「先行は君に譲ります。どうぞ、水無月君」
「はい! では遠慮なく……私のターン、ドロー!」
私と佐藤先生以外、何者もいないデュエル場。その少し普段とは違う場所にもの寂しさを感じながら、私と先生の特別授業が始まった。
先生は元プロデュエリスト。到底今の私が太刀打ちできるとは思えないけれど、それは先生が万全だった場合の話。先生がプロを引退してから年単位の月日は経っている。
それから使用してこなかったデッキ。そのブランクの長さから言えば私にも十分に勝機はあるかもしれない。
「──って、私別にこのデュエルで勝ちたいわけじゃないから、そこまで気を張ってデュエルしなくてもいいわよね。うん、気楽に行きましょう」
あくまでこのデュエルの目的は私が先生の、ひいてはプロであった人のデュエルを通して、私の目標を見つけることが目的のデェエル。
だから恐れず力まず、だけどデュエルそのものには集中して胸を借りるつもりでやりましょうか。
「私は手札からプリンセス人魚を攻撃表示で召喚! さらにライフを1000ポイント払って限定解除を発動! 手札から儀式モンスターを特殊召喚できる! 私は伝説の爆炎使いを特殊召喚!」
《プリンセス人魚》 攻撃力1500 守備力800
《伝説の爆炎使い》 攻撃力2400 守備力2000
《愛理》 残 LP 3000
「限定解除ですか。何か考えがあってのことだと思いますが、そのカードで特殊召喚したモンスターは攻撃できず、エンドフェイズに破壊されます。どうするつもりですか?」
「勿論わかっています。だから、このカードを発動します。私は突然変異を発動! 伝説の爆炎使いをリリースして、同じレベルの融合モンスターである双頭の雷龍を攻撃表示で召喚!!」
《双頭の雷龍》 攻撃力2800 守備力2100
「私はこれでターンエンドです!」
出だしは上々。
いや、むしろかなり良いのではないだろうか。最上級モンスターに下級モンスター1体。手札をたった4枚使用しただけでこの盤面を作れたのだから、最上の結果と言っても差し支えないと思う。
これが並の相手なら、すでに戦意を喪失していても不思議には思わないぐらいだ………ただ、佐藤先生は並の相手ではない。
私の戦術にどう対処してくるだろうか………。
「──なるほど。限定解除からの突然変異で最上級モンスターの召喚に繋げましたか。さらにプリンセス人魚でライフコストのリカバリーも狙う。流石水無月君ですね、無駄のない素晴らしい戦術です。これがテストなら100点をあげてもいいでしょう。ですが、これはテストではない。優しくはしてあげませんよ。私のターン、ドロー!」
やっぱり、佐藤先生は私の布陣に対して些かも動揺していない。
冷静に観察して、評価するだけの余裕さが見られる。恐らく、私の最上の戦術程度は幾度も体験したことがあるのだろう。
いつでも巻き返せると言う自信がその顔に現れている。
「私は……手札からスカブ・スカーナイトを攻撃表示で召喚します」
《スカブ・スカーナイト》 攻撃力0 守備力0
「攻撃力0のモンスター?」
佐藤先生が一瞬だけ奇妙なためらいを見せながら召喚してきたモンスター。
それは全身に蒼く薄い板のような岩を身にまとった人型と獣型の中間を取ったようなモンスターであった。
スカブ、意味合い的にはカサブタかしら。なんだか痛ましい印象を受けるモンスターね。
私のモンスターに対して召喚してきたのが攻撃力を一切持たないモンスターだなんて、どういうつもりなのだろうか。
まさか舐めている………と、いうことはないにしても何を考えているのか全く読めないわ。
「ふふふ。攻撃力が0だからと言って侮ってはいけませんよ。この学園の……いや、世界中の多くのデュエリストはモンスターの攻撃力ばかりに目を捕らわれがちです。真に見るべきはそのカードの真価をいかに発揮させるかなのですから」
「それは……まあそうですね。一見した強さばかりを見ていたら本質を見失う。つまり、一見ミスとしか思えないそのモンスターにも攻撃力以外の強みがあると言うことですね」
「その通りです。よく私の言いたいことがわかりましたね。よい洞察力ですよ水無月君」
ニッコリと笑って褒めてくれる先生を見ながら私は先生が召喚したスカーナイトを改めて見てみる。
あのモンスターをどう使ってくるかまではわからない。佐藤先生がこのターンで仕掛けてくればおのずとわかるだろう。
それよりも………あのモンスター。断定はできないけれど、精霊かもしれない。
喋ってはいないし、それらしい挙動もしていないけれど、不思議とそう感じた。
「では行きますよ。私はスカブ・スカーナイトでプリンセス人魚を攻撃!」
「ダメージ覚悟の自爆特攻!?」
「ふふ。スカブ・スカーナイトとプリンセス人魚の攻撃力の差は1500。私は1500ポイントのダメージを負います。ぐうっ!」
《佐藤先生》 残 LP 2500
スカブ・スカーナイトとプリンセス人魚のバトル。それは当たり前のようにプリンセス人魚の反撃によって先生のライフを削った──だが、プリンセス人魚の矢で射抜かれたはずのスカブ・スカーナイトは破壊されることはなく、その場に留まっていた。
「なにが………どうしてスカブ・スカーナイトが破壊されていないんですか」
「スカブ・スカーナイトは戦闘では破壊されません。そして、スカブ・スカーナイトと戦闘をしたモンスターはバトルフェイズ終了時、私のモンスターになります」
「戦闘を行うだけでコントロール奪取を!? はっ、プリンセス人魚がッ!?」
スカブ・スカーナイトが全身に纏っていた蒼く薄い板。それがプリンセス人魚の攻撃により宙に散布され、彼女の体に纏わりつき佐藤先生の場へと移動してしまった。
「これがスカーナイトの効果、相手モンスターのコントロール奪取ですか」
「ええ、スカーナイトと戦闘をしたモンスターにはスカブカウンターが乗ります。そして私のモンスターとなる。さらに手札からスカブ・ブラストを発動。私の場のスカブカウンター1つにつき200ポイントのダメージを水無月君、君に与えます」
「はっ、きゃああ!」
《愛理》 残 LP 2800
佐藤先生がダメ押しに発動してきたスカブ・ブラストによって発生した炎の衝撃が僅かながら私のライフを削ってきた。
「私はカードを2枚伏せてターンエンドです」
「くっ、私のターン、ドロー!」
戦闘を行うことでモンスターのコントロールを奪う。
確かに強力な効果ではある。私自身でもある霊使いも各属性によって範囲は限定されるが、似たような効果を持っている。けれど、戦闘を行うだけでモンスターの制限なしで奪えるのは私の上位互換と言えるかもしれないわね。
でも…………。
「それなら奪われたプリンセス人魚を攻撃対象にするまでです! 私は双頭の雷龍でプリンセス人魚を攻撃!」
大ダメージを受けるのを嫌ったのかはわからないけれど、攻撃力が勝る双頭の雷龍を奪わなかったのは先生の明らかなミス!
これでダメージと共に有利に立つ!!
「無駄だよ。スカブ・スカーナイトが攻撃表示で場にいる時、君のモンスターはスカーナイトを攻撃しなければならない」
「そんなっ!? でも、戦闘が行われれば先生のライフは──」
「それも問題ありません。私はリバースカード 和睦の使者を発動。私のダメージを0に、そして戦闘を行った双頭の雷龍は当然。私のものになります」
「ぐっ、双頭の雷龍が………」
先ほどのプリンセス人魚と同じように双頭の雷龍にもスカブ・スカーナイトから剥がれてきた板がへばりつくことで先生のモンスターへと変わり果ててしまった。
「水無月君、読みが甘いですよ。相手が強力なモンスターを放置したと言うのなら、その行動の裏を読まなければなりません。ましてや、コントロール奪取のような特に変わったの能力を持つカードが相手なら猶更にです」
「くっ、私は………モンスターを守備表示で伏せて、さらにカードを1枚伏せて、ターンエンドです」
わかってはいたけれど、先生強い。
わずかな戦闘で私のモンスターのすべて奪われてしまった。不用意に攻撃してしまった私も悪いけれど、あの最上と言える盤面をわずか2ターンでひっくり返されてしまった。
そして、あの戦闘で無敵を誇るスカーナイトと言うモンスターに何とか対処できなければ、私の敗けは必須!!
「私のターン、ドロー………と行きたいですが、この瞬間、墓地のスカブ・ブラストの効果を発動します。ドローを放棄する代わりにこのカードを手札に戻します」
「墓地回収効果を内蔵しているのですか。ダメージ量はさほどとはいえ、毎ターン使われるのは厄介ですね」
…………?
プリンセス人魚の効果が発動しない?
あのモンスターの効果は毎ターンのスタンバイフェイズにライフを回復してくれるはずなんだけど…………。
「スカブ・スカーナイトの効果ですよ。このモンスターはライフ回復効果を阻害します。このモンスターがいる限り、傷は癒えてはくれません」
そういいながらスカーナイトを見つめる先生の姿はまるで、自分に言い聞かせるような悲哀を感じさせる姿だった。
「さて、まずは手札に戻したスカブ・ブラストを発動します。スカブ・カウンターは2つ。合計400ポイントのダメージを君に与えます。」
「きゃあっ!」
《愛理》 残 LP 2400
「バトルです。双頭の雷龍で守備モンスターを攻撃」
「うっ、私が伏せていたのは薄幸の美少女。このモンスターが戦闘で破壊された時、バトルフェイズを強制終了させます!」
「なるほど、では、私のターンはこれで終わりです」
「私のターン、ドロー!」
状況は最悪と言っていいほどに悪いわね。
双頭の雷龍が盗られたことがかなり状況を悪くしている。それにやはりスカーナイトの存在がこちらの攻勢を出にくくさせている。
スカーナイトがいる限り、この先どんなモンスターを立てようとも奪われるリスクを負わなければならない。その上攻撃をスカーナイトに強制させる効果も持っている。戦闘の破壊耐性に加えて戦闘の誘導効果。さらに守りに入ればスカブ・ブラストによるバーンダメージを狙える。
これは、守りに入っていてはダメ。ここは攻撃力がないことを突いて攻め続けるしかない。
それだけが、私の勝ち筋!
「私は手札から天使の施しを発動! デッキから3枚ドローして2枚捨てる! そして死者蘇生を発動! 墓地からダブルコストンを特殊召喚!」
《ダブルコストン》 攻撃力1700 守備力1650
死者蘇生によって今しがた天使の施しによって墓地へ送られた黒い人魂が二つくっついたような姿をしているダブルコストンが私の場に召喚された。
このモンスターで私の手札にある、最恐の魔術師に繋げて見せる!
「ダブルコストン………上級モンスターへの布石ですか。しかし、いかに強力なモンスターを召喚しようともスカーナイトは倒せませんよ」
「そうかもしれません。スカーナイトは戦闘で無敵。ですが、ライフを削ることはできます! 私はダブルコストンを生贄に、手札から混沌の黒魔術師をアドバンス召喚!!」
《混沌の黒魔術師》 攻撃力2800 守備力2600
私はデッキの中で、ある意味で最も強力な効果を持っていると自信を持って言える奥の手の魔術師を召喚した。
「混沌の黒魔術師ですか………かのキング・オブ・デュエリスト──武藤遊戯のデッキにも入っている伝説級のカード。流石、水無月グループの総帥の愛娘である水無月君ですね。それほどのレアカードが入っているとは、本当によいカードを持っていますね君は………」
混沌の黒魔術師を見た先生はどこか羨ましそうに、しかしそんな自分を恥じるように自嘲した笑みを浮かべて私を見ていた。
「私は召喚した混沌の黒魔術師の効果で墓地から死者蘇生を手札に加えます! そしてバトル! 混沌の黒魔術師でスカーナイトを攻撃! デス・アルテマ!!」
混沌の黒魔術師が天高く飛び上がりその杖から黒い電を纏った球状のエネルギーをスカーナイトへと撃ち放とうとした。
この攻撃通れば私の勝ちが決まる。だというのに、当然のようにそれを見る佐藤先生の姿に焦りはなかった──。
「甘いですよ水無月君。私はこの瞬間、スカブ・スクリームを発動! スカーナイトが攻撃力2000以上のモンスターに攻撃された時、私が受けるダメージを0に! そして攻撃してきたモンスターを破壊!!」
「混沌の黒魔術師がッ!?」
佐藤先生のリバースカードによりスカーナイトが発したフィールド全体に及ぶかのごとき強大な黒い波動。その波動を受けた混沌の黒魔術師はそれに耐えることはできずに破壊されてしまった。
そして、破壊の衝撃によりフィールドが覆った煙が晴れた時、その場には本来いるはずのスカブ・スカーナイトではなく、どこか古代の戦闘服を思わせる傷だらけの鎧と体ををした人型の戦士であった。
「その、モンスターは………なんて痛ましい姿なの………」
そのモンスターの姿を目に収めた時、私は顔を顰めずにはいられなかった。その姿はあまりにも凄惨に過ぎたからだ。
あれが元からのモンスターの姿なら、こうは感じない。だが、精霊である私にはわかった………わかってしまった。
あれは──。
「スカブ・スクリームの発動後、スカブ・スカーナイトは墓地へと送られます。そして、その真の姿であるクライング・スカーナイトが召喚される………水無月君、君にはわかるのですね。私たちの、スカーナイトの痛みが……」
《クライング・スカーナイト》 攻撃力0 守備力0
あの全身、余すことなく傷つき疲れ果てたクライング・スカーナイトの傷はもはや手の施しようのないほどに深く、そして治しようのないものであった。
私たち精霊も戦えば傷つき倒れる。しかし、時が経てば、治療をすれば人と同じように傷は治るのだ。極論、人が耐えられないような重傷であっても治せないことはないのだ。
そんな私たちがあのスカーナイトのように治らない傷を負うのは外的要因以上に内的要因。そう、心の傷が何よりも恐れるべきものであった。
体の傷は治せても、心の傷は簡単には治せない。一度傷ついた心の傷は人間以上に体に影響を与える。あの傷だらけのスカーナイトのように………。
「そのモンスターは先生が共に戦い続けた果てにできたものなのですね」
「そうです。長い、長い戦いの果て、遂には治ることのない傷を私はスカーナイトに与えてしまった。これは私の罪。生涯背負わなければならない私の罪なのです………!」
「………先生。私は死者蘇生を発動、墓地から素早いモモンガを守備表示で召喚、ターンエンドです」
《素早いモモンガ》 攻撃力1000 守備力100
スカーナイトに傷を負わせたことを罪と言い。どこか贖罪を求めるかのように言う先生に私は何も言えなかった。何を言えばよいかわからなかった。
私は先生も、スカーナイトも直視することができずに目を伏せてターンを終了した。
「私のターン、私は墓地のスカブ・ブラストの効果により、手札に戻します。そしてスカブ・ブラストを発動。君に400ポイントのダメージです」
「…………」
《愛理》 残 LP 2000
私はそのダメージに何も反応しなかった。
反応できるほどの元気がなかったとも言える。あのスカーナイトが痛ましすぎて、心が凍り付いたように動かなかったのだ。
「そしてクライング・スカーナイトの効果を発動します。このモンスターをリリースすることでフィールドのすべてモンスターを破壊。その数×500ポイントのダメージをお互いに与えます」
先生の場にはスカーナイトを除けば双頭の雷龍とプリンセス人魚。私の場には混沌の黒魔術師と素早いモモンガ。合わせれば計4体で2000ポイントのダメージ。
私の残りライフもジャスト2000。防ぐカードもない私の敗けはこの瞬間に決定した…………。
「クライング・スカーナイト………すべてを破壊してくれ………」
先生の悲し気な、泣きそうにすら感じる声と共に、跳び上がったクライング・スカーナイトが散り際に発した爆発がフィールドのすべてを巻き込んでそのダメージを私たちに与えた。
《佐藤先生》 残 LP 500
《愛理》 残 LP 0
スカーナイト、子供の頃アニメ見た時は戦闘介してライフも回復できないとかクソ弱えと思ってたんだけど、改めてこの時代の使用を想定すると癖はあるけれどまあ強いなと思った。
佐藤先生は3期の十代にもバーン効果を優先しなければ普通に勝てたレベルの実力者なので、愛理ちゃんが勝てるわけないと思ってあっさりになりました。