いつもの学園、その中にある施設の一つである保健室に僕はいた。アルコールと薬品のにおいが充満している部屋には僕だけではなく、七星門の鍵を狙い十代君と戦った明日香さんの兄──天上院吹雪さんがベットの上で呼吸器をつけられた状態で眠っていた。
その横には兄を心配そうな目で見つめる明日香さん。そして離れたところにあるベットには吹雪さんとの命を賭けた闇のデュエルによって倒れた十代君も吹雪さん同様眠っていた。
その様子は勝利したためか吹雪さんよりは軽傷ではあったが、今も苦しそうにうなされている。その様子から、吹雪さんと十代君とのデュエルがいかに凄惨で危険を伴うものであったかをありありと示していた。
僕たちは保健室でそんな彼らの様子を脇で見ながら次のセブンスターズ、『七星門の鍵』を狙い、卑怯な手を使いながらもあの丸藤さんとクロノス先生を倒し、魂と鍵の両方を奪ったカミューラとの戦いの時を待っていた。
「カミューラか………碌な相手ではないが、明日香さん、次に彼女と戦うのは僕がします」
僕は今も眠り続ける十代君と吹雪さんを見ながら強い決意を込めて告げた。
「コナミ………でも、カミューラは卑怯な手を使うわ。現状七星門の鍵を持っている私たちの中では確かにあなたが戦うのが一番適任なのかもしれないけれど、また誰かを人質にされたら………」
明日香さんは僕の戦うと言う宣言に驚きながらも深刻そうな表情で僕を見て、もしもの場合を考えているのだろう、目を伏せてその後は何も言えずにいる。
僕もまた、その時のことを考えてどう対処するか考えあぐねていた。
カミューラ、彼女が使う幻魔の扉と言うインチキと言っても差し支えないカード。相手の全てのモンスターを問答無用で破壊し、さらにはそのデュエル中に使用されたモンスター1体を無条件で召喚する。まさに最強。そしてインチキ効果である。
その代償として使用者が敗北した場合、魂を幻魔に取られるが、それほどの効果があるカードなら負ける方が難しい。だというのに、カミューラはそれをさらに無関係な他者に押し付けることができる。
それをすることで翔君を身代わりとした彼女は丸藤さんに勝利した。あれに対処するすべがなければ、いくらデュエルに勝利したとて意味がない。そして勝利することにもためらいが出る。
僕はどうしたらいいんだという気持ちが籠ったため息を吐いて、宙を見上げた。
いや、正確には手がないわけではなかった。あるにある………が、それが可能かどうかの確信が持てなかったのだ。
そして、それを愛理ちゃんが受け入れてくれるかどうかも。
「明日香さん、確かにカミューラはまた汚い手を使うと思う。でも、考えがないわけではないんだ。僕の持つ星の力をもった2枚のカード、そしてこのクリスタルがあれば………」
「星の力ってあなたのもつプラネットモンスターのことよね。それにクリスタルの力ってその首にかけている物になにかあるの?」
僕がデッキから取りだしたジ・アースとNEPUTUNEのカード。そして首にかけているクリスタルを明日香さんは見て訝し気に聞いてきた。
「このプラネットシリーズにはそれぞれ強力な力を宿しているんだ。世界を滅ぼせるっていう3幻魔ならともかく、たぶんその力に類するだけの幻魔の扉が相手だ。なら仮に人質にされてもこの2枚を持っていれば、幻魔の扉から魂を守ってくれるはずだ」
「それって、つまりあなたはそのカードなしで戦うつもりなの! 人質にされそうな相手に渡しておいて!?」
僕の考えを察した明日香さんが無茶なことやめろと言いたげに僕を見て静止しようとしている。
その顔には本当に心配しているのが伝わるほどに切羽詰まった顔だった。
闇のゲームは兄の吹雪さんにいつ目覚めるとも知れない深い眠りに落としている。そして友人である十代君を傷つけ、丸藤さんとクロノス先生の魂を奪った。
そのデュエルにキーカードを2枚も抜いて戦おうと言うのだから、心配する気持ちもひとしおだろう。
それでも僕は戦わなければならない。あれとは僕が戦えと、カードたちが、クリスタルが、そして僕の魂が告げているのだから………!
「大丈夫、僕の切り札はゴギガ・ガガギゴだ。たとえその2枚がなくても戦えますよ」
「無茶よ! カミューラは卑怯な手は使うけど、決して弱くはないわ。むしろ卑怯な手段がなくてもクロノス先生を倒せるほどに強いわ! それに、人質にされるのが誰かなんてわからないんじゃ………あなた、まさか愛理を連れて行くつもりなの!?」
今度こそ正気を疑うような目で僕を見ながら、明日香さんは部屋の外にまで響くような声を張り上げて反対した。
「ダメよ! 絶対に反対だわ! させないわよそんなこと、鍵を守ることに決めた私たちならともかく、関係のない愛理まで巻き込むつもりなんて、あなたは何を考えているの!!?」
「明日香さん、僕はいつだって勝つために最善を尽くすつもりです。そのためには、愛理ちゃんに来てもらうのが最も勝率の高い選択なんです」
カミューラが丸藤さんと戦った時、翔君との関係を知っていた。つまり、予め僕たちの人間関係はある程度把握していると見ていい。
そしてカミューラが追い詰められ、再び幻魔の扉を使ってきたとき、人質にするのは対戦相手と最も親しい存在。つまり僕が相手なら愛理ちゃんを狙う確率が極めて高い。
だから、極めて危険な賭けではあるが、愛理ちゃんが受け入れてくれさえすれば幻魔の扉への対策を取ることができるのだ。
「だからって、恋人を人質にされるのを承知で連れて行くなんて………くっ………」
頭では理解しているのだろう。それが最善であると。しかし、倫理的に認めることができない故に明日香さんが迷いながらも反対する意見を変えようとはしない。
僕はその様子に少々困ったように頭を掻きながら唸った。納得しないならそれはそれで、と言う道もあるが、その結果敗けるのは一番最悪な結果だ。何とか納得してもらいたいものだが、どうしたものか。
「──大丈夫ですよ明日香さん。私が人質になります」
そうして僕と明日香さんが睨み合っていると、背後から「シューッ」と自動ドアが開閉する音と共に愛理ちゃんが、そしてその後ろから他の鍵を持った三沢君や万丈目君などのみんなが入ってきた。
「愛理…………どうしてここに………あなた聞いていたの! コナミはあなたを危険を承知で連れて行こうとして──」
「明日香さん、話は外まで聞こえてました。大丈夫です、私もそのデュエルに同行しますから」
「本気で言っているの? 敗ければ、彼が失敗すれば魂がとられるのよ!!」
愛理ちゃんの両肩を抑えながら必死に止めようとする明日香さんを見ながら、愛理ちゃんは口元に浮かべた笑みを崩さずに安心させるように彼女を見ながら言った。
「私はコナミ君を信じます。彼ならきっと、私を守ってくれますから。ねっ! そうでしょ、コナミ君!!」
「うん、任せてよ愛理ちゃん。僕が必ず、このデュエルを最良の形で終わらせて見せる!」
僕はそう言って愛理ちゃんへと向かい、ジ・アースとNEPUTUNEのカードを渡した。それに合わせてクリスタルも渡そうとしたけれど、それはやんわりと止められた。
「それは私が持っていてももう意味がないから、コナミ君が持っていて。あなたの気持ちが強ければ、クリスタルはきっと力を貸してくれるわ」
「わかった。なら、代わりと言っては何だけど、アウスを渡しておくよ。君のそばにいたがっているようだから」
僕は断られたクリスタルはそのままに、デッキから抜いた精霊アウスのカードをプラネットたちと共に渡すことにした。
そうして欲しいと、カードから伝わってきたから………。
「でも………、でも………!」
「いいじゃねえか明日香。二人がそうするって決めたならよ。コナミなら、きっと何とかしてくるさ」
僕たちを交互に見ながらどう引き留めようか悩んでいる様子の明日香さんに、いつの間に起きていたのか十代君が体を起こして寝起き故か気怠そうにしながらも僕たちを見ていた。
「十代君、もう起き上がって大丈夫なのかい?」
「おう、元気いっぱいだぜ! なあ、お前らもいいよな! 俺はコナミと愛理に任せるつもりだけどよ!」
ベットから起き上がり立ち上がった十代君が体を伸ばしながらも、部屋に入って僕たちの様子を見守っていた皆に話しかけた。
「ふん、どうせもうそいつらの中では決まっているんだ。俺たちが何を言っても変わるまい」
「ああ、愛理君とコナミの二人で決めたこと。心配ではあるが、俺はその覚悟と気持ちを尊重したい」
「………コナミ君、愛理さんを必ず守ってね。僕はお兄さんの邪魔しかできなかったから、必ずだよ!」
十代君を筆頭に万丈目君、三沢君、翔君が僕の考えに賛成してくれた。明日香さんはそれでも何とか止めようとはしたけれど、最後には愛理ちゃんの説得に折れてくれたようで、必ず愛理を守りなさい!と強烈な喝を入れられた。
そして話もまとまった僕たちは夜になるのを待って、カミューラが待つ湖まで向かうのだった。
そうして向かった湖。島にある四方を森に囲まれた巨大な湖の中央には不自然なほどに本来あるはずのない洋風の巨大なお城が建っていた。
前回はカミューラと丸藤さんがこの城の中で戦った。そして今回も恐らくこの巨大な城の中での戦いになるだろう。
そうして湖の前で待っていると、湖の中から城へと続く橋が浮かび上がってきた。
カミューラがこれを渡ってこいと言っているのだろう。僕たちは顔を見合わせ頷いた後、揃って橋を渡り、決戦の舞台となる城へと向かった。
「しかしコナミ、今更聞くのもなんだけどよ。本当に大丈夫かよ。ジ・アースもNeptuneもなくてよ」
「今更だよ十代君。それに丸藤さんと戦っていた頃は2枚ともなかったんだ。昔に戻っただけさ。大丈夫、必ず勝つよ」
僕は心配してくれる十代君に心配ないと告げて必ず勝って愛理ちゃんを守ると決意を胸に城の中へと入った。
石造りの城の中は床いっぱいの赤いカーペットが敷かれており、夜でありながらライトはついていなかった。
しかし、月明かりと柱に小さく灯されている蝋燭の灯りが照らす城内はデュエルする分には申し分がないほどに視界が開けていた。
「出てこいカミューラ! 今夜は僕が相手だ!!」
「うふふ、威勢がいいわね坊や。それに今回は随分と可愛いお嬢さんがギャラリーとして来ているみたいじゃない。あなたのガールフレンドかしら?」
夜の闇の中、僕がカミューラを呼ぶとそれに呼応するように2階のテラスから紅いドレスを纏い、長い緑の髪を揺らした妖艶とも言える美女である吸血鬼。カミューラが愛理ちゃんを見ながら姿を現した。
「まあ、そんなところですよ。別に構わないでしょう。ギャラリーが増えて困ることはないんですから」
「ふふ、そうね。誰が来たところで同じ。あなたの鍵も、魂もいただくことに変わりはないのだからねえ」
酷薄な笑みを浮かべるカミューラに思わず冷や汗を掻きながら僕はデュエルディスクを構えてデュエルの準備を進めた。
「僕はここにおしゃべりをしに来たわけではない。構えろカミューラ! デュエルだッ!!」
「うふふ、せっかちね、坊や。でもいいわ、私も無駄な時間を過ごすつもりはない。でも、その前に一つだけ聞かせて欲しいんだけど………たしか愛理と言ったかしらね。どうして彼女を連れてきたのかしら。前回のデュエルを見ていたなら大切なガールフレンドをここに連れてくるなんてことできないはずだけど?」
僕の考えを読もうとしているのか、それとも純粋に疑問なのか、カミューラは笑みを浮かべながらも険しく冷たい声色で僕を問いただしてきた。
その目には嘘も偽りも許さないと言った射抜くような意志が奥底に込められており、都合の良い人質が来たにも関わらず、どこか憤りの感情も感じられる。
そんな問いかけであった。
「…………愛理ちゃんにはすべて伝えてある。カミューラ、あなたが幻魔の扉と言うカードで魂を生贄にすることも、その対象を他者に押し付けることも。そのうえで、彼女は来ると言ってくれた。そして僕も誓った。必ず愛理ちゃんを守り、デュエルに勝つとッ!!」
僕はそんな彼女の様子に戸惑いながらも迷うことなく強い意志を持って答えた。そんな僕をカミューラは赤い瞳で見つめ続け、やがて肩を震わせ感情を押し殺したような笑いをしながらデュエルディスクを構えた。
「ふ、ふふふ。守る………守る………ね。結構なこと。では守ってみなさい………できるものならねぇ!!」
カミューラはこれまでのどれとも違う、本気で殺すと言った殺意が籠った目を僕に向け、憤るようにその口元を裂けさせながら大きく開いて異形の存在たる所以を示しながら叫んだ。
そして月夜が照らす城内の中、皆が見守る中で僕たちは互いの魂と願いがかかった闇のデュエルが始まった。
「「デュエル!!」」
幻魔の扉のインチキ感はすごいよ。本編キャラからも明らかに可笑しいとわかるパワカと理解させられるカードだからね。