初心者粉眠くんのデュエル日誌   作:XX

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「This コミュニケーション」面白かった。色々と気になる設定と言うかぶん投げられたところはあるから、個人的に100点は上げられないんだけど、主人公のお話としてみたら100点あげられるお話だった。


大海原への旅立ち

 

「バ、バカな……この俺が…‥負けた…………」

 

 デュエル場、観客席から響く歓声の中、俺の前で敗北した万丈目が両手を地につけショックで俯いていた。

 

「なんとか、勝つことができたか……」

 

 想定を大きく上回る強さを見せた万丈目、そのデュエルに勝利した事実に肩で息をしながらも俺は終わったと言う感慨を込めた声を吐き出した。

 

 俯いて顔を上げようとしない万丈目に対して、勝利した俺の方は疲労感はあれど、幾分か気分は明るかった。

 それでも、万丈目自身が選んだこととはいえ同じ夢を目指す同級生を退学に追いやったという事実は俺の心に暗い影を落としていた。

 

「万丈目、これはお前にとってなんの慰めにもならないだろうが、お前の強さは俺の想定を遥かに上回っていた。中等部で主席を張っていたことを納得できるほどにな」

「くっ、黙れ三沢。俺に同情などいらん!」

 

 ショックを受けながらも言い返す気力は残っているのだろう。

 万丈目はこちらを睨みながらも立ち上がり、肩を落としながらデュエル場を去って行った。

 

「万丈目……」

 

 いけすかない奴ではあったが、実力は本物だった。

 コナミに負けても上を目指す反骨精神もあり、きっとまだまだ伸びたのだろうなと思える奴だった。

 故に奴自身で決めたこととはいえ、これで退学になるとは………残念でならない。

 

「惜しい奴を失くしたな……」

 

 俺は去って行った万丈目のことを思いながら少しばかりの寂寥感に囚われていた。

 この学園を去る以上、この先会う機会はそうそうないだろう。特別仲がよかったわけではないし、むしろ嫌い側の人間であったが、退学することを喜べるほど人間が腐ってもいなかった。

 

「シニョール三沢! 見事なデュエルだったノーネ。ユーはこれでオベリスクブルーへの昇格になりますーノ!」

 

 俺が去って行った万丈目への感慨を断ち切るように横からクロノス先生の賞賛の声がデュエル場に響いた。その声を発端に観客席で見ていたコナミや十代。その他の観戦していた多数の生徒たちから拍手が飛んできた。

 

「ブルーへの昇格か……」

 

 今回のデュエルが行われる前からずっと考えていた。

 ブルーへの昇格…………。

 理想を取るか、現実を取るか…………。

 

 理想はコナミや十代を倒し名実共に学園最強になってから上がること。だが現実的なことを考えるなら1番に拘らず、早期にブルー寮へと上がり、より良い環境に身を置くことでデュエルの腕も学園生活もいいものにできるはずだ。

 

 高校を卒業した後のことはまだ決めてはいないが、大学に進学するか就職するのか。いずれにせよ、3年間という最初で最後の高校生活。より良いものにしたいと言う気持ちは本物だ。

 

 それを考えれば今この瞬間にブルー寮へと進むのが賢い選択というものだ。

 そう、それが賢い選択…………。

 

「先生、すみませんが、俺はまだブルーへは上がりません!」

「ワッツ!? どうしてなノーネ!」

 

 俺はこの試験が始まったときから悩みに悩んだ答えは、理想を目指す選択だった。

 天井の証明から観客席、そこに座っているコナミや十代達を目に移した瞬間に俺の腹は決まった。現実を取れと言う俺の思考を覆すほどに、理想は眩く、美しかったのだ。

 

「俺は1番になりたい。なって上がりたいんです。だから、せっかくの機会ですが、また今度ということでお願いします」

 

 俺が3年間の間に1番になれるのかはわからない。

 なれるかもしれないし、3年間頑張ってもなれないかもしれない。

 それでも、理想に殉じていきたいと………立ち向かっていきたいと、そう思うのだ。

 

「う~~。シニョール三沢、しかしブルーへと上がれるせっかくの機会なノーネ。1番はブルーに上がってからでも遅くはないノーネ。もう一度考え直してみませんーノ?」

「先生。もう決めたことですので」

 

 俺は引き留めてくるクロノス先生に苦笑しながらお辞儀をして、デュエル場から去ることにした。俺のことを思ってのこととはいえ、これ以上留まって説得されるのも面倒だったし、今は疲れた心と体を休ませたかったからだ。

 

 最後に、デュエル場の去り際にコナミと十代に次はお前たちだと言う意思を込めた視線を送ったが、果たして伝わったかどうか……まあ、どちらでもいいさ。

 俺は背後から聞こえてくるクロノス先生の引き留める声を無視して、気分よく理想に殉じると決めた自分に酔いしれるように笑みを浮かべながら寮の私室へと向かっていった。

 

 

 

 そうしてデュエル場を後にした俺が廊下を歩いていると、向こうから愛理君がこちらに手を振りながら歩いてきた。

 

「三沢君、ブルーに上がらなくてよかったの?」

「やあ愛理君。ああ、俺は安易な道を歩みたくはない。俺が将来どういう道を選び取っていくかはわからないが、研究職に就く可能性もある。そう考えると、理想に挑むなら今しかないんだと思ってね」

 

 デュエルアカデミアを卒業後、プロになるというなら必ずしも今1番にこだわる必要はない。

 プロとして活動する中でコナミ達と切磋琢磨して上を目指していけばいいだけなのだから。

 

 だが、研究職。

 デュエルが主体とはならない職に就くのなら話は別だ。

 一言で研究職と言っても色々あるが、少なくとも今のように只管に上を目指す環境ではなくなるのだけは目に見えている。

 

 サラリーマン等の一般職に就く可能性もあるが、まあ同じことだ。

 デュエルに集中できる環境ではなくなるだろう。

 つまり、今が最もデュエルに集中できる環境が整った美しい状況ということだ。

 

「ふーん、流石三沢君ね。もう将来のことまで考えて選択してるなんて。コナミ君とは大違い……」

「ははは! まあコナミもプロになるって目標は決めているわけだから、全く考えていないってわけではないと思うぞ」

 

 俺は内心、卒業後のことなどあいつは全く考えてないだろうなと思いながら不満そうにしている愛理君に答えた。

 あいつ、プロになる以外の道とかなれなかった場合のこととかちゃんと考えてるんだろうか…………考えてないだろうなあ。

 プロになる方法についてちゃんと調べているのかも怪しいところだ。

 

「ところで、そのコナミはどこにいるんだ? 君と一緒にいると思ったんだが…………」

 

 俺のデュエルをしている時は観客席で愛理君と一緒に見ていたようだったから、今も一緒に行動していると思ったんだが…………。

 周囲を見回してもいないようだ。いやまあ常に愛理君と行動しているわけではないだろうが、デュエルが終わった後に愛理君だけが来てあいつが来ないのには違和感を感じるな。

 

「コナミ君はちょっと、行くところがあるからってさっき出て行ったわ」

「…………そうか…………そうだな。これが最後なら、それもいいだろう」

 

 たぶん、コナミは万丈目に会いに行ったか。しかし恐らく傷心しているだろう奴に会って大丈夫なのだろうか。

 プライドの高い万丈目が相手だ、変に刺激しないといいんだがな。

 

 俺は一抹の不安を感じながらも寮に就くまでの間、愛理君と今日のデュエルについての感想を話し合うのだった。

 

 

 

 

 ザーッザーッと寄せては返す波が心地の良い音を出している島の船着場。

 そこで俺、万丈目準はアカデミアと別れるために小型の船に乗るための準備をしていた。

 

 気分は…………正直かなり重苦しい気分だった。

 デュエルで敗けた以上は仕方ないとはいえ、万丈目グループの末弟でありながら兄さんたちの期待に応えられなかった。

 アカデミアを退学になったなど、兄さんたちにどう弁明すればいいのか…………廃嫡は、流石にないと思いたいが、今後兄さんたちからの印象は悪くなるのは想像に難くない。

 

 8を超えた時から家のため、家族の期待に応えるために始めたデュエルモンスターズ。

 それをはたして今後も続けて行けるのかもわからない。

 

 押し寄せる不安の前に船着き場で一時俺は座り込み、現実と俺の望みの前に打ち寄せる波を見ながら黄昏れた。

 

 可能ならば今後もデェエルを続けていきたい。

 これまでこの道を極めるために努力を続けてきたんだ。

 こんな半端なところで諦めたくはない。

 

 だが、家に戻った先にそれを許してくれるかどうか…………落ちこぼれとして見られた先、兄さんたちの仕事の手伝いをするようになる可能性もある。

 そうなれば、俺の道は完全に途絶える──プロと言う道もデュエルキングという夢もまた。

 

「──ふざけるな。まだだ…………まだ俺は、俺はまだ終わってはいない! こんなところで終わる万丈目準ではない…………!!」

 

 俺は塞ぎこんでいた自分を叱咤するように立ち上がり、声を張り上げて不安と言う自らの弱さを振り払うように叫んだ。

 

 そうだ! あれもこれも、俺がここまで追い込まれることになったのもすべては十代に敗けたことがきっかけだったのだ。

 次戦えば、次戦えば俺が必ず勝つと言うのに…………!

 

「俺は諦めないぞ。必ず、必ず俺を馬鹿にした奴らを見返してやる…………! 今に見ていろよデュエルアカデミア…………!!」

 

 俺は背後にそびえたつ学園を指さしながら振り向いて決意の声を叫んだ。それは必ず帰ってくると言う決意を込めた宣言であり、同時にデュエルの道を諦めないと言う意思表明でもあった。

 

「おー! さすが万丈目君。落ち込んでいるだろうなあと思ってたんだけど、すごいハングリー精神だ」

「なァッ! コナミ…………! 貴様、見ていたのか!?」

 

 俺が振り向いた先、指さす方向にはいつからいたのかコナミの奴がパチパチと拍手をしながら立っていた。その顔には何が嬉しいのか笑みを浮かべており、俺の機嫌を逆なでするように明るい表情であった。

 俺は先ほどまでの落ち込んでいた自分の情けない姿を見られていたかもしれないことに顔を熱くながら問い詰めるために向き直った。

 

「言えっ! いつから貴様はそこに、いや何しに来たッ! 俺を笑いにでも来たのか…………!」

「君を笑うなんてしないよ。ただ、仲良しと呼べる関係ではなかったけど、1人のライバルが学園を去ろうとしてるんだ。最後に話をしたいと思うのは自然なことだろう?」

 

「話をしにきただと? 帰れ、俺は話すことなどない!」

「そんなつれないこと言わないでよ。ちょっとだけだからさ、ねっ!」

 

 コナミの奴は俺に拝むように手を合わせながらそう言うと、俺の隣までやってきて帰れと言った俺の言葉を無視して話し始めた。

 

「デェエル、よかったよ。うん、すごく見ごたえのあるデュエルだった」

「ふん、敗ければ意味がない。どれだけ足掻いたところで勝者がすべてだ」

 

「そうだね。欲しいものがあるのなら勝たなきゃいけない。栄光は勝者のためのものなんだから。敗者はただ、結果を受け入れるしかない」

「意外だな。貴様ならあの能天気な十代のように敗けても楽しかったなどとふざけたことをぬかすと思っていたが…………」

 

 俺はこいつが敗けたところなど、ビデオでのカイザーとの1戦以外見たことがない…………が、こいつの性格や態度からデュエリストとしての考えとしては十代寄りだと考えていた。

 だから今こいつが言ったような敗けた者は結果を受け入れるしかないといったことを言うとは思わなかった。

 それでも、自分で言っていることに無常さを感じているのか、寂しさを湛えた目をしているようだがな。

 

「僕としても十代君のようにありたいんだけどね。そこに賭けるものがある以上、勝敗に関係なく楽しいと言えるほど、もう純粋ではないよ」

「奴のあれは純粋ではなくガキと言うんだ。何も背負っていない奴の戯言だ」

 

 勝っても敗けても楽しいなんぞ、始めたての子供の言う言葉だ。あるいは敗けても失うもののないやつの…………か。

 一端のデュエリストなら負ければ悔しさと共に屈辱も感じるものだ。

 だが、奴にはそれがない。味わったことがないのか知らんが、俺は奴のそういうところが気に入らんのだ!

 

「まあそれはそうと。万丈目君はこれからどうするの。学園をやめてさ」

「なんでもいいだろう。貴様には関係のないことだ」

 

 俺はコナミに投げやりに答えながら船に荷物を投げ入れた。

 アカデミアに入学してからまだそれほど時間は経ってないこともあって私物は比較的少ない。

 大きなものは後日郵送で家まで送ってもらう手筈だから、手荷物は鞄一つで事足りた。

 

「関係はないけどさ、じゃあデュエルは続けるの?」

「…………さあな」

 

 俺は当たり前だ!と返そうとしたが、改めて問われた問いかけに一抹の不安を拭いきることができず言葉を濁した。

 これから先俺自身がどうなるか、どうするかを決めれていない俺にはデュエルを続けていくと断言することはできなかった。

 無論気持ちの上ではやめないつもりだが、現実問題としてそれが可能かどうかはわからなかったのだ。

 

「そっか。万丈目君、僕はさ、プロを目指しているんだ」

「……プロか。まあ、そうだろうな」

 

 プロデュエリスト。

 それはこれまで俺が目指していたものでもある。

 デュエルキングになることは俺にとって夢であったが、その途上の進路先としてプロへの道を進むこと。

 それが俺の目標であり将来進もうと考えていたことでもあった。

 

 だが…………。

 

「貴様が何を目指そうが俺の知ったことではない。好きにすればいい」

 

 俺はコナミとの会話に付き合うのもうんざりしてきたために、1人船に飛び乗って出航の準備を始めた。

 

 プロか……今更の話だ。

 今の俺にはプロになる以前に直近のことを考えることの方が重要なのだ。

 

 それにプロデュエリストはアカデミアに通う多くのデュエリストが望む未来だ。

 こいつがそれを目指していてもなんの不思議でもない。

 

「僕はプロになる。必ずなって見せる。そうしてプロとして活動していく中で、君とデュエルできる日がくることを僕は待っているよ」

「………」

 

 迷いなく、真っ直ぐな目と心で語る未来への展望。

 その未来の中で、奴は俺とデュエルする光景を望んでいるようだ。まだ、先のことも決めきれていない俺とのデュエルを………。

 

「だから……またね、万丈目君。まあ君ならどこへ行っても大丈夫だとは思うけど、元気でね」

 

 ここまで言われて気が付いたことだが、不愉快なことに、どうやら俺はコナミのやつに心配されているらしい。

 俺の中の不安を知ってか知らずか、デュエルの道を諦めないように引き止めに来たということか。まったく、万丈目準ともあろう者がこいつにそんな気を遣われるとはな……。

 

「貴様という奴はつくづく……十代同様、この俺を不愉快にさせる天才らしいな。くくく、貴様に言われるまでもない。この俺がこんなところで終わるデュエリストだと思うのか! プロの世界で待っていろ! その時こそ、貴様の最後だッ!!」

 

 俺はそれ以上の言葉を交わすことなくエンジンを始動させた船を動かして大海原へと出航させた。背後から見守っているであろうコナミに俺は決して振り返ることはしなかった。

 

 行き先定まらない船旅。

 その道を走らせながら俺は決めた。

 

 家や兄弟。

 そう言うしがらみとは関係なく、俺は俺のためにデュエルを続ける。

 兄さんたちが何を言おうが関係はない!

 そしていつか、必ずプロになる!!

 

 己に誓った決意を胸に、押し寄せる不安を他所にして俺は船を全速力で走らせる。

 高速で流れゆく海の景色を背景に俺は叫んだ。

 

「俺は誰だ……! 俺は万丈目準だ……! その手に栄冠を戴く男だ……!」

 

 今日の敗北もこれまでの屈辱も、輝ける未来のための試金石にすぎん。

 

「俺の本当の戦いは……これからだ……!!!」

 

 輝ける未来。その道を目指すため、学園を背後に船はただどこまでも只管に大海原を駆け抜け続けた。

 

 





 この後座礁して遭難する模様。運命の出会いが待ってるぜ!

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