ピアノのメロディーは静かに落ち着きたい時はいいね。
たまにゆっくりと聞きたくなる。
「はー、すごかったわ。あなたとのデュエル…………」
「僕も楽しかったよ。堂本君とのデュエル」
デュエル場、そこで行われた堂本君とのデュエル後、僕は観客席で他の生徒のデュエルを観戦しながら堂本君や十代君たちと話していた。
「おう、二人ともいいデュエルだったぜ! コナミのHEROも活躍してたしよ、デッキ改造手伝った甲斐があったぜ」
「そうだね。ジ・アースとガイアがいなかったら危なかったよ。十代君のおかげだ」
今回のデュエルはかなり追い込まれた。
十代君との話し合いで、僕が持っていた数少ないHEROであるジ・アースとガイアがいなければ実際に敗けていたかもしれない。
それにミラクルフュージョン、多く持っていると言うことで僕のカードと交換したあのカードにも助けられた。
「そうそう。あなたのジ・アースってHERO。見たこともないカードだったのだけど、珍しいカードなのかしら?」
「うん。ジ・アースはプラネットシリーズって言う惑星の名を持つ世界で1枚しかない超希少なカードなんだ。だから堂本君が知らなくても仕方がないよ」
彼が手元のPDA端末でカードを調べながらジ・アースについて聞いてきた。
端末にはカード情報をインターネットに接続することで調べる機能も付いているからそれで今調べているのだろう。
ただまあ、僕も以前調べたことがあるから知っているが、プラネットシリーズ及び希少なカードは載っていない場合の方が多いから調べても出ては来ないだろう。
「世界に1枚!? そんなカードを持ってるなんて、コナミちゃんすごいわねえ」
「まあね。実はプラネットシリーズは全部で10種類あるらしくてさ、他の9枚のカードを探して集めてるんだ。だから、何か知ることがあったら教えてほしいんだ」
「ええ、構わないわ。知ることがあったらあなたに教えるわね」
「おう、俺も手伝うぜコナミ。もしそのカードがHEROだったら俺も欲しいけどな!」
「はは、ありがとう堂本君に十代君。まあ他のプラネットシリーズがHEROかどうかはわからないけど、その時は争奪戦だね」
他のプラネットシリーズ。
三沢君にも手伝ってもらってネットで調べてもらったことがあるけれど、まったく情報はなかった。
だから他のカードがHEROなのか、融合モンスターなのか、それともそれ以外なのかはわからないでいる。
僕の希望としては融合モンスターがいい。
さらに言うならジ・アースと同じE・HEROがともっと嬉しい。
まだ使いこなせているとは言えないけれど、HEROと融合が持つ可能性はすごいものがあると感じているからだ。
どれだけ強力なカードだったとしても、僕のエースはゴギガ・ガガギゴから変わることはない。
だけど脇を固めてくれるという意味合いで融合HEROがもっと欲しいとも思っている。
「まあプラネットシリーズについてはいいとして、十代君はそろそろ出番じゃないの?」
「おっといけね、そうだった。おーい翔! 俺たちの番だぞ!」
十代君が僕たちとは離れたところで座っていた翔君に声を掛けてデュエル場へと向かった。
「次は十代君と翔君かあ。対戦相手は別みたいだけど、どんなデュエルになるだろうね」
デュエル場でそれぞれの対戦相手と向き合っている十代君と翔君を見ながら僕は興味深げに堂本君に言った。
翔君はわからないけれど、十代君は、たぶん勝つと思う。
十代君は強いから、というより対戦相手が若干あきらめムードに入ってるからだけど。
「あたしはあんまり興味は持てないわ。十代ちゃんはともかく翔ちゃんがねえ。前にデュエルを見たことがあったけど酷いものだったわよ?」
堂本君が嫌なものを思い出したかのように苦笑しながら翔君を見ていた。
「堂本君、翔君のデュエル見たことあるの?」
「ええ。まあ見れたものではなかったわね。彼には悪いけど、よくこの学園に入れたものだと思っているわ」
ふむ、どうやら話を聞くに堂本君は何度か翔君のデュエルを見たことがあり、その様は酷かったらしい。
上級モンスターを相手に召喚されたことで戦意喪失。
そのまま何もできず負けてしまったらしい。
「それはまた何とも、うーん言葉にしづらい」
「つまり、典型的なオシリスレッドの落ちこぼれなのよ。翔ちゃんはね」
なるほどなー。
堂本君の話通りなら確かにあまり期待は出来そうにない。
丸藤さんの弟さんだからって期待があったんだけど、期待は期待で終わるかもしれない。
『僕のターン。僕は手札からジャイロイドを攻撃表示で召喚』
対戦相手は翔君と同じオシリスレッドの生徒。
そして翔君は丸藤さんと同じ機械族モンスターを主体にしたデッキを使っているようだ。
『俺は隻眼のホワイトタイガーを攻撃表示で召喚! バトルだ!』
対戦相手のメインモンスターは獣族かな?
お互いに低レベルのモンスターで殴り合っている。
「あーなんて言うか。互角の勝負だね。うん」
「コナミちゃん、言葉を濁さなくてもいいわよ。地味なデュエル。そうでしょ? エースを出すこともなく、低級モンスターで殴り合う。特別コンボ性のあるカードを使う様子もない。ザ・オシリスレッドのデュエルってやつよ」
なるほどーこれがオシリスレッドの生徒の実力なのか。
確かに弱い。
時折りモンスターの効果を忘れていることさえある。
落ちこぼれと呼ばれるだけはある。
「十代君は特別って見た方がいいのかな?」
「そりゃそうよ。あんな強いオシリスレッドの生徒は他にいないわ! アタシ、十代ちゃんとならデュエルがしたいわ!」
一応、翔君もアカデミアに入れたんだから才能はあると思うんだけど……将来に期待ってことにしよう。
他のレッドの生徒のデュエルも見る限り、十代君は本当に例外的な強さみたいだ。
うん、圧倒しているし、オシリスレッドの中でも抜きんでた強さをしているなあ。
「おっ! そろそろ翔君のデュエルは終わるかな。翔君有利だ」
僕が十代君のデュエルから翔君の方へ視線を向けるとデュエルは佳境に入ったようで、翔君が対戦相手を追い詰めていた。
「どうかしらね。彼の悪癖が出ないといいけれど……」
「悪癖……?」
『あーはっはっはっ! 君の場にもう弱っちいモンスターはいない! 僕の実力の前にひれ伏したまえ!』
「……なるほど、翔君の悪癖か」
「そっ! お調子者でちょっと自分が有利になると相手を舐めてバカにする。まさに悪癖よ」
確かに、これは悪癖と言っても差し支えないだろう。
一見翔君有利なのは事実だけど、相手の場にはまだリバースカードがあり余裕も感じられる。
勝利を確信するには早すぎると言わざるを得ないだろうね。
『僕はドリルロイドでダイレクトアタックだ!』
『そうはさせない! リバースカード 闇の呪縛を発動! ドリルロイドの攻撃力を700ポイントダウンし、攻撃を出来なくする!』
『僕のドリルロイドが!? う、う〜僕はこれでターンエンドです』
ふむ、どうやら勝敗は決したようだ。
ドリルロイドの攻撃を防がれた翔君はすっかり意気消沈して、縮こまってしまっている。
対して相手は自信満々にモンスターを召喚して詰みにかかっている。
翔君の場にドリルロイドを守るカードはない。
残りライフから見て、どうやら翔君の負けで終わるようだった。
「コナミちゃん、どうだったオシリスレッド同士のデュエルは?」
「まあ、今後の成長に期待ってところだね。現状だと、正直微妙だと思う」
翔君の……と言うよりオシリスレッドの生徒の実力は僕の想像を大きく下回っていた。
だからどうしたと言うわけではないのだけど、僕の方からデュエルを申し込むことはないだろう。
恐らく彼らからしても迷惑になる気しかしない。
「今後に期待………。コナミちゃんは優しいわね。彼らに期待しようなんて」
「堂本君は厳しいね。僕たちのデュエリスト人生はまだまだ続くんだから、1年生の段階で見限るのは早いと思うよ」
「その意見を否定はしないけど、彼らには向上心が感じられないわ。這い上がろうっていう気持ちがないなら期待するだけ無駄でしょう」
「はは。まあ、そうかもしれないね」
首を振ってオシリスレッドの成長性を否定する堂本君に僕は軽く同意して答えた。
向上心が感じられないか。
確かに、オシリスレッドの生徒からはどうにも覇気が感じられないように見える。
堂本君の一切期待していないと言う考えは厳しすぎると僕は思うが、同時に否定もできそうになかった。
向上心の欠如…………。
現状だと確かに感じられないけれど、きっかけがあれば彼らだって強くなれるはずだ。
少なくともアカデミアへの入学が許された以上、才能はあるはずなんだから…………。
『ガッチャ! 楽しいデュエルだったぜ!』
どうやら十代君の方も終わったらしい、翔君の方が気になってどう勝ったかを見れなかったけれど、様子を見る限り快勝だったみたいだ。
その明るく楽しかったという十代君に中てられたのか諦めていた対戦相手の生徒も少しだけど笑顔で満足そうにしている。
僕は階下で笑っている十代君を見ながら、オシリスレッドに入りながらも純粋にデュエルを楽しんでいる十代君が他の生徒のやる気、それを引き出すきっかけになってくれることを内心で願うのだった。
その後、僕と堂本君は試験を受ける生徒たちのデュエルを見学しながら各生徒への印象や感想を話し続けた。
試験から数日後。
僕は自室で三沢君と堂本君と共に試験結果を見ていた。
「──ッ! ダメだった〜〜」
僕は机に突っ伏してその結果にがっくりと肩を落とした。
試験結果は筆記はまずます。実技は高評価となった。
ブルーへの昇格試験には筆記と実技、両方で高い成績を取る必要がある。
つまり今回僕は昇格試験を受けれる資格は得られなかったと言うことだ。
「まあコナミ、そこまで落ち込まなくてもいいだろう。お前にしては十分頑張った方だ。それに筆記からしてこの結果は予想できていたことだろう」
「三沢君は昇格試験を受けれるからそう言えるんじゃないか!」
僕の後ろで茶をすすりながら試験の答案を見ている三沢君に向けて僕は憤りながら文句を言った。
「そう不貞腐れないでコナミちゃん。アタシもあなた同様資格はもらえなかったんだから」
「堂本君は別に目指してはなかったんだからいいだろうけどさあ」
僕の両肩に手を置いてニコニコと笑っている堂本君に答えながら僕は大きくため息を吐いた。
今回の試験で昇格試験を受けれるのは僕たちの間では三沢君だけ。
僕と堂本君は成績不足ということで見送りとなった。
資格を得られた三沢君が機嫌がいいのは勿論として、ブルーを目指していないとは言え堂本君まで何が嬉しいのやら機嫌が良く、落ち込んでいる僕を見ながら笑っている。
「はあー。ブルーに上がりたかった」
「コナミ、お前ブルーへの昇格はそこまで急いではいなかっただろう。何故そんなに落ち込んでいる」
三沢君が僕の落ち込みようが激しいことに疑問に思ったのか訝しげに聞いてくる。
「そりゃ何もなければ僕もここまで落ち込まないけどさあ」
「と言うと、何かあるのか?」
僕は一瞬、言おうか言うまいか悩んだが、男相手に隠すような内容でもないかと思い訳を話すことにした。
「実はブルーに上がれたら、愛理ちゃんとエッチなことができたかもしれなかったんだよ!」
「……くだらん。なんて不純な動機だ」
「コナミちゃん、アタシもどうかと思うわ。そう言う理由は……」
僕のブルー昇格への意欲。
その理由を聞いた二人は顔を顰めながら呆れた様子を見せている。
三沢君は額を揉んで頭が痛いとでも言うように、堂本君は三沢君程ではないけれど、頬に手の平を当てて諫めるように…………。
くそっ!
三沢君も堂本君もわかってくれない!
思春期男子の溢れ出るリビドーを……!!
「2人とも枯れてるんじゃないの? 普通は女の子とそう言うことができるかもってなったらやる気になるものだと思うけど」
「あいにくだが俺に同意を求められても困る」
「そうねえ。興味がないわけではないけれど、アタシもそれを理由にやる気がってのはわからないわあ」
硬派気取ってる三沢君はともかくとして堂本君まで否定してくるとは。
いやまあ、三沢君はともかく堂本君が女の子に興味があるのかはわからないんだけどさ。
まあそれはいいんだ。
人の性的趣向に口を挟めるほど僕もできた人間じゃない。
堂本君が異性愛者だろうが同性愛者であろうが、良き友人になれるだろうことには変わりはないのだから。
「はぁー。何故わからないんだ。愛理ちゃんの胸とかお尻とか足とかを触りたいって気持ちが……。何故わかってくれないんだ!!」
僕は机を「ドンッ!」と叩きながら涙ながらに三沢君たちに訴えた。
「いくら同性しかいないとは言え、流石に気持ち悪いぞコナミ」
「溜まってるわねえ。何がとは言わないけど……」
そんな僕の様子に三沢君たちは困ったようにしながら部屋の中央に置いてある丸机の周りに座り、お茶を淹れ始めた。
「大体愛理ちゃんも愛理ちゃんだ! キスもした仲なんだから、さらに先へとステップアップしてもいいじゃないか! 大体にして愛理ちゃんは貞淑すぎるんだよ! もっと僕の気持ちを──」
「ふぅ。コナミちゃんは一旦放っておくとして、三沢ちゃんはブルー昇格試験の資格をもらえたみたいだけど、上がるつもりなの?」
「いや、ちょっとどうしようか悩んでいてな。上がるなら学園で1番になって上がりたいと言う気持ちがあって──」
面倒になったのか愛理ちゃんへの愚痴がヒートアップしてきた僕を無視して、三沢君たちは茶を飲みながら2人で話し始めた。
僕もまたそんな三沢君たちの様子を知りながらも、胸の内からどんどんと湧いてくる鬱憤を吐き出して無理矢理にでも聞かせるために気が晴れるまで部屋で愚痴を叫び続けるのだった。
余談だが、後にこの僕の叫びが部屋の外にまで聞こえていたことで、恋人に何もさせてあげない女という形で噂となり愛理ちゃんの耳に入ることで羞恥心と怒りから大変なお叱りを僕は受けることになるのだが、この時の僕には知りようのない話であった。
あの世界のカード情報ってかなり限定されてそうなんだよね。強い弱いというより誰が使ったかで知名度が変わってそう。