ブルー寮、湖が反射する日の光に照らされた輝かしい寮。その学生が住むには過剰とも言える豪奢な建物の一室、彼の実直さの表れか、豪奢な建物に反するように私物のない質素とも言える自室で丸藤亮は悩んでいた。
(アカデミアの卒業生代表が、在校生代表を1人選び行われる卒業模範デュエル。その相手を俺は選ばなければならない。俺のアカデミアでの最後の締めくくりに相応しい相手、それは遊城十代か、それとも……)
丸藤亮は悩み続けていた。卒業模範デュエルの相手を誰にするかを。今年卒業する自分、全卒業生の中で最も優れた存在として代表として選ばれた。その自分が選ぶこの学園最後の相手、それは遊城十代とコナミ、そのどちらかであると、そしてどちらも拮抗していて選び難いと決めあぐねていたのだ。
どちらも類稀なデュエリストだ。
十代は入学してからまもなくしてから戦い、そして今では三幻魔を倒すほどに成長している。奴は俺が今までに会ったことのない中々エキセントリックなデュエルをしてくれる。奴の言葉風に表現するならワクワクするデュエルか。
そのデュエルからはどこかすがすがしい、太陽のような印象を受ける、最後に戦う相手として結果はどうあれ、きっと素晴らしいデュエルを飾ることができるだろう。
コナミとデュエルしたのは全国大会が最後か。入学後あまり機会に恵まれずなんだかんだとデュエルすることができないでいた。風の噂でなんでもプラネットシリーズという希少なカードを使うようになったという話も聞いている。それが、どれほどのものか最後に一度デュエルしてみたい。
去年戦ってからいったいどれほど成長したのか、或いはそれは俺を超えうるものかもしれない。そう思うと、自然と笑みが生まれるものだ。
しかし、選べるのは1人。2人は選べない。故に期限までに俺は選択しなければならなかった。
選ばなかった方と後日別の機会にデュエルするという方法もあるが、それはやはり、相手に失礼というものだ。その道は選べない。
「さて、どうしたものか……」
「──いや、随分と悩んでいるね、亮」
「吹雪!? お前いつの間に……」
突如として誰もいないはずの背後からかけられた声に振り返るとそこには部屋の入り口に寄りかかるようにして立っている天上院吹雪がいた。
この少し前に闇のデュエルからの後遺症が治り、以前の破天荒さを取り戻した数年来の友人はニヤニヤと面白いものを見たと言いたげに笑っていた。
「なに、君が珍しく頭を悩ませているようだからね。一つ友人として助言をしようと参ったのさ」
「助言?」
我が友人ながら、些か気取った身振りで髪を掻き上げた吹雪は俺にその助言とやらを告げた。
「コナミくんと十代くん、2人の間で揺れ動いている君にぴったりのアドバイスさ。1人を選べないなら、両方を取ればいいんだよ。簡単なことだろ、亮」
「両方と言っても卒業模範デュエルで戦えるのは1人だけだぞ。2人とデュエルしようにも慣例的にもできないだろう」
模範デュエルの相手は1人だ。だから悩んでいるのだと吹雪にもわかるだろうと俺は呆れたように伝えたが、それを聞いた吹雪はノンノンと指を左右に振って答えた。
「ん〜〜〜相変わらず真面目でお堅いねー君は。少し頭を刎ねれば、コナミくんと十代くん、2人とデュエルできる一挙両得の方法があるじゃあないか」
「2人とデュエルする方法だと?」
俺は瞠目した表情で吹雪を見た。奴はその方法に自信があるのだろう、にんまりとして俺を見つめていた。
そしてその方法とやらについて少しばかり考えて、我が意を得たりとして俺の考えを述べた。
「………フッ、そうか。確かに、その方法があるな。だが、そのためには相手の了承と先生方の許しが必要だぞ。なにしろ前例がないからな。果たして許可が降りるかどうか」
「問題ないさ。あの2人が断るはずがない。先生方も否とは言わさないさ」
「そうだな。しかし、2人と戦うとなるとこちらも相応の実力が必要なわけだが、さて、腕は鈍っていなければいいのだがな」
「それも問題ないさ。君に並ぶ天才と呼ばれた実力、遺憾無く発揮してくれるはずさ」
「なら、その時は頼むとしようか」
「ああ、よろしく頼む。最高のデュエルにしよう」
俺と吹雪は固く握手を交わしてその時のための準備を進めるために、2人で教員室へと向かった。
その時の俺は吹雪に言わせれば今までにないほどに嬉々とした期待に濡れた表情だったらしい。
負の期末試験より暫したち、ラーイエロー寮の自室で堂本君とくつろいでいた僕は遊びに来ていた堂本君と共にある来客をもてなしていた。
「──と、言うわけなんだ。どうだい、引き受けてくれるかい」
僕の部屋にやってきた吹雪さんは僕が淹れたお茶を飲みながら言った。卒業模範デュエル、その相手として僕と十代君のタッグを組んだデュエルでも構わないかという提案だった。
僕はその提案に一二もなく即答で返事をした。
「も、もちろんです! 十代君とのタッグデュエルなら喜んで引き受けさせていただきます!」
「うん、君ならそう言ってくれると思っていたよ!」
「すごいじゃないコナミちゃん! 卒業模範デュエルに選ばれるなんて、大抜擢よ、大抜擢!」
僕の肩を揺らしながら我が事のように喜んでくれる堂本君を前に、僕自身も興奮冷めやらぬと言った表情で答えながら心の淵で感じるものから目を逸らした。
それは、卒業模範デュエルに選ばれたことに大変な喜びを感じながらも心の底で一抹の不安を感じていたのだ。しかし、それを吹雪さんの前で出すことはなかった。
何故なら、模範デュエルで丸藤さんとタッグを組む相手が吹雪さんその人だったからだ。
「吹雪さん、あなたは覚えていませんが、僕は一度あなたに敗けています。丸藤さんにも全国大会で敗北を喫している。ですから模範デュエルはタッグとはいえ、僕にとっては最後のリベンジマッチ。だから絶対に勝ちます」
「ふふ、そう来なくちゃね。君とのデュエルを思い出せないのが申し訳ないくらいだ。そうだ、僕は亮も十代君も、そして君のデッキもある程度把握している。その中で僕のデッキだけが初見と言うのも何だか不平等だな」
吹雪さんは両腕を組みながらうんうんと頷いて言った。
「コナミ君、君に本気の僕のデッキのヒントだけを教えておくよ。僕のデッキのエースは紅き眼の竜だ。答えを教えてあげてもいいが、それは君の本意ではないだろう。一応、対等な条件で戦うためにそれだけは伝えておくよ。それじゃあ、今度のデュエルを楽しみにしているね」
「はい。僕も楽しみにしています」
去って行く吹雪さんの背中を僕は見つめ続けた。その心に必ず勝つと誓っていた。
吹雪さんが去った部屋で僕は堂本君と話し合っていた。
彼が教えてくれた紅き眼の竜とはなんだろうかと…………。
「紅い眼の竜ねえ。有名なので言えばやっぱり真紅眼の黒竜じゃないかしら。探せば他にもいるでしょうけれど、紅い眼っていうヒントからくるとしたらやっぱり有名なカードを思い出すわねぇ」
「そうだよね。やっぱり堂本君も同じものを思い浮かべるよね。でも、あれ超が付くレアカードだし、それにあえてそう思わせといてっていう可能性も」
「それはないんじゃない。あの吹雪さんってそういう小賢しいことはしなさそうだわよ」
そうだよねえと僕は堂本君の考えに頷いた。そしてお茶を飲みながら吹雪さんのエースより先に考えるべきことがあるんだったと思い、僕はデッキを手に取った。
それは重要な戦いを前に感じる不安を取り除くための確認作業であった。
「やっぱり、ないよねえ」
「あら、デッキに何かないの?」
「うん、実はちっと前からね、僕の長年のエースであるガガギゴ系統のカードが失ったんだ」
「えぇっ!?」
少し前、ガガギゴと最後にデュエルをしてから僕のデッキからガガギゴ系統のカードすべてがいつのまにかなくなっていた。
僕に愛想を尽かしたのか、それとも僕からプラネットシリーズを奪えないと諦めたのか、理由はわからないがどうやら僕からガガギゴはいなくなったらしい。
碌な奴じゃないし、敵であると明言していた奴ではあったが、こうしていざいなくなられると、中々どうして、寂しさを感じさせるものがあった。
「噂ではとんと使わなくなったって聞いてたけど、それ大丈夫なの? ガガギゴはコナミちゃんのデッキのエースでしょ。それがないって。そもそもなんで失くなったりしたのよ」
「うーん可笑しなことを言ってると思うかもしれないけど、ちょっと前にガガギゴと喧嘩しちゃってね。ほら、カードには精霊が宿るってやつ。たぶん、それが原因だと思うんだよねー」
「精霊……確かにそういうのもあるとはあたしも聞いたことはあるけど、それなら仲直りすれば」
「いや、仲直りはないよ。堂本君に言っても仕方ないことだけど、そういう関係じゃないんだ。僕とガガギゴは」
「いや、でも……」
ガガギゴとの仲を改善するつもりはないという様子に渋る堂本君に僕はそれ以上言わないでくれと伝えて、今はそれ以上に考えないといけないことがあるとデッキを見せた。
「ガガギゴは確かに僕のデッキの中枢をずっと担っていたカードだったけど、別にあいつに依存してたわけじゃない。だから、いないのならこれからはデッキのあり方を変えないといけない。幸い、エースを張れるカードは他にも持ってるからね」
「それは…そうでしょうけど。……いいわ、コナミちゃんが決めたのならあたしが強くいうのも可笑しいわね。ちょっとデッキ見せてもらうわね」
まだどことなく納得していないと言った風情だったけれど、これ以上言っても無駄とわかってくれたのか堂本君は僕のデッキを受け取った。
彼は僕のデッキを見ながら驚きの表情を浮かべながらも最後までめくっていきやがてデッキを机の上に置いた。
「コナミちゃん、いつの間にかプラネットシリーズのカードいっぱい集まったのねえ。確かにこれならガガギゴがなくても問題ないと思うわ。ジ・アースにNEPUTUNE、VENUSにMARSと強力なカードが揃ってるし。強いていうならVENUSは抜いた方がいいくらいかしら」
「あーやっぱり堂本くんから見てもVENUSは厳しいか」
ガガギゴが抜けた穴をこれまで手に入れたプラネットカードで埋めたデッキを作ってみたが、やはりVENUSは堂本君から見ても厳しいらしい。
効果は強力だし、決してエースとしてやれない強さがないわけではないのだが、どうやってもその効果的に天使族の専用デッキを作った方がいいからなあ。
僕自身、仲間外れをするような気分が嫌で入れてみたから、変わらずに入っている霊使いやダークソード、亀モンスターのことを考えれば抜く以外の選択はないか。
仕方ない、やはりVENUSはそれ用のデッキを作るとしよう。
「うーん、コナミちゃんはアドバイスが欲しいのよね。私だったらテーマがとっ散らかって扱えないって思うからもっとカードは絞るけど、コナミちゃんなら問題なく扱えるでしょうし。だから現状でも十分やれると思うわ。これ以上が必要なの?」
「うん、僕は必要だと考えてる。普通の相手なら問題はないけど、先輩方と戦うならあと一つ、何かが欲しいんだ」
僕の新デッキは今まで使っていたデッキを少しだけ改造しただけのものだ。
それはガガギゴが抜けたあと騙し騙し使ってきたデッキで、それでもヒータに勝てるほどに充分完成度は高いと見ている。
それでも丸藤さんやそれに並ぶと言われた吹雪さんと戦うのなら何か、もう少し何か欲しいのだ。
「それなら申し訳ないけど、あたしにはわからないわ。力になれなくてごめんなさいね」
「いや、いいよ。ありがとう堂本君。まあ、デッキについてはもう少し考えるとして、このデッキの調整に手伝って欲しいんだけど、いいかな」
「ええ。アドバイスはともかくデュエルならいくらでも付き合うわ」
その後、軽くデッキ調整として部屋でデュエルを何回かした後、日が暮れてきたということもあり堂本くんは自室へと帰っていった。
堂本くんがいなくなり、広くなった部屋で1人、僕はデッキを見ながら考えていた。
堂本君とのデュエルでも感じていたが、やっぱりこれ以上を求めるのならもう一味欲しい。現状でも彼のいう通り戦えてたが、どこか物足りなさを僕は感じていた。
「でも、僕の手持ちではこれ以上はないんだよなあ。やるとしたら外から手に入れるしかないんだけど……」
僕は携帯を手に持ちながら呟いた。実は手はあるのだ。その方法で欲しいカードの目処もたっていた。
だが、その方法は些か以上に躊躇わせるもので、さらには親には断られていたので、それを実行するのには勇気が出なかった。
「カードが欲しい。だけど値段がなあ。高すぎるんだよなあ」
カードは高い。パックで引き当てれるなら安く済んだりするが、相応のカードを、単品で手に入れようとしたら1枚だけでも何十万は最低でもかかってしまう。
父さんたちには断られたし、自分のお小遣いではとても買えない。だとしたらあとはもうあの人を頼るしかないんだけど、厚かましいにも程がある。流石にそれを頼むのは印象が悪くなりすぎるのではないか。
そう考えると中々行動には移さずにいた。
そうして悩んでいるとトントンとドアをノックする音が聞こえた。それからそっと開けるように愛理ちゃんが部屋に入ってきた。
「愛理ちゃん、どうしたのこんな時間に」
入ってきた愛理ちゃんはきょろきょろと部屋を見渡していた。その姿はあまり落ち着きのない様子で、少しばかり急いでいる様だった。
日が暮れる時間帯に他寮にいるのは禁止されている。だから急いで愛理ちゃんは自寮に戻らないといけないのだが、なぜか僕の部屋に来たようだ。
それは人には言えないようなやましいことではなかったが、むしろ僕にとっては僥倖ともいえる内容ではあったが、だからと言って先生に見咎められないわけではない。
彼女はそそくさと僕に部屋まで来た用件だけを伝えてきた。
「コナミ君が悩んでいるから力になってやれってヒータから連絡があったの。私なら解決できるはずだからってことでここまで来たんだけど」
「ヒータが?」
何故愛理ちゃんがこんな時間帯に来たのかと思ったら、どうやらヒータが僕の知らぬ間に呼びに行っていたらしい、迅速速効、悩むくらいなら行動しろと言われているように僕は感じた。
「悩み、うん、悩みならあるんだけど。それはちょっと、いやちょっとなんてものではないくらいに頼みづらいことでさ………」
「言ってみて、それが何かはわからないけれど、私で力になれるならなるから」
急かす様に言う愛理ちゃんに僕は背中を押されたように思い切って言った。
「欲しいカードがあるんだよ。だけどちょっと高くて…………」
「…………あーそういう相談。つまりコナミ君は」
「お願いします。お金貸してください!」
僕は愛理ちゃんに頭を下げてお願いした。正確には愛理ちゃんを通して藤次郎さんに貸してもらえるように頼んだ。
いくら愛理ちゃんでも、僕が欲しいカードを手に入れるほどのお小遣いは貰っていないだろうからだった。
「お金って、それはいいいけど。いくら必要なの?」
僕はそっとPDAを差し出してそこに表示されている金額を伝えた。それを見た愛理ちゃんは驚愕の目を向けながら、「これは流石に」と口に出した。
「うーん、これ全部を揃えるのはちょっと、私のお金じゃあ無理だわ。お父さんに頼むしかないけど、コナミ君、返す当てはあるの? 全部そろえようと思ったら8桁は行くわよこの値段」
「しゅ、出世払いで何とかなりませんでしょうか」
「出世払いって、まあ全部は無理でしょうけど、比較的安いのなら了承ももらえるかしら。一度、お父さんに話してみるわね」
「ありがとうございます!!」
愛理ちゃんは僕のお願いを聞くやいなやそそくさと部屋から出て言った。それから数日が経ち、模範デュエルまであと1日とまで迫ったある日、僕はデュエル場で愛理ちゃんと向かい合っていた。
「──というわけなの。だから、融資をしてほしいならこの条件を吞んだうえで、私とデュエルをすることが条件。まあ私とのデュエルはおまけでしかないんだけど、それでいい?」
「うん、わかった。つまり僕の将来性を宣伝する必要があるってわけだね。いいよ、十分すぎる内容だ」
藤次郎さんが出した条件、それは僕が将来的にプロになったうえで皆から認められる、つまりきちんと貸したお金に見合う活躍ができるかを見せて欲しいと言うことらしい。
そのためには話題性が重要でプラネットモンスターたちはその話題性にピッタリと言うわけらしいかった。
プロになるだけなら強いだけでいいが、その先人気になってお金を稼ぐには強いだけでは足りない。そのデュエリスト特有の話題性や華やかさがないといけないとのことだ。
まっ、つまるところ、今から始めるのはプロモーションムービーの撮影のようなものだ。
このデュエルで世界に1枚しかないと言うプラネットモンスターの活躍を撮って、今の内から僕と言うデュエリストを宣伝しようということらしい。
その結果次第では藤次郎さんも貸した分だけのお金を回収することができるとのことだ。
それ以外にも、反響がよければ僕のスポンサーになってくれたりと将来へのバックアップを図ってくれるとこのことでいやはや全く、あの人には頭が上がらないな。
「断ってもいいのよコナミ君、お金の貸し借りは人情ではないわ。あくまでも企業として君の未来に投資するっていう形になるの。だから、一度借りたらもう………」
「いいよ愛理ちゃん、僕の未来を担保にするのに迷いはない。それに藤次郎さんがバックについてくれるなら何の心配もないからね。僕は必ずプロになってそれに見合う活躍をして見せるよ」
僕はプロになる、そのためにはこれまでのようなガガギゴをメインとしてしていては話題性に欠ける。だから僕が将来的に集めることになるプラネットモンスターたちも合わせて、世界で唯一の惑星のカードを扱うデュエリストとして名を売り出すことになる。
ちょうどガガギゴがなくなってタイミングもいい。僕は喜んでこの話に乗った。
「それじゃあ始めようか愛理ちゃん、悪いけど、手加減はしないからね」
「ええ、いい画が撮れるように私も頑張るわ」
「「デュエル!!」」
まあ、ガガギゴとはおさらばでございます。