火口の噴出口で行われた「THE blazIng MARS」とヒータのクリスタルを賭けたデュエル。それは僕の勝利で幕を閉じた。
「ぐ……はぁっ、はぁ……!!」
デュエル直後、火口の熱とデュエルダメージにより、僕は両手と膝をついて蹲っていた。
意識こそかろうじて失ってはいなかったものの、その姿はもはや限界であることをありありと示していた。
「コナミ君!? 待ってて、すぐに行くわ!」
「愛……理……ちゃん、だ、駄目だ。来ちゃ、いけないッ!」
僕の様子が本当にマズイと判断できるからだろう。顔を向ける元気はないが、上の方から愛理ちゃんがなんとか壁を伝って降りてこようとしているのがわかった。
僕は目線だけをそちらに向けて何とか振り絞って出した言葉で彼女を静止しながら、ヒータに顔を向けた。
彼女もまた、僕ほどではないようだが相応の疲労から両膝を地面についてその疲労を露わにしていた。
「ヒータ、デュエルは僕の勝ちだ! 早いところ、ここから出してくれ!!」
「ク……ハハ。そんな慌てなくても、すぐに出してやるさ。だが、まだアタシにもやることがあるんでな。勝者には褒美を…だろう?」
ヒータは勿体ぶるように、いや、これはもうわざとやっているんじゃないか。そう思えてしまうのは僕が焦っているせいだろう。ゆったりとした動作で彼女は胸元からクリスタルと、デッキからカードを引き抜いた。
「はぁ、はぁ。ヒータ、いいから早くそれをくれ……」
「わかってるさ、まずクリスタルからな。ほらよっ、受け取れ!!」
おおきく振りかぶって曲線状に投げられた赤く透き通ったクリスタルは寸分違わず僕の目の前に落ちた。
それに目眩を起こしながらもなんとか触れることで、クリスタルに宿っていたヒータの力は僕の持つ青のクリスタルに吸い込まれていった。
「次はカードだが……」
「?」
ヒータはその手に持ったカードを見つめながら固まっていた。
まさか渡すのを躊躇っているのだろうかと僕は熱でおかしくなりそうな頭で不安になった。
デュエルに負けた以上、渡さないという選択はまさかとは思うがしないと信じたい。だが……。
いやそれはないか。今この時もクリスタルを失ったことでヒータの体は光となって実体を失いつつある。
そんな状態で持っていても無用の長物というものだ。だから、躊躇っているのには何か理由があるはずだ。
「ヒータ! 早くそのカードをコナミ君に渡しなさいっ!!」
「そう怒鳴るなよエリア。なあ勇者、カードを渡す前に聞いておきたいんだがな。お前さん、このままでいいのか」
「……言っている意味が分からない。今は、あまり頭が回らないんだ。もう少しだけ、わかりやすく言ってくれないかい」
ヒータの問いは不明瞭すぎて、何について聞いているのかわからないかった。まして、熱で溶けてしまいそうに感じている脳みそでは言葉の裏に隠されている意味を探ることなど、とてもできなかった。
「このまま消える前に聞いておきたくてな。アタシはな、そこのエリアと違って里の大賢者の予言を信じていないんだ。どちらかと言うと疑っている。お前さんを利用しようとしているんじゃないかってな」
「ヒータ! あなたまだそんなことをッ!? 大賢者様はそんなこと──」
「エリアは黙ってな! デュエルに敗けたアタシがあんたの力となって共に戦う、それはいい。だけどな、このMARSを手に入れて知った。こいつはお前が手に入れるべくしてここにあるのだと。そしてアタシはそのための乗り物だったんだってな」
僕はヒータの言葉に対して聞くことはできても大した反応をすることはできずにいた。そこまでの体力が残ってはいなかったし、彼女への返答をするために体力を残したかったからだ。
「それで思ったんだ。もし、あの大賢者があんたがこいつらを手にすることを知っていたなら、果たして本当に世界の危機とやらのためにアタシたちをここに寄越したのかってな。もしかしたら何かよからぬことでも企んでいるんじゃないかってアタシは思うんだが、あんたはどう思う?」
「………僕は──」
「世迷言はやめないさいヒータ。大賢者様は偉大な方よ。私たちのような未熟者があの方に不信を抱くなんて烏滸がましいにもほどがあるわ! ましてやコナミ君にそれを説こうなんて、許されることではないわ!!」
ヒータの疑問に僕が答えようとしたとき、上で見ていた愛理ちゃんが僕が聞いたこともないほどに冷たい声で僕の言葉を遮った。
その愛理ちゃんの瞳はとても仲間であるヒータに向けるものではなかった。どこまでも冷たい、怒りと言う感情のみが込められていた。
「ははっ、エリアも里の連中も、まったくどうかしてるぜ。まあいいや、時間もないしな。コナミ、大賢者のことはいい、だが、これだけは答えてくれないか。あんたは………お前は逃げてもいいんだぜ。エリアはともかく、こいつらは反対はしないだろうさ。このまま大賢者の奴に利用されるかもしれない道を進むか。それとも、クリスタルを返して勇者をやめるか。今ならまだ間に合うぜ。必要ならアタシも協力するしな。どうする、コナミ………」
「ヒータ………ッ!!?」
挑発するように笑いながら僕を見るヒータを益々怒り狂ったように愛理ちゃんは見ていた。そして僕は少しだけ迷い、そして変わることはない答えを伝えるために口を開いた。
「ヒータ、僕の夢はキング・オブ・デュエリストだ。世界の一つや二つ、救えないで頂点には立てないよ。それに、僕を利用しようと言うなら、その計画ごと打ち砕いてやるさ」
「………いいね。悪くない答えだ」
ふわりと、僕の返答を聞いたヒータは笑いながら僕の傍に降り立った。そして、体の半分は光の泡となった彼女はそっと僕の唇に柔らかな口づけをした。
「な”ぁっ!?」
「これはおまけだ。あんたのことはアタシが最後まで守ってやるよ。よろしくな勇者様♪」
「ヒータァアアア!!」
さっきとは別の意味で怒り狂っている愛理ちゃんがヒータを捕まえようと飛び降りてくるのを見ながら、彼女は勝気な笑みを浮かべて完全に泡となって消えていった。
それと同時に、僕と愛理ちゃんを包むようにMARSのカードから発せられた血のように赤い光が僕たちを山のふもとまで一瞬の時も置くことなく転移させていた。
「きゃっ!」
「!? ………ここは。そうか、ありがとうMARS」
そこがもう安全な場所であると認識した僕は死ぬ思いで張っていた気を抜いて、MARSに感謝を述べながら意識を手放した。
最後に、ヒータのキス、すごい柔らかくて熱かったなあと振り返りながら…………。
満天の星の下、僕は宇宙を見上げていた。満点の星々が無数に連なる暗黒と微小な光が点在する底知れぬ世界、そこには折り重なるように直線上に並ぶ巨大な惑星群があった。
僕は夢遊病患者のように薄らと除く意識の中でそれを見ていた。
──ああ、これは夢だ
僕は今にも消えいりそうな意識の中、そう悟った。不自然なほどに近い距離にそれはあったからだ。
手を伸ばせば触れられそうな、しかし永遠に届かない気もするその星々は、やがて宇宙の果てから総てを白く染め上げながらやってきた白光に呑み込まれていった。
そして、僕もまた──。
「うわぁああっ!!???」
自分を失うような強烈な喪失感を感じながら僕は目は覚めた。飛び起きたからだろうか、体から溢れ出ている気分の悪い汗と荒い息を吐きながら僕は周囲を見ると、そこはたまにみる学園の保健室であった。
軽く見渡すと、保健室には保健の先生の鮎川先生はいなかった。どこか別の場所に、保険医でありながら寮長も兼任しているためにブルー寮にでも行っているのかもしれない。
「はぁー、酷い夢を見たなあ…………何を見たんだっけ?」
僕は額に流れていた脂汗を袖で拭い、真っ白なベッドからゆっくりと這い出た。ヒータとのデュエルのあと、僕は感じてる以上に長く寝てたのか体が上手く動かなかったのだ。
そうしてなんとかベッドの端になんとか腰掛けるとふうっと息を吐いた。
起きたばかりで必要以上とも言えるほどに清潔に保たれている新雪のように全面が白い部屋に1人でいると、妙な場違い感と寂しさに襲われた。
そんな少しばかりの寂寥感に浸っていると、その静寂を切り裂くようにドアが開いて十代君とそして鮎川先生が入ってきた。
2人は起きている僕に驚きの表情を浮かべると鮎川先生が「まだ起きあがっちゃダメよ!」と言って急いで僕の傍まで駆け寄り、またベッドへと寝ころばせた。
「鮎川先生、僕はあれから……」
「あなたは四日間も眠ってたのよ。重度の熱中症と火傷を負ったあなたを愛理さんが連れてきたの。まったく、火山でデュエルするなんて何を考えているのかしら」
どうやら僕は結構な日数眠っていたらしい。鮎川先生は僕を叱りながら、僕の体調を診るためにテキパキと医療器具を僕に付け始めた。
火山でデュエルしてたのは拒否できなかったから仕方なかったのだと言いたかったが、反論するのも無駄な労力に感じて言われるがまま僕は叱られ続けた。
「いやーしっかし元気になってよかったなあコナミ。愛理や三沢がすげー心配してたぞ」
「うん。2人にも起きたって後でメール出しとくよ。ところで十代君、君はどうして保健室に?」
「いやー実はお前がどっかいなくなった後俺三幻魔と戦ってよ。そんで、念の為身体検査しとこうってことで鮎川先生と話してたんだ」
あっかからんと言う十代君に対して僕は驚きに目を見開いていた。
「そっか。三幻魔を十代君が。一応聞くけど、勿論勝ったんだよね」
「おうよ。めっちゃくちゃ強かったけどなんとかな。大徳寺先生がくれたカードがなかったら正直勝てたかわからなかったぜ」
「ハハ! いいなあ。そんなに強いなら僕も戦いたかったよ」
十代君に苦戦したと、特別なカードがなかったら勝てなかったとまで言わせるとは、三幻魔とはいったいどれだけすごいカードだったんだろう。
興味が尽きないな。まあ、再び封印されたとあっては僕が相まみえる機会は永遠に失われたであろうから望んでも仕方ないことだが、やはり一度は戦ってみたかった。
まあ、その代わり僕は僕で火星の名を冠するカードと戦ってたわけだからあまり羨ましがるのも何か間違っている気もするが、やはり僕もせめて見物くらいはしたかったな。十代君と三幻魔のデュエル。
僕は惜しいなあという気持ちとヒータももう少しタイミングをずらして欲しかったという気持ちを抱えながら鮎川先生の診断が終わるのを待った。
「──はい。もういいわよコナミ君。まだ安静にした方がいいと思うけど、一先ずは自寮に戻っても大丈夫だと思うわ」
「ありがとうございます鮎川先生」
僕はシャツのボタンを閉めながらこの後どうしようかと考えていた。
とりあえず愛理ちゃんや三沢君に目が覚めたことは連絡するとして、それから……お腹が減ったなぁ。
寮でたらふくご飯食べよう。うん、特にご馳走にしようかな。MARSを手に入れたんだし!
十代君が鮎川に検診を受けている中、横でお腹に手を当てながらこれからの予定を決めた僕はどうせなら十代君も誘って盛大なパーティーもいいな。
「十代君、もしよかったらこの後パーティーをしないかい。僕の復帰祝いと三幻魔打倒のさ」
「おっ!! いいなそれ。行く行く! 美味いもんいっぱい食いてえ!!」
元気溌剌に僕とパーティをしようと喜ぶ十代君と共にこれから食べるご飯に思いを馳せていると、診察を終えた鮎川先生がまるではしゃぎ回る子供を注意するような声音で僕たちに言った。
「パーティーもいいけれど、あなたたち勉強は大丈夫なの? 明日は期末試験よ?」
鮎川先生の何気ないその言葉はパーティーに浮かれていた僕の心を氷河期の谷底に落とすがごとく暗黒の世界に落とした。
──明日は期末試験よ?
「十代君、明日って」
「おーそうだぜ。明日は試験だ。面倒だけど受けないわけにはいかないよなー」
どうやら本当らしい。いや先生の言葉を疑っていたわけじゃないけどさ。
「鮎川先生、僕は寝込んでたので延期というわけには」
「残念だけどそれは無理ねー。だってもう目が覚めちゃってるし、それに私の診察で試験を受けれる体調だって結果も出ちゃってるから。大変だと思うけど、頑張って受けなさい」
「がーっ!?? なんでせめて後一日遅く起きなかったんだー! そしたら、最悪追試までの時間が貰えたかもしれないのに!!!」
もしくはもっと早く起きていたなら試験対策も取れたというのに!
自分の間が悪さを呪いたい!
僕は自分のあまりの運の無さに頭を抱えてベットに潜り込みたかった。そうして明日を迎えて何事もなくやり過ごしたい気分だった。
「コナミ君、悪いけど。嫌なのはわかるけど、もう起きたのなら寮に戻りなさい。そして諦めて少しでも勉強することよ。明日試験なのは変わらないのですから」
「そうだぜコナミ。試験なんて諦めて飯にしようぜ。美味いもんたっくさん食って寝る。それが一番だぜ!!」
十代君はもうすでに諦めているのか試験自体は嫌がっているが気楽に迎えようとしていた。
そしてそんな彼に促されるように僕は来る絶望を前に項垂れながらトボトボとご飯を食べるために寮への道を2人で歩いて行くのだった。
いやーチラリとも出てきてませんが三幻魔事件も終わりってことで1期終わりが近づいてきましたね。