今回デュエルの前振りなのにくっそ長いです。こういう地の文とか文章量が長いのが嫌な方にはすみません。
冬休み。
年に一度すべての生徒に訪れる連休であり、希望者は学園を離れ帰省することができる。
今年入学した一年生にとっては慣れない寮生活から離れ、初めて親元に帰れる機会であり、多くの生徒が家族の元へと一度帰る選択をしていた。
無論、僕や愛理ちゃん、三沢君も揃って一度帰ることを選択しており母さんたちに顔を見せるということもあり実家に帰っていた。
帰らないのは十代君たちのような極々例外な生徒だけであり、彼らはアカデミアに残り、冬休みの間、寮で過ごすようだった。
そして僕はといえば寒空の下出かけるつもりにもならないため家でまったりと休みの間過ごすつもりだった………のだが、今現在、僕は雪山で遭難していた。
「はっ……はっ……やばいって……これマジでやばいって!!?」
暴風渦巻く空は悪天候。降り頻る雪の中、山の傾斜を滑りそうになりながら登っていく。
一歩踏み出すごとに雪で足を取られないように踏ん張るために体力と気力を持ってかれる。吹雪により湿った服が冬の気温と相まって体から熱を奪っていく。
気を抜けば滑り落ちて大怪我を負うかもしれない。あるいはこのまま死ぬかもしれない、その不安と緊張が僕の精神を蝕み続けていた。
「冗談じゃないぞ!! デュエルで死ぬならともかく、こんな……こんな形で死んでたまるか──ふべっ!?」
寒さと疲労で弱気になりそうな自分に気合いを入れるため叫んだためか、雪に足を取られてつまづいてしまった。
そうして地に手をつけて立ち上がりながら刻一刻と死へと向かう状況の中、僕は何故こんなことになってしまったのかを思い起こした。
すべてはあの時、家でぬくぬくと布団にくるまっていた時にかかってきた電話。
あれに出た時から始まったんだ。
この命懸けの登山は──。
あれはよく晴れた朝、僕が二階建ての実家、その中に僕用にあてがわれた自分の部屋で一人、惰眠をむさぼっていた時のこと。
PiPiPiと枕元に置いていた僕の携帯が鳴って愛理ちゃんから電話があったことを僕に知らせてきた。
寝起きとはいえ、好意を向ける女の子からの電話。僕ははっきりしない頭ながらも嬉々とした様子で電話と取って用件を聞いた。
『あっ、コナミ君起きてる? ちょっとお父さんがコナミ君に話があるみたいなんだけど…………』
僕への用件は予想外に愛理ちゃんではなく、愛理ちゃんのお父さんからであった。どうやら、愛理ちゃんは僕とお父さんへの仲介役にされたらしい。
そして何か悪いことでもしただろうかと恐る恐るその内容を聞いてみると、なんでも電話先の愛理ちゃんが言うには愛理ちゃんのお父さんがとある別荘のある山までキャンプに行くらしく、そこに僕も行かないかとのことだった。
『ちょっと泊りがけのキャンプになるみたいだから、予定があったり嫌だったら断ってくれても大丈夫みたいなんだけど、どうする?』
電話の内容が悪いことではなかったことに安堵しつつ、僕はどう答えようかと悩んだ。僕と愛理ちゃんは相応に親しい仲ではあるが、だからと言って愛理ちゃんのお父さんのお誘いにおいそれと乗っても迷惑にならないかと思ったからだ。一応、向こうからのお誘いのため、乗ったからと言って図々しいとは思われないと願いたいが………。
しかしキャンプかあ………。正直、興味はある。愛理ちゃんが言うにはバーベキューもするみたいで結構豪華な食材を用意してくれるらしい。
だから行きたいッ! …………とは思うものの、この寒空の下、外に出るのはちょっとなあと、少しばかり及び腰になってしまう。
それに話しをもう少し詳しく聞くと、どうやら愛理ちゃんとそのお母さんは来ないようで、僕と愛理ちゃんのお父さんの二人でのキャンプになるらしい。
それを聞いて僕がまず思ったことは──それかなり気まずくない?僕だけ行っても問題なくやれるとは思えないんだけど………。という純粋な疑念であった。
一応小学生のころから何度も会って話してるため、それなりには見知った間柄だとは思うけれど、二人でキャンプを楽しめるほど気安い関係ではないはずだ。
そういう諸々を考えると断るのが最善、そう思える。
ただ、断った際のリスクもあった。恐らくだが、このお誘いは純度100%好意で誘ってくれているはずだ。そのためこれを下手に断ると相手からの印象に角が出てしまうのではないかと言う不安があったのだ。
だが、断るなら断り方をすぐに考えないといけないが、行くなら相応のメリットも存在した。それは将来的に愛理ちゃんとの関係を深めていくにあたって愛理ちゃんのお父さんと親睦を深めておくのは決して悪くはないという考えであった。
こういうお誘いは1度断ると2度目はない可能性がある。
その理由がどうであれ、向こうも年の離れた子供を誘うのにはそれなりに勇気が必要だったんじゃないかなと思うんだ。
大人の人の気持ちなんてわかないけどさ、たぶん、そうじゃないかなあと思う。
だからここはこちらも勇気をだして一歩踏み出すことが肝要。
話が合うかはわからないし、愛理ちゃん抜きで上手く接することができるかもわからないけれど、やる価値はある。
デュエルで鍛えた頭の中で瞬時にメリットデメリットを天秤にかけ、メリットの方に傾いた僕は愛理ちゃんを待たせないために頭の中で損得を計算していたとは悟られないようにすぐに答えた。
『愛理ちゃん、そのお誘い喜んで受けさせてもらうよ。だから、必要なものや日程がわかったら教えて欲しい。すぐに用意するから』
『うんわかった。それじゃあお父さんに伝えてくるね。詳細がわかったらまた電話するわ!』
そうして電話が切れた後、僕は若干の後悔と不安を抱えながら家族に今度キャンプに行くことを伝えるために部屋を出ていくのだった。
それから日は少しばかり経って、僕は愛理ちゃんのお父さん、水無月
藤次郎さんは愛理ちゃんとは違い黒髪の短髪をした30代後半の社長さんだ。
道中、車の中で藤次郎さんと話したが、当初不安視していた気まずさに関しては小学生のころから何度もあってるおかげか、思っていたほどではなく、お互い探り探りではあったが道中問題なく会話をすることができた。
特に会話が弾んだのはやはり、アカデミアにおける学園生活についてだった。あの非常識ともいえる学園は藤次郎さんからしても興味深いのか、根掘り葉掘り聞かれたものだった。
因みにその中で愛理ちゃんから愚痴でも聞かされていたのか、僕の女性関係についてほどほどにしておきなさいと嗜めるように注意されたが、あの時以上に焦ったものはなかった。
そうして道中楽しく会話をしながら愛理ちゃんの家から車で進むこと数時間、町里離れた山村のさらに向こう側へ行った場所にキャンプ場はあった。
「コナミ君、着いたよ。ここが数日間私たちが寝泊まりすることになる別荘だ」
藤次郎さんに言われ車を出た先、大きな広場にその別荘はあった。
山林に囲まれながらも奇麗に管理されていたのかその別荘、2階建てのログハウスは外観から内装まで埃一つ見当たらない程に清掃されていた。
流石に新品というわけではないのだろうが、山々に囲まれながらも大切に管理されてきたのだろうことが外観から察せられるほどにそのログハウスは奇麗にされていたのだ。
「はー。すっごいですね! 僕、こういう木材でできた家に泊まるのは初めてです! 誘っていただいてありがとうございます!」
「ははは! いいさ、この別荘は妻や愛理からは不評でね。私は好きなんだが、周りが山に囲まれているから虫や動物が多くて建てたはいいがいつもは私一人で来ていたんだ。だから、来てくれて感謝してるくらいさ」
僕はこれから数日間過ごすことになる初めての体験となるログハウスの存在に興奮しながらも、失礼にならないように取り繕いながらログハウスに入った。
内装もやはり奇麗にされており、全面が木材でできたその光景に僕は興奮を隠しきれない様子で見て回った。
「この別荘、広いんですね。たまにしか来ないと聞いていたのでもっとこじんまりとしているのかと思ってました」
ログハウスは一般的な家族が不自由なく過ごせる程度には広く、2人で過ごすには逆に持て余すだろうなと感じる程度には大きかった。ましてや1人で過ごすとなると逆に寂しささえ感じるのではないかと思えた。
「これを建てた時は家族で過ごすつもりだったからね。部屋数も愛理や妻が友人を誘った時を考えて余分に広く作ったのだが、いやはや私の計画性のなさかね。誰も来てくれなくて失敗してしまったよ」
おかげで管理に必要以上にお金がかかって大変だと藤次郎さんは笑って愛理ちゃんたちと来た時に撮ったのだろう。リビングに置かれている家族写真を手に取ってみていた。
「そうなんですか。僕は好きですけどね。こういう自然にあふれた家というのもいいと思います………う~~寒い」
外ほどではないにせよ室内の温度も体を震わす程度には寒かったため、僕は体を両手で抱きながら震わせて温まろうとした。そしてそんな僕を見かねたのだろう。藤次郎さんが暖炉に薪をくべて火をつけ始めた。
一応電機は通っているためヒーターも完備しているらしいが、暖炉の方が趣があって好きらしい。
寒いようならヒーターもつけようかと聞かれたが、僕としてもせっかくのキャンプということもあり、暖炉で温まる初体験を楽しむことにした。
「さてコナミ君、君も流石にお腹が減っているだろう。もう昼もすぎてるし昼食にしようか」
「あっはい! 手伝います。何をしたらいいですか」
「そうかい? それじゃあ──」
それから僕と藤次郎さんは軽めの昼食をとった後、別荘の外に夕食にする予定のバーベキューのためにコンロなどの準備をした。
ちなみに藤次郎さんは別荘のログハウスではなく用意していたテントに泊まるらしくペグを打ち付けてそこに寝泊まりするつもりらしかった。
この寒空の下、暖かいであろうログハウスがあるのにどうしてテントで寝るんですと思い聞いてみたが、何でもテント泊まりは趣味とのことだった。
「コナミ君はお客さんだから別荘に泊まるといい。無理をすると風邪を引いてしまう。あー私のことは気にしなくていいよ。慣れてるからね」
テントでの寝泊まりに慣れている。
藤次郎さんのその言葉にはちょっとだけ疑問に感じだが、趣味でアウトドアをやってきたということならそういうこともあるんだろうと思い、それ以上追及することはなかった。
そうして夜も更けて月明かりと星々が照らす下、僕たちは揃って外で小型のチェアに座って焚火を囲んでいた。キャンプ自体殆ど経験のない僕にとって自然の中で行う焚火と言うのも初めてであり、今日誘いに乗ってよかったとしみじみと感じていた。
焚火を囲む僕らの周りは月明かりがあるとはいえひどく暗く、周囲は闇に覆われていた。それに反して街の明かりがないからだろう。空に満ちて輝く星々の輝きは千の宝石を散りばめた様に美しかった。
そんな中、まったりと静かに焚き火の音と熱を楽しんでいる中で藤次郎さんが僕になんでもないように、しかしその中に真剣さも感じる声で質問をしてきた。
「コナミ君、正直に言って欲しいんだが君から見て学園での愛理の様子はどうだい? 寮生活、上手くやれてそうかな」
「愛理ちゃんですか? んーそうですね。女子寮なのでその中の様子までは知りませんけど、僕から見てる限り楽しそうですよ」
その顔には笑みを、しかし嘘やごまかしを見抜こうとするようにその眼光は鋭かった。そのため、僕はお世辞やご機嫌取りと言った奇麗ごとを乗せずに本心からの僕からの印象を言った。
「そうか、うん。それならいいんだ。ちょっと心配だったからね。愛理から学園のことは聞いていたが君からの様子も聞いておきたかったんだ」
焚き火を見ながら静かに笑う藤次郎さんを見ながらもしかしたらこれを聞きたくて僕を呼んだのかなと思った。
愛理ちゃん自身から問題なく生活できていると聞いてはいたんだろうけれど、愛理ちゃんのいない場で確認はしておきたかったのだろう。
安心したように口に笑みを浮かべている藤次郎さんを見て僕はそう思った。
「藤次郎さんはこういうアウトドアとかよくやるんですか?」
「よくってほどではないね。昔を忘れないために…………かな。まあこういうのが好きってのもあるけどね」
「はあ、昔ですか」
昔に何かあったのだろうか…………?
藤次郎さんの雰囲気からして特別暗い感じはしないから悪い思い出ではないように感じるけれど………。僕は焚火の日で温めたお湯で淹れた砂糖一杯のココアを飲みながら訝しんだ。
「でも、ちょっと意外ですね。藤次郎さんのような裕福な方がこういうキャンプというかアウトドアが好きというのは」
「まあ人はどれほど裕福になったとしても子供の頃の体験から逃れることはできないものだからね。そこに好意的な感情を向けるものならば猶更だ。年をとった今でも忘れられずしがみついているよ」
僕の質問に対してよくわからない言い回しをする藤次郎さんは僕とは違いブラックコーヒーを飲みながら過去を思い起こすように焚火を見つめている。
やっぱり何か昔あったのだろう。それがきっかけでキャンプが好きになったということで、今でも続けていると言うことなんだと僕は受け取った。
正直まだ子供の域をでない僕には藤次郎さんの哀愁にも似た寂しさに共感はできそうにない。もっと年をとって昔話に華を咲かせるような年齢になればそのもの寂しさを僕も理解できるのかもしれない。
ただ今は「はあ」とだけ返してとりあえずの言葉を返すのがやっとだった。
「ああそうだ。話は変わるんだが、明日もしよかったら山頂に登ってみないかい。そこにカードがあるらしいんだ」
「山頂ですか? それは構いませんけど、山にカードがあるんですか…………?」
藤次郎さんが見る方向、夜深く暗闇のためその全貌はもう見えないが、別荘の裏には大きな山があった。
昼間、僕は山道の途中までしか歩いていない。
昼間見た感じだと結構な山道だったし、その山頂ともなると時間も体力も使うだろう。
そこに山があるから登るって趣味は僕にはないから、わざわざ苦労して登りたいって気持ちはない。
だけど藤次郎さんの言うカードには興味がある。
なんせ詳しく聞いてみると山頂には小さな祠があるらしく、その中にカードが祭られているって話じゃないか。
祭られるほどのカード。
それはどれほどのレアカードなんだろか…………!
なんで山にカードが納められているのかとか、藤次郎さんがどうしてそれを知っているのかとか気になることはあるけれど、そこらへんは山頂についてからでいいだろう。
楽しみは後に取っておくに限る。
そういう細かい解説や理由は最後に教えてもらうのがいい。
「藤次郎さん、是非にそこに行ってみたいです!」
「ほう、そうか。うん、君ならそう言うと思っていたよ。では明日行ってみようか。明日も晴れると言う予報だし、まあ大丈夫だろう」
そうして明日の予定を決めた僕と藤次郎さんは明日に備えて早めの就寝をとるために僕は用意してくれたログハウスの一部屋に、藤次郎さんはテントの中で寝袋に入って睡眠をとるのだった。
睡眠に入る直前、明日のことを楽しみにしていた僕は明日登頂することになる山を見れないか窓から顔を出した。その瞬間、首から下げられたクリスタルが山へ向かって輝いたような気がしたが、僕は気のせいかと気にすることはなかった。
これが危険のサインであり、そこに何が納められているかを知る最初で最後のチャンスであったのに、僕がそれを気にすることはなかった。
そしてあくる日、登山の準備をした僕は藤次郎さんと共に山頂を目指して歩き出したのだった。
「そうだ、そして途中から天気が崩れて引き返そうと藤次郎さんに提案しようとしたんだ。でも、気が付いたら藤次郎さんはいなくなっていたんだったな」
僕は降り積もりつつある雪の中、地面から立ち上がり登頂を再開すべく過去へと思いを馳せていた意識を現在へと戻して前を向いた。
「進まなきゃ…………寝れば死ぬ。山頂へ…………!!」
僕は引き返すべきだと叫ぶ理性を無視して足を山頂へと向けた。
一歩踏み出すごとに雪は積もっていく。
僕の行く道を阻まんと吹雪はより強く、視界を塞ぎ体を吹き飛ばさんと風を叩きつけてくる。
僕は両腕を交差して顔を守りながら進んだ。
「…………ッ!?」
どれくらい歩いたか、もはや指の感触はなく吐く息は苦しい。呼吸をするたびに肺が凍り付くのではないかと思わんばかりの冷たさであった。
その中で、強風で木の枝でも飛んできたのか、額を切ったような鋭い痛みが僕を襲った。それを気にする余裕もない僕は懸命に足を動かした。止まれば死ぬと心で言い聞かせながら。
明らかに死ぬルートを僕は選んでいる。
もはや、本当に山頂への道を正しく歩けているのかさえ、よくわかっていない。
もしこで死んだらテレビで放送でもされるのかもしれない。
それで悪天候の中、なぜ山頂を目指したのか議論でもされるのだろうか…………。
『コナミ君、この先何があっても、山頂を目指し続けるんだ。いいね、何があってもだ…………!』
もしそんな議論が交わされたとしたら、その回答は藤次郎さんと登山前に交わした約束を果たすためだと僕は答えるだろう。
あの時は何故そんなことをいうのかわからなかった。
でも今ならわかる。
きっと藤次郎さんはこうなることをわかっていたんだ。
天気は崩れ僕は遭難と言える状況に追い込まれる。
何故なのかはわからない。
でも、あの人が悪意を持って僕を陥れたとも思えない…………いや、思いたくはない。
それにあの約束が嘘でないならきっと藤次郎さんは無事なはずだ。
もしかしたら僕より先に山頂で僕を待っているのかもしれない。
逆に危険だからということでログハウスへと戻っている可能性もあるけれど、あの時の言葉が僕の意志を山頂への道から引き離さなかった。
だから進み続ける。
大自然の脅威にこの魂が敗北しない限り、体が僕の意志に応える限りは…………!!
「自然が………僕の夢の邪魔をするなあ──!!」
その言葉と同時に大きく踏み出し膝下まで積み上がった雪をかき分けながら僕は最後の力を振り絞るように牛歩のような速さで走った。
「──はぁ──はぁ…………ここは…………山頂…………?」
いつの間にそれほど登っていたのか、僕は気が付いたらこれ以上昇る場所などない程に開けた場所にたどり着いていた。
空は晴天。
あれほど吹雪いていたはずの荒れ模様が嘘のように凪いでいた。
空には眩しいほどに輝く太陽が積もった雪を照らし、それに反射した光が幻想的な自然の美しさを強調していた。
それは幻想的で限りなく美しいと言える光景であったが、だからこそ不気味でもあった。
僕を襲っていた先ほどまでの吹雪はどこへ行ってしまったのだろう。
空一面を煽っていた分厚い雲は一瞬で気づかないうちになくなってしまったというのだろうか。
山頂、その中央に鎮座している小さな祠。
恐らく、あれが藤次郎さんが言っていたカードが収められている祠なのだろう。
というか、山頂にこれ見よがしに置かれている祠なんて一つしか見当たらない。
疲労で頭が回らないからだろう。多少過呼吸気味になっているからかもしれない。何故かその祠の周囲のみが雪が降り積もっていないことに疑問など抱くことはなく、僕は疲れ切った体に鞭打って祠に近づいた。
休むことよりカードへの好奇心が優ったからだ。
「小さい……小さな祠だ。なんでこんな所に祠なんて建てられてるんだろう……?」
台座に置かれた祠、そのサイズは台座を含めても僕より少し小さいくらいだった。
神社に奉られているような立派なものではない。
もっと簡素な、まるで一個人が作ったような雑味のある作りだった。
「それはね……そこに納められているものが大切なものだったからだよ」
「──藤次郎さん!?」
僕は後ろから掛けられた声に驚きながら振り向いた。
そこには五体満足にしている藤次郎さんが立っていた。
その立ち姿に疲労感は感じられず、不思議なことに僕とは違い衣服はほとんど濡れていなかった。
「無事だったんですね。よかったです…………!」
「ああ、君こそ約束通り登ってきてくれたんだね。ありがとう」
「いえ、何があってもという約束でしたから。ところでこの祠なんですよね。カードが収められているっていうのは…………!!」
僕は極度の疲労からか、溢れる興奮に任せるままに藤次郎さんに祠を指さして聞いた。
「そうだ、その祠が私たちのお目当てのものが入っているものだ」
「はぁ! そうなんだ。この祠の中にカードが…………!」
僕は何とか祠の中のカードが見れないかと思い、祠の扉を開こうとしてみたが鍵がかけられているのか開かなかった。
そのため、扉の隙間から中が見えないかと覗いてみたがそれでもやはりカードを見ることは叶わなかった。
「いい天気だ。この山がこんなに穏やかになるなんてね。神もこの時を祝福してくれているのかな。──ああ、神の元へ召されるにはいい日だ。君もそうは思わないかね、コナミ君」
「…………藤次郎さん?」
多少呼吸が整ってきた僕は後ろで立っている藤次郎さんが気になって祠から顔を上げて彼の方を見た。
なんだ…………?
藤次郎さんの様子が、何かおかしいような。まるで何かに憑りつかれているような気配を感じる。
胸にかけているクリスタルのおかげだろうか、藤次郎さんの体から、不思議なオーラのようなものが噴出しているのを僕は感じた。
それだけじゃない、キラキラとクリスタルが輝いて藤次郎さんに反応していた。
「コナミ君、君は見事この山を踏破した。あの猛吹雪の中、臆せずに約束を果たした。その意思の強さを神もお認めになられたんだよ。君は、ここでデュエルする資格がある。さあ、構えろコナミ君、デュエルだ!!」
そう言ってデュエルディスクを構えた藤次郎さんの姿に僕は思わず硬直して固まってしまった。
僕の腕にはいつの間につけていたのか、ログハウスに置いてきたはずのデュエルディスクが装着されて起動していた。
「待ってください! デュエルって…………なんで!」
「その問答は神の御前において無礼だよ。私たちはただ、互いの死力を尽くして勝負するのみだ」
「くっ、仕方ない。ここはやるしかないか…………!」
藤次郎さんの様子がおかしいのは気になるが、話を聞いてくれそうにもない。
デュエルディスクが僕の意志を無視して起動したのもあり、どうにもデュエルしない選択を与えてくれそうにもない。
多少落ち着いたからだろうか、それとも輝き続けているクリスタルのおかげか。不思議なことにあれほど疲労していた体がデュエルできる程度には体力も回復しているのを感じ取れた。
これならやれるかと僕はデュエルディスクを藤次郎さんの方に向けてデュエルのために構えた。
「「デュエル!!」」
活動報告に書いてますが、最近アマプラの溜めてた映画を解消していっているため、次の投稿は遅くなると思います。
追記ですが、身内の関係で少しの間ドタバタする可能性が出てきたため、思ったよりも次の話に時間がかかるかもしれません。可能な限り週1話を維持できるようにはします。