長かったこの小説も、これで最終回!
後日もう1話投稿されると思いますが、ただのあとがきとなります。
読者の皆様、拙いながらも約2年にも及び続いたこの小説を読んでいただき誠にありがとうございました!!
宇宙の真理。世界の裏側。人の心のもう一つの側面の具現であるダークネスが苦しんでいた。人々の心にカードとの絆という光が蘇り、デュエルにも敗北した事が原因だった。
『ヌゥ……。我を倒すとは、しかし我は不滅。汝らが、世界が存在する限り、決して滅びることはない。汝らの心に闇が溢れたとき、再び蘇る』
「それでも俺たちがいる限り、デュエリストがいる限り、お前の出番はずっと先だろうぜ」
『ヌグォオオオオオ!!』
ダークネスの体にヒビが入っていく。大いなる闇である彼が、世界に光が満ちた事で追い出されるようにヒビの入ったその体から光を迸らせていく。
そして、一際激しい光が瞬いたあと、ダークネスは世界の裏側へと消えた。自身の元いた場所へと帰ったのだろう。
それと同時に世界を覆っていた闇が世界の裏側へと戻った事で太陽が顔を覗かせていく。青空が戻った空の下、僕と十代くんは互いに見やり強く頷いた。
「終わったな、コナミ」
「うん。これでもう、みんな大丈夫だね」
それは一つの確認作業。
この長く短い激動の3年間、その最後に立ち向かうべき戦いにピリオドが打たれたのだとお互いを見やる事で受け止める事ができた。
空を見上げ、歓声を上げながら駆け寄ってくるみんなを見ながら僕たちは安堵し、満足したように肩から力を抜いていく。駆け寄ってきた皆の無事な姿に、彼らに囲まれた僕たちにも、ようやく自然な笑みが生まれた。
「十代さま〜っ!!」
その中でひとつの影が十代くんを求めるように抱きついた。
「レイっ!?」
彼女は抱きついた十代くんを離さないというように強く彼の首に手を回して嬉しそうに笑っている。抱きつかれている方の十代くんは困ったように笑いながら彼女の腰に手を回していた。
「コナミくん」
その幸せな光景に目を綻ばせていると、人混みの間から見間違えるはずもない大切な人がそばに歩いてくる。
僕たちを囲んでいた人たちは自然と彼女が前に出て来れるように道を開けてくれていた。
「愛理ちゃん、なんとか終わったよ」
「ええ。お疲れ様、コナミくん」
ダークネスが消え、僕の心に避難していた愛理ちゃんの心が元の体に戻ったようだった。眠りから目を覚ました彼女は微笑んで元気な姿を見せている。
僕は歩いてくる愛理ちゃんに近寄って、彼女の手を取った。彼女の手は暖かく、優しい。その暖かさこそが明日を生きていくための希望なのだと、僕は心の底から思い、誓った。
「愛理ちゃん、一緒に生きていこう。辛いことも、悲しいこともたくさんあると思う。でも、君といればきっと──」
「ええ。健やかなるときも、病めるときもってやつね。手を取り合って、生きていきましょう。私たちは夫婦になるんですから」
満ちていく愛しさに惹かれるように僕たちは手を引きあってキスをする。それを見ていた人たちの口から驚きと祝福。そして2度目の歓声が学園中に響き渡っていくのだった──。
*
夜、取り戻した太陽も落ちた頃──アカデミアを過ごす最後の日。卒業式を終えた僕たちは学園の大広間で盛大なパーティーをしていた。
白布に覆われた長机には豪勢な食事が所狭しと並べられており、それに手をつけている誰もがその頬を緩ませている。パーティに出席している卒業生は在校生や先生方との最後の時間を思い思いに過ごしていた。
僕も例外ではなく、道長くんと堂本くんといった特に長い時を一緒に過ごした友人同士集まって話していた。愛理ちゃんは少し離れたところでももえちゃんや春香ちゃんといった女の子たちで固まって話している。
「先輩方とも今日でお別れとは、寂しくなりますね」
「なあに、会おうと思えばまた会えるよ。いつだってね」
「そうね。まあ、あたしの方は来年会うわけだし、それ以外でも連絡をくれればいつだって会えるわ」
僕たち3人の中で学園に残るのは道長くんのみだ。
剣山くんや春香ちゃんといった同年代の友人がいるとはいえ、寂しさが消えるものでもない。
常よりもずっと豪華な食事が用意されていることも、その寂しさを助長しているのかもしれない。このパーティには別れを惜しむ空気に満ちていた。
僕たちは会おうと思えば会える。そのことを理解しながらも、学園を去るという事実に寂寥感を感じずにはいられず少しばかりの沈黙が降りてしまう。
楽しかった……本当に楽しい学園生活だった……。
気を抜けば滲みそうにもなる目元をグッと引き締め口を開こうとした瞬間、空気を一変させるような明るい声が僕たちの輪の外から入ってきた。
「せっかくのパーティだというのに、そのように暗い雰囲気を見せるのはマナー違反ですわよ、御三方」
声の方へ全員が向くと、そこにいたのはももえちゃんだった。
彼女はグラスに入った飲み物を片手に僕たちに注意するように愛理ちゃんたちを連れて僕たちのそばへと寄ってきていたようだった。
「ももえちゃん、いや、どうにも湿っぽい空気になっちゃってさ」
「お気持ちはわかりますけど、こういう時ほど明るく振る舞うのが上級生の勤めというものですわ」
「そういうものかな?」
「ええ。悲しみを見せるのは卒業式で十分。去る時は明るく爽やかに。それが在校生に見せるべき姿だと思いますわ」
「なるほど」
立派な哲学だと感心して頷く。巣立っていく僕たちはこの場に残る彼らに不安になるような姿を見せてはいけない。
常に胸を張り、素晴らしい未来に向かっていくのだと彼らに見せてあげるのだ。そんな上級生を送れたことを誇らしく思えるように。来年、自分たちもそんな風にありたいと思ってもらえるようにと。
「って、そのようなことを言いにきたのではなかったのですわ。コナミさん、愛理さんと少し並んでいただけます?」
「愛理ちゃんと?」
「ええ、並ぶだけで構いませんわ」
さあさあと押される背に疑問を浮かべながら愛理ちゃんの隣に並ぶ。ももえちゃんはそんな僕たちを足先から頭頂までじっくりと、それこそ品定めをするような視線で見つめていた。
そうして少しの間見ていた彼女だったが、何らかの納得のいく結論を出せたのか、大きく頷いた。
「コナミさん、及第点ですわ」
「えっ、及第点?」
「ええ。初めて会った時と比べ、随分と凛々しくなりました。これなら、愛理さんとのご結婚も、素直にお祝いできそうです」
初めて会った時、その言葉を聞いて彼女の言っていることの意味を理解した。
「あっ、あの時聞いた男性評価かあ!!」
「はい。あの時は赤点も赤点。評価するにも能わない愚物でしたが、今では見違えるほどに成長したようですね。愛理さんの友人として、心から安心致しましたわ」
あははと乾いた笑いを返しながら愚物と過去の自分をこき下ろされたことに若干凹む。しかしももえちゃんから及第点を貰えたというのは凄く喜ぶべきことだと思えた。
彼女の男性への評価基準はかなり厳しい。
そんな中で及第点を貰えたというのは、実質一般基準だとかなりの高得点だと踏んでいい。少なくとも、愛理ちゃんとの結婚を心から祝福できるレベルまで成長したということを認めてくれたということだ。
もしこれで及第点も貰えないレベルだったなら、お祝いはしてくれただろうが彼女は内心で僕で大丈夫なのかと愛理ちゃんを心配していたことだろう。
「コナミさん、愛理さんを不幸にしたら許しませんわよ?」
「当然。女の子はお姫様だもんね」
「ええ。貴方に殿方とはなんたるかを教えたのは私ですもの。裏切ったら、怖いですわよ?」
それは怖いなあと笑い合う僕たちを不思議そうに見るみんなに男性評価とはなにかを説明しながらふと、彼女のお眼鏡にかなう相手はいたのだろうかという疑問が脳裏によぎった。
イケメン好きな彼女のそういう話題を聞いた覚えはないが、もしフリーなら1人、いい人物がいるのを思いついたのだ。
「ねえももえちゃん、ももえちゃんって今、フリー?」
「……あらまあ、これは随分と大胆なお誘いですこと。お隣にフィアンセがいながら別の女性に粉をかけようだなんて、勇気がおありにも程がございましてよ」
「いや、違っ!! そういう意味じゃない! わかってるでしょっ!!」
隣から凄まじい殺気を感じ、慌てて弁明する。
「ほら、昔からももえちゃんって素敵な人との恋愛を夢見てたでしょ。その相手に三沢くんはどうかなって思ってさ。ほら、三沢くんもなんだかんだと恋愛に興味を持ってたし。よかったらと思って、どうかな?」
青筋を立てた愛理ちゃんに冷や汗をかきながら僕は早口で伝えた。
以前、三沢くんと話した時に愛理ちゃんのような美人な相手がいることに羨んでいたことがあったのだ。
堅物だがそういうことに興味がないわけではなく、タニアへの恋も失恋に終わった今、三沢くんは完全にフリーだ。ツヴァインシュタイン博士と研究に明け暮れているため女性の影もないと聞く。
容姿端麗で頭もいい。その上、女性にも紳士な対応を自然とできる人だ。むっつりだし変な方向に暴走することもあるが、そこを減点しても間違いなくももえちゃんの評価は高いはず。
お節介かもしれないが、もしももえちゃんにその気があるなら仲をとり持つつもりだった。
「そういう事でしたか。三沢さんは確かに素敵な殿方でしたものね」
「うん。学園を去った今でも連絡は取り合ってるし、言ったらきっと会ってくれると思うんだ。だからどうかなって思ってさ」
「余計なお世話。そう言いたくなりますが、ここは友人の顔を立てるということで、ありがたくその申し出を受けさせてもらいますわ」
少し遠くを見つめ、考え込む仕草を見せながらも了承の返事をくれたももえちゃん。受けてくれたのはよかったのだけど、遠くを見つめたのはなんでだろうか。
もしかして過去の三沢くんの姿や態度といったものを思い出し、彼女なりの評価をしていたのかもしれない。
「ただ、上手くいくかはわかりませんわよ?」
「わかってる。恋愛事だもんね。ダメならダメでいいのさ。上手くいくといいなぐらいだから」
愛理ちゃんたちから少し離れて携帯をポチポチと操作しにいく。善は急げ。ももえちゃんからの了承を得られた今、すぐに三沢くんに連絡をしようと考えてのことだった。
そうして離れた場所で電話を始めた僕を見ながら愛理ちゃんたちは後ろで話しを始めていた。
「ももえさん、受けてよかったの? コナミくん、張り切っちゃうわよ?」
「構いませんわ。私はあまり三沢さんとは親交はありませんでしたが、印象はよろしかったですし、お相手として良い方だと思ってはいますもの」
ももえからしても三沢への印象は好青年という枠を外れていない。スポーツ万能、容姿端麗、成績優秀。その上デュエルも相当強く、性格も真面目で良好。どこを切り取っても悪感情を抱かせる要素はない。
恋愛に発展するかはわからないが、その機会ぐらいはあってもいい。そう思える相手だった。そのため、コナミからの提案も少し考えるだけで済んだ。
相手は研究者の卵であり、忙しいだろうことは予測できる。彼女もこれからは社会へと進出するためにそう頻繁に会えないであろう点だけが気がかりであるが、まあそれを加味しても問題ない相手だと思えた。
「ところで先ほどから早乙女さんの姿がありませんけど、愛理さん、なにか彼女にされました?」
「ちょっとね。レイちゃんが知りたがってることをね」
「あら、悪い顔ですこと」
「恋する女の子の味方をしてあげただけよ。間に合えばいいけど、さて、彼はどうするのかしらね」
煌びやかなパーティの中で、一向に姿を見せない赤い服が特徴の友人のことを思い、愛理はクスクスと笑うのだった──。
*
アカデミアで行われている卒業パーティの喧騒から遠く離れた海辺の波打ち際で十代は1人、物思いにふけっていた。
それはアカデミアで過ごした3年間の思い出であったり、今後のことについてであったり、つい先ほどの憧れの人である武藤遊戯さんと巡り合えたことについてだったりした。
『何を迷っているニャ』
「大徳寺先生」
すると、静かに考え込んでいる彼に話しかける人がいた。それは十代の足元で寝転んでいたファラオという名前の猫から発せられた。正確には、彼の口から出てきた亡くなった大徳寺の幽霊が発した言葉であった。
アカデミアの教師である大徳寺は2年前のセブンスターズ事件以来、霊となってファラオと共にあることになり、十代と一緒によく話す関係となっていた。
『悩みがあるなら、先生が聞くニャ。そうでなくても、アカデミアにいるみんなが聞いてくれるニャ』
十代は隣に浮かんでいる大徳寺先生を横目に苦笑する。そんな目に見えて悩んでいるように見えたかと。
「いや、別に悩んでるわけじゃないんだ。俺の心は決まっている。これからすることはもう決めているんだ」
『なら、なんでこんなところで油を売っているニャー。なにか、気がかりなことでもあるニャ?』
「気がかりなことか……」
大徳寺先生の気がかりなことという言葉に十代の口が固く閉ざされた。
自分にはもう、悩みなどないはずだった。ここで立ち止まり考え込む必要のあることなどないはずである。にもかかわらず、未だ出発できずにいる。
それがなぜであるか、彼自身わからなかった。自分の旅立ちを止めている原因。足踏みさせている確かなナニカ。
ユベルが一度、気になるなら会いに行けばいいと不愉快な表情を隠しもせず言ったきたが、十代にはユベルのその言葉を理解することができなかった。
会う、誰に──?
会うと言う言葉である以上、それが何者かの人物を指すのは間違いがない。魂を分けたユベルが言うのだから、俺は誰かに会いたいがために島に留まっているのは確かなのだろう。
だが、十代には肝心のその相手が分からなかった。
そうして水平線の彼方へと視線を固定し、考え込む彼を遠くから呼ぶ声がした。
「十代様──ッ!!」
「……レイ?」
自分を呼びながら砂を蹴り上げ走り寄ってきたのはレイだった。彼女は息を切らせながら自分のそばまで走ってくると、勢いよく顔を上げて懇願するように叫んだ。
「十代様、私も…十代様と一緒に行きますっ!!」
「レイ、お前……」
「これでお別れなんて嫌です! もう何度も伝えてますけど、私は十代様のことが好きです。大好きなんですッ! だからっ!!」
レイの目元は潤んでいた。必死に、次はないといった切実な声で溢れ出てくる涙と一緒に十代に頼んでいた。
涙交じりに叫んだその告白と願いは、通じることはないと彼女にはわかっていたのかもしれない。十代の反応は芳しくなく、どう説得するかと悩むような顔を浮かべている。
それでも、ここで別れたらいつ会えるか分からないと言う思いが、不安が、諦めきれない彼女の恋心を後押ししていた。
「だからっ! 私を連れて行ってくださいッ!!」
「連れて行ってって、お前学校はどうするんだよ」
「辞めますっ! 退学すれば、どこにでも行けます!!」
退学してでもついていく。いつだって恋心に全力のレイなら嘘やはったりではなく、本気でそうするだろう。それは、恋に疎い十代にも理解することができた。
半端に答えれば、勝手に退学して追いかけてきかねない。それだけの強い気迫と覚悟が彼女から感じていた。そのため十代は、なんとしてでもレイを止めなければと言う思いにかられた。
「そんな無理してついてこられても、俺は嬉しくないぜ」
「でも、ここでお別れしたら、もう……っ!」
「なあレイ、俺はアカデミアでかけがえのない3年間を過ごした。素晴らしい仲間や友人。尊敬できる先生。大切な後輩。楽しかったり、苦しかったりもした思い出。そのどれもが尊く、かけがえのないものだ。それを、お前に捨ててほしくはないんだ」
思い出を振り返るように十代はアカデミアのある方へと視線を向けながら言った。レイの学生生活はまだ残っている。それを自分1人のために捨てていくなんてしてほしくなどなかった。
彼女には、まだまだ学園での思い出を作ることができるのだから──。
「でも……十代様は旅に出るだろうって愛理先輩が、だからっ!!」
「そうだな。色んなところ行くだろうから滅多には会えないだろうな」
「だったら……ッ!!」
「だからよ、お前が卒業する日に迎えにくる。その時お前の気持ちが変わってなかったら、一緒に行こうぜ」
「──え?」
思いがけない十代の返答に涙で濡れていたレイの動きが止まった。彼女は今聞こえたことが信じられないと言った具合に惚けている。
「私が……卒業する日……?」
「ああ。お前が卒業する年、人と精霊を繋ぐ手伝いをする旅から俺はこの島に帰ってくる。約束だ」
茫然と卒業後と呟くレイに小指を立てて彼女の指と絡めた。
指切りげんまんと、打ち寄せるさざなみを背景に十代とレイは約束を交わす。絶対に裏切らないという誓いを立てて。
「十代様、約束ですよ。私の卒業の日に、絶対に迎えにきてくださいね!」
「ああ。約束したからな」
「絶対ですよ!」
「ああ、絶対だ」
絡まった指を解き、十代は島から出るためにレイに背を向けた。
不思議と、心の霧が晴れたかのように軽い足取りで島の外へと向かう道を歩くことができた。
『迷いはなくなったみたいだニャ』
「なんだったのか。まだよくわかってないけどな」
『それはこれから知っていけばいいのニャー。十代くんの時間は沢山あるのニャー』
隣を歩くファラオが肩に飛び乗ってくる。その口からレイが来たことで姿を消していた大徳寺先生が現れていた。
その顔には常に変わらない笑みがあり、十代にはまだ芽生え始めたばかりで自覚のできずにいる、その胸の内に秘められた想いを理解している素振りがあった。
そうして歩くこと少し、長く続いた砂地が終わり硬いコンクリートに足を踏み入れた時、レイの自分を呼ぶ声が聞こえてきた。
「十代様ーっ!!」
その声に惹かれるように後ろを振り向くと、遠く離れた波打ち際からレイが大きく手を振っていた。
「愛してますっ!! だからずっと、ずっと待ってますからねーっ!!」
すーっと息を吸い込み大きな声で張り上げられた彼女の声はしっかりと十代に届いていた。十代はそれに応えるようにレイに向かって手を振り返し、再び背を向ける。
その目は真っ直ぐと進むべき道に向けられており、心に迷いのなくなった彼の口元には太陽のような晴れやかな笑みが浮かび上がっていた──。
*
夜も深くなってきたことで、パーティの喧騒も落ち着きを取り戻しつつあった。
出席していた生徒たちも、開始直後ほどの人数はいない。隙間なく並べられていた豪勢な料理の数々も、その多くが白い皿にその名残を見せているのみだった。
そんな中、愛理ちゃんを連れた僕はまばらになりつつあるパーティを抜けてアカデミアの屋上に出ていた。広々とした屋上に人気はない。
十代くんが高いところが好きなために僕もちょくちょく来ていたその屋上だが、今日で最後と思うと皆と別れるのと同じような寂寥感に襲われた。
空を見上げればどこよりも近く見える闇夜に浮かぶ星の海が迎えてくれる。星に近づいたことで運ばれてくる潮風は涼やかで、少し肌寒い。遠く見える赤熱とした火山の灯りは印象的であり、夜の暗闇に燃える赤色は美麗であった。
「今日で気楽な学生生活も終わりね、コナミくん」
「うん。明日から……っていうのは気が早いけど、すぐに僕はプロリーグに挑戦するからね」
「それだけじゃないでしょ。これからは2人で生きるための準備もしないといけないんだから」
「はは、そうだね。激動の日々になりそうだよ」
僕の両親との挨拶も終え、許しを得られた愛理ちゃんはもう新婚気分のようで、上機嫌で僕に身を寄せている。
きっと、彼女の目にはとても忙しいながらも素晴らしい未来が見えているのだろう。
僕も同じだと、そう伝えるように彼女の手を取る。
「……寂しい?」
「うん。色々とあったけど、楽しかったからね」
「これからも、沢山の思い出が作られていくわ。新しい場所で、新しい人たちと」
「新しい場所か──」
アカデミアを卒業したらプロの、大人たちの仲間入りとして社会に出ていくことになる。その中で揉まれつつ、今日という日を思い出として語れるような大人になっていくのだろう。
それを無常だと、寂しいと語る自分は確かに胸の内にいる。それは誰しもの胸にあるものだろう。郷愁という観念を感じる気持ちを──。
「それに子供が生まれたら寂しさなんて感じている余裕はなくなるわ」
「うえっ! 子供!?」
「そうよ。いつかは欲しいでしょ?」
「あ……ああ、いつかね。うん、うん……ビックリしちゃった」
一瞬本気で子供ができたのかと驚いて愛理ちゃんのお腹を真剣に見つめてしまった。
「子供かあ。そうだね、いつか生まれてくる子のためにプロリーグ、頑張らないといけないなあ」
「パパはすごいんだぞって見せてあげなきゃね」
「そうだね。目指すはチャンプ。その果ては──」
遠い未来へと想いを乗せてみる。
その未来で僕は愛理ちゃんと彼女との間に生まれた子供たちの前でデュエルをしている。そして彼女たちに勝利の笑みを見せていた。
夢見る未来に辿り着くための道は険しく、どれほどの苦難を超えれば辿り着けるのか想像もつかない夢想。
「愛理ちゃん、僕には夢があるんだ」
「ええ、ずっと追い続けてきたコナミくんだもの。なれるわ、きっとね」
その夢は遥か彼方、遠く未来の果てにある。
叶うだろうか、叶わないかもしれない。でも大丈夫。それがどれほど険しい道のりだとしても、生涯辿り着けなかったとしても、この夢を目指したことは決して間違いではないと断言できるから。
「愛理ちゃん、僕の夢はね」
「うん」
宝石を散りばめたような雲さえ遮ることのない満点の星空に一筋の光が流れる。僕たちは寄り添いながら限りない夢の旅路に想いを馳せていく。
幼少の頃より憧れたその姿。その夢。
決して形を変えないそれを掴もうと天に手を伸ばす。
そう、僕がデュエリストとして一歩を踏み出したその時から目指したそれは──。
「キング・オブ・デュエリストだ!!」
夢は未だ遠き光。僕らはそこを目指し手を伸ばし続ける。ライバルたちと共にいつまでも……いつか星に手が届くと信じて──。
了