オシリスレッド。
寮の格差はあれど、あれはあれで楽しそうだよね。
初めての実技授業から数日が経ち、今日は授業のない休みの日。
そのため、僕は愛理ちゃんと以前から約束していた島の散策もといピクニックに行くためにオベリスクブルーの女子寮へと向かっていた。
途中男子寮を横切ることになるために三沢君が懸念していた万丈目君にデュエルを挑まれると言うことがあったが用事があるということで今日は遠慮してもらった。
初めての実技授業以来チャンスがあれば挑んでくるようになっており、寮が違う相手ではあるがそれなりに仲良くできている。
ちょっとエリート意識が高いためか友達と呼べるほどの中になるのは難しそうだけど同じ道を目指すライバルとしては仲良くできている方だろう。
「そろそろ着くころ合いだと思うんだけど…………おっ! あそこかあ!」
オベリスクブルーの男子寮を横切って道なりに進んだ先に、女子寮は建てられていた。
外観は男子寮と同じような設計になっているけれど、流石に女子寮だけあってセキュリティーの問題か門で仕切られていたり専用の警備員がいて防犯設備はどの寮よりも厳重にされているみたいだった。
これなら早々問題が起こることはないだろう。
「まあそれはいいとして、愛理ちゃんは…………いたいた。おーい!」
約束していた相手の愛理ちゃんは女子寮の門の横に立って僕のことを待っていた。
流石に女子寮は男子禁制であり、僕は中には入れないということで外で待ってくれていたようだ。
「おはようコナミ君。時間通りだね」
「うん、おはよう愛理ちゃん。本当はもうちょっと早く来る予定だったんだけど、万丈目君と会っちゃってね。少しだけ話してたんだ」
予定通りなら約束の時間より少し早く着ける予定だったんだけど、女子寮に行くのに男子寮の前を通らないといけないのがなあ。
次は愛理ちゃんには悪いけど学園前くらいで待ち合わせした方がいいかもしれない。
その方が待たせずに済むだろうし、予定通りに行動できそうだ。
「それで、今日はどこに行く予定なの?」
「行きたいところはいっぱいあるんだけど、今日は海岸沿いの丘に行ってみたいんだ」
ラーイエローの先輩に聞いた話だと、海岸沿い丘には一本の大きな木が立っており人気も少ないと言うことで女の子と2人でゆっくり過ごすのに向いている穴場のスポットらしい。
火山や森は危なかったり虫がいそうで愛理ちゃんとデートするには向かない場所ということもあり、今日は見晴らしのいい丘でゆっくりと過ごそうと思ってる。
あと、これは本命ではないけれど行き先の途中にはオシリスレッドもあるということでついでに見てみたいとも考えている。
ラーイエローとオベリスクブルーの寮は見たけれど、オシリスレッドはまだ見てないからね。
寮にはランク制度あるらしく、成績の悪い順に下からオシリスレッド、ラーイエロー、そしてオベリスクブルーと続く。
競争心を煽るためかランクが高いほど寮や待遇が良くなるとのことで、失礼だがひどいと聞く1番下のオシリスレッドはどんな寮になってるのか以前から興味があったのだ。
「──というわけで行こうか愛理ちゃん」
「ええ。食堂を借りてお弁当も作ってきたから、その木の下で食べましょうか」
そうして今日の予定を話し終わった僕たちは慣れたもので、自然と手を繋いで見晴らしのいい丘があるレッド寮へと向かって歩き始めた。
目的地である丘は島の端の方にあるために結構な距離を歩かないといけない。
そしてその道中にあるレッド寮もまた同じように端の方に建てられているために時間がかかる。
全生徒に渡された携帯端末であるPDAという端末で地図を見てみると、学園が島の中央に建てられておりその付近にイエロー寮やブルー寮が建てられているのに対し、レッド寮は島の端っこ。
まさに崖っぷちと言っていい場所に建てられているようで、設置した人の性格の悪さが察せられる。
島の端まで歩かないといけないので僕たちはお互いの寮や生徒について話しながら目的地へと歩き続けた。
「そういえば、コナミ君ができれば再戦したいって言ってた吹雪さんだけど海外留学してていないみたいね」
「そうなんだよ! 丸藤さんに聞いてびっくりしちゃったよ。まあ会えたところで相手が覚えてくれてるかはわからないんだけどさ~」
愛理ちゃんたちがアカデミアの受験をするときに丸藤さんと話せたからその時に知り合いか聞いてみたんだけど、吹雪さんは海外のアカデミアに留学中とのことでこの学園にはいないみたいだった。
吹雪さんは今3年生。
留学がいつまでなのかはわからないけれど、場合によってはそのまま卒業するかもって話のようで、そうなったら残念ながら会えずじまいで終わってしまうだろう。
「流石に子供の頃の話だから、どうしてもってわけではないけど再戦はできればしたいなあ」
「仕方ないわいよ。再戦するために海外まで追いかけるってわけにもいかないし、気長に待ちましょ?」
「縁があれば会えるわ」と言って隣を歩く愛理ちゃんに「そうだね」と返して僕たちは歩き続けた。
それからしばらく歩いた先に、2階建てのアパートが見えてきた。
恐らくあれがレッド寮なのだろう。
遠めでもわかるほどにボロイ………いや年季の入った感じがするが、地図を見てもこの付近に他の建物はないと表示されている以上、あの崖の上に建てられたアパートがオシリスレッドの生徒たちが住んでいる寮のはずだ。
「あれ、レッド寮じゃない? 行ってみましょ!」
「うん。行こうか!」
僕たちは見えて来たレッド寮に向かって道のりを早足で駆けた。
「……話には聞いていたけれど、予想以上ね。これは……」
「うん、なんていうか……すごいね」
遠目で見ても何となく歴史を感じさせる趣きだったが、近づいて見るとよりわかる。
これは……ボロい!
人が住めないほどではないけれど、僕や愛理ちゃんが住んでいる寮と比べたら雲泥の差である。
寮の大きさも他の寮よりも小さい。
生徒が少ないからなのか、もしくは個室ではないのかも知れない。
周囲を見ると赤い制服を着た生徒がちらほらといるようで、他寮の生徒が来るのが珍しいのかこちらを見ている。
そして寮の2階を見上げた先、水色の髪色をして丸メガネをつけた生徒がいた。
彼はたしか……そうだ!
丸藤さんの弟さんだ。
どこか見覚えがあるなあっと思ったけど受験の時に試験官に勝ってた子だ。
そうか、ラーイエローにいないなあと思ってたけど……オシリスレッドに入ってたのか。
そりゃ見かけない訳だ。
あの丸藤さんの弟さんだから、てっきりイエローに入ってると思ってたんだけど、もしかしたら僕と同じで筆記が苦手なのかも知れない。
実技が強くても、筆記がダメだとレッドに入ることになるって聞いてたから、彼もその類なのだろう。
たぶん、僕も推薦でなければオシリスレッドに入ってたんだろうなあ。
そう思うと推薦で入れて本当によかった。
この歴史を感じさせる寮に入るのは嫌ではないけど、愛理ちゃんに会いに行くのには遠過ぎてちょっと不便だろうからラーイエローで本当によかったと思える。
「おーい、君! そこの水色の髪をした男の子! 今いいかい!」
「えっ!? ぼく!?」
丸藤さんの弟さん……たしか翔君だったかな?
彼はキョロキョロと周りを見渡したあと自分のことだと気づき、そっと階段を降りて来た。
「コナミ君の知り合い?」
「いや、丸藤さんの弟さん。愛理ちゃんも受験の時に見てるよ」
愛理ちゃんは覚えていないのだろう。
怪訝な表情で聞いてくるので、受験の時に見かけたことを話した。
「あーあの時の! ちょっと見ただけだったから忘れてたわ」
「丸藤さんの弟さんだからね。ちょっと挨拶して知り合いになっておこうかと思うんだ」
あの丸藤さんの弟さんだから、デュエルも強い可能性がある。
だから、ここで知り合っておけば今後デュエルする時にスムーズにできる。
そんな打算も込めて、僕は近くまでやってきた翔君に挨拶した。
「初めまして翔君。僕はコナミ。君と同じ1年生。隣にいるのは愛理ちゃんで彼女も1年生なんだ」
「う、うん。コナミ君のことは噂で色々聞いてるから知ってる。それで……どうしてぼくのことを?」
怖がらせた覚えはないのだけど翔君は気が弱いタイプなのかも知れない。
少々気後れしたような雰囲気で返事をくれた。
「アカデミアの実技試験の時に、君のお兄さんから君について聞いてね。同い年だし、よかったら友達になりたいなって思ってたんだ」
「ぼくのお兄さんから……?」
「うん。と言っても試験で君が戦っているところを見かけて、名前しか聞いてないんだけどね!」
はっはっはっ! と明るく僕は笑って、どうにも怖がっている風に見える翔君に怖がる必要はないと暗に伝えた。
それが功を奏したのかはわからないけど、翔君の硬かった雰囲気は柔らかくなり笑顔になってくれた。
「そうなんだね。うん、ぼくは丸藤翔。オシリスレッドの1年生なんだ」
「よろしく翔君。今日はちょっと愛理ちゃんとのデートだから時間がないけど機会があればデュエルしようね」
「うえっ!? いやーぼくなんかじゃ君の相手は──」
「あっと! 翔君ごめんね。僕たち行きたいところがあるからそろそろ行くよ。また今度時間のある時にまた来るね!」
チラチラとこちらを見てくる愛理ちゃんに気づいた僕は、早々に翔君との話を終わらせてデートの続きをすることに決めた。
そして最後の別れ際に──。
「みんなー! 遠慮しなくていいから気軽に声を掛けてね! みんなともデュエルしたいからさ!」
僕はこちらを見ているオシリスレッドのみんなに手を振りながら声を掛けて目的地である丘への道行きを再開した。
「コナミ君、私が見なかったら翔君にデュエル挑もうとしてたでしょ」
「あ、気づいてた? そうだね、君とのデートだってこと忘れそうになってたよ」
翔君の実力はどれほどのものか、つい確かめたくなっていた。
もちろん、必ずしも丸藤さんの弟だからってデュエルが強い保証などないけれど、確かめたくなるのはデュエリストの性だろう。
「ダメだよ? あの子、気が弱そうだし無理強いしちゃ。相手から挑んでくるならともかくさ」
「…………うん。気をつけるよ。デュエルを申し込む相手は選ばないとね」
別に相手に無理強いしてまでデュエルがしたいわけではない。
愛理ちゃんの言う通り翔君の気質はあまり勝負事に向いてる感じではなかった。
だから僕からデュエルを申し込んだら周りの目もあって断りたくても断れないということになっていたかもしれない。
それは僕の望む状況ではない。
デュエルは双方が気持ちよくできる状況であるべきだ。
そうでないデュエルでは相手の全力は見れない可能性がある。
それではダメだ。
全力の相手を倒してこそ、その勝利には価値が生まれるのだから。
そうして反省をしながらレッド寮を超えてしばらく歩いた先にある坂道を上った先、崖の上に立っている1本の大きな木が見えてきた。
恐らく、あの木が先輩から聞いた丘に違いないだろう。
こんな辺鄙な場所にくる生徒は早々いないだろうし、そこから見える自然の景色もさぞ美しいものだろう。
だけど…………残念ながら先客がいるらしい。
木の根を枕にゆったりと寝そべっている生徒がいるのが見える。
「うーん先客がいるみたいだけど、どうしようか愛理ちゃん」
「ここまで来たんだし、とりあえず近くまで行ってみましょ? その後どうするかはその時考えるとしてね」
たしかにここまで来たのに景色も見ずに帰るのはもったいない。
2人でゆっくりできそうにないのは残念だけど、それはまたの機会にすればいい。
そうして近くまで行くことに決めた僕たちは大きな木の方へと歩いて向かった。
気の近くまで寄っていくと遠くからはわからなかった人物の詳細が見えてきた。
そうやらオシリスレッドの生徒らしい。
赤い制服を着ており、気持ちよさそうに寝ている。
「この子………十代君じゃない? ほら、実技試験でクロノス先生を倒した…………」
「あーそうだね…………うん。十代君だと思う」
僕の覚え間違いでなければこの茶髪と容姿をした生徒は十代君だったと思う。
…………そうか、十代君もオシリスレッドだったのか。
十代君でオシリスレッドなら受験番号の後半にいる生徒で受かった人は全員オシリスレッドに配属されたんだろうな。
そうでなければクロノス先生に勝った彼がオシリスレッドであるはずがないのだから。
「あら…………?」
「どうしたの愛理ちゃん」
愛理ちゃんが十代君のデュエルディスクに目をやってから何かを追うように目線を移動させている。
「…………ハネクリボーが十代君を起こそうとしているわ」
「ハネクリボー…………?」
ハネクリボーなんてどこにもいないけど…………。
…………そうか! カードの精霊か!
僕と違って愛理ちゃんはカードの精霊が見えるから十代君のカードに宿っているであろうハネクリボーが見えるのか!
そして今その精霊が十代君を起こそうとしていると…………。
でも、十代君って愛理ちゃんのように精霊って見えるんだろうか。
見えないならハネクリボーが頑張っても起きないと思うんだけど…………。
「う~んなんだよハネクリボー。人が気持ちよく寝てるときに~」
十代君がハネクリボーに返事をして鬱陶しそうにしている。
どうやら十代君は見える側の人のようだ。
返事をしている以上確定だろう。
見えない人は声を聞くこともできないみたいだし。
精霊の見えない僕としては羨ましい限りだ。
…………いや、そうでもないな。
僕についてる精霊って愛理ちゃんを除けば知る限りガガギゴだし。
僕が精霊の見える体質だったら嫌味を言われまくって今頃めちゃくちゃ険悪な関係になっていただろう。
現状でさえ仲がいいとは言えないのだから…………。
一応、美寿知さんとのデュエルの時に愛理ちゃんの声が聞こえたから可能性がないわけではないと思うんだけどね。
「…………ふあ~~。よく寝た。…………うぉッ!? お前たちいつからいたんだ?」
「ふふ。おはよう十代君。私は水無月愛理。隣の男の子はコナミ君だよ。よく寝てたね」
「おう! 愛理にコナミだな! 俺は遊城十代だ! お前たちが起こしてくれたのか?」
「いえ、あなたのハネクリボーが………見えてないの?」
「何がだ? ハネクリボーなら俺のデッキに入ってるぜ?」
「…………いえ、気にしないで。私の勘違いだったみたいだから」
ん? どういうことだろう。
十代君の反応。まるでハネクリボーが見えてないみたいな感じだったけど…………。
いや、まあ僕も見えないから実際ハネクリボーが起こそうとしてたのかはわからないけどさ。
「コナミ君。どうにも十代君、精霊を見る力はあると思うんだけど完全に目覚めているわけではないみたいだから黙ってていましょう?」
「まあ、愛理ちゃんがそういうなら…………」
ハネクリボーの存在に気づいていない十代君の反応を見て愛理ちゃんが小声で秘密にしておきましょうと言ってきた。
どうにも、無意識化では存在を感知しているみたいだけど意識的に見れる状態ではないらしい。
「よっと! それで、お前たちはなんでこんなところにいるんだ? イエローもブルーも寮は反対側だろう?」
「ちょっと私たちはピクニックにね。十代君は寝てたの?」
「おう! ここを見つけてよ。気持ちいい天気だから横になってたら寝ちまってたんだ!」
「そう。確かにのんびりするにはいい場所だものね」
愛理ちゃんが十代君に返事して丘から見える大海原に目を向ける。
それに釣られるように僕と十代君も海へと顔を向けた。
「いい景色だね愛理ちゃん。十代君が寝てしまうのもわかる気がするよ」
「そうね。吹いてくる風も気持ちがいいわ」
「だろ? 俺のお気に入りの場所だ」
僕たちは暫し海から聞こえてくる波の音と風を感じて自然を全身で楽しんだ。
これは確かに先輩におすすめされるだけはあるかもしれない。
そして十代君が気に入るのもわかる。
特別遊べるような場所ではないけれど、ゆっくりとするにはぴったりな場所だろう。
「ところでよコナミ。俺とデュエルしようぜ!」
「えっ。ここでデュエルを…………?」
しばらく皆でゆったりとしていると十代君が立ち上がってデュエルディスクを構えてきた。
「おう! 万丈目とのデュエルを見ててよ。俺もお前とデュエルしてぇって思ってたんだ!」
「………うん、いいね! 僕としてもクロノス先生を倒した君とはデュエルしたかったんだよ!」
僕はチラリと愛理ちゃんを見てデュエルしてもいいかという目線を向けた。
「はぁー。いいわよコナミ君。デュエルしたいんでしょ? 私も十代君のデュエルには興味あるし、思う存分デュエルしたらいいわ」
2人っきりで過ごすことができそうにないことに少々不満はあるようだけど、愛理ちゃんも十代君には興味があるらしくデュエルの許可が出た。
ごめんね愛理ちゃん。
また今度埋め合わせするからさ…………!
「十代君、楽しいデュエルをしよう!」
「おうよ! 全力で行くぜっ!」
僕たちはデュエルディスクを展開して丘の上の自然の中でデュエル開始の宣言をした。
「「デュエル!!」」
十代のご登場だあ!
ハネクリボーが見えるようになった時期を忘れてて軽く書き直したのが面倒でした。