「僕のターン、ドロー!」
VENUSが僕の記憶から生み出した仮初の世界。そこで始まったデュエルは僕の先行から始まった。
「これは……!」
ヒビ割れていた世界はその様相を変えていた。安らぎをもたらす僕の家から闘いの場であるスタジアムへと変貌していた。
空は青色から光なき闇の世界へと変わり、観客席には人1人いなかった。その中で巨大な照明灯の灯りが僕とVENUSを照らしていた。
「いやはや、デュエルにはおあつらえの舞台だね。僕はモンスターを裏守備表示でセットし、カードを1枚伏せてターンエンド!」
『私のターンドロー! 私は手札から創造の代行者 ヴィーナスを攻撃表示で召喚! その効果により1500ライフを払うことでデッキから「神聖なる球体」を3体、守備表示で特殊召喚する!』
「いきなり4体ものモンスターを揃えてくるのか!?」
《創造の代行者 ヴィーナス》 攻撃力1600 守備力0
《神聖なる球体》 攻撃力500 守備力500 ×3
《VENUS》 残 LP 2500
ライフを半分近く失っているとはいえ、1ターン目から4体ものモンスターを召喚するなんて。攻撃に転用できそうなのはヴィーナスだけとはいえ排除には時間がかかりそうな布陣だ。
それにこれだけのモンスターを揃えてきたんだ。ただ守るためだにしたとも思えない。恐らく、狙っているな。上級モンスターへの道を。
『バトルです。創造の代行者 ヴィーナスであなたの裏守備モンスターを攻撃します』
「残念。僕が伏せていたのはペンギン・ナイトメアだ。守備力は1800、創造の代行者では破壊できない。そしてその効果により神聖なる球体を手札に戻させてもらうよ」
『くっ……』
《ペンギン・ナイトメア》 攻撃力1100 守備力1800
《VENUS》 残 LP 2300
『では私はカードを二枚伏せてターンエンドです』
「僕のターン、ドロー!」
総合的な状況は若干僕に有利と言ったところかな。しかし創造の代行者 ヴィーナスに姿は違えど同じ呼び名のVENUSを名乗った彼女。白い翼をはやしていることからも確実に天使族デッキだ。そこに疑う余地はないだろう。
ならばそのうち、或いは次のターンにでも戦闘ダメージを0にしてくるフィールド魔法である天空の聖域が発動される可能性がある。
その前に少しでもダメージを与えておきたい。彼女が1ターン目であるにも拘らず1500ライフものポイントを払ったのもそこを計算に入れての可能性が高い。
なら、多少リスクはあれど速攻で終わらせに行くのが得策か!
「僕は手札から融合を発動! 手札の──」
『それは許しません! 私は手札の緑光の宣告者と神聖なる球体を墓地へ送り効果発動! 魔法カードの発動を無効にします!』
「なにッ! 手札から効果を発動するモンスター!?」
僕が発動した融合が、突如として召喚された透き通るような新緑色の羽根をはやした球体型のモンスターが発した緑光によって破壊されてしまった。
「くっ、相手ターンに手札からカウンターするモンスターとは。随分と珍しいカードを使う。仕方ない予定変更だ。僕は手札から闇魔界の戦士 ダークソードを攻撃表示で召喚! さらに前線基地を発動しその効果によりユニオンモンスターである漆黒の闘龍を召喚! ダークソードに漆黒の闘龍を装備だ!!」
《闇魔界の戦士 ダークソード&漆黒の闘龍》 攻撃力2200 守備力1900
「バトル! 僕は闇魔界の戦士 ダークソードで神聖なる球体を攻撃! 漆黒の闘龍を装備したダークソードには貫通効果がある!」
『私はこの瞬間、ソーラーレイを発動します。私の場の光属性モンスター1体につき600ポイントのダメージをあなたに与えます。私の場には3体の天使族がいます。あなたに合計1800ポイントのダメージ!』
「今度はバーンカードか! だが、それではダークソードの攻撃は止めれない!! 行けっダークソード!!」
VENUSが発動したソーラーレイによって創造の代行者を中心に神聖なる球体も含めた3体のモンスターから光の光線が僕の胸を貫いた。
それに耐えながら風を切って進む漆黒の闘龍に乗ったダークソードが神聖なる球体を切り裂きその攻撃が通ったことを僕はその双眸で見た。
《VENUS》 残 LP 1600
《コナミ》 残 LP 2200
「……ライフが回復している?」
『あなたのダークソードが攻撃に成功した瞬間、私はもう一枚のリバースカード 白衣の天使を発動させていました。その効果により私のライフは1000ライフポイント回復したのです』
僕がダークソードの攻撃により大幅なダメージを与えたはずのVENUSのライフがそれほど減っていないことに疑問に感じていると、彼女の背後からそのカード名通りの白衣を着た金髪の天使がその両手から光をVENUSへと送りこんでいた。
あの光によって、僕が与えたダメージ1700分が大きく減らされたのだろう。正確には減ったのではなくダメージを与えた後に増えたのだが。結果は変わらない。僕は思ったほどのダメージが与えられなかったことに苦々しく思いながら、そう上手くはいかないかと自分を納得させるように呟いて、ターンエンドの宣言をした。
『私のターンドロー! 私は強欲な壺を発動。カードを2枚ドローします。そしてテラ・フォーミングを発動しデッキから天空の聖域を手札に加えます。私は天空の聖域を発動! その効果により今後、天使族の戦闘では私はダメージを負うことはありません!』
天空の聖域によって足元を広大な雲が覆っていく、VENUSの背後にはギリシャ神殿を思わせる建造物が這い上がってきた。
これで、実質的に彼女に戦闘ダメージを負わせることは不可能となったわけだ。
僕はだんだんと厳しくなっていく状況にに歯噛みしながら、これで天使族以外のモンスターを使ってくれたらやりやすいのだがと、ありえない想像を働かした。
そうして、厄介な天空の聖域を見上げていた僕を置いて、彼女は次なる一手を打ち出してきた。そしてその一手は追い詰めつつあった僕の現状を覆す一手であった。
『私は創造の代行者 ヴィーナスと神聖なる球体をリリース。手札から私自身をアドバンス召喚!!』
「あなた自身!? そうか来るのか……3体目のプラネットシリーズが!」
自分自身を召喚と言う聞きなれない言葉の前に驚いた自分を置いてVENUSはそのカードをデュエルディスクに置いた。
神殿の前、その雲の中から天高く貫く黄金に輝く巨大な光の柱が飛び出した。その光の柱は徐々にその姿を縮めていき、その光の中から2対の翼を携えたモンスターが現れた。
それは紛れもなく、今目前で対していたVENUSと同じ姿のモンスターであった。
《The splendid VENUS》 攻撃力2800 守備力2400
『私の目前において同族以外のものはその力を失う。私はダークソードを攻撃。ホーリー・フェザー・シャワー!!』
「ダークソードは漆黒の闘龍を墓地に送ることで破壊を免れる! ぐぅううう!!」
《コナミ》 残 LP 1100
召喚された3体目のプラネットシリーズ。そのVENUSの攻撃によって漆黒の闘龍は破壊された。そしてそれによるダメージ量を見た僕は何故っと思わずにはいられなかった。
漆黒の闘龍を装備したダークソードとVENUSの攻撃力の差は600なはずだ。それなのに僕は1100ポイントものダメージを食らっている。これは一体………。
『ダメージが多いことが疑問ですか。そこに身を守っているペンギンを見ればそれは悟れるはずですよ』
「ペンギン・ナイトメアを?」
《ペンギン・ナイトメア》 攻撃力600 守備力1200
計算と現実の際に瞠目していた自分は彼女の言う通り、ダークソードの横でVENUSの存在に震えているペンギン・ナイトメアを見た。
「これは…………攻守が下がっている! 500ポイントも!?」
『それが私の力。何者も、同種でないものはその力を損なわずにはいられない。そして、私が発動する如何なる魔法・罠もその力を阻害されることはない』
「攻守の減衰に魔法・罠のサポート効果まであるのか!」
いや、当然かと僕は驚いた自分を反芻した。僕が持っているジ・アースもNEPTUNEも強力な効果を持っている。それに比肩するであろうVENUSがただ攻守を下げるだけと言うのは少々味気ないものがある。
とはいえ、仮に天使族以外の攻守を下げる効果のみでも十分強力と言って差し支えない。それだけだったとしても僕は驚いただろうな。
しかし、魔法・罠の妨害無効はともかく天使族以外の攻守500の変化は地味に厄介だぞ。VENUSを倒すには最低でも3300以上のパワーが必要であり、それをしても天空の聖域がある限りダメージを与えることもできないのだからな。
『私はカードを2枚伏せてターンエンドです。あなたに私を超えることができますか。できないのなら大人しく私の庇護下に入りなさい』
「はっ、冗談。超えていくさ、これぐらいの逆境、いくらでもね! 僕のターンドロー!」
本人はどういうつもりか知らないが、挑発しているかのような言葉を吐くVENUSに、僕は力強くカードを引くことでその意思を示した。
しかし、逆境を超えていくとは意気込んでみたものの、状況はかなり切迫している。僕のライフは残りちょい。ダークソードもペンギン・ナイトメアもいるが、現状壁にしかならない。
付け加えるならソーラーレイを連打されるなんてことになったら目も当てられない。
「さて、どうしたものか………。よし、少々リスキーだが、上手くいけばVENUSを止めることができる。僕は手札から冥界の宝札を発動! 2体以上のリリースを要求するモンスターの召喚に成功した時、僕はカードを2枚ドローする!」
『冥界の宝札………。上級モンスターを狙いますか。しかし、如何なるモンスターであってもVENUSを超える攻撃力は持たない』
「攻撃力は超えれなくても、その動きを止めることはできるさ。僕はペンギン・ナイトメアとダークソードをリリースして手札からサイレントアビスを守備表示で召喚! そして召喚に成功したことで冥界の宝札の効果発動、僕は2枚ドロー!」
《サイレントアビス》 攻撃力1500 守備力1000
『サイレントアビス! そういうことですか』
「そう。こいつは戦闘で破壊されると水属性以外のモンスター全てを破壊する効果がある。VENUSは光属性。あなたも例外ではない! 僕はこれでターンエンド!」
『…………』
僕の場に召喚された巨大な黒いとぐろを巻いた蛇。それを見たVENUSは自分のターンが来たと言うのに押し黙っている。それから暫し考え込むような仕草をした後、カードを引いた。
『私のターンドロー。バトルです! 私はVENUSでサイレントアビスを攻撃! ホーリー・フェザー・シャワー!!』
「破壊されるとわかっていて攻撃してくるのか!」
VENUSが発した眩いばかりの光の攻撃。それによってサイレントアビスは破壊されたが、同時にその効果によりとぐろを巻かれたVENUSもまた破壊され墓地へと送られた。
『私はそしてリバースカード 希望の光を発動。今墓地へと送られたVENUSと緑光の宣告者をデッキに戻します。そして手札からジェルエンデュオを召喚しターンエンドです!』
《ジェルエンデュオ》 攻撃力1700 守備力0
「僕のターン、ドロー!」
まさか自爆覚悟でサイレントアビスを排除しにかかるとは。正直驚かされたというか、丁寧な口調の割には大胆な選択をしてくるな。まあそれも希望の光ですぐさま回収とリカバリーを図れるがゆえの選択か。それにジェルエンデュオ、あのモンスターは2体分の生贄素材になれる効果を持っている。
VENUSの手札は0とは言え次のターンで上級モンスターを引かれたら………。
「僕は手札からE・HERO フォレストマンを守備表示で召喚。ターンエンドだ」
僕はジェルエンデュオを倒すべきだと言う考えをもっていたが、なんとなく。そう、なんとなくフォレストマンを守備表示で召喚してターンを回した。
『私のターンドロー! 私はジェルエンデュオをリリース。手札から裁きを下す者ーボルテ二スをアドバンス召喚!!』
《裁きを下す者ーボルテニス》 攻撃力2800 守備力1400
VENUSが召喚した最上級モンスターであるボルテ二ス。それはこれまで召喚していた神聖さや清廉さを感じさせるまさしく皆が思い浮かべる天使とは違った物々しさを纏う天使であった。
これまでの白く清らかなモンスターではない。その翼は濃い藤色を思わせ、夜闇に覆われた空を朱く染め上げていた。
『これが最後のカード、私は伏せていた最終突撃命令を発動! フィールドのモンスター全ては攻撃表示になる! これで終わりです。フォレストマンは攻撃表示になり、ボルテ二スの攻撃によってあなたのライフはなくなる。これがデュエルの結末です!!』
VENUSはまるで僕を包み込もうとしているかのようにその両腕を広げた。
『コナミ、あなたのことは私が守ってあげます。あなたを利用せんとする魔女からも、この世界で蠢く運命からも』
「………VENUSは随分と優しいんだね。だけどやっぱりその必要はないよ。自分の身は自分で守るさ」
『なら、この攻撃から守れますか。私は裁きを下す者ーボルテニスでフォレストマンを攻撃!!』
巨大な杖を天に掲げその先端から発せらせた電が今にもフォレストマンを破壊せんと迫った時、僕はこの時のためのカードを発動させた。
「僕はこの瞬間、異次元トンネルーミラーゲートーを発動! フォレストマンとボルテニスを入れ替えて戦闘を行う!」
『なに!? モンスターを入れ替える!!?』
ミラーゲートによってボルテ二スが僕の場に、そしてフォレストマンはVENUSの場へと移った。
「天空の聖域は天使族をコントロールするプレイヤーのダメージを0にする。今、その天使族は僕のモンスターとなった。そして一度バトルを宣言した以上、もはや止めるすべはない。これで終わりだ! ボルテ二スの攻撃! フォレストマンを破壊しろ!!」
僕の宣言と共に再び杖を掲げたボルテクスが発した紫電が呆然として動かないVENUSのモンスターとなったフォレストマンを襲った。
『私は………あなたを………ッ!』
その電に貫かれるVENUSの言葉は僕に届くことなく巨大な破壊の音と共に打ち消された。そしてその戦闘における超過ダメージが彼女のライフを削り取った。
《VENUS》 残 LP 0
正直書いててジ・アースをNEPUTUNEとVENUSと同格として扱うのは無理があると思いました。効果がね、土星なら地球と同格として書いても違和感は感じないんですけどね。