書いてると1週間って早いなあと感じる。
実技授業の教室。
そこで行われた明日香さんと私のデュエルは寸前まで明日香さんの勝利で終わると思われたが、結果は私の勝利で終わった。
「本当に楽しかったです明日香さん。サクリファイスが奪われた瞬間は敗けたと思いました。でも、このデュエルは私の勝ちですね」
勝利を確信していた明日香さんが、なぜか自分のライフがなくなっていることに理解できないと言った表情で呆然としている。
「なにが…………なんで私のライフが…………」
「私は明日香さんが攻撃を宣言した瞬間、リバースカードを発動させていました」
「そのカードは………ディメンション・ウォール!?」
「そう、私が受ける戦闘ダメージを相手に肩代わりさせるカード。明日香さんが悪魔のくちづけを使ってくれたおかげです」
もし、明日香さんがサクリファイスの攻撃力を上げて私を一撃で倒そうとしてくれなかったらこの先の展開は大きく変わっていたと思う。
というか、恐らく敗けていた。
「決着を逸ってしまった。それが私の敗因……と見るべきかしらね」
「そうですね。終盤以外はほとんど明日香さんペースで進んでいたので、最後の最後に気を抜いちゃったのかなーと」
実際に明日香さんが気を抜いた結果装備カードを使用したのかは私にはわからない。
けれど、もし明日香さんがもう少し慎重に判断していたなら私のリバースカードを警戒して結果は変わっていたと私は思う。
まあつまり、今回のデュエルで分かったことは明日香さんは私よりも強いと言うことだ。
今回の勝利は明日香さんの油断が招いた結果、私の運が良かっただけである。
基本的なデュエリストとしての実力ならたぶん明日香さんの方が上だろう。
だからきっと、次は勝たせてはくれないでしょうね。
「ふぅー。愛理、次は負けないわよ」
「ふふ。今回は運が良かっただけですよ。次デュエルする機会があれば、きっと私が敗けます」
「………それは謙遜かしら。敗けた私からすると、例えあなたがまぐれだと思っていても嫌味に聞こえるわよ?」
「あっ、そういうわけじゃ………すみません」
しまったわ、明日香さんの機嫌を損ねてしまった。
運がよかったとはいえ、私が勝った以上は勝利を喜んで受け入れておくべきだったわね。
そういう意図はなかったとはいえ、これじゃあ明日香さんをバカにしていると受け取られかねない。
「いいわ。私が敗けたのは自分が未熟だったから。その結果をあなたがどう受け取っていようと、それはあなたの自由だしね。次は勝つわよ愛理」
「はい。私も次はもっとうまく勝って見せますね」
「言ってくれるわね。次は最後まで油断なんてしないわよ」
「ええ。その時はお手柔らかにお願いします」
私たちは最後にデュエルが終わったことの礼儀として握手をしながらお互いの健闘を称えた。
次に明日香さんとデュエルするときがいつかはわからないけれど、その時も勝てるように頑張らないといけないわね。
次にデュエルするときに情けない姿を見せたら怒られてしまうでしょうから。
明日香さんが怒ったらなんていうのかしら…………「1度でも私に勝ったんだからしっかりしなさい!」とでも言いそうね。
偶然でなかったことを証明しなさいって感じなことも言いそうだわ。
明日香さんって女性的だけど、強気な性格をしているから自分に勝った相手にも相応の態度を求めてきそうだしね。
私はそんな光景を思い浮かべながらそんなことを考える自分がつい可笑しくてクスリと笑って明日香さんとの握手を終えて離れた。
その時、唐突に笑った私に疑問符を明日香さんは浮かべていたけれど、理由は言えないわね。
怒られそう。
「明日香さん、どうやらももえさんとジュンコさんの方も終わったみたいだし、声を掛けに行きましょう?」
「そうね。授業も終わりに近づいてるし、行きましょうか」
私たちから離れた位置でデュエルをしていたももえさんたちを見て、彼女たちのデュエルが終わったことを確認した私たちは二人に近づいていった。
どうやらデュエルはジュンコさんが勝ったようだ。
彼女がニッコリと笑って喜んでいる。
対してももえさんは両膝を地面について座り込みながら悔しそうにしている。
「今回はジュンコが勝ったみたいね」
「今回はというと、あのお二人は何度もデュエルしているんですか?」
「ええ。実力も同じくらいで…………まあ対等のライバルと言っていいんじゃないかしら」
「対等のライバルですか。いいですね。同性のライバルってちょっと羨ましいです」
私は同性でライバルと呼べる関係の人がいるももえさんたちをちょっとだけ羨みながら言った。
私にはライバルと呼べる人はいない。
異性という意味なら、コナミ君や三沢君が当てはまるのかもしれないけれど、ライバルと表現するには私の方に競争心がない。
中学の頃に一緒にいた彩音はそもそもデュエルをしなかったし、小学校の頃はデュエルする友達もいたけれど私が元は精霊であることもあってか対等と呼べる相手はいなかった。
そもそもにおいてデュエル人口は男性の方がずっと多い。
どう言い繕っても勝負の世界であり、闘争心を求められる関係からデュエルをする比率としては男性の方が遥かに多くなるのだ。
女の子はデュエルする子もいるけれど、どちらかというと後ろから見ていたり応援する子が多い印象だ。
だから、これまで同性のライバルがいない私にとっては少々羨ましい関係の二人だった。
「あら、愛理は私のこと、ライバルとは見てくれないの?」
「え?」
そんな風に2人を見ていた私を見かねたのか、明日香さんが茶目っ気に笑いながら私を見てきた。
「私は愛理をライバルと見てるんだけど、あなたにそう見てくれないなんて残念だわ」
「あ……そうですね。ええ、明日香さんは私のライバルですね………!」
明日香さんからのその言葉は同情や優しさから来た言葉ではなく、本心からそう言ってくれていると私は感じた。
彼女は心から私を対等のライバルと見てくれている。
そのことに心が満たされていくことを感じながら私は笑って明日香さんに答えた。
「明日香さん、私、もっと強くなりますね。あなたのライバルとして」
「私もよ愛理。私も、もっと強くなるわ。だから、これからよろしくね」
私たちはもう一度握手をしてお互いの関係が変わったことを確認し合った。
これまではちょっとした知り合いだった。
でもこれからはライバル。
デュエルの腕を競い合う、友達になった。
「明日香さん、愛理さんもどうしたんですか? 握手なんかして…………」
そんなことをしていたらいつの間に近づいていたのかももえさんとジュンコさんがいた。
「いえ、何でもないわ。ほら、授業も終わりだし、行きましょ!」
私と明日香さんは最後に「ふふ」と笑いあってももえさんたちと共に次の授業のために教室の入り口へ歩いて行った。
初めての明日香さんとのデュエル。
それを経てできたライバルの存在に私は心満たされながらその日一日機嫌よく終えることができたのだった。
それから数日、私は日課となりつつある他の霊使いの捜索に精を出していた。
今日もいつも通り、何の成果もなく終わる。
そう思いながらほとんど作業のように魔術を使用して探していると、突然私の魔術に霊使いの反応が出てきた。
「え………? これって………ヒータ!?」
私の魔術に赤く反応して存在を知らせている精霊。
この反応は間違いなく火属性の霊使いであるヒータの反応だった。
「この反応、近いわ。この場所は…………火山ね!」
ヒータがいる場所はアカデミアが建っている島にある火山。
なんでそんな危険な場所にいるのかはわからないけれど、ようやく見つけた同郷の仲間。
会いに行くなら早い方がいい。
「コナミ君に伝えないと………いえ、とりあえず私だけで会いに行きましょう」
もう夜も遅い。
コナミ君も眠っているでしょうし、何よりヒータは結構苛烈な性格をしている。
目的はアウス同様コナミ君に会いに来たんだと思うけれど、あの娘が素直にコナミ君を勇者と認めてクリスタルを渡すとはとても思えない。
たぶん、ヒータとデュエルして勝てたらくれてやるって感じになると思う。
あるいわ何か試練や条件を付けてくるかも…………。
「ともかく、一度会って話さないと」
私は寝間着から制服へと着替えて、寮を飛び出していった。
ブルー女子寮から火山まで少々距離がある。
急いだとして数時間はかかってしまう。
私は人間として扱える僅かな精霊の力で肉体を強化することで常人を超えた速度で森を駆け抜けた。
駆け抜けた先、数時間はかかる距離を数十分にまで縮めて火山へとたどり着いた先に彼女はいた。
「ようエリア。久しぶりじゃねえか、元気そうで何よりだ。しかしそんなに息を切らせて、どうした?」
「はぁ、はぁ…………ふぅ。ヒータ、あなたの反応が私の魔術にあったから会いに来たのよ」
長く伸ばした赤い髪にだらしないともとれる様なはだけた服装をしたヒータが火口近くに笑って立っていた。
「ああ、お前がアタシたちを探してたのは知ってたよ。だからわざわざこんな辺境の島まで出向いてやったんだ」
「そう、気づいていたのね。なら、アウスがもうコナミ君にクリスタルを渡したことも知っているのね」
「コナミ? …………あー、お前が選んだ勇者の奴か。なんだ、アウスの奴敗けたのか」
ヒータは前髪をかきあげながら、面白そうに笑って火口へと視線を向けた。
ヒータはアウスがコナミ君にクリスタルを渡したことを知っていたわけではなかったのね。
でも、アウスがコナミ君とデュエルするつもりだったことは知っていた反応をしているわけだから、事前にある程度予定を話し合っていたのかしら。
「まあ、あいつは真っ先に勇者の奴に会いに行くって決めてたみたいだからなあ。遊び心がないと言うか、どうせなんだからもう少し楽しめばいいものを、そうは思わねえかエリア」
「私たちの使命は世界を救うことよ。そういう意味ではアウスが正しいわ」
「ハッ! 真面目な奴はこれだから。アタシからすればその世界を救うっていう使命も疑わしいんだがな」
「ヒータ、あなた大賢者様の予言を疑っているの?」
バカにしたようにヒータは笑って火口を眺め続けている。
私たちが育った里、その長である大賢者様から与えられた使命。
ヒータはそこに疑問を持っている?
ありえない………とまでは言わないけれど、不愉快ではあった。
私や里の皆が敬意を向ける大賢者様。
そこに疑いの目を向けるなど、不敬であったからだ。
「そりゃそうだろう。いつそれが起こるのか、誰が起こすのかもわからねえ。そのくせ人の世界に勇者がいるから探して来いっていう。それでどう信じろってんだ。エリア、お前も内心、疑問に思ってるんじゃないのか」
「心外ね。貴方と違って私はあの方から与えられた使命に疑問を抱いたことなんてないわ。それに予言って曖昧なものでしょう。時期や原因がわからなくても可笑しくはないわ」
確かにヒータの言う通り予言についてわからないことは多い。
世界の危機についてもそんな予兆は感じられないし、危険という割には勇者探しには随分と時間に余裕があった。
だから大賢者様のお言葉に疑問を持っても不思議ではないのかもしれないけれど…………。
「あなたが予言を疑っていたとしても、私たちのやることは変わらないわ。私は勇者を見つけた。アウスも認めている。この島に来たってことはあなたもコナミ君にクリスタルを渡すためでしょう?」
「アタシはお前たちと違ってそこまで真面目じゃないんだ。まだまだこの世界を楽しみたいしな」
「あなたコナミ君に会いに来たんじゃないの?」
「そんなわけないだろう。クリスタルをそのコナミって奴に渡しちまったらアタシはこの世界での実体を失う。準備もできてないし、勇者の奴とやり合うのはまだ先だ。今日はお前がせかせかとアタシたちのことを探ってたようだから、こっちから会いに来てやっただけだよ」
ケラケラと笑うヒータを見て私は愕然として言葉を返すことができなかった。
私に会いに来ただけ…………。
使命があり、すぐそこに勇者がいながらまるで役目を果たそうとする様子がない。
この際他の霊使いの子は置いとくとして、ヒータのそのやる気のなさに私は憤りさえ覚え始めていた。
「エリア、アタシたちの居所を探るのは無駄だからやめとけ。各々気が済んだら会いに来るだろうからよ」
「そういうわけにはいかないわ。プラネットシリーズ、コナミ君は今後、強大な力を宿したカードたちを集めないといけない。何かあったときのために身を守るすべを増やしておきたいのよ」
私は力づくでもヒータをコナミ君の元へと連れて行こうかと考えて静かに、そして悟られないように精霊の力による身体強化をゆっくりと引き上げた。
「そのために早急にクリスタルをってか? ははは! 母親かよお前は………! 過保護が過ぎるんじゃないかエリア! 勇者なんてもんに選ばれるんだ。死線の一つや二つ潜り抜けれねえと話にならねえだろ!!」
「私はコナミ君に危険な目になんてあってほしくはないの。だからお願いヒータ。クリスタルを彼に渡して!」
矛盾している。
コナミ君に危険な目には合ってほしくはない。けれど世界は救ってほしい。
その二つが両立することはないけれど、可能な限り少なくすることはできるはず。
だから、ヒータにはクリスタルを彼に渡してほしかった。
「ハンッ! 何度も言うが、その気はねえよ。アタシの用は済んだし。もう行くぜ」
私の言葉を聞いたヒータが鼻で笑って背を向けて歩き始めた。
「ヒータッ!!」
ヒータを逃がさぬためにその背に向かって強化した肉体で地面がめり込むほどの力で駆け出した私がヒータの手を掴もうとした瞬間、目の前にいたはずのヒータが煙のように消えて少し離れた背後に移動していた。
「ーーッ!?」
「やめとけエリア。いくら魔術で強化したってその体は貧弱な人間のものだろう。無理をしたら肉が千切れるぜ」
いつの間に背後に…………!
まるで見えなかった。私が反応できない速度で移動した………?
ありえない! 不可能よ…………!
いくら純精霊のヒータでも、影も見れない速度で移動できるはずがないし、まして瞬間移動なんて超高度な力をあんな一瞬で扱えるとは思えない!
「それからな、勇者の奴に伝えとけ。その内、お探しのプラネットシリーズと共に挨拶しに行ってやるから首洗って待ってろってな」
私が驚愕と疑問から思考の海に沈んでいる間にヒータはそう言って去って行ってしまった。
私はその背を追うことはできなかった。
何をしたのかはわからなかったが、今の私では到底捕まえられないと今の一瞬でわかってしまったからだった。
後日、ヒータと出会ったことをコナミ君とアウスに伝えたら…………。
「へへ、首を洗って待ってろか。いいじゃないか愛理ちゃん。プラネットシリーズをもって向かってくるんなら楽しみに待ってようよ」
コナミ君は案の定わかっていたことだけど好戦的な笑みを浮かべながら楽しみにしていた。
「ヒータがプラネットシリーズを…………?」
アウスは何か思うところがあるのか考え込んでしまった。
アウスから聞いた話では里に流れ着いたプラネットシリーズはジ・アースのみ。
それ以外のカードは持ちえないはずとのことだった。
ということはヒータはこの世界に来てから手に入れたと言うことになる。
どういう経緯で手に入れたのかはわからないけれど、こけおどしをするタイプではない。
まず間違いなく持っていると見ていいはず。
ヒータは使命に懐疑的ではあったけど、それを果たすつもり自体はあるようだから、やはり彼女からやってくるのを待つしかないのだろう。
ヒータの言葉を真に受けるなら、他の霊使いの娘たちもまだ来るつもりはないようだし、ヒータが使った妙な移動方法についてもわからない。
「なかなか儘ならないわね」
使命について真面目に果たすつもりがある娘が私とアウスだけってどういうことなのよと憤りを感じないわけではない。
でもこちらから強制はできないし、皆がやってくるのを待つしかないのだろう。
「はあ。結局、待つしかないのよねえ。皆、早く来てほしいわ」
私はため息を吐きながら不満を心に押しとどめて早く霊使いの皆がやってくるのを祈り続けるのだった。
もっといい表現ないかなあと辞典を見ようと思ったら昔いらないだろうと捨てたのを思い出して軽く後悔してる。