初心者粉眠くんのデュエル日誌   作:XX

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この話の前に何話か挟むべきと思いながら、ちょっと無理っぽいと思ったので、すみませんが色々、諸々含めて全部カットして一気に時間を進めます。本当に申し訳ない。そして1話に説明を詰め込んだ結果とても長くなった。


裏側の世界

 

 卒業まで、一月を切っていた。

 アカデミアは不自然なまでに閑散としている。

 

 本来ならば、卒業生は残り少ない期間を思い出で満たすべく友人や後輩と過ごしているはずだが、その姿はとんとみかけられない。

 

 学園に残る在校生もまた、とんと見ない。卒業生の倍は存在し、授業や卒業生に向けてアレコレと用意に勤しんでいるはずの彼らの姿もまた、学園からは消えていた。

 

 いるべき先生方も──。

 

「どう思う、十代くん」

「どうって、明らかに異常事態だろ。こんなに生徒がいないなんて可笑しいぜ」

「だよね」

 

 携帯を取り出す。

 そこにあるはずの多くの連絡先のほとんどが消えていた。友人も、知り合いも……家族も。

 

「俺の方も消えている。そいつがいた痕跡そのものが世界から消え去っているようだな」

「その上、僕たち以外の人は、その記憶まで失っているみたいだ。元から存在しなかったみたいに」

 

 十代くんの携帯も僕と同じように多くの人の連絡先が消えているようであった。それを確認する彼の表情は固い。そして話題を変えるように彼は目の前で眠る人物に目を向けた。

 

「コナミ、愛理は大丈夫なのか?」

「それは大丈夫。ミスターTにダークネスの世界に取り込まれる寸前、心を僕の方に移したみたいだから」

 

 オベリスクブルーの一室。愛理ちゃんの部屋のベッドで、彼女は深い眠りについていた。微動だにせず、呼吸すらしていない彼女は一見、死んでいるようにも見える。

 

 実際には僕の持つThe SUNの力により一時的に彼女の肉体の時を止めているためであり死んでいるわけではないのだが、彼女を見た十代くんにはそう見えていても不思議ではなかった。

 

「ダークネスめ。次々とみんなを引き摺り込んで、何が目的なんだ」

「人を消して、闇に引き摺り込んで……すべてのものは闇に還る……か」

「? なんだそれは」

「大賢者が言っていた言葉なんだ。闇が近づいてるから干渉されない世界に逃げろって」

「闇……ダークネスか」

「うん。吹雪さんの件でもそうだけど、今回の事件はダークネス。つまり闇の力が深く関わっているのは間違いがない」

 

 ダークネス。3幻魔の事件たる2年前に吹雪さんを操っていた邪悪な力。その力が今、世界に猛威を奮い、襲っていた。

 ダークネスの力を扱うミスターT。空間を超えて現れることができるらしい彼は世界中に現れ、次々と人々を消していった。

 

 そのためミスターTが現れてから折、僕や十代くんは時間を見ては調べていたが、中々その正体。また目的というものをつかめずにいた。そして今では、アカデミアの生徒の大半が姿を消すまでに至っている。

 

 目の前で眠りについている愛理ちゃんもその1人。十代くんは身近な友人たちが消えていきながらも止められない。そんな現状に苛立ちを覚えるように拳を握り締めている。

 

 それも当然、その消えた中にはいつも元気に彼を呼び慕うレイちゃんも含まれていたのだから、その憤りも無理ないものだった。

 

「だが、肝心のその目的がわからないでいるぞ」

「うん。だから、僕は敢えてその闇の世界へと乗り込もうと思っている」

「なにっ!? やめろコナミっ! 危険すぎる!!」

 

 それは予想していた通りの反応だった。

 驚き止めてくる彼に、僕はあらかじめ考えていた説得を行う。

 

「わかってる。だけど、このまま人が消えていくのを見過ごすくらいなら、真実を解明するために彼らの懐に飛び込むのが最善だと僕は思う。いざという時は君もいるしね」

「コナミ……」

「虎穴に入らずんば虎子を得ず。そうでしょ?」

 

 彼だってわかっているはずだった。ダークネスという未知の存在に対し、僕たちはあまりにも後手に回り過ぎていることに。

 だから、この提案を眉間に皺を寄せ大いに悩む十代くんが受け入れることを、僕はわかっていた。

 

「わかった。なら、俺も一緒に行く。何があっても、2人なら──」

「それはダメだ。十代くん、君はこの世界で待っていてほしい」

「なぜだ! お前1人でいくのは、あまりにも危険だぞ!」

「だからこそじゃないか」

「……どういうことだ?」

「僕が失敗した時のためさ。僕か君。どちらかが無事なら闇に呑まれても必ず帰って来れる。今の僕たちはもう、運命で繋がった兄弟のようなものだからね」

 

 あくまで1人で行くことにこだわる僕に怒りと疑問をぶつける彼だが、保険としてどちらかは残ったほうがいいと言う説明に苦悩しながらも納得の顔を見せた。とは言え、やはり不満がないわけではないようで、顔は顰められている。

 

「わかった。だが、無理だけはするなよ。敵地に乗り込む時点で無茶なんだからな」

「うん、君も気をつけて。──っと、これを君に預かっていてほしい」

「これは、お前がいつもぶら下げてるクリスタルか?」

 

 十代くんに手渡した青いクリスタル。それは窓から差し込む陽光に反射して光っている。その内部には、以前存在していた6つの属性の光はない。今は、ただ透き通った青い輝きのみを見せている。

 

「そのクリスタルは力を蓄積する機能があるんだ。それにプラネットの力を込めてあるから、僕が危険になった時、あるいは君が危険な時にそれを媒介にすることで引き合うことができるはずだ。たとえ、ダークネスの世界でも」

 

 大賢者が用意し、愛理ちゃんを通して幼い頃にプレゼントされたそれにはいくつかの力が込められていた。力の蓄積もその一つ。大賢者が亡くなり、霊使いの力がなくなった今、虹色の輝きこそ失ったが、その機能は未だ健在であった。

 

 そのためその力を使えば闇の世界であっても、次元を超えて呼び合うことができるはずだと、僕は考えていた。それを僅かな逡巡の後に大事そうに受け取った十代くんは首に下げ、僕をまっすぐに見つめた。

 

「わかった。大切に預からせてもらうぜ。お前も危険だと思ったら俺を呼べよ。こいつで呼ぶからよ」

「大丈夫。僕には精霊のみんながついてる。愛理ちゃんもいる。そう簡単に取り込まれたりはしないさ」

 

 胸に手を当てればわかる。

 僕を守ろうとする力があることを。それがある限り、僕に不安は訪れない。闇になど負けるつもりはなかった。

 

「ミスターT!! いるんだろう! 出てこいっ!!」

『…………ほう。そちらから私を呼ぶとは。一体どう言う心境の変化かな?』

「白々しいことを言う。僕たちのことをさっきから見ていただろう。なら、一々説明はいらないはずだ。僕を闇の世界に連れて行け」

 

 部屋の中で張り上げた声が宙に響く。それに反響するように届いてきたのはミスターTの声だった。彼はまるで空間を引き裂くように現れた。その顔には変わらない感情の見えない笑みが浮かべられている。それを見る僕たちの視線は冷たい。

 

 彼が僕の声に応え、突然現れたことに驚きはない。神出鬼没であり、どこにでも現れる彼が僕たちの様子を見ていたのわかっていたことだ。

 

 彼は僕と十代くんをダークネスの力に強い抵抗力を持つ存在として警戒していた。そのため、監視に近い行いをしていたことをその気配から察知したのだ。

 

「フフフ。よかろう。そちらからきてもらえると言うのならこちらも手間が省けるというもの。我々に否はない。招待しようではないか。君を我々の世界に!」

 

 ミスターTから闇が溢れ出す。噴き出した闇は瞬く間に部屋を暗く染めていき、膨大な闇は十代くんを避けて僕だけを包み込んだ。

 

 どうやら、僕の望み通り僕だけを連れて行ってくれるようだ。

 

 黒い闇に視界は覆われ、徐々に光を失っていく中、僕はその闇に身を委ねるようにダークネスの世界へと堕ちていくのだった──。

 

 

 *

 

 

「──?」

 

 ピクリと指が動き、湿った冷たい感触に目を覚ます。横たわっていたらしい僕はざらつく地面に手を置いて、立ち上がった。

 

「ここは、アカデミア?」

 

 ミスターTによりダークネスの世界に来たはずの僕は、訝しんだ視線でそれを見上げた。その視線が映しているのはアカデミアの建物。闇に呑まれたはずの僕は何故か、愛理ちゃんの部屋からアカデミアの玄関前に寝ていたようだった。

 

「だけど……なにかが……」

 

 目の前にある3年間を過ごしたアカデミア。しかしそこには言い知れぬ違和感があった。しげしげと眺めた僕は違和感を確かめるために周囲に目を回す。

 

 一つ一つに、建物、雑草、立ち並ぶ木々へと順番に。そして、一つの答えに行き当たった。

 

「これは……色がない──?」

 

 目覚めた先に映るもの、その全てにあるべき色が存在しなかった。

 アカデミアの建物を彩る黄色や赤色といった明るい暖色も、草花や青空を鮮やかに魅せる寒色も、そこには存在しなかった。

 

 その代わりに存在したのは、灰色であった。まるで世界から色という色が剥ぎ取られてしまったかのように、その世界のほとんどが灰色で塗り染められていた。

 

 それ以外だと、立体を描くような黒い線とそれを引き立たせるわずかな白だけである。

 

「……誰も……いないのか。ミスターT! いないのか!!」

 

 僕はそんな思わぬ光景に困惑し、ミスターTを呼んだ。ダークネスの世界に最も詳しいであろう彼ならば、この世界についても詳しいに違いないからだった。

 

 しかし、期待していた反応はなかった。自分が立てる音以外には物音ひとつしない。恐怖心を覚えるほどの静寂が道を支配している。

 

「灰色の世界。これが闇の……ダークネスの世界なのか?」

 

 色がないこと以外に違いを感じないアカデミアと周囲に視線を這わし、道を挟んでいるモニュメントに触れる。色がないだけでつるりとした滑らかな感触が返ってくるそれに、僕は学園内へと入ることに決めた。

 

 ミスターTを呼びかけても現れないのなら、じっとしていても意味がない。自ら真実を探しにきた以上、この恐らくはダークネスの世界であろう場所を調べなければいけなかった。

 

 そのため、僕は目の前に威風堂々と建てられた学園へと足を向けた。

 

「──ここにもいないか。まいったな。なんとかしてこの世界の秘密を知りたいんだけど、こうも何もないとは。どこかにヒントになるものはないものか」

 

 調査を開始した僕は待合ロビー、教室、購買、図書館、コンピューター室と物静かな部屋を順繰りに回っていた。どの部屋にもひとけはなく、誰かがいた痕跡も見えない。

 

 半ば予想していたこととは言え、落胆は隠せない。この淋しい世界にも探せばいなくなった人が見つかるのではないか。そんな期待があったからだ。

 

 結果は空振りに終わり、人のいた形跡は影も形もない。また、ダークネスの正体を示すようなものも一向に見当たらなかった。

 

「──!!」

「……人の声?」

 

 成果の上がらない状況にどうしたものかと頭を悩ませていると、遠くから音がした。それは言い争うような、誰かを責め立てているかのような声だった。

 

「あそこにいるのは、明日香さん!?」

 

 誰かいるのかと、長く続く曲線状に伸びた廊下を走り抜ける。

 音が鳴る方へ急いだ僕の目に映ったのはスーツを着た明日香さんがいく人もの生徒によって窓際に追い込まれている姿だった。

 

 僕は彼女を囲んでいる人を押し除けて明日香さんの前に出る。そして、彼女を取り囲んでいた生徒たちの姿に驚愕した。

 

「明日香さんが、たくさんっ!?」

 

 驚くべきことに、スーツを着た彼女を囲んでいたのはオベリスクブルーの青い制服を来た明日香さん自身だった。それも、同じ姿をした彼女が何人も……。

 違いがあるとすれば、その目。取り囲んだ彼女を見つめる目が冷酷に、酷薄に明日香さんを睨みつけている。

 

(いや、違う! 彼女たちは明日香さんではない。明日香さんの姿を模した影──闇だ!!)

 

 庇うように明日香さんの影の前に出た僕を無視するように無数の影は彼女を責め立てる言葉を浴びせていく。教師となった彼女では生徒を正しく導くことはできないと、そんな資格はないと──。

 

 まるで彼女の心を切開するように、その言葉は明日香さんを傷つけていっているようで見る見るうちに彼女は憔悴していく。

 そして、やがて心の限界を迎えたのか彼女は見たこともないぐらい暗く澱んだ目で地面に向かって絶望を呟いた。

 

『私には結局、みんなを導くなんてできなかったんだわ。こんなことなら、最初っから目指さなければよかった』

「明日香さんっ! こんな影の言葉に耳をかすな! 君はっ!!」

 

 俯いた明日香さんの背後から窓を突き破り膨大な黒い波が押し寄せていた。それは明日香さんだけを呑み込み、僕がその波に気づいて振り返った時には彼女を何処かへと流してしまっていた。

 

「そんなっ!? 明日香さんが、黒い波に呑まれ……何が起こった!!」

 

 もう、その姿は見えない。

 彼女を呑み込んだ波は一瞬後には消え果て、明日香さんは忽然とその姿を消してしまっていた。

 

 茫然と、目の前の出来事に惚けた僕はもう一度振り返り無数の明日香さんの影の姿を探す。しかしその姿もまたすでになかった。

 

 今の波がなんなのか、消えてしまった明日香さんをどこへやったのか。それを問いただすべき相手は世界に溶けてしまったかのように見当たらない。

 

 慌てたようにもう一度アカデミアの中を走り回る。

 消えてしまった明日香さんを見つけるために全ての部屋を開けていく。

 

 そうして諦めの声が内心で増してきた時、明日香さんに次いで悲嘆に暮れる声が廊下に響いた。

 

『兄さん──』

「!? 今の声は──翔くんかっ!!」

 

 それは、兄を呼ぶ翔くんの声だった。

 聞こえた声の方へと急ぐ。不思議とその部屋はすぐに見つかった。

 彼がいたのは暗く、狭苦しい一室。車椅子に座った彼の兄である丸藤亮の後ろに立っていた。

 

『お兄さん、頑張ってみたんだけどね。ダメだったよ。やっぱり、ボクなんかがプロの世界を牽引していくなんて、無謀だったんだ。ごめんね、お兄さん』

 

 彼は疲れ果てた顔で後悔するように兄に謝罪している。その力のなさに、及ばなかった願いに、絶望している。

 僕はそんな彼に声をかけたが、反応はない。僕の姿も声も存在していないかのように彼を素通りしていく。

 

 そして、夢が叶わなかったことに絶望した彼をより深い闇の底へと連れていくように黒い波が押し寄せる。僕はその波をを止めることはできなかった。

 

「翔くんもこの世界に……。君も、僕の声が聞こえてないんだね。そして波に……」

『ごめんよ、アニキ〜!』

「──明日香さん、翔くんと続いて、万丈目くんか……」

 

 甲高い泣いて詫びる声を出していたのは万丈目くんの持つカードの精霊であるおジャマ・イエローの声だった。

 大粒の涙を流すおジャマ・イエローのそばにいるのは当然、黒いコートを来た万丈目くんだった。

 

 彼は広いデュエル場に立ち、ディスクを構えている。スポットライトの当たるその場所はプロデュエリストたちがプロリーグで戦う会場であった。

 

『デッキを信じ戦えば、プロの世界でやっていけると思っていた。だが、一度も勝てず、終わる。はははっ、こんなことなら、最初っから目指さなければよかったんだ』

「──万丈目くんっ」

 

 自嘲した笑みを浮かべ、まるで挑み続ける苦しみから解放されたかのような安らかに瞼を閉じて彼は黒い波に攫われていった。

 それを見送ることしかできなかった僕は拳を震わせ宙に叫ぶ。彼らの絶望する光景を見ている、黒い影たちに──。

 

「くぅっ!! ミスターTッ!! 出てこいっ!! 見ているんだろうッ!!!」

「フッフッフッ。我々を呼んだかね、コナミ」

「ミスターT!! 今のはなんだッ!! みんなを、万丈目くんたちに何をしたッッッ!!!」

 

 上空から黒い雲の集合体が何十、何百と舞い降りてくる。それはどっぷりと浸かるように地面に落ちて、やがてライダースーツを着たミスターTの形をとった。

 

 気がつけば元のアカデミアの正面入り口の前に戻っていた僕は立ち並び不気味に笑う彼らを睨みつける。灰色が多くを占める世界で、彼らは不自然なほどに黒い。

 

 一人一人が闇を凝縮したような形をした彼らは一見この灰色の世界において異物のようにも見える。が、不思議とそういった感覚はなかった。むしろ逆に、この世界こそが本来彼らのいるべき世界のようにも感じられた。

 

 この……闇の世界こそが──。

 

「我々は彼らの不安という心の闇を見せたのだよ。彼らの未来という名の真実を」

「真実だって? バカなっ! 訪れてもいない未来をお前たちは真実と語るのかっ!!」

 

 無数のミスターT。その中の1人が代表するかのように前に進み出て口を開いた。彼は自身を真実を語るものと称したように、嘘偽りのない真実を話しているとその顔が言っていた。

 

 笑みを消し、憮然とした顔へと変化した彼は、まるで自分の言葉を理解できない僕の方にこそ非があるとでも言うようでさえあった。彼は反論する僕を諭すように言葉を続ける。

 

「そう。君のいう通り彼らが見たのはあくまで可能性の未来。無数に存在する可能性のうちの一つにすぎない。しかし、それもまた真実なのだ」

「そんなものを見せて何がしたい。絶望の未来だけを……これではみんなの心が死んでしまうだけだ! そんなことをしてなんになるんだ!」

 

 明日香さんも翔くんも、そして万丈目くんも皆、訪れるかもしれない。そんな可能性の未来を見せられた彼らは一様に疲弊し、絶望していた。

 そして絶望することにも限界が訪れたことであの黒い波に飲まれてしまった。

 

 あの黒い波がなんであり、皆がどうなってしまったのかも気になるが、それ以上にそんなことして彼らになんの得があるのかが全くわからなかった。

 

「それが、僕の目的なんだよ」

「──!」

 

 絶望の果てに消えてしまった友人たちを思い、苦衷の怒りをミスターTに投げかけた僕に、ミスターTとは違う青年の声が返ってきた。

 

 それは僕の背後から聞こえてきていた。目の前に立つミスターTに注意を払いながら振り返る。するとそこにはミスターTとは明らかに違う白いコートを着こなし、突っ張った長髪をした青年が立っていた。

 

「君は……藤原優介くんか……!」

 

 誰だと訝しみ、その顔を見てすぐにわかった。

 

 藤原優介、それは吹雪さんと丸藤さんの同期であった青年。彼は2人と並び三天才と呼ばれアカデミアで非常に優秀な成績を残していたが、突如として失踪した生徒であった。

 

 当時の記憶を失っていた吹雪さんが十代くんとのデュエルをキッカケに思い出し聞いた情報によると、強い力を求めダークネスの世界へと自ら入りそして亡くなったと聞いていたが、どうやらそれは誤りであったらしい。

 

 目の前に亡くなったはずの人物がいるのだから、死んでいるはずがない。彼はどうやってか、ダークネスに消えてなお、意思を保ち彼らの間に立ちながら悠然と此方へと歩みを進めていた。

 

「僕が何者であるかなど重要ではない。大切なのは、皆を安らぎの世界に連れていくことなんだから」

「安らぎだって? こんな、灰色の世界がそうだっていうのか!!」

「君にもあるはずだよ。心の闇が、未来への不安が。それを僕が見せてあげるよ」

「なにをッ!?」

 

 藤原くんの目が怪しく光を放つ。

 その青く輝く光は僕の心を覗こうとするように、僕の心の闇を表層に暴き出そうとするように入り込もうとしてくる。

 

 その光を──強い意思で弾き返した。

 

「ナニィっ!?」

「無駄だっ! そんな闇が僕たちに通用すると思うなァッ!!」

「ダークネスの力が……弾かれた!?」

「僕には支えてくれる仲間がいる。信じてくれる最愛の人がいる。瑣末な心の闇で、僕たちの心を覆えると思うなっ!!」

 

 僕の全身から藤原くんが放った青い光とは比べ物にならないほどに眩い光が溢れ出していた。

 

 それは僕が築いてきた絆が成したもの。愛理ちゃんとの互いを思い合い、信じあう心と数多のカードとの絆が作り出した強大な光の力であった。

 

「ぬうぅ。まさか、ダークネスの力が通じない人間がいるとは」

「貴方がなぜこんなことをしているのかはわからないけど、一つだけ言えることはある! 貴方たちは、間違っている!!」

「コナミ、全ての真実は苦しみから生まれるのだ。我々は結果的にだが、その苦しみから解き放とうとしているのだよ」

「希望があるからいつまでも人はもがき、悩み、絶望する。ダークネスは、その絶望を超えた先の虚無を与えてくれるのさ。希望も絶望もない。虚無なる世界に!!」

 

 ダークネスの力が通じないとわかった藤原くんが晴れやかな表情を見せる。そこにはダークネスを信じているという確かな意思が感じられ、ミスターTのような感情を感じない、無機質な表情ではなかった。

 

「虚無……心を失った世界。それが貴方たちの目的か!!」

「心なんてものがあるから人は苦しむことになる。全てがダークネスの元で一つに繋がる。溶け合うのさ。ふふ、どうやら君は例外のようだけどね」

 

 たとえ闇の世界であっても、力で取り込むことはできない。そう悟ったた彼は説得でもするように自身の目的を話し始めた。

 

 虚無なる世界。人類をそこへ連れて行こうとする。そうすることで避けられない人の苦しみを取り除く。苦しみを取り除くという部分だけを見るならば一考の余地があっただろう。

 

 しかしそのために人類をダークネスの世界に取り込み絶望させる。そんなやり方、たとえそれで人が救われるのだとしても、到底受け入れられるわけがない! 

 

「藤原くん。心を失えば確かに苦しむことはないんだろうね。万丈目くんたちが見たような絶望を感じることもない。しかし、その代わり喜びを感じることもない。そんな世界、僕は認めない!」

「君が認めるかどうかなど関係ないさ。ダークネスはすでに世界を覆っている。事は時間の問題だよ」

「どこへ行くっ!」

 

 自分たちの言葉がまるで心に響いていないことを確認した藤原くんがくるりと僕に背を向ける。その先にはゲートのような外の世界とつながる空間の歪みが生まれていた。

 

「僕はまだやることがあるのでね。特別にかつての友人を迎えにいくのさ。これ以上、君の相手はしてられないんだ」

 

 止める間も無く藤原くんは消えた。

 

 ダークネスの灰色の世界から元の世界へと移動したのだろう。

 友人を迎えにいくという言葉が気になるが、追いかけるその前に僕は目の前にいるミスターTに聞かねばならない事がある。

 

「ちぃ。ミスターT、ダークネスとはなんだ。心を失った世界を作り上げて、どうするつもりなんだ!!」

「我々に目的などない。野心もまた同じく」

「目的がない?」

「その通り。我々に意思はなく。望みもまた持たない」

 

 消えた藤原くんとは違い、ミスターTは淡々とした口調で話していた。

 それは先ほど聞いた虚無なる世界を作り安らぎに導くという藤原優介が話していた内容とは齟齬が生じる内容だ。

 

 だが、どこか納得できる話でもあった。

 出会った時から感じていた事だが、どうにもミスターTからは感情や意思と呼べるものが感じられない事があった。

 

 にやけ顔を見せたり、渋い表情を見せたりはするが、どこか作り物めいたような人のモノマネをしているだけのように感じていた。それが意思がないというのなら納得できる話だった。

 

 藤原優介はあくまでもダークネスが引き起こす結果に便乗しているだけ。ならばそれを引き起こすダークネス、あるいはミスターTとはいったいなんなのか。それが尚のことわからなかった。

 

「……わからないな。意思も目的もないというのなら、貴方たちはいったいなんなんだ。何度も聞くが、ダークネスとはなんだ?」

「ふむ、よかろう。終わりの時は近い。我々について、君に教えてあげよう」

 

 ミスターTが指を鳴らす。瞬間、そこはアカデミアではなくなった。

 

「!?」

 

 灰色の世界が暗黒の世界へと変わっていた。

 そこには地面はなく、建物はなく、時間という概念さえない。文字通りの無。闇や光さえ存在し得ない世界が広がっていた。

 

 そこに突如として巨大な一枚の真っ白に輝くカードが落ちてきた。そのカードは光を世界全体に広げていく。

 

 星を作り、やがてそれは宇宙となって一つの世界を形成した。世界は生命を作り上げ、人へと進化して、やがて人は始まりのカードを求めるかのようにデュエルモンスターズを作り上げて行った。

 

 世界創世の秘話を見る僕に驚きはない。ミスターTが淡々と説明していくそれはずっと以前にVENUSから教えられていたことと概ね同じであったから。

 

 僕は静かにその説明を聞いていく。世界の成り立ちとダークネスとが、いったいどう関係しているのかと懐疑的な視線を投げながら。

 そして説明が佳境に入ったとき、僕の落ち着きは愕然とした感情へと変化することになった。

 

「世界は一枚のカードから生まれた。ダークネスとはそのカードの裏側。表を君たちの世界と見做した場合、その反対に存在するのが我々なのだよ」

「裏側……まさかっ!? お前たちは、世界そのものだと言うのか!?」

「然様。人々の中に生まれた闇が我らを呼び起こした。我らは世界。世界に存在する意思を体現するもの」

 

 ミスターTが見せていた景色が1人の少年を映し出す。その手にあるのは一枚のカード。どこにでもあるようなそのカードが闇に包まれていく、少年の心に呼応するように。

 

 闇は少年の持つカードだけではなく、無数の人々のカードにも存在していた。敗北が、苦しみが心に傷をつくり、膿となって積み重なるように闇が少しづつ肥大化していく。

 

「君たち人間が、その胸に希望の光を抱いていれば、我らが目覚めることはなかった。が、そうはならなかった。人々は明日を生きることに疲れ、眠りを望んだのだ」

「希望を失った人々が闇を呼んだ……。そうか。そう言うことだったのか。ダークネスとはつまり、人の心の写し鏡! 人の心に隠された裏側の存在なのか!!」

 

 世界となったカードの裏側ということは、この世に存在するカードはダークネスの一部とも言える。

 そのカードを手にした人々の心の闇が今日を生き、明日を生き抜こうとする希望の光よりも大きくなったことで現れたのがダークネス! 

 

「くっ、どうりでミスターTを倒しても解決しないわけだ。十代くんに伝えないと。ダークネスといくら戦ったって世界そのものでは倒しようがない。この世界から帰らせてもらうっ!!」

「ふむ、帰りたいというなら構わないが、今更戻ったところで意味はない。すでに、君の世界で残っているのは遊城十代のみ。他の人類は皆ダークネスの世界へと眠りについた」

「なんだって!? そんなはずは、僕がこの世界に来てからまだそう経ってはいないはず!!」

「時間などと言うものは、我らの世界では意味をなさないものなのだよ」

「くっ、だったら、なおのこと帰らせてもらう!!」

 

 闇の世界にきてから1時間と経っていないつもりだったが、まさか十代くんしかもう残っていないとは。

 彼は今無事なのか。僕は世界を超えても感じる十代くんに預けたクリスタルへと呼びかけるように叫んだ。

 

「──十代くんっ!!」

『コナミかっ!?』

 

 糸を繋げるように僕の意識とクリスタルが交信していた。

 その繋がりが教えてくれるのは彼が無事であることと、これなら帰ることもできるという確信だった。

 

「見るべきものは見れたよ。君は今大丈夫?」

『ああ。なんとかな。今、ダークネスの親玉とおっぱじめようってとこだ』

「そう。なら、今からそっちへいくねっ!!」

「よかろう。星を描きしものよ。光の世界へ行くといい。それを、我らの最後の戦いとしよう」

 

 僕の様子を見ていたミスターTが自ずからその手を此方へと向けた。

 するとたちまち景色が変わっていき、僕は灰色の世界から押し出されるように元の世界へと戻ってきていた。

 

「コナミ、戻ってこれたか!」

「遅れてごめん。だけどそのおかげでダークネスについて、色々と知れたよ」

 

 そこはアカデミアの入り口だった。アスファルトの地面に足をつけた僕は周囲を見渡す。目に映る全てに色がある。

 夜ではなく太陽を覆い隠すように闇が世界を覆っているために薄暗いが、様々な色彩が見えるここは表側の世界で間違いがないようだった。

 

 僕は眼前に佇む巨大な影にチラリと目を向けながら、十代くんにダークネスの世界で見たものをかいつまんで伝えていく。

 消えてしまった皆がどこへ行ってしまったのか。ダークネスとはなんなのか、そういったことを全て。

 

 全てを話し終えた時、彼には憂うような表情が浮かんでいた。

 

 ダークネスを倒したとしても皆が帰ってくることはないという事実と、そんなダークネスという存在を呼び寄せてしまったのが誰かの悪意ではなく人類の絶望が引き起こしたという事実が彼を苦悩させていた。

 

「──じゃあ明日香たちは今、世界の裏側ってところに呑み込まれちまったってことか」

「うん。そして、貴方がダークネスか!!」

 

 僕が圧倒的存在感を感じながらも十代くんと情報共有するためにあえて無視していた目の前の巨大な黒い影──ダークネス。

 

 2階建ての家くらいのサイズはある人型の巨体を、黒いローブで全身を隠している。その顔は羊の頭をしており、顔を含めた全身が骸骨であるのだろう。肉と呼べる部位は存在しなかった。

 

『遊城十代、コナミ。共に我が世界を拒絶せし異端なりし者たち。汝らを取り込むこと、もはや叶わず。デュエルにて、その存在を抹消しよう』

 

 彼はこれまでに感じたことのないような気配を漂わせていた。

 

 人類をとりこみ、滅亡寸前まで追い込むような恐ろしい存在であるというのに不思議と邪悪さは感じない。寧ろ世界そのものであるがための絶対的な存在感からくる畏怖と敬意の念はダークネスを神と表現しても差し支えない相手だと如実に伝えてくる。

 

 彼の前に立っているだけで、ともすれば間違っているのはこちらなのではないかとすら思えてくる相手であった。

 

「十代くん、ダークネスを倒したとしても、皆んなは帰ってこない」

「ああ。俺たちのデュエルで、みんなの心に希望を灯すしかねえ。やるぞっ! コナミ!!」

「うんっ!!」

 

 そこにいるだけで途方もない存在であると伝えてくるダークネス。そんな彼が与えてくる未来に立ち向かうため、僕たちはディスクを向けた。

 

 

『来るがいい。強き者たちよ。デュエル!!』

「「デュエル!!」」

 

 

 人類の存亡を賭けた、最後のデュエルが始まった──。

 

 

 





藤原戦は書こうと思ってたんですけど、ヨハンとかオネスト問題とかどうしようとなって、もう原作通りになったで飛ばしていいかとなりました。なによりクリアーワールドの効果面倒すぎる。絶対ミスする自信がある。

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