やばかった。休みの日だからって寝てたら半日近く眠り込んでた。
久々だわー。
深い霧に包まれた湖の畔。
数年前にガガギゴとデュエルした森に僕は立っていた。
「……ガガギゴ」
しばらくボーっと湖を眺めて立っていると、いつからいたのかガガギゴが僕の隣に佇んでいた。
「ガガギゴ、随分と久しぶりだね。ソリッドビジョンでなら何度もあってたけど……また勝手に僕をこの変な森に連れて来たの?」
「…………ここは夢の世界。お前の記憶から作り出された幻影にすぎん。俺が連れて行った場所とは違う」
夢の世界?
そうか、だからこんなに霧が濃いのか。
「それじゃあガガギゴも夢なの?」
「違う。俺はお前が作り出した存在ではなく、カードの精霊そのものだ。精霊を見る力を持たぬお前と話すには、不確かな世界である夢に干渉する他なかった」
夢は形を持たぬ不確かな世界。
ガガギゴのマスターとして繋がっている僕に対してなら夢の中へ干渉することも不可能ではないらしい。
それでも容易にできることではないため、夢に干渉したのも今回が初めてらしいが……。
「それで? わざわざ難しい夢の中に入ってきてまで何しに来たのさ」
「ふむ、情けないことにいつまでも辛気臭い顔をしていたのが、多少見れる顔になったのでな。一つ話をしに来た」
「話?」
「ああ。自らのミスで友を無くしたと嘆いていたお前を見ていたら、この情けない男が俺のマスターなのかと思ってな。あまりに酷い俺の境遇に文句の一つも言いたくなったのだ」
うっそだろこいつ。
僕に文句を言うためだけに夢の中に入って来たのか!?
「まあそれでも、自らの愚かさに嘆き悲しみ、泣いていたお前の姿は中々どうして……くっ。今思い出しても嗤いが込み上げてきそうになる」
くふ、あーはっはっはっ! と顔を手で覆って笑い出したガガギゴを見て唖然としながら僕も心底思った。
やっぱこいつ性格めちゃくちゃ悪い。
どこに正義の心を持つ要素があるのか。
人が悲しんでいるのを面白がるなんて、そんなだから邪悪に呑まれるんだ。
ふざけやがって、これからもデュエルで使い倒してやる。
そしてカタパルトタートルで射出しまくってやる!!
「ふう。さて、時間が限られている以上そろそろ本題に移るか」
「本題? 僕を笑いに来ただけなんじゃないの?」
「そんなわけがないだろう。少しは考えろ、馬鹿なのかお前は。……いや馬鹿だったなお前。すまない、俺が悪かった」
「おい! いい加減にしないとそろそろ僕も怒るぞ!」
謝罪をしながらも、哀れんだ目で見てくるガガギゴに対して僕は睨みつけながら怒鳴りつけた。
「まあそう怒るな。それで本題だが、お前も薄々気づいているだろう。思うようなデュエルができていない事実に」
「それは……まあ……」
以前から感じていたこと。それは思うようにデッキが回らないと言う感覚。
正確に言えば回ってはいるのだが、もっとやれると言う感覚が拭えずにいた。
「ガガギゴは原因を知っているの?」
「無論知っている。だが、それを教えてやる気はないな」
こいつ!
原因を知ってるくせに教える気がないとか、じゃあ何のためにわざわざ話してきたんだよ。
「はぁ。じゃあ何で話題を振ってきたのさ」
「なに、我がマスターが分不相応にも全国大会という身の丈に合わぬ大会に出ようと言うのだ。流石の俺もマスターが大勢の前で恥を晒すところなど見たくはないのでな、一つアドバイスをしてやろうとな」
こいつ本当に嫌味な言い方しかしないな。
恥を晒すところを見たくはないって言うが、どこまで本当なのやら。
「それで、アドバイスって?」
「対戦相手を間違えないことだ」
「…………はあ? それどういう意味?」
「わからないのなら、リスペクトデュエルとやらにでも倣うことだな」
そう言い捨てるとガガギゴは僕を置いて森へと歩いていく。
「おいガガギゴ! ……ッ! 霧が濃くなって!?」
森の中を覆っていた霧がより濃くなっていき、僕の視界を真っ白に染まっていく。
同時に目覚める時が来たのか、薄れゆく意識の中でガガギゴの声が森にこだまして響いてくる。
「これは夢だ。覚めれば消える泡沫の夢。俺が伝えたこと、取りこぼさないことだ」
その言葉を最後に僕の視界と頭は真っ白に塗り塗りつぶされていった。
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そして夢から覚めて少し経ち、全国大会当日。
僕は応援に来てくれた愛理ちゃんと三沢君。そして彩音さんは巨大なドーム状になっている全国大会の会場へと来ていた。
「おー! さすが全国大会。すごい活気だ」
「うむ。規模も地区大会とは差があるな。テレビにも映るわけだし、あまり恥ずかしいふるまいはしないでくれよ?」
会場の人混みとテレビ局らしき人たちを見た三沢君が僕を見ながら注意してきた。
「三沢君!? 流石の僕でも大勢の人の前でそんな変なことはしないよ!」
「そうよ! たしかにコナミ君は勉強はできないし、考えることはデュエルのことばかりで、将来が心配になるくらいどうしようもない人だけど。常識は持ってる人よ!」
愛理ちゃん!?
どうしようもない人って、僕のことそんな風に思ってたの!?
「愛理。それフォローになってないよ。ほら、コナミ君落ち込んじゃってるから」
「あっ、ごめんなさい。つい……」
ボロクソな評価を言われて落ち込んだ僕が居た堪れなくなったのか彩音さんが代わりに慰めてくれた。
「ははは! まああまり気負い過ぎなければいい。お前は考えるのが得意ではないんだ。心のままにデュエルをすればいいさ」
「はじめっからそう言ってよ。回りくどいなあ」
結局三沢君が言いたかったのは全国大会だからって緊張しすぎるなってことなんだろうけど、それならそうと言ってほしいものだ。
「さて、それではこの後だが、コナミは選手だから受付に行った後、試合まで控室で待機だったな。俺たちはお前が試合場でデュエルするところを応援しているから頑張れよ」
「うん。大丈夫、必ず勝って優勝するから。安心して見ててよ」
「コナミ君。応援してるから、頑張ってね!」
「それじゃあまた後でね。私も愛理と一緒に見てるから優勝してね」
そうして三沢君たちと別れた僕は受付で試合用のデッキ登録をした後、選手用の控室へと向かっていた。
しかし、実際僕は優勝できるのだろうか。
相手は全国から集まった強豪たち。
愛理ちゃんたちの前でこそ安心して見守っていてくれと言ったものの、正直そこまで自信があるわけではない。
三沢君との特訓。
それはたしかに僕のデッキをより強くしてくれた。
しかし僕自身の問題は解決されていない。
三沢君が言った、ドロー力の低下という問題は…………。
「もし、そなた今よろしいか?」
「え?」
控室への通路を1人で考えながら歩いていると後ろから僕のことを呼ぶ女性の声が聞こえた。
「あっ、はい。何でしょうか…………えっと、巫女さん?」
僕を呼ぶ声に振り向いた先、そこに立っていたのは巫女装束を着た年上の女性だった。
この人が僕を呼んだのかな。
何の用かは気になるけど、それ以上になんでこの人巫女服を着ているんだろう。
「ふむ、珍しい恰好をしている自覚はあるが、そうじろじろと女性を見るものではないぞ。失礼であるし、不快な気持ちにさせかねん」
「あっすみません。それで僕に何か?」
「私は
斎王美寿知さん…………たしか、三沢君が教えてくれた選手の中にこの人もいたはずだ。
ということはこの女性も選手か。
「はい。まだ時間に余裕はありますし、お話は大丈夫ですけど…………」
「そうか。廊下で話すのもよくない。私の控室がが近くにある。ついてまいれ」
美寿知さんは僕の返事を聞くとスタスタと後ろを向いて歩き始めた。
美寿知さんか。
僕に話ってなんだろう。
まさか敵情視察ってことは…………ないか。
対戦するかはまだわからないから意味があるとは思えないし、それに僕のような年下の子供より実力も経験もありそうな大人の人にするよね。
そうして前を歩く美寿知さんを見ながら内心僕は考える。
しかし巫女さんかー。
神社以外で見るのは初めてかもしれないなあ。
こうして後姿を見るのも初めてだし、すごい新鮮だ。
「ここじゃ。中に入るがよい」
そうして案内された先にある美寿知さん用に用意された控室に入った僕は椅子に座って美寿知さんの話を待った。
「…………それで、お話って何でしょうか?」
「実はな、私の兄がそなたに興味を持っていてな。一度話してみたいと思っておったのだ」
「お兄さん…………?」
美寿知さんのお兄さん。
美寿知さんが言うには以前僕と会ったことがあるらしく、その時に興味を持ったらしいんだけど…………ダメだ、思い出せない。
「すみません。ちょっと思い出せなくて…………」
「ふむ、いやそれならそれでよい。兄も殊更素性を明かしたわけではなかろうしな。実は私たち兄妹は占いを生業にしていてな、恐らく客としてきたそなたを占ったのであろう」
「占い…………?」
占いって言えば修学旅行の時に見てもらった時のことかな…………?
たしかあの時占ってもらった人はフードを深くかぶってて顔が見えなかったけど、もしかしたらあの人が美寿知さんのお兄さんだったのかもしれないな。
「私が今回大会に出場しているのも占いの導きによるものでな。恐らく、そなたと出会うのに必要だったのだろう」
「はあ」
僕と出会うために大会にって…………なんで?
いや占いを生業にしてるからそれに従ったってのはわかるんだけど、ただお兄さんが興味を持ったってだけで大会に出てまで会いに来るほどかなあ。
僕はコップに注がれたお茶を飲んでいる美寿知さん見ながら疑問に思った。
一体美寿知さんの占いでなにが出て僕に会いに来たんだろうか。
「どれ、そなたが嫌でなければ一つ私にも占わせてもらいたのだが、よいかの?」
「占いですか…………」
試合前に占うってどうなんだろう?
美寿知さんの占いがどれほど精度の高いものかはわからないけれど、内容によっては僕のデッキ内容まで知られるとか可能かもしれないし。
「なに、案ずるがよい。何もそなたの試合内容まで占うつもりはない。ただ、兄が見たものを私も見てみたいだけなのだ」
うんうんと悩む僕を見た美寿知さんが僕が心配していることを悟ってデュエルそのものは占わないと約束してくれた。
「それならまあ…………はい。大丈夫です」
「そうか。それならこの鏡を見てほしい。私の占い方法は御鏡占いと言ってな、鏡で映した相手の未来を占うことだができる」
そういって美寿知さんは机の上に鏡を置いて僕に覗き込むように促した。
鏡を使った占いかあ。
以前占ってもらった時はタロット占いとか言うやつだったな。
占いにも色々な方法があるんだなあ。
そう思いながら僕は美寿知さんが用意した鏡を覗き込み占いの結果を待った。
そうして待っていると、鏡が鈍い光を放ち始め、そこに映っている僕の姿に微かな光が散りばめられた靄がかかっているのが僕にも見えた。
「…………ほう。これは…………そうか」
美寿知さんは僕以上に色々と見えているのか、感心するような心配するような声を上げて鏡を見つめ続けた。
そして占い終わったのだろう。
鏡から顔を離してよいと言われ、僕は元の椅子に座りなおした。
「それで、なにかわかりました?」
「うむ。そなた、好くないものに憑りつかれておるな。既に取り返しがつかない程に深く根ざして居る」
「…………えぇえええ!!!」
憑りつかれているって僕、幽霊に憑りつかれているの!?
僕はあんまりな占い結果に信じられないという表情で美寿知さんを見た。
「そう大声を出すな。そなたが心配しているような悪霊の類ではない。…………いや、ある意味ではそういってもおかしくはないのだが、ともかく落ち着くのだ」
美寿知さんが驚きで問い詰めんばかりに冷静さを失った僕を見ながら落ち着くように促してくる。
いや落ち着けって言われても、憑りつかれているなんて言われて落ち着くことなんてできないんですけど…………。
まさか試合直前にこんなとんでもないことを聞かされるなんて。
と、とりあえず占い結果を聞かないと、試合に集中できないかもしれない。
「それで、具体的に何が見えたんですか?」
「私が見たのはそなたの運命だ。憑りつかれていると言ったのも過酷な運命がそなたを襲うということ。何か…………そう、世界の存亡に関わるような事件にそなたは巻き込まれるだろう」
世界の存亡…………?
ああ! 愛理ちゃんが言っていた世界の危機の件かぁ。
なんだ、驚いて損しちゃった。それなら確かに巻き込まれることは確定しているな。
僕は首からぶら下げているクリスタルのネックレスを見て思い出した。
憑りつかれているなんていうから早とちりしちゃったよ。
まあでも、悪霊に憑りつかれていると言われても嘘ではないのかもしれない。
現在進行形でガガギゴに憑りつかれているようなものだしな。あいつは精霊だけど性格的には悪霊寄りだろう。
「兄が興味を持ったのもそなたの未来に訪れる試練を見通したゆえであろうな。コナミ、協力感謝する。試合前の貴重な時間を取らせてすまんかった。もう戻ってよいぞ」
「はい。それでは失礼します。試合で当たったらいいデュエルをしましょう」
美寿知さんとの話が終わった僕はよいデュエルをしようと挨拶をして控室を出て、僕用に用意されている控室へと向かった。
美寿知さんか。
巫女さん衣装を着ていたり口調が古風だったりと不思議な人だったけど悪い感じの人じゃなかったな。
うーむあの人とデュエルか。
占いを生業にしてるって言ってたからデュエルの内容も占いで決めてたりするのかな?
そんなことを考えながら、僕は控室に入り試合までの時間を静かに待ち続けた。
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控室からコナミが去った後、美寿知は一人占い結果について反芻していた。
あのコナミという少年に纏わりついていた運命。
それは私にはもはやどうしようもできないものであった。
私が少年に会いに来た本当の目的、それは占いの客から見せられた何らかのカードによって変わりゆく兄を止めうる人物かどうかを見定めるためであった。
少なくとも私自身が占った段階では少年はそれを可能にしうる存在であった。
しかし時既に遅かった。
彼は私が出会うより早くに兄と出会い、その運命に歪んだ光が干渉していた。
恐らく、彼自身というより彼に運命を背負わせた何者か。
少年に纏わりついて決して離れない影。
その存在を通して彼の運命に少しづつ影響を与えようとしているのだろう。
「さて、どうしたものか…………」
既に私の目的は果たした以上、この大会に出場する意味はない。
しかし、意味はないが意義はある。
私が少年とデュエルすることで彼の運命に微かな光明が差すという未来。
私の目的に沿うものではないが、ここで帰るのも寝覚めが悪い。
「いいデュエルか、それもよい。この出会いもまた運命。一つ、あのコナミという少年を導いてやるとしよう」
そばに置いていた私のデッキが私の意志に応えるように輝いていた。
それを見ながら私はデッキを手に試合の時間が来たことを見て控室を出ていった。
美寿知の口調はよくわからん。