授業が終わり、教室には授業から解放されたことで残っている生徒で賑わっていた。
その中にいる私、水無月愛理も例に漏れずコナミ君と教室で椅子に座りながら今日会ったことについて話していた。
「それで、なんでコナミ君先生から呼び出されてたの? 何か悪いことでもした?」
「いやいや、品行方正と噂されるほど真面目なこの僕が悪いことなんてするわけないじゃあないか。はっはっはっ!」
コナミ君が品行方正と判断されるせれるほど真面目なら私が勉強を見てあげる必要もないだろうに、冷や汗をかきながら否定する姿を見てまさか本当に何か怒られるようなことをしたのだろうかと一抹の不安を感じながら呼び出された理由を私は聞いた。
すると彼は胸元からいつもつけているクリスタルのネックレスとは別に、金色の長方形をしたネックレスを取り出した。
それはとてもオシャレでつけるためとは思えない歪な形状をしており、これをつけているコナミ君とデートはしたくはないなあと内心で思った。
「それ………ナニ? まさかオシャレのつもりじゃないよね?」
「違う違う。実はさあ、この学園に3幻魔っていうすんごいカードが封印されているらしくてね。その封印を解くための鍵の一部らしいんだ。それを狙っている人たちがやってくるらしいからデュエルで守ってほしいんだってさ」
「三幻魔? コナミ君、プラネットシリーズとか霊使いの子たちの件もあるのに厄介ごとをさらに抱えるつもりなの?」
私は今でさえ色々と厄介な案件を抱えていながら、さらに面倒ごとを抱えようと安易に守り人になることを引き受けたコナミ君を呆れたといった視線で見つめた。
三幻魔………私は聞いたこともないカードだけど、封印されているってことは相応に強力で危険なカードであることは間違いない。ただでさえプラネットシリーズなどの件もあって危険な目に合いかねない立場なのにさらに厄介ごとを抱えるつもりだと言うのか。
どうしてこう危険としりながら楽観的に首を突っ込もうとするのだこの人は…………。
その危険な出来事の一つをさせることになっている私が言えた立場ではないのだけど、少しは私を安心させてほしいわ。本人はどんなカードなんだろうねと楽しそうに笑っているし、本当に………危機感と言うものを持ってほしい。
「大丈夫だよ愛理ちゃん。鍵を持っているのは僕以外にも丸藤さんや十代君もいるし、ちょーっと危険なデュエルにはなるかもしれないけど、やることはいつもと変わらないんだからさ。いやー楽しみだよねえ! きっと選りすぐりのすっごいデュエリストが挑んでくるよ!」
「はぁ、もういいわ。そんなに危険が好きなら好きにしてちょうだい。私は行くところがあるからもう行くわね」
こちらの気持ちも鑑みずワクワクが止まらねえと言った態度に抑えきれない苛立ちを憶えた私はそれをぶつける前に、引き留めるコナミ君を置いて一人、教室を出ていった。
教室を出た私は廊下を歩きながら以前から考えていたある相談ごとを先生にすべく約束していた空き教室へと向かっていた。
「やあ水無月さん。早いですね、まだ時間はあったと思いますけど?」
「佐藤先生………いえ、ちょっとありまして早めですが来たんです」
「そうですか。なら丁度いい。約束の時間より少し早いですが、君の相談に乗りましょう」
「はい、お願いします」
空き教室へと向かう途中、約束していた相手であるアカデミアの教員である佐藤先生にばったり出くわした私は先生の勧めもあって少し早めの相談に乗ってもらうこととなった。
「それで、私に相談したいこととは何かな。優等生である君が悩むことだ。私で力になれるなら何でもしてあげたいが………」
誰もいない空き教室、そこの中央の席で私と佐藤先生の話し合い始まった。
佐藤浩二先生、学園の皆が佐藤先生と呼ぶこの教員は主にデュエルに関する授業を教えてくれている。
長く伸ばした癖のある黒髪に少々覇気のない印象を受ける顔立ちをしている。しかし逆に言えば穏やかで優しい先生である。
私はこの先生が持つ、ある過去に絡む件について、相談したかった。
「もし話しづらいことなら、もう少し待ちますが………それとも、何か小話でも挟んだ方が話しやすいですかね」
「いえ、大丈夫です佐藤先生、相談の前に確認させていただきたいのですが…………先生は、その………昔プロデュエリストをされていたと聞きましたが、それは本当でしょうか」
私は一瞬、佐藤先生に聞くのを躊躇いながら口に出した。
この学園で佐藤先生がかつてプロデュエリストとして活動していたと言う経歴はあまり有名ではない。隠しているわけではないようだが、先生自身がそれを言いふらすように風聴することはなかったし、私が知ったのも偶然プロデュエリストについて調べていたときに同じ名前の人が過去にいたと言うのを見聞きしたからだ。
先生はまだ若い。何か特別な事情がなければ今もプロとして活動していても何ら可笑しくはないだろう。だが、今私の目の前で座っているチャンプにさえなれると噂された才能ある人はエリート校とはいえ、アカデミアで教師をやっている。
そのため、デュエルアカデミアで教師をやっているのはもしかしたら過去に触れられたくはない特殊な事情によるものではないかと思い、一瞬ためらってしまったのだ。
「それをどこで………。ええ、水無月君の言う通り、私は昔プロデュエリストでした。それは調べようと思えばすぐわかることではありますが、わざわざ自分から話した覚えはありません。誰かから聞いたのですか?」
「個人的な事情でプロについて調べていたことがあって偶然。あと寮長の鮎川先生に相談した時に相談内容について佐藤先生をお勧めされたので。少しだけ佐藤先生の経歴について調べたことがありまして」
「なるほど、鮎川先生が………。いや、そんな申し訳なさそうな顔をしなくてもいいんですよ。どうしても隠しておきたいと言うものでもありませんから」
少しだけ、佐藤先生は顔に暗い影を落としたようで、それを見た私がやはり触れられたくない過去であったかと思い悔やんだが、佐藤先生はそんな私を見かねてすぐに明るくふるまってくれた。
やはり、この先生は見た目通りと言うのは失礼だが、優しい先生なのだろう。相手を気遣える人だ。
「しかし、私の過去を聞くと言うことは君の相談にはプロデュエリストが関わることと言うことかい。君はプロを目指してはいないと聞いていたが………?」
「私が、というわけではないんですけどコナミ君がプロを目指していまして、その関係で聞きたいことがあったんです」
「ああ彼ですか。確かに彼ならプロとて夢ではないでしょう。しかし、彼は実力も才能もあるのは喜ばしいことですが、もう少し真面目に私の授業を受けてもらいたいものです。今のままではもったいない」
「す、すみません。私からもちゃんと聞くように言い聞かせてはいるんですけど」
「ああいや、君が謝ることではありませんよ。私の方こそ、愚痴を聞かせてしまってすみません」
非常に残念だと首を振る先生い、申し訳なさを感じ私も少々恥じを感じながら謝罪した。一瞬、なぜ私が謝罪をとそれを自然にした自分を不思議に思ったが、僅かながら彼の恋人であり保護者でもあるとの意識がある私が謝るのはそう不思議でもないかと納得させた。
コナミ君は当たり前のことだが授業をサボることなくしっかり毎回受けてはいる。しかし、退屈だと感じた時にちょくちょく居眠りしてしまっていることがあるのだ。それを見咎められて起こされるときがある。
私が隣にいる時は私が寝ないよう起こすのだが、いないときは誰も起こしてくれないから、怒られるのも止む無しである。
それ故先生からすれば、真面目に授業を受けなさいと言いたくなるのでしょう。
まあでも佐藤先生の授業を退屈だと思うのはわからないでもないのだ。
先生の授業は生徒に教えようと言う熱意は感じるのだが、前時代的というか形式ばっているのだ。先生の授業はAならB。BをしてきたらCというような遊びや応用のない教科書通りの内容の授業をしている。
だから極端な話教科書を読んでいればすべてわかるというか、授業で受けるほどの内容はないと言う感じがして生徒の多くからの評判は良くないというのも仕方ないのではないかと私も感じている。
私もたまに眠気に誘われそうになったことはあるからその評判を否定はできそうにない。
佐藤先生はいい人ではあるのでしょうし、プロとして活動していたこともあり実力も確かなのでしょうけれど、教える側としては向いてないのではないだろうかと言うのが私の先生への認識であった。
「話を戻しましょう。コナミ君がプロを目指している。それはいいとして、それと君の相談がどうかかわってくるのですか?」
「はい。実は私とコナミ君はその……親しい間柄でして、その彼に以前聞かれたんです。私はこの学園でしたいことはないのかと──お恥ずかしながら、私は彼についてきた形で入学することに決めましたので、この学園でしたいこととか目標と呼べるものがないのです。でも、彼がプロとして活動していくのを支えてあげたいと言う気持ちはあるんです」
私には夢がない。いや、彼の支えになると言うのが夢ではあるのだが、もっと職業だとか、実績だとか。そう言った具体的な何かが私には欠けていた。
彼を支えるとは言っても、そのために何をすべきなのか、何ができるのか。美味しいお弁当を作ってあげるとかはしているが、もっとわかりやすい指標が欲しかった。
「だから、プロとしての経験がある佐藤先生の現役の時代にしてほしかったり、嬉しかったことなどを聞けたら何かしたいことのヒントになるのではないかと思ったんです」
「なるほど、そういうことでしたか。よく一緒にいるとは思いましたがそういう間柄だったとは。いやはや驚きました。しかし、彼の将来のことを考えて自分のすることを決めようとは、水無月君は本当に彼のことが好きなのですね」
私はにこやかに笑いながら話す先生の指摘に些か以上の気恥ずかしさを憶えて顔を赤くしながら机の前で縮こまった。
「ふむ、そうですね。私の経験や考えを教えてあげるのはやぶさかではないのですが……水無月君、一度、私と特別授業と言う形でデュエルをしてみませんか?」
「先生とデュエルですか? それは、まあ大丈夫ですけど、でもどうしてですか?」
「私というデュエリストがどういう人間であり、これまでどのように戦ってきたのか。それを知るには実際にデュエルをして肌で感じてもらうのが1番だからです」
「はぁ………肌で感じるですか…………」
私としては別に先生がどういう人かを知りたいわけではないから、話を聞けてアドバイスを貰えたらそれでいいんだけど、私が先生とデュエルすることでわかることが何かあるのかしら。私はどこか釈然としない感じをしながらも、せっかく先生が提案をしてくれたのだからと引き受けることにした。
「どうですか。きっと、君の悩みの一助になると思うのですが」
「はい。それではお願いします。プロの経験もある先生とデュエルできると言うのも貴重な経験ですから、お手柔らかにお願いします」
「ええ。私も引退した身。それでも君の期待に応えれるように力を尽くします」
私と先生は空き教室ではデュエルをしてはいけないこともあり揃ってデュエル場まで歩いた。道中、先生とコナミ君のデュエルについてなど会話をしながら、和やかな雰囲気で私たちはそこを目指した。そしてデュエル場についたとき、私と先生は少しだけ驚いた。なぜなら珍しくそこには生徒も教員もおらずどうやら私と佐藤先生の貸し切り状態だったからだ。
「水無月君は私のデュエルを見たことはありますか?」
デュエル場の専用リングに登ってデュエルの準備をしている私に、佐藤先生は上着の青いコートを脱ぎ脇に置いた。そしてデッキを確認しながら聞いてきた。
「いえ、先生のことを調べた時にビデオなどで見れることは知りましたが、特別確認したりは…………あっ、でも授業で拝見することはあります」
「なるほど、では私のデッキを知るのはこれが初めてということになりますね。私自身このデッキを使用するのは久しぶりです。いつもは授業用のデッキを使用していますから」
久しぶりと語る先生は入念にデッキのチェックをしているようで一枚一枚、丁寧にめくっている。その表情は穏やかでどこか懐かしむような雰囲気でありながら、どこか微かにだが、悼むような雰囲気も混じっているように感じた。
驚くべきことだが、恐らく本当に久々なのだろう。現役時代に使用していたデッキに触れるのは。そうでなければ、あそこまで入念にチェックをする必要はないでしょうから。
「そのデッキはプロデュエリストとして活動されていた時に使用していたデッキなのですよね。そこまで懐かしむほどに触れていなかったのですか?」
「不思議に思いますか。そうでしょうね、わかります。長いこと愛用していたデッキ。それに触れるのが久々と言うのは疑問に尽きないことでしょう。ですが、これは仕方のないことなのです。私にとってはね」
不思議に思う私の質問に対して、言葉を途中で切った先生はどうにも詳しい理由を説明はしてくれなさそうだった。ただそこには喜びと悲しみが入り混じった複雑な感情が見え隠れしていた。
「さあデュエルを始めましょうか水無月君。私は準備ができました。特別授業を始めるとしましょう」
「はい。私の方も問題ありません」
デッキを見ていた先生が最後にシャッフルをしてデュエルディスクに組み込むことでデュエル開始の合図となった。
「「デュエル!!」」
佐藤先生の授業ってどんなんだろうね。生徒全員がサボるレベルって逆にすごいよ。