アニメ見ててダンディライオンって十代が生み出したカードだったかぁと気づいて、じゃあ使えねえなあとちょっと残念な気分になってます。
全国大会、三田川さんとの1回戦を超えてから1日経ち、僕はその後も苦戦しながらもなんとか準決勝まで勝ち上がってくることができていた。
準決勝はこれから行われる。
それに勝てれば決勝戦の切符を手にすることができる。
「あと2回だ。あと2回勝てばいい。全力でデュエルして、ただ勝利すれば……」
僕はデュエルが好きだ。大好きだ。
デュエルをしていると驚くような戦術で強大なモンスターを出してくることがある。
そのモンスターをどうやって攻略しようかと考えたり、追い詰められた状況からの逆転方法を考えるのが好きだ。
だけど、最近はデュエルするたびに心が暗く冷たくなっていくのを感じる。
「大丈夫。まだやれる。必ず勝てる。必ず勝つ!」
僕は顔を俯かせながら祈るように強く呟いて、デッキを手に試合場へと向かった。
試合場へと向かうと既に対戦相手の美寿知さんが待っていた。
「美寿知さん。準決勝、悔いのないデュエルをしましょう」
「…………ふふ。そなた、それは本心から出た言葉か?」
「…………?」
僕が挨拶代わりの言葉を伝えたら、美寿知さんが笑いながら面白いことを聞いたと言わんばかりの表情で答えた。
今の言葉、そんなに可笑しなことを言ったつもりはないんだけどな。
デュエリストがデュエル前にする挨拶としてはごく一般的なものだと思うんだけど…………。
「私はともかく、そなたは敗けたら後悔しか残らないであろう。それなのに悔いなきデュエルとは片腹痛い」
「…………!?」
なぜ…………美寿知さんは僕が優勝しなければならないことを知っているのか?
コウキとの件も、推薦の話も僕が話した覚えはない。
だとするならば…………占いか?
先日控室で行った占いで優勝を目指す理由まで占ったのか!?
「そなたの考えている通りよ。私は占いでそなたの未来を読んだ。その時に少しな…………」
「くっ、そうですか。では僕が敗けるわけにはいかないことは知っているのですね」
僕は知られたくないことを知られていたことに苦い表情をしながら僕のことを今も笑っている美寿知さんを見る。
「うむ、中々切実な思いで大会に臨んでいるようではないか」
「では初めに言っておきます。僕は絶対に勝たなくてはいけない。だからあなたが占いで何を見たのかは知りませんが、このデュエルは僕が勝ちます!」
「ふふ、気合で勝てるならデュエルは簡単であろうよ。それに、今のそなたでは私にはまず勝てん。そなたの目は曇りきっておる」
「なんであろうと関係はありません。今の僕に必要なのは勝利だけです!」
僕は試合時間が来たことを確認し、デュエルディスクを展開した。
「何ともいじらしい子供よ。ではその目を覚まさしてあげましょうか」
美寿知さんも僕に続いてデュエルディスクを展開し、僕と共にデュエル開始の宣言をした。
「「デュエル!!」」
「僕のターン、ドロー!」
くっ、手札が今一パッとしない。
この大会中、引きが悪くなる一方だ。
それでもなんとか勝ってこれたんだ。ならこの試合だって問題はない!
「僕はグリズリーマザーを攻撃表示で召喚! カードを1枚伏せてターンエンド」
「私のターン、ドロー!」
美寿知さんのターンか。
美寿知さんはどんな戦術を使ってくるだろうか。
「私は手札から魔法カード 愚かな埋葬を発動! 私のデッキからカードを1枚墓地へ送る。私は黄泉ガエルを墓地へ!」
モンスターを墓地へ送るカード。
黄泉ガエルはたしか毎ターン復活するモンスター。
生贄要員の確保といったところだろうな…………。
「さらに私はドル・ドラを攻撃表示で召喚。そしてバトル! ドル・ドラでそなたのグリズリーマザーを攻撃!」
《ドル・ドラ》 攻撃力1500 守備力1200
ドル・ドラの攻撃によって僕のグリズリーマザーが破壊される。
《コナミ》 残 LP 3900
「ぐぅ。グリズリーマザーが戦闘で破壊されたことで効果発動! デッキから攻撃力1500以下の水属性モンスターを特召喚できる。僕はヒゲアンコウを召喚!」
《ヒゲアンコウ》 攻撃力1500 守備力1600
「では私はこれでターンエンド」
「僕のターンドロー!」
美寿知さんの場に伏せカードはなし。
黄泉ガエルの復活効果を狙ってのことか…………。
そしてドル・ドラ。
あのモンスターも破壊された場合、復活する効果を持っていたはず。
つまり、次の美寿知さんのターンが来れば最低でも2体分の生贄が用意されることになる。
まだ2ターン目だから断定はできないけれど、美寿知さんの戦術パターンが少し見えてきた。
恐らく復活能力を持つモンスターで生贄要員を確保して上級モンスターの召喚を狙っていく戦術。
だったらその戦術の肝である特殊召喚を可能な限り封じてしまうのがいい!
「僕は手札から豪雨の結界像を召喚! このモンスターがいる限り水属性以外のモンスターの特殊召はできない!」
「なに!? それではドル・ドラの効果が…………」
《豪雨の結界像》 攻撃力1000 守備力1000
豪雨の結界像で封じれるのは水属性以外のみだから黄泉ガエルの復活までは防げないけど、最上級モンスターの召喚は止められる。
何を召喚したかったのかはわからないけれど、エースモンスターは出させない!
「バトルだ! 僕はヒゲアンコウでドル・ドラを攻撃! そして豪雨の結界像でダイレクトアタックだ!!」
「きゃぁああ!」
ヒゲアンコウが美寿知さんのドル・ドラと相打ちになり、そのままがら空きとなった場に豪雨の結界像がダイレクトアタックを決めた。
《美寿知》 残 LP 3000
「僕はカードを1枚伏せてターンエンドです」
「くっ、豪雨の結界像がいるため、ドル・ドラの効果は発動しないか。私のターンドロー!」
よし、今のところ僕の優位に進めている。
美寿知さんが狙っていたであろう最上級モンスターの召喚も防ぐことができた。
「この瞬間、墓地にいる黄泉ガエルの効果発動! 私のスタンバイフェイズに私の場に魔法・罠がない場合、特殊召喚される。…………ふふ、コナミよ。さすがに腐っても大会を勝ち抜いてきただけはある。私の狙いを即座に察知し、阻害してくるとはの」
《黄泉ガエル》 攻撃力100 守備力100
「腐ってもは余計です美寿知さん。あなたが僕をどう思っているのかはわかりませんが、僕に言いたいことがあるのなら勝ってから言ってください」
「それでは遅かろう。私が大会に出た意義がない。私が未だにこの場にいるのはそなたに可能性をもたらすためなのだから」
可能性…………?
何を言っているんだこの人は…………。
「よい。そなたが自覚するには、まだ場が温まってはおらぬからな。さて、ではデュエルを続けよう。私は黄泉ガエルをリリースして手札から氷帝メビウスをアドバンス召喚」
「氷帝メビウス!?」
しまった!
美寿知さんの狙いは最上級モンスターの召喚だけではなかったか!
《氷帝メビウス》 攻撃力2400 守備力1000
「氷帝メビウスの効果発動! このモンスターが生贄召喚に成功した時、相手の魔法・罠カードを2枚まで破壊することができる。私はそなたが伏せた2枚のカードを破壊!」
「ッ! 僕はチェーンして凡骨の施しを発動! デッキから2枚ドローして手札の通常モンスターを1枚除外する。僕は手札のガガギゴを除外!」
まさか召喚してくるのが氷帝メビウスだったなんて。
てっきり最上級モンスターの召喚を狙っていると思っていたんだけどな。
読み違えたか…………。
「まだ終わりではないぞ。私はさらに二重召喚を発動。私はさらなる召喚をすることができる。私は氷帝メビウスをリリースして、雷帝ザボルグを召喚!」
「なぁッ!? 氷帝メビウスをリリースして新たな帝モンスターの召喚!?」
《雷帝ザボルグ》 攻撃力2400 守備力1000
「雷帝ザボルグの効果。このモンスターの生贄召喚に成功した時、相手モンスター1体を破壊する。私は豪雨の結界像を破壊!」
「ぐぅ、豪雨の結界像が…………!」
雷帝ザボルグが生み出した雷によって豪雨の結界像が破壊された。
氷帝メビウスに雷帝ザボルグ。これは…………間違いない。美寿知さんのデッキは帝デッキだ!!
「さて、これで場が空いたの。では…………雷帝ザボルグでダイレクトアタック!」
雷帝ザボルグが天空に生み出した雷雲から雷を僕に落としてきた。
「ぐっぁああああ!!」
《コナミ》 残 LP 1500
「私はこれでターンエンド。そなたのターンだ」
「ぐぅ、僕のターン…………ドロー!」
くっ、まさか帝デッキだったとは。
帝モンスターは僕の知る限りだと4種類だったはず。
美寿知さんが召喚したのは氷帝メビウスと雷帝ザボルグ。だからあと見ていないのはあと2体か……。
どんな効果をしているのかはわからないけれど、一律して共通しているのはアドバンス召喚で効果を発動する点。
僕は美寿知さんの場を再度確認するため目を向けて……!?
「なっ……コウキ!?」
なんで……美寿知さんに重なってコウキが見える。
どうして……美寿知さんのそばにコウキが見えるんだ!!
「ふふふ、どうかしたかの? そんなあり得ないものを見たような顔をして」
「い、いえ。すみません」
僕は確認するためもう一度美寿知さんを見つめる。
ダメだ。やっぱりコウキがそばにいるのが見える。
幻覚…………?
勝たなければという思いが生み出してしまった僕の幻なのか…………!。
くっ、何が何だかわからないけれど、デュエルは続けないと、遅延行為と見做されかねない。
「僕は手札からアビス・ソルジャーを召喚! アビス・ソルジャーは手札の水属性モンスターを1体を墓地へ送ることでフィールド上のカードを手札に戻せる。僕はグリズリーマザーを墓地へ送り雷帝ザボルグを手札に戻す!」
《アビス・ソルジャー》 攻撃力1800 守備力1300
よし! どれだけ攻撃力が高くても黄泉ガエルを使用する以上、守るカードを伏せることはできない。
だから、倒せなくとも手札に戻せばいい!
「そしてアビス・ソルジャーでダイレクトアタックだ!」
「きゃぁ!」
《美寿知》 残 LP 1200
「僕はカードを1枚伏せてターンエンド!」
僕の手札には最上級モンスターであるスパイラルドラゴンがいる。
召喚できればよかったんだけど、仮に召喚できても美寿知さんのターンが来れば再び雷帝ザボルグを召喚されて破壊されてしまう。
それならば手札を温存して、ここぞと言う時にフィニッシュ要因として残ってもらった方がいだろう。
僕はチラリと美寿知さんのそばに見えるコウキを見る。
やっぱりまだ見える。
周囲で観戦している人たちが気にしていない以上、恐らくあれは僕にしか見えていないのだろう。
「私のターン、ドロー!」
美寿知さんのターンが来た。
このターン、美寿知さんの行動次第では負ける可能性もある。
雷帝ザボルグでアビス・ソルジャーが破壊してくる可能性が高い以上、1枚の伏せカードが生命線だ。
「私のターンが来たことで黄泉ガエルが特殊召喚される。私は手札から強欲な壺を発動。カードを2枚ドロー。そして黄泉ガエルリリースして──」
来るかッ! 雷帝ザボルグ!
「私は炎帝テスタロスをアドバンス召喚!」
「なにぃ!?」
《炎帝テスタロス》 攻撃力2400 守備力1000
雷帝ザボルグじゃない!
新しい帝モンスター!?
「炎帝テスタロスの効果! このモンスターが生贄召喚に成功した時、相手の手札を1枚墓地へ送り、それがモンスターだった場合、そのモンスターのレベル×100ポイントのダメージを与える。私はそなたの3枚の手札の内、真ん中の手札をを捨てさせる!」
「手札破壊の上に、バーンダメージまであると言うのか!」
くっ! 僕の手札の真ん中のカード…………スパイラルドラゴン!
「破壊されたのはスパイラルドラゴンであったか。ならばそのレベル分のダメージを受けるがいいッ!」
炎帝テスタロスの頭上に炎で作られたスパイラルドラゴンが現れ、僕を吞み込んだ。
「がぁああああ!」
《コナミ》 残 LP 700
ぐぅ、スパイラルドラゴンのレベルは8。
まずい、残りライフがいつなくなってもおかしくはないところまで減ってしまった!
「では私はそのままバトルだ。炎帝テスタロスでそなたのアビス・ソルジャーを攻撃!」
「僕はリバースカードを…………」
はっ! いや、だめだ。ここではまだ発動させないッ!
そして炎帝テスタロスの攻撃によって破壊されたアビス・ソルジャーとの攻撃力分のダメージが僕を襲った。
「がっ!」
《コナミ》 残 LP 100
「ふふ、もはやそなたのライフは風前の灯。次のターンで終わるやもしれぬな。私はカードを1枚伏せてターンエンド」
「はぁ、はぁ。僕のターン、ドロー!」
ぐっ、僕は敗けるわけにはいかない。
絶対に勝たなければいけないんだ!
「ふふふ。勝たなければか…………その強い思いがそなたの目を曇らせているというのに、それに気づいていないとは」
美寿知さんが何かを呟いているが、そんなことを気にしている場合じゃない。
黄泉ガエルの復活コンボ、それは早く処理しなければ僕に勝ち目はなくなる!
「ふむ、もはや友の存在さえ見えぬ様子。哀れなものよ」
美寿知さんはカードを1枚伏せた。
黄泉ガエルの復活効果は伏せカードがあっては発動できない。
しかしそれをわかったうえで伏せた以上、僕のターンで確実に発動するカードか、もう必要ないと判断したかだ。
どうする。強引にでも攻めるか?
でも僕のライフはもう残り僅か。吹けば飛ぶライフだ。
無理をするのは…………。
「コナミよ。もはや私の声もそなたには届くまい。ゆえに、私の力をもってそなたの心に直接語り掛けよう」
よし、ここは攻める!
たとえ罠だったとしても、ここで引けば僕はこの先負け続ける未来しかなくなる!
「僕は墓地にあるスパイラルドラゴンとヒゲアンコウを除外することで手札からフェンリルを特殊召喚!」
《フェンリル》 攻撃力1400 守備力1200
気が付けば、コウキの幻が美寿知さんのそばから消えている。
なんだったのかわからないけれど、今がチャンスだ!
「僕はさらにフェンリルをリリースしてギガ・ガガギゴを攻撃表示で召喚!」
《ギガ・ガガギゴ》 攻撃力2450 守備力1500
「なればこの瞬間、私はリバースカード クローン複製を発動! そなたが召喚したモンスターと同じ能力を持つクローントークンを1体私の場に特殊召喚する」
「クローン!?」
《ギガ・ガガギゴ クローン》 攻撃力2450 守備力1500
なんてことだ、美寿知さんの場に上級モンスターが2体も揃ってしまった。
このターンで倒せるのは1体のみ、そして次の美寿知さんのターンが来れば黄泉ガエルが召喚されて生贄要員となる。
出てくるのは、可能性が高いのはやはり雷帝ザボルグ。次点でそれ以外の帝モンスターか…………。
「でも、僕のできることはこれしかないんだ。僕はギガ・ガガギゴで炎帝テスタロスを攻撃! ギガノ・ブレイク!」
「ふっ」
《美寿知》 残 LP 1150
「僕はカードを1枚伏せてターンエンドだ」
「では私のターン、ドロー! この瞬間、黄泉ガエルが特殊召喚される」
これで美寿知さんの場にはギガ・ガガギゴのクローンと黄泉ガエルが揃った。
このまま攻撃されたとしても、僕のライフを削りきることができる攻撃力だ。
「私は黄泉ガエルをリリースすることで手札から地帝グランマーグを攻撃表示で召喚!」
《地帝グランマーグ》 攻撃力2400 守備力1000
来たッ! 最後の帝モンスターがッ!
「そして地帝グランマーグの効果発動! このモンスターのアドバンス召喚に成功した時、相手の場にセットされたカード1枚を破壊する!」
「くっ、僕はリバースカード イタクァの暴風を発動! 相手のモンスター全ての表示形式を変更する!」
これでグランマーグは守備表示になり攻撃はできず、このターン攻撃できるのはギガ・ガガギゴのクローン1体だけで済む。
「私は手札から死者蘇生を発動! 墓地にあるモンスターを特殊召喚する。私は墓地へ行った炎帝テスタロスを特殊召喚!」
《炎帝テスタロス》 攻撃力2400 守備力1000
ここにきて死者蘇生…………。
僕の脳裏に敗北の二文字が色濃く広がっていく。
ダメなのか。
ここまでが、僕にできることだったのか…………?
「バトル! 私はギガ・ガガギゴのクローントークンで、そなたのギガ・ガガギゴを攻撃!」
「くっ、ギガ・ガガギゴがッ!」
ギガ・ガガギゴ同士が攻撃しあい、相打ちとなった。
「これを受け止めきれるか? 炎帝テスタロスでそなたへダイレクトアタック!」
これを受ければ僕は敗けてしまう。
でも…………それもいいかもしれない。
これ以上続けたところで…………。
『──コナミ君!!』
「──ッ! 愛理ちゃん!?」
僕が絶望的な状況に勝負を諦め、目を閉じた瞬間、脳裏に僕を呼ぶ愛理ちゃんの声が聞こえた。
「ぐっ…………僕は! リバースカード 甦りし魂を発動! 僕の墓地にいる通常モンスター1体を守備表示で特召喚する。僕はギガ・ガガギゴを守備表示で召喚!」
「ほう、しかし無意味よ! 炎帝テスタロスでギガ・ガガギゴを破壊!」
僕の場に召喚されたギガ・ガガギゴが炎帝テスタロスの攻撃によって焼き払われた。
「これで私はターンエンド。さて、ではこれがラストターン。コナミよ、そなたの最後のドローだ。心して引くがよい」
間一髪、なんとかこのターンを凌ぐことができた。
愛理ちゃんの声が聞こえてこなければ僕は今の攻撃で敗けていただろう。
僕は観客席にいる愛理ちゃんたちを見上げる。
そこには三沢君たちが諦めそうになっている僕を心配そうに見下ろしていた。
その中で愛理ちゃんだけが、祈るように両手を結んで目を瞑っている。
「やっぱり、今の声は愛理ちゃんが…………」
『そう。そなたを想う少女の想いが、カードを伝わりそなたへと語り掛けたのだ』
「…………!?」
僕が観客席の愛理ちゃんたちを見上げていると、突如として脳内に美寿知さんの声が響いた。
『これは…………なんだ!? 声が出ない!』
『無駄なことはするでない。今、私の力でそなたの心に語り掛けているのだ』
『これは…………美寿知さんの仕業なのか!?』
ふと足元を見ると、僕が立っている場所は全国大会の試合場ではなく星が瞬く宇宙空間へと移動していた。
『ここは…………』
『これは幻、私の力で作り出した夢のようなものだと思うがよい』
僕の目の前には美寿知さんが立っていた。
『美寿知さん…………なんで』
『そなたが哀れでな。勝利に目がくらみ、デュエリストとして大切なことを忘れた愚か者。そんな子供がおれば、手助けしてやりたくなるというもの』
『……僕が勝利に固執して忘れているものがあるって?』
『そう。身に覚えはあるはず。この大会中、いや………私との試合の最中に友の姿が見えたであろう』
友達の姿……コウキのことか。
美寿知さんの言葉の通りなら、あの幻は美寿知さんが作り出していたものだったのか。
『あれはそなたの心の闇が生んだ幻。そなたの勝ちたい思いが生んだ心の闇そのものなのだ』
『僕の……心の闇』
勝ちたいと言う思い。
たしかに僕はこの大会中、只ひたすらに勝利だけを求めていた。その先にあるコウキとのデュエルのために。
『そう。心の闇がそなたとデッキの絆に蓋をしてそなたの力を阻害していたのだ』
まさかそんなことが……。
僕の勝ちたいと言う思いが逆に僕を弱くしていたなんて……。
『コナミ、デッキに心を向けるのだ。あの少女がそなたにデッキを通して想いを届けたように、そなたが正しくデッキと向き合えば必ず応えてくれる』
その言葉を最後に美寿知さんが作り出した宇宙空間の幻が壊れていき、僕の意識はは試合場へと戻ってきた。
「ここは、試合場に戻ってきたのか……」
僕は一度深呼吸をして状況を再確認した。
状況は最悪だ。美寿知さんの場には地帝グランマーグと炎帝テスタロスがいる。
対して僕の場にはカードはなく、手札もない。
正直諦めたくなる。
でも……僕の心の闇が、勝利への執着が僕自身を弱くしていたと言うのなら。
僕はデュエリストとして、もう一度デッキときちんと向き合わないといけない。
これがラストドロー。
勝つにせよ、負けるにせよ。
自分の力だけではなく、デッキを信じてドローしよう。
「愛理ちゃん、みんな。もう一度力を貸してほしい。僕のターン……ドローーー!!」
来たッ!
今、たしかにカードが微かに光って僕の思いに応えてくれた。
これまで長い間引くことのできなかったドロー。
それを今、ようやく引くことができた!
「僕の手札にこのカードしかない場合、特殊召喚できる! 手札からE・HERO バブルマンを特殊召喚!」
《HERO バブルマン》 攻撃力800 守備力1200
「さらにHERO バブルマンの効果発動! このモンスターの効果で特殊召喚された時、自分の場にカードがない場合カードを2枚ドローできる!」
僕はHERO バブルマンの効果で2枚ドローした。
引いたカードは水霊使いエリアと貪欲な壺。
愛理ちゃん、僕に力を貸しに来てくれたんだね。
僕が諦めかけた時のことも止めてくれた。本当にありがとう。
「僕は手札から水霊使いエリアを攻撃表示で召喚!」
《水霊使いエリア》 攻撃力500 守備力1500
「さらに僕は水霊使いエリアとHERO バブルマンを墓地へ送り、デッキから憑依装着ーエリアを特殊召喚する!」
《憑依装着ーエリア》 攻撃力1850 守備力1500
僕の場に、水霊使いエリアか成長した姿である憑依装着ーエリアが召喚された。
愛理ちゃんの魂はエリアでもある。
だからだろうか、今までは感じなかった彼女の気持ちがカードを通して少しだけ僕に伝わってくる。
『コナミ君、私と一緒に勝ちましょう!』
愛理ちゃん………そうだね。
一緒に戦おう。
一人で戦っているつもりだったけど、そうではないよね。
僕たちは一緒に戦っているんだ!
「憑依装着ーエリアは自身の効果で召喚された場合、貫通効果を得る!」
「貫通効果。しかし攻撃力は1850。仮に地帝グランマーグを攻撃したとて、私のライフを削りきることはできない!」
「それでも、まだできることはある! 僕はさらに手札から貪欲な壺を発動! 墓地にいるモンスター5体をデッキに戻して2枚ドローする。僕は5体のモンスターをデッキに戻して、2枚ドロー!」
僕は墓地へ行っていたグリズリーマザーを2体、豪雨の結界像、アビス・ソルジャー、フェンリルの計5体をデッキに戻してカードを2枚ドローした。
やっぱり、滑らかにドローができるようになっている。
僕がデッキに心を開いたからか。
こんな簡単で大切なことを忘れているなんて、やっぱり僕は馬鹿だな。
僕は引いた2枚のカードを見て、僕の想いに応えてくれたカードたちに感謝した。
「ありがとう、みんな。僕は手札から黙する死者を発動! 墓地にいるギガ・ガガギゴを守備表示で特殊召喚!」
《ギガ・ガガギゴ》 攻撃力2450 守備力1500
「これが最後に発動するカードだ! 僕は受け継がれる力を発動! ギガ・ガガギゴを墓地へ送り、その攻撃力を憑依装着エリアに加算する!」
「なんと!?」
ギガ・ガガギゴが光の粒子へと変換されて、エリアへと吸収された。
《憑依装着ーエリア》 攻撃力4300 守備力1500
「攻撃力が4350に!?」
「これで終わりだ! 憑依装着ーエリアで地帝グランマーグを攻撃! レイジング・ストリーム!!」
『私たちの前から…………消えなさいッ!!』
憑依装着ーエリアが杖から魔法陣を正面へと作り出し、そこから溢れだした激流がグランマーグをフィールドの奥深くへと押し流されて破壊されていった。
「ぐっ、きゃぁああ!」
《美寿知》 残 LP 0
「勝った…………僕の勝ちだー!」
僕は美寿知さんのライフポイントが0になったことを見た瞬間、腕を上げて喜びの声を上げた。
勝てた。薄氷の勝利ではあったけれど、なんとか勝つことができたんだ。
それに、最後の瞬間にたしかに感じた。
デッキが答えてくれたあの感触。
もう忘れてはいけないな。デッキと心を通わせることを…………。
「あっ、美寿知さん!」
デュエルが終わり、試合場から去ろうとしていた美寿知さんを呼びとめて僕は近づいた。
「美寿知さん、あの──」
「コナミ、そなたの力はまだ完全に戻ったわけではない。そなたの心の闇はまだそなたを蝕んでいる」
「うえ!? そうなんですか?」
「うむ、勝利への強い思い、そしてデッキとの絆。それは一つの要因に過ぎない。そして、その先にある、本当の答えを気づかせるのは私の役目ではない」
僕の不調の本当の答え。
今のデュエルで解消されたと思ってたけど、美寿知さんからするとまだ何かあるみたいだ。
「そうだ、美寿知さん。ありがとうございます。敵である僕に助言をくれて、こんなことをいうのもなんですけど、おかげで勝つことができました」
「よい、もとよりそのために試合に出たもの。それにデュエルは本気でやった。そのうえで敗けたのだ。勝利はそなたの実力だ。決勝戦、よいデュエルを見せてくれることを楽しみにしている」
そう言って美寿知さんは再び出口へと向かい歩き去って行った。
「美寿知さん。本当にありがとうございました!」
その背に向かって僕は深くお辞儀をしながら感謝の言葉を伝えた。
美寿知さん。あなたのご厚意。決して無駄にはしません。
決勝戦。
勝てるかはわかりませんが、全力でデュエルして、最高のデュエルにして見せます!
さあ、次は決勝戦。最後の試合だ!
美寿知って素でよくわからんことできてるから、まあ幻を見せるくらいわけないかなと思ってます。
魂を鏡に閉じ込めたりできてるし……。