初心者粉眠くんのデュエル日誌   作:XX

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 今年投稿できるのは恐らくこの話が最後になります。年末へ向かって仕事とFGOの追い込みがヤバい。執筆してる余裕があまりないので。


双色の恋慕

 

 陽光煌めくある昼下がりの午後。

 早乙女レイはブルー寮に与えられた自室。その机の上に置かれた無数の写真を前に大いに頭を悩ませていた。

 

(十代様の卒業はもうすぐ。もうあまりボクと一緒にいられる時間はない。できれば卒業までに勝負を決めたいんだけどなあ)

 

 レイが頭を悩ませているものとは十代との進展のなさであった。

 彼女は小学生の頃に十代に恋してから一心不乱なまでの弛まぬ努力を続けてきた。

 

 歳の離れている2人、学校が離れていては恋人になることはおろか、会うことすら難しい。そのため、彼女が十代に近づくためには初めの時のように親に黙って島に密航してくるか、中学を飛ばして進学するかしかなかった。

 

 そしてそれは成功した。元からの優秀さもあったが、幸運なことにアカデミアで行われたジェネックス大会で優秀な成績を収めたことが決定打となり、3つの学年を飛び級という形で進級することに成功したのだ。

 

 それから十代の親友であるコナミ。彼の恋人であり、今では婚約者ともなった愛理に出会い、恋路の手伝いをしてもらうことで十代との距離をグッと近づけることができていた。

 

 しかし、そこからの進展は難しく、友人、あるいは後輩の枠組みから出ることができないでいる。常日頃からお弁当を作ってきたり、甲斐甲斐しくレッド寮に通うことでデュエルを通してその想いを伝えているつもりなのだが、その成果は……芳しくはない。

 

 つまりレイは今、行き詰まりと焦りを感じていたのだ。卒業までに時間がないというのも、彼女の焦りに一役買っていた。

 

 うんうんと頭を悩ませるが都合のいい上手い手は思いつかない。レイは一息つく意味も込めて、机の上に並べた写真を手に取った。

 

(卒業生のみんなのために剣山と撮った写真。みんないい顔してるなあ)

 

 卒業アルバムを作るために撮った無数の写真。手に取る写真に映る誰もが、素晴らしい笑顔を見せている。それを見るレイには暖かな笑みが生まれている。

 

 十代を追ってやってきた彼女であったが、それとは別にこの写真を見ていると、無理してでもこの学園にやってきてよかったと思えた。

 

 それほどに、写真に映る誰もが素晴らしい笑顔を見せていた。

 

「これ……」

 

 ふと何気なく手にした一枚の写真。それは少し前に行われた卒業生たる3年生と在校生である2年生がそれぞれのパートナーとタッグを組んでのペアデュエル。つまるところタッグデュエルのトーナメントをした時の写真であった。

 

 その写真にはレイの恋焦がれる十代と、彼とペアを組んだ学園のアイドル的立ち位置である天上院明日香が写っている。

 写真を手にしたレイの顔には渋い表情。剣山とペアを組んだ彼女は決勝まで勝ち進んだが、十代と明日香のペアに惜しくも敗北したのだった。

 

 敗北、それを思い出して彼女の表情が歪んだわけではない。レイは十代とペアを組んだ明日香を見て苦々しい顔になったのだ。

 

「明日香先輩、十代様のことどう思ってるんだろうなあ」

 

 レイは明日香のことを嫌ってはいない。そのデュエルの腕前や学業における優秀さなどから下級生として上級生に向ける一般的な敬意は抱いている。

 

 が、それ以上に敵視もしていた。主に、十代への恋敵として……。

 

「ボクの見る限り、明日香さんもきっと十代様のことを想っているはず。だから〜。う〜ん」

 

 腕を噛み悩み始めたレイの脳裏に映るのは夕日に反射する黄金色の海面を思わせる長髪をした明日香先輩。彼女はボクが十代様にお弁当を作ったりとアピールするのを面白くない顔で見ていた。

 

 その時のことを思い出し、レイは一つ、決心をした。

 

「よしっ、決めた! こうして考えてもわかんないし、とりあえず聞いてみるかな!」

 

 一度決めたら止まらない。猪突猛進する猪が如き行動力でレイは部屋を飛び出していくのだった──。

 

 

 

 

 レイが自室を飛び出し明日香を探し始めてから暫く。レイは明日香をアカデミアにある図書館で見つけた。静寂が満ちる図書館で、彼女は山と積まれた本を読んでいる。

 

 真剣な眼差しで本を読む明日香に声をかけて良いかと一瞬迷ったレイだったが、意を決して近づく。その影に気がついた様子で明日香は本から顔を上げた。

 

「あら、レイちゃんじゃない。どうしたのこんなところで……って、図書館だから本を読みにきたのよね」

「こんにちは明日香先輩。ちょっと、明日香先輩に聞きたいことがありまして」

「私に聞きたいこと?」

 

 なんだろうと首を傾げた明日香に、レイはふと彼女が読んでいた本の山が気になり、目を向けた。

 

「それ、教員職の本ですか?」

「ええ。教師になろうと思ってるの。そのためにはやらないといけないことが多くてね」

「へー。明日香さんが教師に……」

 

 大人になった明日香先輩が教壇に立つ姿を思い浮かべる。

 

 美人で頭も良く、そしてデュエルの腕も立つ先生。そして男子相手でもまったく物怖じせずビシバシと教えていく。男女問わず、ものすごく人気のある先生になりそうだった。

 

「なんていうか。人気ですけど、すごく厳しそうな先生になりそうですね」

「あなたどんなイメージしてるのよ。そんな厳しい先生になるつもりはないわよ」

「アハハハハ。まあ冗談は置いといて、明日香先輩、今ちょっと時間もらってもいいですか?」

「今? ええ、構わないわよ。ここでは話せない感じ?」

 

 半眼となり軽く睨んでくる明日香に愛想笑いで返してから一転。真面目な顔になったレイは、周囲を見る。

 図書館のため静かであるが、チラホラと明日香と同じように本を読んでいたり勉強している生徒の姿が見える。

 

 レイは少し考えて、彼女の疑問に肯定で返すことにした。

 

「ここじゃダメってことはないんですけど、人のいないところの方が話しやすいかなあって」

「そっ。なら、ちょっと待っててね。本を返してくるから」

「あっ! ボクも手伝います!」

「そう? ありがとう」

「いえいえ。ボクが連れ出すわけですから、これぐらいは」

 

 山と積まれた本を書棚に戻す作業を手伝い、レイは明日香を連れて、図書館を出るのだった。

 

 

 

 

「──それで、レイちゃん、人前では話せない用ってなにかしら?」

 

 図書館から出た2人が向かったのは学園から少し離れた森林の中。人が飲んでも問題ないほどの清流が流れる滝の前であった。

 人が腰掛けるのにちょうど良いサイズの岩がそこかしこにあり、明日香とレイはその岩にそれぞれ座っている。

 

 周りに人はおらず空気も澄んでいるために、秘密の話し合いをするにはベストな環境とも言えた。

 

 そしてレイが明日香に十代との仲について聞こうと口を開こうとした瞬間、ふと彼女の中に躊躇いが生じた。

 あまり深く考えずに聞こうと連れ出したが、果たして告白するのかというのは聞いてよいことなのかと。

 

 レイの中では明日香は十中八九、十代に恋してると見做しているが、それを聞くことで彼女を変に焚き付けたりしないかと不安に思ったのだ。

 同じ男性を好きになっている身、明日香が告白することで失恋することを彼女は恐れた。

 

 そのため、レイが話し出すの待っている明日香の前で、レイの口からは「あー」だの「うー」だのと言葉にならない声が出て、迷うように視線を右往左往させるに至っていた。

 

「レイちゃんは、卒業後について考えたりしてる?」

「え? 僕の卒業後ですか?」

「そう。あなたの卒業後。まだ先の話だけど、時間が過ぎるのはあっという間だし、そこのところ、あなたは考えてるのかなあって」

 

 レイが唸っている様子を見てか、明日香の方からレイに話しかけた。その目はとても優しく、連れ出しながら話を始めないレイに対して怒っている様子はない。

 

「僕の卒業後……はいっ! 十代様のお嫁さんです!!」

 

 その唐突な質問に、レイは瞬時に答えた。一ミリの迷いもない、ハッキリとした彼女の希望する夢の形だった。

 

「うふふ。レイちゃんらしいわね」

 

 そのまったく迷いを見せない姿に明日香は小さく笑う。レイの屈託のない笑顔が眩しく見えた。それを見たレイはキョトンと目を丸くし、常々感じていた疑問を彼女にぶつけた。

 

「先輩は十代様のことが好きなんだと想ってたんですけど、違うんですか?」

「あら、どうしてそう思うの?」

「だって、普通好きな人のお嫁さんになりたいなんて言われたらいい気はしないと思うんですけど、そうは見えなくて」

 

 年下だから恋敵に思われていないのかとも一瞬思ったが、それはないはずである。少なくとも、異世界でお弁当を十代様に渡した時は明日香先輩はこちらを睨んでいたのだから。

 

 しかし今の明日香先輩からはそう言った気分を害したような気持ちを感じない。彼女は僕の質問にほろ苦い顔を見せて、遠くを見つめている。

 

「……あなたは本当に素直ね。恋に一途で、自分の気持ちを偽らない。あなたのそういうところ、素敵だと思うわ」

「明日香先輩は違うんですか?」

「そうね。私はそこまで恋に傾倒することはできないわ。私は恋よりも、夢をとったから」

「夢──教師になるって夢ですか?」

 

 先ほどの図書館での会話を思い出す。

 明日香先輩が目指す教師という道。それが彼女の見つけた夢なのかと──。

 

「ええ。この学園で生活して、いろんな人と出会って。色んなことを経験して、それで思ったの。教師になって、道に迷ったりする子どもたちを導いてあげたいって。その子たちが一流のデュエリストに……ううん。デュエリスト以外でも、夢や、幸せに直向きに頑張る彼らの力になってあげたいの。可笑しいかしら」

 

 ほんの僅かに否定されないかと不安な顔を覗かせながらも、真っ直ぐと夢を語る彼女の姿はその美貌とは関係なしに美しかった。

 

「そんなことありませんっ! 素敵な夢だと思います!!」

「ありがとう、レイちゃん。そう言ってもらえると勇気が湧くわ」

 

 だから、そんな彼女の顔を覗かせた翳りが許せず、レイは即座に否定する。それが功を奏したのか、レイの言葉を受け止めた明日香が見せたほんの少しの不安は次の瞬間には自信へと変わっていた。

 

「レイちゃん、あなたの聞きたかったことって私が十代に恋してるかどうか?」

「うーん、っていうより、告白しないのかってことです。明日香先輩が十代様に恋してるのはわかってるので、そこが気になって」

「わかってるって……あなたねえ。でも、そうね。私はあいつが好きよ。ええ、あなたのいうとおりにね」

 

 それはレイが思っていた以上に容易く、明日香の口から聞けた彼女の本音であった。

 レイは、明日香の性格から言って十代に好意を向けているのが事実であるとしても、それをこれほど素直に認めるとは思っていなかった。

 

「告白しないんですか?」

 

 だから、これなら聞けるかもとレイは驚きながらもさらに深く尋ねた。

 

「しようと思ったわ。でもできなかった。あいつを見てると、夢を頑張ろうって思えて、そんな気持ちどっかに行っちゃった」

 

 その明日香の返答はレイには理解できない理由だった。

 恋をして、その想いを伝えること。それは素敵なことだ。絶対に揺るがない、恋に生きる彼女にとっての信念のようなものである。

 

 過去も現在も、そして未来でも、レイの中で愛こそが人の持つ想いの中で至上であるという考えは変わることはないだろう。

 

 拒絶されるのが恐ろしい。

 好意を伝え、しかし相手には届かず失恋する。だから胸にそっとしまい込んで終える。

 

 そういった理由ならレイにも理解できた。恋愛本なども多く嗜む彼女は、そうする乙女心というものを学んでいるから。

 彼女自身は仕舞い込むぐらいなら全身全霊で伝える道を選ぶため、そんな道を選ぶことはないが……。

 

 それなら理解できたのだ。

 

 しかし、明日香の恋も夢も手にするのではなく、夢を追うために恋心を置いていくという気持ちは彼女の理解の外にあった。

 

 だからレイはそれが当然の反応として明日香に聞いた。

 

 なぜ、両方を手にしようとしないのかと──。

 

「夢も恋も叶える。それができたら確かに素敵なんでしょうけど、私はそこまで器用じゃないから。どちらかしか選べないわ」

「そんなこと──っ!」

「レイちゃん、だから私のことは気にしなくていいわ。あなたの恋路、私は応援してる。1人の女としてね。本当よ?」

「明日香先輩……でも、私、あまりうまく行っている気がしなくて」

「あら、そんなことはないわよ。ほら、あそこを見て」

 

 岩に腰掛けていた明日香が森の奥の方を指差す。そこにはキョロキョロと誰かを探している様子の十代の姿があった。

 

「おーい、レーイ! どこだー!!」

「十代様!?」

「おっ! こんなところにいたのかレイ、探したぜ」

 

 十代は驚いた声を上げたレイを見つけて駆け寄ってくる。どうやら自分を探していたようだった。

 

「十代様、こんなところまでどうしたんですか?」

「愛理のやつがお前を探しててよ。携帯にも出ないってことで、心配してたぜ」

「あっ!? 今日、愛理先輩と一緒に十代様たちのご飯作る予定だったんだった!?」

 

 それは恋の悩みに気を取られてすっかり忘れてしまっていた約束だった。

 

 慌てて携帯を見ると、愛理からの着信の履歴が何件もある。今までまったく気づかないなんてと、レイは頭に手を当てた。

 

「おいおい、頼むぜレイ。お前の料理楽しみにしてるんだからよ」

「う〜ごめんなさい十代様。すぐに戻って準備しますね」

 

 しょんぼりと肩を落としたレイが愛理へと連絡をとりながら学園へと足を向ける。そして駆け出す直前に相談のお礼を言うべく明日香の方へと振り返った。

 

 明日香は、笑っていた。祝福するように、何かを期待するように。しかし、その笑みを目にしたレイには不思議と淋しげな笑みに見えた。

 

「うふふ。レイちゃん、あなたは今のままでいいのよ」

「そうですか?」

「ええ。今のまま、それでね」

 

 なぜそんな笑みを浮かべているのか。そう聞きたい衝動を急がないといけないために我慢して、イマイチ納得できない表情でレイは頷く。

 

 そんな彼女の手をとって十代は学園への道を急かした。

 

「レイ、早く行こうぜ。愛理をあんまり待たせたら怒っちまう」

「あっ、はいっ!! 明日香さん、ありがとうございました!!」

「じゃあな明日香。話してるところ、悪かったな!」

 

 手を取り合い、駆け出した2人を明日香は見守る。

 

「──十代!!」

「ん?」

 

 自分よりも年下であり、同じ人に恋をした少女の手を引いて去っていく十代。そんな彼の背に、明日香は溢れそうになった気持ちをグッと抑えこみ声を張り上げた。

 

「その子、泣かせちゃダメよ!!」

「? おうっ!!」

 

 その予想通りのすっとぼけた顔で応えた彼に呆れた視線を送る。遠く離れていくその背はすでに手の届かない場所まで離れていた。

 

「まったく。あいつ、私の言ったことの意味わかってるのかしらね」

 

 学園へと消えていった2人の背を最後まで見送り、明日香はポツリと心中で呟く。あの隣が自分であった未来もあったのだろうかと。

 

「バカね。……さっ、私も夢のために頑張りましょうか。まだまだ、勉強しないといけないことは多いんだから」

 

 それを憧れる夢の輝きでかき消し、歩き出す。

 夕焼けに染まった儚げな空は、一つの青春の終わりを描き出すように沈んでいった──。

 

 

 





この話もデュエルに繋がるつもりで書いてた。そうはならなかったけど、でも普通に楽しく書けたからOKかな!

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