星々が幾千の矢が落ちるように流れていく夜空の下、スタジアムで僕はスポットライトに照らされて勝者の証を示されていた。
ボルテ二スの攻撃、その紫電に身を焼かれたVENUSは穢れを知らぬような白い翼をしな垂れさせて俯いていた。
「VENUS、デュエルは僕の勝ちだ。たとえあなたがナニかから僕を守ろうとしていたとしても、僕より弱いあなたに僕が守られることはない」
『………そのようですね。あなたは私の想定を上回る強さでした。どうやら、あなたを守ろうと言うのは烏滸がましい考えのようでした。申し訳ありません』
僕が話しかけると項垂れていた顔をあげて、鎧でその表情は見えないが、微笑んでいるような声で答えてくれた。
「VENUS、正直、僕のデッキは君とは合わない。天使族を使ったことがあまりないからね。それでも、僕と共に世界を救う力として協力してくれないかい?」
『はい。この力、運命の導きのままに、あなたに捧げます』
そう告げたVenusが全身から光を発し、一枚のカードが生まれた。それを手に取った僕が見ると、やはりそれは彼女の名と力を宿したカードであった。
「ありがとう。ジ・アースやNeptuneと共に戦おう。仲良くしてねプラネットシリーズ同士さ」
『ええ。ただ、この世界を閉じる前にいくつかあなたに話しておきたいことがあります』
「話したいこと?」
『はい。今こうしてあなたと話せているのは私自身の力と私に触れたあなたの力、その二つを使い、この虚構と真実の入り混じる世界を作り上げたからにほかなりません。この世界を閉ざせば、次なんどき、話せる機会が巡るかわからないでしょう。故に、私たちについてと、あなたに憑りついている者について話しておきたいのです』
重苦しくただ事ではないことを話さねばならないと言うようにVENUSは一度言葉を切ると、その先を聞くかどうかを僕に尋ねた。
『しかし、これを聞けばあなたは不愉快に感じてしまうかもしれない。もしくはありえないと憤りたくなるかもしれない。それ故あなた自身の意志でこの先を聞くかどうか教えて下さい。私は過不足なく私の認識しうることをお教えいたします』
「随分ともったいぶるね。それにその言いぶりだとまるで脅しだよ。いいよ。どんな内容でも聞いてみないとわからないことだ。教えてくれるかい君たちについて、そして僕に憑りついているものとやらについてさ」
わかりましたと一言呟くような声でVENUSは言ったあと、その手に持つ杖を振り人一人分が入れそうな円形の光の輪を作り出した。
僕がVENUSを見ると、彼女は頷き、僕にこの輪の中に入るようにと促していた。
僕がこれは大丈夫なのかと眉をひそめながらそっと輪の中に入ると、そこには底の見えない暗黒の世界が広がっていた。
そこに光はなく、なぜかはわからないが、空間や時間といった概念すらないように感じられた。あったのは、底知れない暗黒だけであった。
『ここはまだ、何も生まれていない世界。世界を構築する原子や力が存在していない時代。そこにある時、一枚のカードが生まれた』
僕が暗黒に目を中てられていると後ろからVENUSの声のみが頭に響き渡るように聞こえ、次いで暗黒の世界に一枚のカードが現れた。それは半面が光、もう半面が闇に覆われていた。
僕はそれに手をかざしたが、その手はすり抜けて空を切っていた。
『世界は一枚のカードから始まった。それは長い時間をかけて世界の構築に必要な物質を、そして概念を作り出した。何億年、或いは何兆年。それとももっとか、膨大な、我々にも認識しえないほど長い時をかけて、やがて星々が生まれた』
まるで早送りされるように宇宙誕生の軌跡が説明されていく中で、僕は既に思考を放棄し始めていた。暗黒の世界の天上に光の粒が生まれ星々の大群となる姿は幻想的で、子供の頃に家族とみたプラネタリウムを見たのを思い出すような光景だった。
『やがて星々は恒星となり、爆発と消失を繰り返しながら過大なエネルギーを生じさせあなた達が太陽系と呼ぶ惑星が生まれた。そして、その時、私たちも生まれたのです』
舞台は移り変わり、そこには一列に並ぶ太陽系と称される一群の惑星があった。その惑星の一つである、黄金に輝いている星。つまり金星がその全容を把握できないほど近くまで急激な速度で近づいてきた。
僕はその光景に腰を抜かしそうになりながらも、何とか体勢を立て直しその星の中心にあるものを見た。それは何とカードであった。ただ一枚の光を放ち続けるカードであった。
「あれは………もしかして君なのかい?」
『そう、私たちは星々が生んだ存在。その星を象徴する存在としてその星の力を吸収して生まれた。故に我らはプラネットシリーズと呼ばれるのです』
僕はVENUSが話し続ける内容に、まるでひな鳥が餌を求める時のように口を大きく開けて呆けていた。
それほどに、VENUSが話す内容はぶっ飛んでいた。少なくとも、僕がこれまで学び聞かされてきた歴史とは大きくかけ離れていたからだ。
(世界がカードから生まれたって何? なんで星がカードを生んでるの? わけが分からないよ!!?)
そう言いたくなる自分を何とか自制して、口をつぐんだ。なぜなら僕にはこれが嘘か真か判断がつかなかったからだ。仮に真実か問いただしたとしても、それを判断するに足る知識など持ち合わせてはいなかった。
僕は天文学を学んだ学者ではないし、ごく一般的な知識としての常識しか知らなかった。
『やがて、地球は生命を生み、そして人類が生まれた。その後の人類の歴史は話す必要はないでしょう、今この時には関係のない話です。ただ、我らは何をするともせず、そのすべてを見守ってきた。彼に呼ばれるまでは──』
何倍速なのか、判断がつかない速度で人の文明が、営みが生まれては消えていくのを見ながら、僕はこれは歴史学者とかの知識人が見たら卒倒しそうだなあと場違いながらに思っていた。
或いは三沢君がいたら、まず間違いなく、もっと詳細な歴史の流れを知ろうとしていただろうと思った。
『ある時、異変が起こった。それは巨大な重力波を発しながら私たちを呼び寄せたのです』
僕が意識を目の前の光景に向けると、地球から一枚のカードが海から浮上し、弧を描くように何らかの信号を発しているようだった。
「あれは、もしかしてジ・アースなのか………?」
僕は半信半疑でそう呟いた。なにせカードからは少々離れており、なおかつ光を発していため、その表面に描かれているものを見ることがかなわなかったからだ。だが、地球から彼らを呼べるとしたら、同族であるジ・アースしかないと思ったのだ。
『そう。ジ・アースが我らの招集を呼びかけたのです。それが必要になる時が来ると──』
九つの宇宙から飛来するカードたちを僕は呆然と見つめていた。それに対してどんな感想を抱けばよいかわからず途方に暮れていたのだ。
ここまでの説明でわかったことは、宇宙はカードから生まれて、星が次いでカードを生み出した。その上、地球産のカードであるジ・アースがどう言うわけかそのカードたちを呼び寄せたと言うことだった。
自分でこうして整理してみても訳が分からなかった。
やがて、九つ全てのカードが地球に墜ちたのを見届けると、ジ・アースのカードは光と共に、いずこかへと消えてしまった。
「ジ・アースはどこへ行ったの?」
『さて、それは彼に聞くしかない事柄でしょう。少なくとも、彼は私たちを呼び寄せはしましたが、その理由を話すことなく姿をくらましました。今は、あなたと共にあるようですが、それを話すつもりがあるかはわかりません。ただ、この星へ落ちた時、一つだけわかることがありました』
VENUSのその言葉と共に海上から映像は切り替わり、場所は元居た洞窟内へと変わった。そこにはVENUSのカードが存在しており、それは結晶に包まれてもいなければ岩壁に埋まってもいなかった。
『私は自らの役目がまだ先であることを悟ったのです。そのため、時がくるまで眠ることに決めました。運命の子がやってくるまで』
「運命の子………それってやっぱり僕のこと?」
『ええ。いつの日か生まれいずるあなたをわたしは……いえ、私たちはずっと待っていたのです。故に私たちはそれぞれの時をもってあなたの元へと集まろうとしているのです』
運命の子と呼ばれたことに少しばかり気恥ずかしくなりながら、僕は頭の後ろを搔いて明後日の方向を向いた。
「あっ、でも集まろうとしていると言う割にはジ・アースとかNeptuneはデュエルしかけてきたり死にかねないことをしてきたりしてたんだけどそれってなんで?」
『彼らにも矜持があります。自らが星の力を宿す強大な存在であると言う。それ故、試さずにはいられないのですよ。きっと、未だ見ぬ者たちも同じ感情を持つでしょう。あなたが本当に私たちを手にするに足る存在なのかとね』
そこまで言ったVENUSは一度言葉を閉ざし、暫し静寂が支配した後、『ここからが本題です』と言ってまた口を開いた。
「えっ、まだ本題じゃなかったの。割ともうお腹いっぱいなんだけど………」
『まだ重要なことは何も話せていませんよ。この先を話すための大前提の話にすぎません。伝えたいことはこの先です』
「まじですか………」
僕はここまでの話の内容で少しばかり辟易としながらその本題とやらを促した。
『まず、私たちプラネットシリーズにはそれぞれ固有の力を有しています。それは私なら真実と虚構の境界線を操る。………まあ、夢と現実を曖昧にできると言った力です』
真実と虚構を操るという説明に理解できないと言う風な顔をしていたのだろう。VENUSが彼女なりにわかりやすい言葉に言いなおした。
それでも、何ができるのかいまいちわかり辛かったが、今僕が見ている映像のように、夢のなかで意識的に行動できるということだろうかと思った。
「固有の力、Neptuneがしてきたような天候を操作するみたいな力ってことか」
『そうです。そしてその力は一歩間違えば容易く人の命を奪える。強大なものなのです。そしてその強大さゆえにその力を狙うものもいます。それが………』
「僕に憑りついている者ってことだね。それって誰のこと。僕の予想だとガガギゴあたりかなって思ってるけど」
僕は半ば確信を持ったうえでVENUSに聞いた。僕に憑りついているというと一体の爬虫類型のモンスター以外思いつかなかったからだ。
『そう、あなたが考えていると通り、かのモンスターもその一体です。しかしそれだけではありません。あなたには受け入れがたいことかもしれませんが、あなたの記憶を読み取り確信しました。霊使い達、今はあなたのそばにいる現世では愛理と名乗るあの少女もまた、あなたの力を狙う一人なのです』
「──!? そんなバカな! ガガギゴは……まあ何考えてるのかわからないからいいとして、愛理ちゃんは違う。愛理ちゃんと出会ったのはまだ子供の頃だ。君たちと出会ってすらいない頃なんだよ!?」
『それはガガギゴも同様ですよ。それに彼女は、いえ、彼女を送り込んだものと言った方がよいでしょう。愛理と名乗る少女がどこまで知っているのかはわかりませんが、彼女に世界を守る勇者の捜索という名目であなたを探させたのは恣意的なものではありません、計画的なものです。すべてはあなたに私たちを集めさせその力を利用するためなのですよ』
VENUSが淡々と、しかし言い聞かせるように発したその言葉の内容を僕はすぐには呑み込めなかった。なぜならそれを受け入れるということは彼女から向けられる好意すら疑うに等しいことでもあったからだ。
「そりゃ、世界を救うために来たんだから、僕が君たちと出会う運命だったなら。君たちのような強い力を手にすることになる僕に近づいていても可笑しくはないんじゃないのか。それを利用と表現するならそうなのかもしれないけど、それは言い方の問題と言うだけの話だと思うんだけど……」
『いいえ、違います。彼女たちは正しくあなたの力を簒奪するために近づいてきたのですよ。決して世界を救うなどと言う聞こえの良い大義名分のためではありません。そも、世界を救うと言いますがあなたはそれについて何も知らされてはいないではありませんか。ただ、時を待てとしか。そこに根拠も兆候もありはしないと言うのに』
そう強く断言するVenusに僕は二の句が継げなくなった。
『コナミ、これだけは言っておきます。決して彼女たちはあなたの味方ではありません。今はまだあなたの恋人と言う立ち位置にいますが、最後には必ずあなたを裏切りその力を我がものとしようとするでしょう。それだけはわかっていて欲しいのです』
「根拠は………その話に信じるだけの根拠はあるわけ。君がそう断言できるだけの根拠が…………!」
僕はVenusに問いただす様に聞いた。
『愛理という人間には2つの意志が宿っています。一つは破滅をもたらす光の意志。そしてもう一つは、恐らく彼女をこの世界へと送りこんだものの意志が。そしてその意思たちは彼女を介して、深い関係性となったあなたの運命にも影響を与えている………今はそれを信じられなくても構いません。しかし、心にはとどめておいて欲しいのです。我々こそがあなたの本来の運命であり、味方なのだと。彼女たちを信じすぎてはいけないと言うことを…………!!』
その言葉と共に、Venusが杖で地面を叩く音と共に彼女が作り出した空間。そこに亀裂が入り、ガラスが割れるような甲高い音を立てながら崩壊し始めた。僕は呆然と回らない頭でそれを眺めることしかできなかった。
『いずれ、真実が明らかになる時が来るでしょう。その時、彼女たちがどうするのか、そしてあなたが何を選択するのか。それもその時わかることです。私たちの力もその時必要となるでしょう。その時までは静かにあなたの力としてあなたを守り続けましょう』
ひび割れ、徐々にその破壊音が大きくなっていく中、僕は消えていくVENUSの存在を感じ取った。そして、その存在がいなくなると同時に、僕の意識もまた深い闇の中へと沈んでいくのだった──。
まず宇宙はカードから生まれた………この設定考えた人はどうかしてると思いました。