「あ〜ん、負けちゃったー! でも、楽しかったよコナミ君!」
オレンジ色の日が差し込むレッド寮の前、ブラック・マジシャン・ガールとのデュエルは皆んなの歓声とブーイングの中で幕を閉じた。
その可憐な見た目に反してと表現するのは失礼だが、マジシャン・ガールさんは中々クレバーな戦い方をする。十代君が苦戦したと言うだけあって、手強い相手だった。
僕はそう思える相手に勝利した余韻に浸り、心地よい空気を肺一杯に吸いながら大きく一息吐いた。次いで、観客に大きく手を振っているブラック・マジシャン・ガールに声をかけた。
「マジシャン・ガールさん、僕も楽しかったです。また、デュエルしましょう」
「うん! きっとまた会う日が来ると思うわ。その時はデュエルしようね!」
マジシャン・ガールさんの様子には特に敗北したことへのショックや悲壮感と言った感情は見受けられなかった。悔しくはあれど、本当に楽しかったのだろう。
そんな彼女に僕も自然と笑顔になり、気持ちよくデュエルを終えることができた。
まあ、その代わりと言うわけではないが、彼女には健闘の賞賛が、僕には怨嗟にも似たブーイングがそこかしこで起こっているのだが……。
そんな反応を見せている男たちに僕も──ああ、わかるぞ皆。可愛い女の子には勝ってほしいよな──と思いしみじみと頷いて甘んじて不平不満を受け入れた。それはそれとして僕への賞賛ももっと寄越せと思ってしまうのは欲張りだろうかと思ってしまうのだが。
「ところでマジシャン・ガールさん。君の名前は──」
「コナミ君、彼女はブラック・マジシャン・ガールよ。他の何者でもないわ」
「えー?」
僕が彼女の正体を聞こうとしたら、いつの間に真横に立っていたのか、愛理ちゃんが口をはさんできた。そこにはそれ以上尋ねるなと言う意思が込められており、僕は口を閉ざすほかなかった。
「ブラック・マジシャン・ガール、ちょっとここ騒がしいから向こうで話しましょ。他にもデュエルしたがってる子たちもいるし」
「そうね。愛理、あっちに行きましょうか」
「あっ、愛理ちゃん僕も……」
「コナミ君はそこでレッド寮のコスプレデュエルを楽しんでて。私たち、向こうで話してるから」
レッド寮から離れて2人で話そうと離れて行った愛理ちゃんたちに僕もついていきたかったのだが、どうやらお邪魔らしい。やんわりと断られてしまった。
僕としてはもっとマジシャン・ガールさんと話したかったのだが、どうやらそう上手くはいかないようだ。そんなつもりは……ないとは言わないが、仲良くなりたいと言う下心を察知されたのかもしれない。どっちかと言うと純粋にデュエリストとしてブラック・マジシャンとマジシャン・ガールを持つ彼女と話したかったんだけどなーと、残念に思いながらもその場は諦めるしかなかった。
愛理ちゃんをちょっとだけ不機嫌にさせてしまったしなあ。今頃は、もしかしたら僕についてマジシャン・ガールさんは愛理ちゃんから有る事無い事教えられて近づかないように言われているのかもしれない。
「やれやれ、振られちゃったかな」
「まあ、貴様にはもったいなさすぎる相手だ。愛理君に想われているだけでも、貴様には幸運が過ぎるんだからな」
「万丈目君、その格好は……XYZドラゴン・キャノンかい? 似合ってるね」
愛理ちゃんたちが歩いて行った方を惜しむように見送る僕に、随分と動きづらそうなコスプレであるXYZドラゴン・キャノンの恰好をした万丈目君が近づいてきた。
そのコスプレはよくできており、この催しのために頑張ったのだなと惜しみない賞賛をして余りある出来だった。
そして、随分とオシリスレッドのノリに馴染んだなあと、あのキレたナイフのような性格だった入学時と比べて、その変化に喜色を浮かべずにはいられなかった。
「ほう、わかっているじゃないか。この俺様が似合わないわけがないからな。ところで、貴様もここに来たんだ、盛り上げるために何かコスプレをしたらどうだ。衣装なら沢山あるぞ」
そう言って指さす方、寮の一室にはハンガーラックに掛けられたコスプレ衣装がまだ多くあるようで、十代君が手招きして僕を誘っていた。
「ふーむ、そうだね。ここはオシリスレッド寮だし、催しに参加しないのはあまりにマナー知らずだ。是非とも僕も参加させてもらうよ」
「ふっ、そうこなくてはな。じゃあ行ってこい。あの馬鹿どもがまだかまだかと待っているぞ」
「うん、どんなコスプレがいいかなあ」
万丈目君の誘いに乗った僕はウキウキとしながら手招きをして待っている十代君たちの方へと向かった。まだまだ学際の終わりには遠い。今日という一日を楽しむために、僕は愛理ちゃんたちが帰ってくるまで、コスプレとデュエルをして過ごすのだった。
「ごめんね。ブラック・マジシャン・ガール。こんなところまで連れてきちゃって」
レッド寮から少し離れた森の中、私とブラック・マジシャン・ガールは周囲に誰もいないことを確認しながら歩いてきた。
遠くからは先ほどまでコナミ君とブラック・マジシャン・ガールがそうしていたように、誰かがデュエルをしているのか歓声や応援の声が響いている。
先ほどまであれほど賑やかであったレッド寮から離れたせいかもしれない。森の静寂に少しばかりの寂しさを憶えながら、私はブラック・マジシャン・ガールに向き直った。
彼女は強引に森へと連れてきた私に対し、特に不満は抱いていないように笑って話し始めた。
「そんな気にしないで。私の方こそ、勝手にこの世界に来たわけだし、エリアには迷惑だったかもしれないでしょ?」
「迷惑だなんて。でも、どうして来たの? 一応、私には来るかもって教えてくれていたけれど」
私の目の前にいるブラック・マジシャン・ガールは精霊である。コナミ君や皆はよくできたコスプレと思っているようだったが、そうではない。
彼女は純粋な精霊であり、どうやってか実体をもって顕現してここにいるのだ。
「だってみんな楽しそうだったんだもの。皆が楽しくデュエルしているところを見てると私も参加したいって思ってね。来ちゃった!」
「来ちゃったって。よく来れたわね。そんな簡単じゃないでしょうに」
精霊の実体化は難しい。とても強力な力を持つ人間や、特殊な状況でもなければできないものだ。アウスやヒータも一応実体化してこの世界に来ていることを考えると、彼女も里の皆の力を借りたのかもしれないと思ったが、すぐにそれはないだろうと思いなおした。
アウスやヒータは明確な目的があり、そのために必要だから力を借りられているのだ。そうではないブラック・マジシャン・ガールがそんな気安く実体化できるほどのエネルギーを借りられるとは思えないのだ。
「そこはほら、状況が変わったからね。この島、今とても不安定でしょ? だから、実体化をしやすくなってるの」
「不安定? なにが………?」
「気づいてないの? とーっても強い力をもったカードが封じられている封印が解けかかってるじゃない。そこから漏れた力を借りたの。エリアは人の体だから、わかり辛いのかなあ」
顎に指を置いて首を傾げているブラック・マジシャン・ガールに私はその原因に思い当たる節があり、封印について考えた。
とても強い力をもったカードの封印。それは話だけ聞いている三幻魔のことだろう。今のこの島で起こっていることで他に思い当たることもなかった。
どうやら、その封印が緩んでいるようで、そこから強大な力が漏れているらしい。私にはわからなかったが、目の前でその力の恩恵を受けているブラック・マジシャン・ガールが言っている以上事実なのだろう。
「………なんとなくわかるわ。集中して見れば、今の私でも感じられる。確かに、この島は今不安定な状態ね」
目をつぶり周囲に満ちているマナ──自然が元来持っているエネルギーに意識を向けてみるとそこには通常ではありえない程のマナに満ちていた。
とはいっても、それは通常よりはずっと多いと言うだけで、人としての私には集中しなければ感じ取れない程度のマナではあったと注釈はつくが………。
『ようやく気付いたのかい? 僕はずっと前から気づいていたけれど』
「あら………アウス、あなたついてきたてたの?」
いつからいたのか、精霊体であるアウスが私たちの少しばかり上空に浮かびながら見下ろしていた。その姿は透き通っており、ブラック・マジシャン・ガールと違い実体化はしていないようだ。
「久しぶりだねアウス。元気だった?」
『もちろん元気だったとも。ブラック・マジシャン・ガールも久しぶりだね。里の皆も問題ないかい?』
「うん、皆元気にしてるよ。勇者君と会うのを楽しみにしてるって」
『そうかい、それは重畳。ところで、エリアが回収してる闇のアイテムについてだが……』
アウスが降りてきて私に目配せをしてきたので、あらかじめ回収していた闇のアイテムを取り出した。
「わー、ナニコレ。禍々しい力が宿ってそう」
『実際、碌でもない方法で作られてるだろうからいいものではないだろうさ。力は本物でも、災いを呼ぶ類のものではあるだろうね』
ブラック・マジシャン・ガールが嫌なものを見たと言った風に顔を顰めて体を引いた。アウスもまた、あまり関わりたくないのか肩を竦めて触れようとはしない。
そんな反応をされると今手に持っている私はいい気分はしないのだけど、アウスの言う通りどんな手段で作られてるかわからない代物だ。
嫌悪や警戒をするのは正しい反応でしょうね。
「それで、どうするのこれ。こっそりと回収したのいいけど。使い道ないわよね」
『それは勿論、ブラック・マジシャン・ガールに持って帰ってもらうのさ。人の手にはあまる代物だ。また、いつ悪用されるかわからない。誰かを傷つける前に里で封印するのが賢明だ』
「えーっ! これ私が持って帰るの!? 触りたくないんだけど!」
コナミ君や十代君たちには内緒でこっそりと回収していた闇のアイテム。それは出所を調べてもわからないもので使い道もないのでどうしようか悩んでいたものだ。
アウスはどうやらそれを精霊の世界にある私たちの故郷で封じてもらおうと言うつもりらしい。
ブラック・マジシャン・ガールは汚らわしいものに触れたくないと言って嫌がっているが、いつまでも私が管理しておくわけにもいかない。
嫌だろうが何だろうが、人のために、そして私のために持って帰ってもらわないと。私もあまり持っておきたくはないのだ、不幸になりそうなので………。
「そう言わないでよ。これも人助けだと思って………ね!」
「え~気持ちはわかるけどー………はぁ、持って帰らないわけにはいかないかあ。嫌だなあこれに触れるの」
恐る恐ると言った感じで渡された闇のアイテム各種をブラック・マジシャン・ガールに引き渡した。そして手元から厄い代物がなくなったことで私は気分が悪そうな彼女とは反対になんだかさっぱりした気分であった。
まるで何日かけても解決しなかった難題から解放されたような気分だった。
「それじゃあ私は一旦帰るわ。こんな危ない物さっさと離したいからね。あーあ、楽しいデュエルで終えれると思ったんだけどなあ」
これでもかと肩を落として俯いたブラック・マジシャン・ガールがどんより気分で精霊界へと返っていくのを私たちは見送った。
「ブラック・マジシャン・ガールには悪いことをしたなあ。今度会える機会があったら美味しいお菓子でも作ってあげようかしら」
『仕方ないさ。もう私たちでは気軽に帰れないのだから、彼女がこのタイミングで来たのはいい機会だったよ。それで、君はこれからどうするんだい?』
「どうするって別に、私はみんなのところに戻ってコスプレデュエルを楽しむわよ。それに夜はキャンプファイヤーもするらしいから、それにも参加したしね。そうだ、コスプレは………もしあったら元の私の恰好でもしようかしら」
三幻魔の件は私にできることはないと言っていい。鍵を狙うセブンスターズとやらもあと一人。それもこの調子ならもうすぐ終わるだろう。
それよりも、レッド寮で待つ皆にブラック・マジシャン・ガールがいなくなったことについてどう説明したものかを考えないと。
「そう言えばアウスは実体化しないの? ブラック・マジシャン・ガールができたならあなたもできるわよね」
『そう簡単な話でもないさ、できないとは言わないけどね。まあ僕はいいさ。特別したいこともない。強いて言えばこの世界の本を読みたい気持ちはあるが、読み始めると止まりそうもないのでね、やめておくよ』
「アウスがそれでいいなら、私もこれ以上言うことはないわね。それじゃあ用も終わったし戻りましょうか」
肩を竦めて残念そうに笑うアウスは私を置いて飛んでコナミ君たちの元へと返って行った。それに対して一緒に行きましょうよと私は口を窄めた後、薄暗い森の中私は一人で寮へと戻るべく歩いて行った。私一人で戻ってきたことについてどう言い繕おうかと考えながら………。
今回の話、すごい迷走しました。ブラック・マジシャン・ガールを出すことが目的でそっから先を考えてなかったから終わり方がわからなかったので、ちょっと雑な終わり方になったかもしれません。