ちょっと重い話になります。
修学旅行当日。
俺たちは新幹線に乗り旅行先へと向かっていた。
「いやー晴れてよかったねー。三沢君」
「そうだなコナミ。しかしお前、修学旅行が終わったら全国大会まですぐだと言うのに気楽だな?」
全国大会が迫っているというのに隣の席に座っているコナミは能天気にお菓子を食べながら修学旅行先に思いを馳せている。
必要以上に深刻になる必要はないが、もうちょっと不安な顔をしてもいいと思うぞ俺は…………。
「いいじゃない。いくら全国大会が間近に迫ってるって言ってもまだ時間はあるんでしょう? 放課後に特訓は沢山してるんだし、修学旅行くらい肩の力を抜いて楽しまなきゃ! ねえ愛理?」
「ん? そうね、中学生でたった1度の修学旅行だもの。楽しまないと。………彩音、こことか行きたくない?」
新幹線の中、俺の隣にはコナミが、前の席には彩音君と愛理君が座っている。
新幹線の中でお菓子を食べているコナミはともかく、班行動の予定が既に決まっているのに旅行先のパンフレットを見ながら新たな行き先を相談するのはどうかと思うぞ、愛理君。
「まったく。全国大会のことで頭を悩ませているのは俺だけか…………」
「試合をするのは僕なんだけど、三沢君がそこまで悩むことってあるの?」
自分が試合に出るわけではないのにどうして俺が頭を悩ませているのか疑問なのだろう。
コナミが不思議そうな顔で俺を見てくる。
「そりゃお前、選手のことを調べたりお前のデッキ調整を手伝ったりとやることが沢山あるんだ。時間はいくらあっても足りん。もっと言うなら特訓のためのデッキ作りが一番大変だ。選手一人ひとりのことを調べたうえで作らねばならん」
「あ、そうだったね。三沢君、いつもありがとうございます~」
コナミが俺のしていることを想像して大変さが多少なりとも理解できたのか頭を深く下げてお礼を言ってくる。
まあ、悩みの最たる要因はコウキの件なのだが、流石にそれをコナミに言うわけにはいかんからな。
大変なのは事実だし、こう言っておけば変に勘繰られることもないだろう。
「コナミ君、私たちこことか行きたいんだけど、どう?」
「え? あ~2人が行きたいならいいと思うよ。愛理ちゃん」
コナミが愛理君たちに話しかけられてパンフレットを見ている横で、俺は旅行先で解決しておきたい問題について考える。
コウキとの仲違いの件。
コウキはコナミはおろか俺とまで話すことを避けていたが、なんとか修学旅行中に解決できるようにヒロシ経由でコウキと話せるように渡りをつけることはできた。
修学旅行で気持ちが高ぶっている今が好機だ。
コナミが全国大会を勝ち抜くためにも万全な状態にしておきたい。
そのためにもこの修学旅行でコウキと仲直り、そうでなくとも何とか心のしこりは取っ払っておきたいところだ。
「三沢君! これとか食べたくない? すごく美味しそうなんだけど!」
俺がコウキの件を考えていると、コナミが愛理君たちと見ていたパンフレットを顔の前に広げて紹介してきた。
「ふっ。そうだな。予め余裕のあるスケジュールで行先は作ってある。少し急げば食べに行けるだろうな」
いや、今はごちゃごちゃと問題について考えるのはよそう。
俺もこの修学旅行を楽しまなくてはもったいない。
その後は俺も愛理君たちとパンフレットを一緒に見ながら、旅行先での予定について話し合いに参加するのだった。
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「さて、行くか」
班行動による自由時間、与えられた時間内で色々なところを回ろうとした結果。中々の強行軍となってしまったが、俺とコナミ。それから愛理君と彩音君が行きたがってた場所は大体見て回ることができた。
最後に行くことになった占いの館。
女性陣の強い希望により長い行列に並ぶ羽目になってまで行くことになってしまった。
時間的に並ぶのは避けたかったのだが、これはもう仕方ない。
海外から来日してる超すごい占い師だからと強く出られたら拒否もできなかった。
あそこに並ぶ時間がなければもう少し余裕をもって観光できたのだがな…………。
そういえば、占いの帰りしな占い師から愛理君がカードを貰っていたが、あれは何だったのだろうか?
何か話していたようだが…………。
「あら? 三沢君、どこか行くの?」
自由時間も終わりが近づいてきたこともあり、土産屋で物色していたコナミたちだが俺の独り言が聞こえたのだろう。
愛理君が俺の様子にどこかへ行くのかと聞いてきた。
「ああ。ちょっと野暮用で行かないといけない場所があってね。…………愛理君、少しいいか?」
「ん? どうしたの?」
俺はコナミには聞かせたくない内容ゆえに少し離れた場所に愛理君を呼び出した。
「実はこの後、コウキの件でヒロシと話すことになっていてな。上手くいけば2人が仲直りできてコナミの不調も治るかもしれん。だが全国大会を間近に控えた今、万が一上手くいかなかったことを知られるのは避けたい」
「…………わかったわ。コナミ君をこの修学旅行中、離さないようにしたらいいのね?」
俺の言葉から愛理君は自分に何を求められているのか分かったのだろう。
修学旅行中、コナミが俺たちの話し合いに関わることがないように引きつけてくれると言ってくれている。
「いや、別に今日だけでいいんだが。まあ明日にもつれ込む可能性もあるか、コナミのことよろしく頼む」
「そっちもコウキ君の件。お願いね!」
「ああ!」
そうして彼女がコナミのもとへ戻っていく姿を見ながら俺は店から離れてヒロシと約束した場所へと向かう。
必ずこの話し合いを成功させる。
コナミのために…………そしてコウキのためにも。
それから店を離れてしばらく歩いた先の人通りのない廃れた神社でヒロシは待っていた。
「待たせてすまない。ヒロシ」
「おう! 人を呼び出したくせに待たせやがって。副会長様はお忙しいようで?」
「会って早々憎まれ口を叩くやつがあるか。待たせたことは謝るが、まったく…………」
ヒロシ、小学生のころからまるで変ってないな。
成長したのは体だけのようだ。憎まれ口を叩いて攻撃してくるあたり精神的なところは全然だな。
コウキは…………いないか。
まあ今回は本命であるコウキと話し合う前に、その準備として普段一緒につるんでいるヒロシに詳しい段取りを決めておくためのものだ。
いない方が話はスムーズに進むだろう。
「それで、わざわざこんな辺鄙なところに呼んで、何の用だよ?」
「前に話しただろ、コウキの件だ」
「あー! その件か。それだがな、話しをするならコナミが自分で頭下げてお願いするのが筋ってもんじゃねえのか? なんでお前が代わりに来てんだよ」
俺が代理で解決のために動いているのは、コナミだと頭を下げたところでコウキが話し合いにはまず乗ってはくれないからだが……それはヒロシも理解したうえで言っているだろうし、今言っても仕方ないか。
「コナミは全国大会を控えた身だ。できるだけ時間はとらせたくはない」
「へーそうかい。副会長様はお優しいことで。だがな! 俺は今回コウキの側に立つぜ! コナミの奴が何をしたか聞いてないわけではないんだろ!!」
コナミがしたこと。
それはデュエリストとして、いや対等の友人としてするべきではなかった行為だ。
個人的には心情的に理解できなくはないのだがな…………。
「聞いているとも。なんでもコウキとのデュエルで手加減をしてしまったと…………」
「そうだ! デュエルはいつだって真剣勝負! たとえ実力に差があったとしても手加減など許されるはずがないッ!」
コナミから話を聞いた限りでは手札に来てたカードを使えば勝てる試合を、コウキがエースを出せて楽しんでいるようだからと使わずに引き延ばしてしまったと言っていた。
それを強風が吹いたために飛ばされたカードを見られて知られてしまったと。
「確かに今回の件はコナミに落ち度がある。だが! その件については何度もコナミは謝った! それに手加減をしてしまったのはあの時だけど言っていた。嬉しそうなコウキを見て思わずしてしまったと」
「それが何の慰めになるってんだ! コナミとコウキは
友達か………。きっと、コナミは嬉しかったのだろうな。
コウキとのデュエルで調子よくデュエルしている姿を見て、もっと長くデュエルがしたいと思い。
魔が差してしまった。
だが…………。
「言いたいことはわかる。対等だと思っていた友達に手加減されて傷ついたというのもな。だが、一度の過ちをいつまでも引きずって許してやらないのは狭量ではないのか? 友であるならば反省している姿を見て許してやるものだろう!」
少なくとも、反省し心から謝罪していることを認めてやってもいいはずだ。
謝罪すら受け取ろうとしないのはコウキの側に問題があるとしか思えん。
謝罪を受け取って本気のデュエルをすることでお互いの気持ちを再確認する。
そうして仲直りをすれば以前と同じように仲良くできるはずだ。
なぜそれができん!
そうでなくとも、手加減など必要のないほどに強くなれるよう努力をすればいいだろうに。
意地になっているのか、引っ込みがつかなくなっているのかはわからないが…………。
今のコウキにの対応に正当性があるとは俺には思えんのだ。
「はっ! 流石は優等生様! 俺たち劣等生とは心まで出来が違うらしい!」
「何だと?」
ヒロシが心底馬鹿にしたような顔で俺を煽ってくる。
ヒロシの奴、何のつもりだ?
先ほどからそうだが、俺を怒らせようとしているのか?
口が悪いのはいつものことだが、今日はいつにも増して煽ってくる。
「…………ヒロシ。俺は別にお前と言い争いがしたいわけではない。俺はあくまでコナミとコウキの仲を取り持ちたいだけなのだ。そのためにお前に協力してほしいんだ」
「それはコナミのためか?」
「もちろんコウキのためでも…………いや、そうだな。誤魔化すのはやめよう、これはコナミのためだ。俺は全国大会という大舞台で戦う友のために、できうる限りのことをしてやりたい。そのためにもコウキの件を解決して心の憂いを晴らしてやりたいのだ」
俺はヒロシの問いかけに誤魔化さないことにした。
コウキのためでもあるというのは噓ではないが正しくもない。
俺の心はあくまでコナミの側にある。
たとえ原因がコナミにあるとしても普段からの素行の悪さも合わせて、1度の間違いをいつまでも引きずって許してやらないコウキに肩入れしてやることは俺にはできん!
「やっぱりな。結局お前はそっち側だ。俺たちとは違う。…………コウキからの伝言だ。俺に勝てたら話してやるとさ」
「なるほど、コウキと話したければお前をデュエルで倒してからだということか。何故そうなるのかはわからんが、いいだろう。ヒロシ、お前をデュエルで倒そう」
ヒロシが事前に持ってきていた余分に持ってきていたデュエルディスクを借りて、俺はデッキをセットした。
「はっ! てめえとやるのはいつぶりだろうな。敗けて泣きべそかくんじゃねえぞ!」
「誰に言っている。お前こそ腕は鈍ってはいないだろうな。一瞬で片がついても知らんからな」
そして俺たちはお互いの友のためのデュエルを開始した。
「「デュエル!!」」
楽しいデュエルにするために手加減は正直したことあるんです。