草むしりしんどい。マジしんどい。
イエロー寮。
夜、多くの生徒が寝静まり光も閉ざされた時間に自室のパソコンの前で三沢大地はデッキの確認をしていた。
「試験では最良の結果を残せた。おかげで昇格試験への道は開けたが、さて……」
ブルー寮への昇格試験、その相手は万丈目だと連絡があった。
そのデュエルに勝てば俺はブルー寮へと上がり、万丈目はイエローへと降格する。
故に後日行われる勝負は万丈目にとっても寮の生き残りを賭けた重要なデュエルになる。
半端な勝負にはならないだろう。
俺にとっても、万丈目にとっても重要な一戦なのだから………。
これまで集めた万丈目のデータ。
コナミや十代、それ以外の生徒達との対戦ではヘル・バーナーとVWXYZードラゴン・カタパルトキャノンを主軸に据えたパワーデッキを使用してきた。
「これまでの傾向からして、急激なデッキタイプの変更は考えずらい。今回のデュエルも恐らくこの2体か、そうでなくとも別のパワータイプのモンスターを使用してくる可能性が高いと見ていいだろうな」
付け加えるなら、万丈目は確実に俺のことを舐めている。
アカデミアの受験で敗北を喫した俺に対して自分が負けるなどあり得ない。
奴の性格上、そう考えていてもおかしくはない。
自らがエリートであると言う絶対の自信と自負。
そこから生まれる慢心と油断が奴の弱点であり付け入る隙か………。
「ならば奴に相応しいデッキ。それはこのデッキで決まりだ!」
机の上に並べられた7つのデッキ。俺は自信を持って作り上げたそのデッキの内の一つを手に取って天へと掲げながら万丈目戦で持ち込むデッキを決めた。
「さて、明日も早い。俺のデッキが決まった以上、これ以上の夜更かしは毒だな。寝るとしよう」
万丈目の情報が映し出されたパソコン。
その電源を消して俺は布団にくるまり明日について考えた。
明日の万丈目とのデュエル。
それは決して楽になるものではなかろうが、何故か負ける気もしない。
俺の自信を持って組み上げたデッキ。
その信頼からくる慢心の可能性はある。
だがその可能性を考慮しても尚、俺は万丈目には負ける気が微塵たりともしなかった。
「くく、こんなことを思っておきながらデュエルで負けたら生涯の恥だな……」
俺はベッドで横になりながら、暗闇に覆われた部屋の中で天井を見つめて睡魔に誘われるまで考える。
寮の昇格か……。
試験を受ける身で言うのもなんだが、正直、あまり興味のない事柄だ。
俺はコナミのようにブルーに上がれたらなにか報酬があるわけでもなければ、特別上がることそのものを目的とはしていないからなあ。
ブルー寮は豪華だと聞くが、イエローでも十分不自由なく過ごせている。
寮の特徴として挙げられる豪華さにもあまり興味は湧かない故に、寮そのものに拘ってはいないのだ。
まあ流石に落ち着いて生活できなさそうなレッド寮は御免被りたいがな。
この俺が落ちこぼれとして見られることにはとても耐えられそうにない。
俺の目標は1番だ。No.1だ………!
クロノス先生を倒した十代を倒し、コナミを倒し、いつかは現状学園1のデュエリストであるカイザーを倒す。
そうすることで名実共にNo.1の実力者になることが俺の目標。
万丈目とのデュエルはそのための足がかりに過ぎない。
堂本との会話で勝ったら昇格するのかと問われたが、個人的には上がるつもりはない。
上がる時は1番になってからがいい。
1番になって華々しく寮に迎え入れられる。
それこそが理想的な上がり方というものだろう。
目標のための第一歩となるデュエル、そのことについて考えていると、だんだんと睡魔が強くなっていく感覚が強くなってきた。
俺は待っていたその睡魔に襲われながらも抗うことなく身をゆだね、俺の意識はゆっくりと閉じていく瞼と共に深い眠りの中に沈んでいくのだった。
同時刻、アカデミアの正門前にメールで呼び出された万丈目はコナミと向かいあっていた。
夜も更けていることもあって周囲に人気はなく、教員か警備員でもいるのかアカデミアの部屋の一部が僅かに光ってその部屋の主の存在を主張しているのみであった。
「コナミ、こんな時間にこの俺を呼び出すとはいい度胸だ。何の用があって俺を呼んだ」
「こんばんは万丈目君。いやーごめんね。こんな夜遅くに呼び出しちゃって。……怒ってる?」
「当たり前だ! 常識というものを知らんのか貴様はッ!」
「ごめんって。そんな怒んないでよ」
ヘラヘラと笑って謝っているコナミを見ながら俺は苛立っていた。
それは夜も更けた時間という非常識のもほどがある時間帯に呼び出されたということもあったがそれ以上に最近の俺の戦績が奮わないことが要因の一つであった。
アカデミアに入学してからの俺はコナミに負け、格下だと思っていた十代にも負けている。
コナミはまだいい。実績がありその実力を皆が認めている奴に負けたのは不愉快ではあるがまだ受け入れられる。
だが十代、奴に負けたことは看過できない事実であった。
奴はオシリスレッドの格下。
奴とのデュエルは勝たなければ──いや、勝って当然のデュエルであった。
だが、俺は負けた。
勝って当たり前のデュエルに敗けた。そんな俺は落ちこぼれ以下のデュエリストという烙印を押されることとなった。
そのせいで寮の奴らには見下され、落ち目だなんだと言われている。
挙げ句の果てにはクロノス教諭から三沢大地とのデュエルで負けたら寮の降格まで言い渡される始末。
以上のことがあり、今、この俺こと万丈目準の機嫌は非常に悪く何よりもその心に余裕がなかった。
「それで、早く言え。いったい何の用があってこの俺を呼び出した」
「うん。万丈目君、明日三沢君と寮の昇格と降格を賭けてデュエルするでしょう? その件で一言言っておこうかと思ってね」
三沢との勝負についてだと…………?
何故関係のないこいつがそれについて口を出してくる………ああいや、待てよ。
そうか、そう言えばこいつ、三沢大地とは友人だったな。
…………そういうことか。友人が惨めな敗北をしないようにこの俺に頼みに来たのか。随分とお優しいことだ。
「何の用かと思ったらその件か。なんだ、手加減でもしてやれとでもいうつもりか? 生憎だが、三沢が貴様の友人だとは知っているが、それとこれとは別だ。奴が格下で、いくら俺が勝利することが決まっているとはいえ、今回のデュエルは俺にとっても重要な勝負。奴に見せ場など作ってやるつもりはないぞ」
コナミと三沢が友人であることは以前、こいつについて取り巻きに調べさせた時に聞いたことがあった。詳しくは知らないが、何でも子供の頃からの知り合いだとかなんとか。
三沢大地、奴は入試主席と初試験で昇格試験を受けれる好成績を残しているのは評価に値するが、言ってしまえばそれだけだ。
目の前で口に笑みを浮かべ俺を見ているコナミのように大会などで実績を残した記録もない。
そんな奴、俺の敵ではない。
友人として俺と戦うやつに同情でもしたのかもしれんが、そんなことは関係ない。一瞬で終わらせてやるつもりだ。
「ははは! 手加減なんて、そんなこと頼むわけないじゃないか。それができるようなら喜んでしてほしいくらいだ」
「それなら何を言いに来たんだ。俺も暇じゃないんだ。さっさと言え」
俺も暇ではないんだ。明日のデュエルのパフォーマンスを下げないためにさっさと話を終えて就寝につきたい。
だから話しづらい内容なのか躊躇っていないでさっさと話を終えて欲しいものだ。
「うーん。そうだね、前々から言おうと思ってたんだけど、一向に改善される様子がないから言うけどさ。万丈目君、君このままだと敗けるよ?」
「は? 今なんて言った貴様!? 言うに事欠いて俺が三沢程度の存在に敗けると言ったのかッ!」
俺は随分と俺を舐めたことを言い放ったコナミの胸倉を掴み、奴に怒鳴りかかった。
このままだと俺が敗けるなどと言う忠告にも似たふざけた言葉に憤慨せずにはいられなかったのだ。
「確かに今、俺は敗け続けている。お前に敗け、偶然であろうがあの遊城十代にも敗けている。そんな俺を下に見るというは不愉快だが今は認めてやる。だがなッ! だからと言って俺が三沢にまで敗けるなどということはありえん!」
「でも君、ありえないと見下していた十代君に敗けたじゃないか」
「それは………ッ!」
普段している「のほほん」とした目とは違う、デュエリストとして勝負の世界にいるものとしての冷たい目で見てくるコナミの言葉に俺のは詰まり、言い返すことができなかった。
「万丈目君、君のエリート意識は結構なことだと思うし、それで相手を見下すのも好きにしたらいいと思う。でも勝ちたいなら、勝ち続けたいなら、相手が誰であろうとも全身全霊で戦うべきだ。油断も慢心もなしにね」
「俺が油断したから負ける。貴様はそう言いたいのか!?」
変わらず優しさの欠片もない冷たい瞳で俺を見つめるコナミは俺の質問に肯定も否定もしなかった。
いや、その見下すような哀れみさえ籠っているのではないかと思わせる目が何よりも雄弁に俺の質問に語っていた。
お前は敗けると──。
「三沢君は強いよ。僕とは違って色々なことを計算して戦う。君と同じタイプかな。今回もきっと君の対策をしてくる。対して君はどうだろうね」
「……俺とて、何もしていないわけではない。敵が対策札を投入してくるなど当たり前のことだ」
対戦相手がわかっている以上、相手の戦術を研究、対策するのは当然。
だから、俺も奴のことはそれなりに調べてデッキの調整はしている。
俺はコナミから目を逸らし、静かに這い出てきた不安を見ぬふりをして答えた。
「もう時間もないから、今からデッキ調整なんてやってる時間はないだろうけれど、心構えくらいはしておいた方がいい。恥を掻きたくないのならね」
「………なんの心構えだ」
「もちろん。絶対に勝つっていう不退転の心構えさ。勝って当然。なんて甘ったれた考えを持ってるようじゃ足元を掬われるよ?」
そう言うとコナミは胸ぐらを掴んでいる俺の手を払い背を向けて寮へと帰るべく歩き始めた。
「おいコナミっ!」
「僕はもう帰るよ。言いたいことは言ったからね。勝てば官軍、負ければ賊軍。デュエルは結果が全てだ。明日のデュエル、楽しみにしているよ」
コナミは普段通りの目に戻った顔を後ろの方へと向けながら手を振って去っていった。
俺は暫しその場で立ちすくんだあと、不安からくる逸る気持ちを抑えてゆっくりと明日のデュエルのために寮へと向かって踵を返した。
「くそっ!」
寮への帰り道、俺は苛立ちをぶつけるように道に転がっている石を蹴り飛ばした。
「コナミのやつ、好き勝手言いやがって」
俺の脳裏に甦る奴の言葉。
心構えができていない………つまり、奴に言わせれば俺には覚悟がないのだと奴は言ったのだ。
勝負の結果、失う覚悟がないから相手を侮るのだと……。
あの言葉はそう言う意味だ。
俺はアカデミアに入学した時の兄さんたちと話した時のことを思い出す。
『準! 主席で中等部を卒業とはよくやった! このまま高等部も勝ち続けるだ!』
『そうだ! 兄者と俺、そしてお前の3人で政界・財界・カードゲーム界を牛耳る! そして万丈目グループは世界のトップに立つのだ!』
『『期待しているぞ!!』』
「そうだ。俺は万丈目準。万丈目グループの三男。兄さんたちの期待に応えるためにも勝たなければ……勝ち続けなければならない!」
万丈目グループの一員として俺に期待されているのはデュエルモンスターズ界の頂点に君臨すること。
それは、アカデミアという学園でトップに立てないような男がなれるものではない。
ましてや十代や三沢などと言った連中に負けるようではお話にもならない!
兄さんたちの期待に応えること、それが叶わないならいっそ……。
「覚悟がないか……。いいだろうコナミ。俺の覚悟をお前に見せてやる!」
そうして俺が一つの覚悟を決めてから日が明けて、試験当日。
試験場となるデュエル場では当事者である俺と三沢。教員であるクロノス教諭と三沢の応援でもしに来たのかコナミや十代たちがいた。
「万丈目、クロノス先生から聞いたが、お前このデュエルに負けたら退学になるとは本当か……?」
「事実だ。今朝、俺から教諭に伝えた。このデュエルで負けたら自主退学するとな」
「クロノス先生……」
「本当なノーネ。シニョール万丈目は負けたら退学。そう言う約束なノーネ」
三沢たちがクロノス教諭に確認をして、驚いているコナミが俺に何かを言おうとしながら結局何も言わずに口を閉ざした。
「コナミ、これが俺のデュエリストとしての覚悟だ。先日の俺を舐めた言葉、撤回してもらうぞ」
「正直、油断するなって言いたかっただけでそこまでするとは思ってなかったんだけど……いや、やめよう。発破をかけたのは僕だ。だから……万丈目君、君はすごい人だ。三沢君とのデュエル、最高のものになることを期待している」
どうやらコナミは俺の覚悟のほどを理解したようだ。
申し訳なさそうにしながらも強く笑って観客席へと歩いて行った。
「ふん、そういうわけだ。三沢、俺に後退の二文字はない。全力でお前を倒してやる」
「万丈目、退学の件はお前が決めたこと、俺は手加減はせんぞ」
「はーっははは! 笑わせるよ三沢。俺は実力で勝利する。退学はもののついでに決めたにすぎん。お前が全力でかかってきたとしても俺が敗けることはない!」
「それを聞いて安心したぞ。退学なんて話を聞いたときは俺に手を抜いてほしいのかと思ったからな」
俺の対面に立った三沢はそう言いながらデュエルディスクを展開させた。
どうやらあちらの準備は万端のようだ。
「くくく。さあ、俺様の踏み台となるがいい。三沢!」
「こいっ、万丈目!」
「「デュエル!!」」
万丈目の窃盗事件なんてなかったんや。せめてカッコよく散れ!!