦ったこともある強力なモンスターであるドラゴンの登場。
僕は若干眉を顰めそのドラゴンを見つめた。
「F・G・Dか。ドラゴン族最強の攻撃力を持つドラゴン。だけど、VENUSの効果から免れることはできない!」
「フン! 矮小な変化だな。F・G・Dの圧倒的な攻撃力の前にはたかだか500ポイント程度、痛くも痒くもない」
《F・G・D》 攻撃力4500 守備力4500
「バトル! 我がF・G・Dよ! その小癪な天使を消し飛ばすのだ!!」
ミスターTの一喝によりF・G・Dの5つ首からの咆哮が山頂に響き渡る。
まるで実際に山々の果てにまで届くかのような咆哮に僕も、そしてフィールドの外でじっと見守る藤次郎さんまでが身構えざるを得なかった。
そしてF・G・Dの5つの口から5種類のエネルギーが放射されようとしているのを見ながら僕は──。
その選択を笑うように、したり顔で口元を吊り上げた。
「ミスターT、確かにF・G・Dは強い。その攻撃力の強大さは誰もが認めるでしょう。ですが、その攻撃はあまりにも単純過ぎる!!
リバースカードオープン──光子化を発動! F・G・Dの攻撃を無効にし、その攻撃力を僕のターンの終わりまでVENUSに与える!!」
「なにィっ!?」
予測していなかったのか、驚いた声を上げるミスターTを置いてF・G・Dから一斉に攻撃が発射される。
しかしその攻撃は決してVENUSに届くことはない。
どれほど強大無比の力も、VENUSを包み込むように現れた光のドームを超えて彼女に、ダメージを与えることはなかった。
そしてそのドームはVENUSを守るだけではない。
F・G・Dから放たれた攻撃を純粋な光のエネルギーへと変換し、VENUSへと与えていた。
《The splendid VENUS》 攻撃力7300 守備力2400
「これでVENUSの攻撃力はF・G・Dを大きく超えた。あなたのライフも少ない今、次のターンで僕の勝ちです!」
「………」
静まっていた。
F・G・Dを召喚し、意気揚々とVENUSの破壊を確信していたミスターTは今、不気味なほどに口を閉ざし、沈黙を保っている。
揚々と話していた先ほどまでとは雲泥の違いである。
まるで、何か大きな力の爆発を待っているかのようでさえ見えた。
「コナミ、認めよう。私は君の策にはまった。しかし勘違いしては困る。それは私の敗北という意味ではないと言うことを」
きつく口を閉ざしていたミスターTがようやく動き出した。
負け惜しみとしか聞こえないその言葉に焦りは見えない。
「僕の場にはVENUSがいる。次のターン、攻撃を防げなければあなたに次はないのですが?」
「手を抜いていたわけではない。しかし余力を残そうとはしていた。本命は遊城十代だと……。それは失敗であったと認めると言うことだよ。相手が誰であれ侮ってはいけないことを学んだ気分だよ、コナミ」
君を舐めていたわけではないのだがねと付け加えながらミスターTが右手で手札に触れる。
その手は黒く、闇そのものと表現できる靄が纏わりついていた。
「!? なにをするつもりだっ!!」
「なに、少しばかり我らが闇を使うだけだ。君自身に我らの力は効くまいからね。私は手札から闇の誘惑を発動! カードを2枚ドローする代わりに、手札の闇属性のカードを1枚除外する!!」
闇は濃く、深い色でデッキへと取り込まれていく。そのカードたちに触れたミスターTは闇色の輝く軌跡を残留させながらカードを引き抜いた。
「君に見せてあげよう! 神を超えた、万物を創世せしドラゴンをっ! 私は手札から禁じられた聖杯を発動! そこな天使の攻撃力を400ポイント上げる代わりに、効果を無効にする!」
「バトルの終わった今、聖杯を!? 何のために!」
「無論、創世龍を召喚するためだとも。このモンスターは捧げられるモンスターの攻撃力と守備力が合計で1万を超えなければ召喚できない。VENUSがいては、我がF・G・Dを贄とするにしても少しばかり足りなくてね。
私はステータスが戻ったF・G・Dをリリースすることで万物創世龍を召喚する!!!」
「──っ!?」
F・G・Dが消えていく。
そして五つ首の竜を犠牲に生まれたのは埒外の力を持った黄金の龍。
その咆哮一つで山々はおろか、世界そのものが揺れているかのような激しい地鳴りが鳴り響く。
その龍を目にした僕はかつて十代くんと共に戦った悪魔を想起した。
姿形はまるで違うが、その内に秘めた膨大な力はあの悪魔──三幻魔たちに比するものがある。
或いは、三幻魔たちが一つになったアーミタイルとさえ並ぶのではないかと思うほど。
強いて言えば、アーミタイルは邪悪そのものの如きオーラを感じさせたが、この黄金の龍は荘厳な神の如き神聖な力を纏っていた。
その名──万物を創世せし龍。
まさしく、その名前に相応しい威容をもつ金色の龍であった。
《万物創世龍》 攻撃力10000 守備力10000
「すごい……なんて綺麗なモンスターだろう……」
「ああ……──何と美しい。これほどの美麗を放つモンスターがこの世に存在するとは。ミスターT……これほどのモンスターを召喚するとは、本当に何者なんだ……」
その黄金の龍の登場に、フィールドの外から注意深くミスターTを観察していた藤次郎さんまでもが見惚れるような声をあげていた。
「フッフッフッ。万物創世龍のあまりの存在感に開いた方が塞がらないと言った様子。このターンで仕留めることができないのが残念で仕方がないよ。私のターンは終了。さあ、そこの天使で攻撃してみるがいいっ!!」
はっはっはっ! と、勝ち誇った笑い声でミスターTはそのターンを終えた。F・G・Dを出すだけでも大変だというのに、そこから並ぶものなしと言えるほどの力を持つ龍を召喚してくるとは。
正直、そのデュエリストとしての力に感心と尊敬の念を抱きそうになる。
このミスターTという男。素性はともかくその力は間違いなくトップクラスの実力を持っている!
そう確信できる1ターンであった。
「僕のターン、ドロー!」
万物創世龍、ミスターTが満を辞して召喚してきたとあって尋常ではないモンスターだ。
攻守1万。まさしく圧巻のステータス。それを突破する手段は……今の僕にはないか!
「くっ、今は機を待つしかない。僕はVENUSを守備表示に、そして手札から天輪の葬送士を守備表示で召喚。その効果でさらに墓地からエンジェルO1を特殊召喚──ターンエンドだ」
《天輪の葬送士》 攻撃力0 守備力0
《エンジェルO1》 攻撃力200 守備力300
「フフフ、守備モンスターを固めてきたか。流石の君も、万物創世龍の前には手も足も出ないと見える。私のターン、ドロー!」
ミスターTの言う通り。僕の前に並べられた天使たちは万物創世龍の相手をするにはあまりにもか弱い。
VENUSの効果が戻ったことでステータスが下がっているとしても、あまりにも微々たる差!
1万から数百減ったから何だと言うのか。
その程度の減少では、ないも同然!!
それでも時間を稼ぐことぐらいはできる。今は……あのカードが来るまではっ!
「バトルだっ! 万物創世龍よ、金星の天使を破壊しろっ! ヘルズ・イン・テラー!!」
「──!!」
刹那──闇色の閃光が視界を埋め尽くした。
何も見えない。あまりにも凄まじい闇に目を開けていながら、視界の先にあるものを認識することができない!
そして事態を把握する直前に訪れたのは身を貫くような衝撃音。
「ぐっ……今のは──」
世界に光が戻っていく。
底の見えない闇を覗いたかのような、いや、世界そのものを闇に塗り替えられたようであった。
そのような光景が消えた先、僕を守ってくれていたVENUSの姿はなかった。
(VENUSがいない……万物創世龍の攻撃で破壊されたのか……。何て攻撃。まるで一瞬にして体が蒸発でもしたかと思うほどの──凄まじい……盾になってくれたVENUSがいなければとても耐えられない──!!)
「カードを一枚伏せる。これで私のターンは終わりだ。さあ、キミのターンを始めたまえ」
「ふー。まだ大丈夫。なら、僕のターン、ドロー!!」
世界そのものへの攻撃でも行われたかのような万物創世龍の一撃に面食らっていたが、深く呼吸をすることで気持ちを整えていく。
初冬の山頂に吹く寒々しさを覚える冷たい空気が肺を満たし、僕の中に芽生えた恐怖心を取り除いていった。
「さて、僕が引いたカードは…このカードは……!」
はっ、と手札へと落としていた視線を万物創世龍へと向ける。
万物創世龍、そのステータスは攻守ともに1万。僕の場に並ぶ小さな天使たちでは逆立ちしたって勝ち目のないモンスター。
だが、そのステータスは一定のものではない。
そう、あくまで効果で定められたものならば──!
「僕は手札から青い涙の天使を発動! このカードは対象のモンスターを選び、そのモンスターの対戦相手であるプレイヤーは自身の手札の枚数だけ200ポイントのダメージを受ける!」
「ふむ、バーン効果か。しかし残念だが、いくら私のライフが残り少ないとはいえ私の手札は0。ダメージはない」
「そんなことはわかっている。僕が対象として選ぶのは万物創世龍、お前だ!」
「私の? 可笑しなことを、そんなことをすればダメージを受けるのは君だぞ」
「そうだ。だけどダメージ受ける代償として、対象とされたモンスターの効果は無効となる。つまり、万物創世龍の攻撃力は0になる!!」
「!?」
青い涙の天使。
少女が表紙に描かれた童話のような一冊の書物。それが万物創世龍の頭上に現れた。
そして書物の中身が開かれ、物語が始まろうとしたその瞬間──。
「リバースカードオープン、メタバース!! 私はデッキからフィールド魔法──神縛りの塚を発動ッ!!」
「!」
青い涙の天使の書物が開かれようとしたその瞬間、フィールドの周囲を取り囲むように幾つもの鎖が巻かれた石柱が乱立していく。
それは神を守り、助ける結界。
神の領域を犯そうとする咎人を阻むフィールド魔法だった。
「神縛りの塚はレベル10以上のモンスターを破壊することも、対象とすることも許さない。その書物は無効だ」
万物創世龍の頭上で開かれようとしていた青い涙の天使が僕のモンスターへと移る。
一度発動した効果故、対象が可能なモンスターへと変わったのだ。
とはいえ、ミスターTの手札は0。僕のモンスターの効果が無効になったところで何が変わるわけでもなく。
実質何も起こらないという結果で終わった。
「僕は……カードを2枚伏せてターエンドだ」
「フッ、私のターンドロー……ハハハ! やはり運は私の味方のようだ。いやそれは当然か。我々は世界そのものなのだから!」
「世界そのもの? それはどういう──」
「その真実を君が理解することはない。私は手札から永続魔法 遮攻カーテンを発動! 私の場のカードが破壊される場合、このカードを代わりに破壊することができる。これで神縛りの塚が破壊されることはない」
僕とミスターTを線引きするように黒く、薄いレースのついたカーテンが天から垂れてきた。
カーテンはカードだけではなく、ミスターTの語る言葉の謎さえも闇の中に隠すかのように覆い隠していく。
「バトル。万物創世龍で天輪の葬送士を攻撃──ヘルズ・イン・テラー!!」
「うぁあああっ!!」
再び世界が暗転する。
直後に訪れた衝撃と破壊音。そして降り落ちてきたであろう激しい稲妻に強いダメージを負った。
《コナミ》 残 LP 2500
「神縛りの塚が発動している間、万物創世龍でモンスターを破壊した時1000ポイントのダメージを与える。君がいくらモンスターで身を守ろうと無駄という話だ」
「──っ。まだ、僕のライフは残っている!」
「だから可能性は残っていると? それは違う。我々が勝利し、君たちは敗北する。これは運命なのだよ。我々は望まれてこの世に生まれた。君たちのような異端者に味方する運命などありはしない!」
地面についた膝を起こしながら、ミスターTを睨む。
僕を、そして十代くんを異端者と嗤い。己を世界と同一の存在かのように語る彼の言葉を認めるわけにはいかなかった。
「運命……運命か。確かに、運命というのは残酷で厳しいものだ。僕たちはそれをよく知っている」
「そうなのだろう。君も、そしてあの遊城十代も、数奇な運命に選ばれている。だからこその異端者。
まるで僕たちの存在こそが過ちであるかのようにミスターTは指差し笑う。
どこまでも傲岸不遜に自分達こそが正しいと語るつもりなのだろう。
「ミスターT、運命を語るあなたに僕の方からも真実を教えよう」
「ほう。なにかね?」
「運命を切り開くのは、いつだって明日を願う意思だってことだっ!
リバースカード──破滅へのクイック・ドローを発動!! お互いに、手札が0の状態でドローフェィズを迎えたとき、ドローするカードを2枚にする!」
「ドロー補助か。しかしその代償は大きい。君は毎ターン700、破壊されれば3000ライフをも失う。まさに一か八か。破滅へ向かう愚者のカード!」
僕の残りライフは2500。このカードが破壊されればひとたまりもない。
さらに僕の手札もないが、ミスターTもまたない。次のターン、彼もまた2枚のカードをドローすることになる。
「僕が愚者か勇者かは、このドローで決まる! 僕のターン………ドローッッッ!!!」
刹那、輝く2枚のカード。
強く引き抜いた指先に伝わるのは僕の意思に応えようとしてくれたカードたちの思いだった。
「僕は手札からフィールド魔法 天空の聖域をっ! さらにライフを1000払うことで天空の歌声を発動! 墓地のテイ・キューピットと除外されている天空の使者 ゼラディアスを手札に加える!」
神の領域を示すような神縛りの塚を補強するかのように僕の背後に巨大な神殿が誕生した。
一面が天上の雲の世界に移動したかのような幻想的な世界。そこに流れているのは美しい天使たちの歌声だった。
「いくらモンスターを増やしたところで無駄な足掻き! 我が万物創世龍の前には塵も同然!!」
「確かに、万物創世龍は強い。これほどの攻撃力を持つモンスターを僕は他に知らない。だが、決して無敵ではない!」
「ぬぅっ、カード破壊でも狙うつもりか。無駄なことだ。神縛りの塚が、遮攻カーテンが、我がカードを守る!」
僕の様子に何かを感じ取ったミスターTが、強く叫ぶ。
彼の場はひどく強固で、そう簡単にその牙城を崩すことはできない。
だがそれでも……完全な守りなどありはしない!
「それはどうかな! 僕は手札のテイ・キューピットを墓地へ送ることで裁きの光を発動! 万物創世龍を──墓地へ送ってもらう!!」
「ナニィッ!? 墓地へ送るだとっ!?」
「そうだ。神縛りの塚も遮攻カーテンも破壊効果から守ることはできても墓地へ送る効果からは守れない。そして裁きの光は対象にもとらないッ!!」
「──ッ!」
それは天空の聖域が存在する場合のみ発動できるトラップカード。天上に住む天使たちが神の意思を代行して神罰を下すカード。
天空の聖域が存在しなければ効果が作動しないという欠点はあれど、その効果は強力。
幾重にも張られた守りすら、その神罰から逃れることはできない!
「神罰と知り消え去れっ! 闇から生まれし創世の龍よ!!」
足元に揺蕩っている白い雲とは真逆の天空を覆っている曇天の雲が裂ける。
雲の切れ間から降り落とされたのは極光煌めく光の柱。
柱は巨大な万物創世龍の全身さえ超えた膨大な光で覆い尽くし、その巨体を光の中へ浄化させていく。
まるで光の中へ溶けていくように瞬く間にその姿を消していく創世龍を僕たちは静かに見つめた。
「万物創世龍を失った今、これで終わりだミスターT。僕は手札の天空の使者 ゼラディアスを召喚。バトルだ!!」
《天空の使者 ゼラディアス》 攻撃力2100 守備力600
このデュエルを締めくくるため、鋭い槍を構えた緑の翼持つ天使が召喚された。
天使は敗北を悟り、憮然と口を結ぶミスターTへと翼を羽ばたかせ向かう。
「ゼラディアスでダイレクトアタック!!!」
「ぬぅおおぉぉぉッッッ!?」
そして槍は、僕の言葉と同時に彼を貫いていった──。
《ミスターT》 残 LP 0
ミスターTの切り札っぽいF・G・Dをただ使うのもどうなんだろうなあとなったのでその進化版として万物創世龍を使用。
見た目もカッコいいし、豪華なのがいいよね!